今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第87回 2010/07

アスペルガー症候群の現状と、診断・看護の心構え

「知能が発達している自閉症」「高機能自閉症」などと混同され、安易に用いられているアスペルガー症候群。しかし一方で、高機能自閉症とアスペルガー症候群は異なる障害だとする考え方も根強く支持されています。医師や学者の間でも議論が分かれ、研究が続けられているアスペルガー症候群。その障害と、今、私たちはどう向き合ったら良いのか……。心構えや考え方などを、目白大学教授の山崎晃資さんにうかがいました。

目白大学 人間学部子ども学科・大学院生涯福祉研究科 教授
臨床児童精神医学研究所 所長
愛光病院 顧問    社団法人日本自閉症協会 副会長
山崎 晃資 氏

日本自閉症協会

いまだ研究途上、議論が続くアスペルガー症候群

アスペルガー症候群は、まだまだ不明な点が多い研究途上の障害です。  明確な診断基準も定まっていませんし、定式化された治療法も確立されておりません。いまだに精神科医や研究者の間でさまざまな議論がなされており、「診断学的妥当性が確立されていない概念である」と言わざるを得ない状況です。まずはその点をご理解いただき、「アスペルガー症候群の定義、診断方法、見解には諸説あること」「決して簡単に診断できる障害ではないこと」、しかし「生活の仕方について根気よく相談し合っていくことが何よりも大切であり、その人なりの成長・発達が必ず見られるものである」ことを認識していただきたいと思います。

しばしば「高機能自閉症とアスペルガー症候群は同じか否か」という議論がなされています。ある著名な臨床家は、『アスペルガー症候群(高機能自閉症)』というタイトルの著書を書いています。私は「現在使われている国際的診断基準に準ずると両者は異なるもの」と考えています。1981年にローナ・ウィングが提唱した「アスペルガー症候群」は非常に誤解されておりますが、ウィングは「自閉症スペクトラム」(自閉症、アスペルガー症候群などが連続している)と捉えると、自閉症かアスペルガー症候群かという議論そのものが無意味であると述べています。近い将来、国際的診断基準が改定されますと、広汎性発達障害という用語がなくなり、「自閉症スペクトラム障害」という概念でまとめられる可能性が高いのですが、現時点においては、(高機能)自閉症とアスペルガー症候群は、区別して用いられるべきです。繰り返しますが、「知能が高い自閉症=高機能自閉症=アスペルガー症候群」と単純にひとくくりにしてしまうのは、とても安易で単純すぎる考え方です。

最近では、DSM-IV-TR(アメリカ精神医学会の診断基準)やICD-10(WHOの診断基準)を最優先して考え、これに該当する患者さんを安易にアスペルガー症候群だと考える医師が増えているように思います。しかし、こうした診断基準だけで「あなたはアスペルガー症候群です」と決め付けてしまって、果たして本当に良いのかどうか……。冒頭でも述べましたように、アスペルガー症候群はいまだ研究途上の、議論が分かれている障害です。そのことを十分に踏まえ、自閉症の研究史を振り返り、何が議論されてきて、何が問題なのかを考え、慎重に診断、治療、看護に当たっていただきたいと思います。

アスペルガー症候群に見られる特徴とは

いささか前置きが長くなってしまいましたが、ではそもそも、自閉症やアスペルガー症候群とは、それぞれどんな特徴を持っているのでしょうか。

ごくごく簡単に説明しますと、自閉症は「①人とのかかわり(社会性)が困難、②コミュニケーションが困難(独特な話し方で、会話が成立しにくく、冗談が通じない)、③こだわりが強く、興味の対象が狭い(決まったことに熱中し、繰り返し行動が多い)などの特徴がみられます。アスペルガー症候群も基本的には自閉症と似ていますが、「言葉の発達に著しい遅れがない」ことが特徴とされています。しかし、話し方には次のような特徴があります。「早口で声高にしゃべり、自分が興味のある話題をくどくどと話し続け、思ったことは何でも口にする傾向があり、聞き手の気持ちを察して話題を変えることができない」のです。また、言われた言葉をそのまま受け取ってしまう傾向もあります。例えば、「終業時間になったので、トイレを見てきてくれませんか」と頼まれますと、文字通り「トイレを見てきて」しまうのです。トイレはどうなっていたのか、水は止まっているのか、電気は消してあるのかなどを確認せずに「トイレを見てきました」とだけ報告するのです。このような特徴は、「語義・語用障害」と呼ばれます。

また、幼児期の言葉の発達が遅くても、話し始めるようになると急速に、まるで大人のように話すこともアスペルガー症候群の特徴です。「知能・言語能力が高く、優れた能力を発揮する子ども」も多いのです。なかには難関大学に入学し、卒業後は研究者になって道を究める人もいるほどです。
ただし、これはあくまで環境に恵まれた場合ですから、「偉い人のような話し方で、理屈っぽく話す頑固者」と思われてしまうことが大半です。仮に環境に恵まれて研究者としての職責をまっとうしても、定年を迎えてから家族や地元の人たちとうまくコミュニケーションが取れないと悩むケースが多く、私のところにもアスペルガー症候群と思われる年配の方がよく相談にやってきます。

他にも挙げればキリがないほど、アスペルガー症候群の人々には独特な特徴がありますが、鍵になるのはやはり「話し言葉」だと言えるでしょう。相手の言葉をそのまま受け取り、独特の韻律の偉い人のような言葉で延々と話し、相手の気持ちを汲み取りながら会話のキャッチボールをすることができません。自分自身が「禁句」だと感じる言葉――例えば「生年月日」だとか「常識」だとか、本当に些細な、当たり前に使う言葉なのですが――を言われるといきなり激怒してその場から走り去ってしまうような人もいます。まるで地雷を踏むようなものです。このような「話し言葉」に関する特徴が、アスペルガー症候群の人々には顕著に見受けられるのです。

アスペルガー症候群は、どのように診断するのか

前述したように、アスペルガー症候群には「話し言葉」に関する特徴が非常に多く見受けられます。ただし、「話し言葉」に関する特徴だけでアスペルガー症候群と診断することはできません。なぜならアスペルガー症候群や高機能自閉症などの広汎性発達障害は、その人の一面だけを見て診断できるような単純なものではないからです。
では、話し言葉以外になにを基準にして診断したらよいのでしょうか。

1996年にアイゼンメジャーらが、アスペルガー症候群と診断したことのある精神科医22名を対象に「どのような根拠で診断したのか」というアンケート調査を行いました。その結果、「1944年にハンス・アスペルガーが初めて報告した症例をもとに診断した」という回答がほとんどだったのです。その理由は、DSM-IVやICD-10などの診断基準や、言葉の発達歴だけでは診断ができないからです。それほどまでにアスペルガー症候群は判断が難しいものですし、研究途上の障害であるということを考えれば、判断しにくくて当たり前だといえるでしょう。

そもそも広汎性発達障害は、ひとりの患者さんと長年にわたってじっくり付き合わなければ適切な診断ができない障害です。また、アスペルガー症候群のように研究途上の障害に関しては、長期にわたって経過観察をしなければ確定診断がつかないものです。
安易に診断せず十分に時間をかけて患者さんと向き合うことが、診断と治療において欠かせないのです。

看護師がアスペルガー症候群の患者さんに接するには

精神科の看護師さんたちは、これまで、主に統合失調症の患者さんを中心にした看護を行なってきたことと思います。ところが、アスペルガー症候群の方が入院してくると大変なことになってしまいます。アスペルガー症候群の方は自己主張が強く、「ああ言えばこういう」といった理屈っぽいタイプの人が多いので、統合失調症の患者さんを刺激したり、看護師さんを怒らせてしまいがちです。こうした行動がトラブルを引き起こし、現場が大混乱に陥ることも少なくありません。

そこで精神科の看護師さんに求められるのが「視点を変えること」です。統合失調症の患者さんを中心にした看護をするのではなく、一人ひとりの患者さんに寄り添った看護をすることが必要だと思います。
もっと言えば、その患者さんが統合失調症かアスペルガー症候群といった病名はたいして重要ではありません。それよりも、目の前の患者さんが「今までどんな苦しみを抱えながら、どんな家族と、どんな生活をしてきたのか」を理解することが大切です。患者さんの苦しみ、思い、背景が理解できれば、おのずと「どんな対応をしなければならないのか」が見えてくるはずですし、患者さんへのかかわり方やちょっとした声のかけ方も変化するはずです。

間違っても「アスペルガー症候群だからトラブルを起こしちゃうんだよね」とか「発達障害だから仕方ないよね」と簡単に考えないように注意してください。なにか問題が起きたときは、まず「私たちがかけた言葉になにか問題があったのではないか」「適切なアドバイスができていなかったのではないか」と考えるところから始めましょう。
精神科の看護師さんに次いで広汎性発達障害の人に触れる機会が多いのが小児科の看護師さんだと思いますが、小児科の看護師さんはとにかくオドオドしないようにしてください。たまに発達障害のお子さんが来ると、びっくりして動揺した様子を見せてしまう看護師さんがいるようですが、これでは患者さんだけでなく、お父さんやお母さんにも不安を与えてしまいます。アスペルガー症候群独特の話し方や接し方をされても、それをサラッと受け流せるぐらいでなくてはいけません。

最初は理解しづらいかもしれませんし、てこずることも多いことでしょう。しかし、じっくり時間をかけて接すれば距離も縮まりますし、なにより彼らの成長が実感できます。もがきながらも着実に成長していく患者さんを長い目で見守り、サポートしていただきたいと願っています。

山崎 晃資 氏
【略歴】

1937年    北海道生まれ
1962年    北海道大学医学部医学科卒業
1967年    北海道大学大学院医学研究科博士課程修了
       北海道大学医学部精神科助手
1974年    市立札幌病院附属静療院児童部(のぞみ学園)医長就任
1982年    東海大学医学部精神科教室教授就任
2003~ 
2005年    東海大学教育研究所教授、東海大学付属相模中学校・高等学校校長を兼務
2005年    臨床児童精神医学研究所所長就任
       目白大学人間学部子ども学科/大学院生涯福祉研究科教授就任
【役職】
目白大学人間学部子ども学科/大学院生涯福祉研究科教授
臨床児童精神医学研究所所長
愛光病院顧問
社団法人日本自閉症協会副会長
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