今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第100回 2011/08

大久保病院が目指すNSTとは?

現在、国内・約1,500の病院や施設が取り組んでいるというNST(Nutrition Support Team)。2010年度の診療報酬改定でNST加算が認められ、ますますその重要性が叫ばれるようになってきました。NSTを取り入れることで何が変わるのか、NSTは今後どう発展していくのか……? 東京で初めて全科型のNSTを設立した大久保病院のNSTチェアマン、丸山道生さんにお話をうかがいました。

財団法人東京都保健医療公社 大久保病院
外科部長 医学博士
丸山 道生 氏

財団法人 東京都保健医療公社 大久保病院

組織のワクを飛び越えて、チームで行う栄養サポート医療

NST(Nutrition Support Team)とは、チームで取り組む「患者さんの栄養サポート」のこと。低栄養などの栄養管理が必要な患者さんに対して、医師・看護師・栄養士・薬剤師・リハビリスタッフなどの専門スタッフと、医事課・用度課・医療連携部門などの事務スタッフが有機的な連携を保ち、それぞれが知識や技術を出し合って、最良の方法で栄養支援を行うチーム医療のことをいいます。

病院というところは、低栄養の患者さんが多くいらっしゃるところです。栄養状態が悪化すると、やせ細って抵抗力が弱まりますし、肺炎や合併症、感染症などを発症するリスクや死亡率も高まります。こうしたリスクを最小限におさえ体調の回復をバックアップするため、個々の患者さんに合わせた最適な栄養サポート医療を実践しようとNSTが始まりました。 また、医療の現場で中心静脈栄養法が取り入れられるようになったことも、NSTを広めるきっかけのひとつとなりました。1968年、米国のダドリックらによって開発された中心静脈栄養法は、「経口栄養のできない患者さんの体内に、長期間に渡って栄養を運ぶ」ことができる、医療的にとても有用な方法として、瞬く間に全米に広まりました。しかし、有用な一方で、「コストが高い」「合併症のリスクを伴う」などのデメリットもあり、「なんでもかんでも中心静脈栄養法にしてしまうのはいかがなものか」という議論が起こったのです。

そこで、NSTによってしっかり栄養を管理し、経口栄養ができる患者さんを適切に経口栄養へ切り替え、なおかつ中心静脈栄養や経腸栄養を続ける患者さんに対しては正しい輸液で安全に栄養を届けようという動きが起こりました。

部署や職種を横断した医療チームを作るには?

日本で本格的にNSTが取り入れられるようになったのは、2000年代に入ってからのことです。2001年に日本静脈経腸栄養学会でNSTプロジェクトが始まりました。ちょうどその頃、私が勤務している大久保病院がリニューアルされることになり、前述のNSTプロジェクトの一員だった私は、「それならリニューアルと同時にNSTと経腸栄養を推し進めよう」と体制作りを始めました。

NSTで特に難しいのが、部署や職種を横断したチームを作ることだと言われています。中でも看護部の説得は難しいようで、「栄養面よりも、臨床に必要な技術や心理的ケアの方法を勉強したい」と言われてしまったり、「とにかく忙しくて時間が取れない」とやんわり拒絶されてしまったという話も耳にしました。そのような場合は、強制しないことが鉄則。世の中が動き、NSTがどんどん広まれば、看護師や他のスタッフの方々も自発的に動いてくれるようになるはずです。

幸いなことに大久保病院には、以前からアドバイザーナースシステムというものが存在していました。経腸栄養をはじめとする各分野の専門看護師が、積極的に勉強会やマニュアル作りを推進しており、こうしたリーダーたちがNSTに関心を持ってくれるようになったのです。アドバイザーナースシステムのような文化があったからこそ、チーム医療であるNSTが受け入れられ、結果的にスムーズに体制作りが進んだものと思っています。

部署や職種を横断した医療チームを作るには?

こうして2002年10月、正式に当院のNSTが設置されました。その後は、患者さんの栄養状態を底上げすると同時に、医師や看護師の臨床栄養知識の底上げにも注力してきました。意外に思われるかもしれませんが、ドクターやナースの栄養知識はびっくりするほど乏しいのです。どういった患者さんにどんな栄養素が必要なのか、どのような栄養剤が適していて、各栄養剤にはどんなチューブを使うと効果的なのか……。こういった基本的な臨床栄養の教育が、医大や看護学校できちんとなされていない。ですから、医師・看護師と、栄養のプロである栄養士らが一体となって取り組むNSTには、とても大きな意味がありました。NSTを通じ知識を得ることによって、医師や看護師がよりしっかりと患者さんの栄養状態に気を配れるようになりますし、なにより、彼らが臨床の現場から持ち帰ったデータが、栄養士や薬剤師にきちんと伝わるようになったのです。

特に、看護師の役割は絶大でした。病院スタッフの中で、もっとも患者さんと過ごす時間が長く、もっとも患者さんの近くにいる看護師たち。彼らは、新しい栄養管理を行った患者さんがどのように変化したかを敏感に察知し、情報を集め、その情報を他のNSTスタッフに伝える、まさに「NSTの要」の役割を担ってくれたのです。
看護師の皆さんには、今後もぜひ、栄養士に負けないぐらい臨床栄養について勉強していただきたいと思っています。学べば学ぶほど看護の幅も広がりますし、褥瘡や嚥下といった問題にもより広範な視点で、適切に対処できるようになることでしょう。

医師や看護師にも、臨床栄養の知識を身につけてほしい

こうして2002年10月、正式に当院のNSTが設置されました。その後は、患者さんの栄養状態を底上げすると同時に、医師や看護師の臨床栄養知識の底上げにも注力してきました。意外に思われるかもしれませんが、ドクターやナースの栄養知識はびっくりするほど乏しいのです。どういった患者さんにどんな栄養素が必要なのか、どのような栄養剤が適していて、各栄養剤にはどんなチューブを使うと効果的なのか……。こういった基本的な臨床栄養の教育が、医大や看護学校できちんとなされていない。ですから、医師・看護師と、栄養のプロである栄養士らが一体となって取り組むNSTには、とても大きな意味がありました。

NSTを通じ知識を得ることによって、医師や看護師がよりしっかりと患者さんの栄養状態に気を配れるようになりますし、なにより、彼らが臨床の現場から持ち帰ったデータが、栄養士や薬剤師にきちんと伝わるようになったのです。 特に、看護師の役割は絶大でした。病院スタッフの中で、もっとも患者さんと過ごす時間が長く、もっとも患者さんの近くにいる看護師たち。彼らは、新しい栄養管理を行った患者さんがどのように変化したかを敏感に察知し、情報を集め、その情報を他のNSTスタッフに伝える、まさに「NSTの要」の役割を担ってくれたのです。 看護師の皆さんには、今後もぜひ、栄養士に負けないぐらい臨床栄養について勉強していただきたいと思っています。学べば学ぶほど看護の幅も広がりますし、褥瘡や嚥下といった問題にもより広範な視点で、適切に対処できるようになることでしょう。

これからの時代に求められるのは「地域一体型」のNST

大久保病院がある新宿区には多くの基幹病院が存在します。そのかわり、急性期を過ぎた患者さんが入院できる病院が少なく、在宅医療・在宅看護のニーズが高い点が特徴です。

そこで当院が目指しているのが「地域一体型」のNST。地域のかかりつけドクターや、在宅看護師、保健所、薬局、配食サービスなどと連携し、大久保病院の中だけでなく外でもNSTが機能するよう働きかけています。例えば、嚥下の悪い患者さんに1週間だけ入院してもらい、入院期間中のNSTに、かかりつけドクターや在宅看護師にも参加してもらう、など。また、「新宿食支援研究会」をはじめとする地域の勉強会と協力することで、NSTに関する知識の共有を推し進めています。

「地域一体型」のNSTは、基幹病院の関係者だけでは決してなしえることができません。町の小さなクリニックや地域に根ざした介護施設、そういったところで働く方々が率先してNSTを引っ張ってくださることではじめて成立するのです。

日本は、世界一のNST活用国

現在、日本でNSTに取り組んでいる施設は、約1,500か所に及んでいます。これは、アメリカを抜いて世界一の数。2001年から数えて約10年という短期間でここまで急速にNSTが広まった例は、世界でも類を見ません。その背景には、やはり高齢化による患者さんの増加や、高齢者の低栄養問題があるのではないでしょうか。

今後はいっそう高齢化が進み、ますますNSTが重要性を増してくるものと思います。また、最近では、がんの緩和ケアにもNSTが取り入れられるなど、新しい動きも目立つようになってきました。
病院の中だけでなく各地域へと広がりを見せ、そして、より幅広い目的に使われつつあるNST。多くの医療・介護従事者の方々に、ぜひ積極的に参加していただきたいと思っています。

丸山 道生 氏
【略歴】

1980年 東京医科歯科大学医学部卒、同第1外科入局
1983年 東京都立駒込病院にて病理、外科医員として勤務
1990年 カリフォルニア大学サンディエゴ校外科に勤務
1993年 東京都立大久保病院外科医長
2005年 東京都職員共済青山病院外科部長、2006年より現職
【役職】
財団法人東京都保健医療公社大久保病院外科部長/医学博士 東京医科歯科大学医学部外科臨床教授
【専門資格】
日本外科学会・指導医/専門医、日本消化器外科学会・評議員/指導医/専門医、日本静脈経腸栄養学会・理事/評議員/NST首都圏エリア長/JSPEN首都圏支部長、日本外科代謝栄養学会・評議員、日本在宅医療学会・理事、日本病態栄養学会・評議員(専門医試験委員)、米国癌学会アクティブメンバー、米国癌治療学会アクティブメンバー、PEGドクターズネットワーク副理事長。その他、日本癌学会、日本癌治療学会、日本胃癌学会、日本文化人類学会などの会員。
【学会活動】
1999年、日本胃癌学会第1回学会賞(Nishi Memorial Award)を受賞。2010年、第21回日本在宅医療学会・大会長、第2回JSPEN首都圏支部学術集会・会長を務める。
【著書】
『経腸栄養バイブル』日本医事新報社、2007年
『癌と臨床栄養』日本医事新報、2010年 など
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