今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第93回 2011/01

現場主義と組織力で実現する医療のIT活用

ペーパーレス・フィルムレスの電子カルテシステムをはじめ、医療のさまざまな局面でのIT化に積極的に取り組んでいる徳島大学病院。その仕組みづくりの過程において中心的な役割を担っている、同病院の病院情報センター病院教授・センター部長の森川富昭さんに、医療のIT化によってもたらされるメリットと、真のIT化を実現するために解決すべき課題についてお話を伺いました。

徳島大学病院 病院情報センター
病院教授・センター部長
森川 富昭 氏

徳島大学病院

医療のIT化に必要なのはガバナンスとマネジメント

近年、医療のIT化が必要とされている背景には、日本の医療を取り巻く環境が大きく変わってきているということがあります。特に大学病院では、平成16年に施行された独立行政法人化法により国立大学は自立的経営を求められるようになったため、大学病院でも従来より経営的な視点が求められるようになりました。システムを導入することで業務を効率化し、医療情報を活用することで、医療面はもちろん、経営面での改善も実施していく必要が出てきたのです。

しかし、当初病院に導入されていたITシステムは、病院全体を考えた「全体最適」ではなく、部門ごとの「部分最適」になっていました。というのも、病院は専門家集団であるためセクショナリズムが強く、全体でのガバナンスやマネジメントが確立しにくい組織風土があるからです。ITシステムの導入や管理・運用についても同様でした。そこで、徳島大学病院で病院情報システム(HIS)を導入する際には、まず、H I S 委員会を中心とした病院内での組織づくりから始めました。より効率的なIT化を実現するには、業務フローの見直しとともに、組織の再構築とスタッフの意識改革が必要でしたから。医療のIT化では、ガバナンスとマネジメントが非常に重視されるのです。

IT化によってもたらされた業務効率化と医療の質向上

医療をIT化する際には、ITシステムの管理運用部門も単なるバックオフィスとしてではなく、病院運営における情報を統括、分析する部門として活用するべきです。徳島大学病院では現在、病院情報システム関連のセクションとして、病院情報センターを設置しています。
病院情報センターは、病院における情報システムおよび情報を統括しており、そこの長であるセンター部長はC I O(Chief InformationOfficer)的な役割を担っています。センターでは病院内で使用するさまざまなシステムを導入する際の検討や、運用・管理・分析などを行っています。現場ヒアリングを重視し、ヘルプデスクにあげられた問い合わせや要望をヒアリング内容に基づいて検討・精査し、一本化した上でメーカに対応を依頼しています。また、専任のSEを配置するなど、我々でできることは我々自身で対応することで、IT関連の管理コストを減らす努力もしています。このような管理保守だけでなく、メーカとの共同研究も積極的に行っていて、その成果をHISに反映させることで、機能のさらなる向上を図っています。

当病院で電子カルテを導入してから7 年ほど経ちますが、現在は、すべての診療科でシステムを稼働させています。当初は現場の医師から「キーボードやマウスだけではカルテを書くことが難しい(所見などでは図を多用するため)」という電子カルテの操作性について意見が寄せられましたが、液晶ペンタブレットによる入力や画像ファイリングシステムなどを検討して、現場での使用に耐えるものにしていきました。今では、みんなすっかり電子カルテに慣れました。データ管理が容易になっただけでなく、画像を患者さんに見せながら、そこにペンタブレットで書き込んで説明することができるといったメリットも得られました。

また、システムに蓄積された医療情報を分析するために医事部門との連携も行っています。当病院には医療支援センターという医事業務のマネジメントを行うセクションがあります。現場から寄せられた医事関連のヘルプデスクをもとに業務改善や監査を行っており、患者サービスの向上や、医師の診療業務の支援と効率化、そしてDPCをはじめとする診療報酬制度の適正な運用など、医療現場での問題を日々改善するための取り組みを行っています。
病院情報センターと医療支援センターでは、IT化によって蓄積された診療情報を二次利用することにも取り組んでいます。具体的な例としては、治療計画(クリティカルパス)の策定への診療報酬明細書(レセプト)と診断群分類(DPC)のデータの活用があります。こうした分析をすることで、病院側は適切で効率的な対応が可能になりますし、患者さんに対しても、より具体的な説明や治療費の見積もりの提示ができるようになります。

こうした医療情報の「見える化」は、効率化の面でも、医療の質の向上という面でも、今後ますます重要になってくると思います。

これからの医療のIT化には標準仕様の策定が必要不可欠

先日私は、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(I T 戦略本部)の中に設置された、「医療情報化に関するタスクフォース」の構成員に選ばれました。このタスクフォースでは、全国のどの病院に行っても同じ診療情報に基づいた治療が受けられるようにする「どこでもMY病院」構想や、シームレスな地域連携医療の実現、レセプトなどの活用による医療の効率化、データベースの活用による医薬品などの安全対策などが検討されています。

こうした構想を実現するためには、まず何よりも、国民本位の仕組みづくりを考えていくことが必要だと私は考えています。患者さんのIDなどの標準化に関しては、国内でも賛否が分かれるところですが、どのような結論に達するにせよ、国がきちんと決定できなければ、日本の医療のI T 化はいつまで経っても進みません。国民本位の仕組みに基づいて、地域間、病院間で共通のIT基盤を整備することが急務です。コストや投資を抑えることで、病院は経営の効率化や医療の質の向上といった本来の目的にITを活用することができるのです。

ああしよう、こうしようという理屈を振り回すのではなく、まず情報を「見える化」して、今あるデータの中から最善のものを選んでモデルをつくり、それに基づいた仕組みづくりを提案する。例えば、クリティカルパスやクリニカルインディケータなどがそうでしょうし、日本全体で考えれば、医療政策もそうでしょう。でなければ、人は説得できませんし、物事も動きません。私自身の経験から付け加えると、こうした仕組みづくりを推進していくには、その現場の人間医師はもちろん、コメディカルや事務担当者と積極的にコミュニケーションを取ることが必要不可欠です。目的がIT化であっても、一番大切にしなければならないのは、やっぱり人と人のコミュニケーション。そして、それに基づいた強い組織力、チーム力なのです。

森川 富昭 氏
【略歴】

マサチューセッツ工科大学とハーバード大学でMOT(技術経営)を受講し、神戸大学でMBA(経営学修士)を取得。
2009年 徳島大学病院 病院教授、病院情報センター センター部長
2010年 徳島大学 総務・財務担当理事役員参与
情報化推進センター 情報マネジメント室 室長
現在、病院情報センター センター部長として大学病院のIT化と、情報化推進センター 情報マネジメント室 室長として大学全体の情報化施策に携わる。専門は医療情報学と医療経営学。
【社会的活動】
・内閣官房行政改革推進室独立行政法人ガバナンス検討チーム 委員(平成21年12月)
・内閣官房情報通信技術(IT)担当室 タスクフォース構成員(平成22年9月~)
・公立学校共済組合 保健事業検討委員会委員(平成22年6月~)
・徳島県立中央病院・海部病院電子カルテシステム選定委員会 委員(平成22年2月 ~)
・徳島県災害情報活用検討協議会 委員(平成22年6月~)
・徳島県医療情報地域連携基盤システム導入検討委員会 委員(平成22年9月~)
・徳島県立看護専門学校 講師(平成22年3月~)
・放送大学徳島学習センター 講師(平成22年1月~)
【役職】
徳島大学病院 病院教授、病院情報センター センター部長
徳島大学 総務・財務担当理事役員参与 情報化推進センター 
情報マネジメント室 室長
【著書】
『医療ITシステム 診療・経営のための情報活用戦略と実践事例(医療経営士テキスト・中級)一般講座』(日本医療企画)
『チーム力と現場力 "病院風土"をいかに変えるか(医療経営士テキスト・中級)専門講座』(日本医療企画)
『病院組織のマネジメント』(硯学舎/中央経済社)
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る