今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第101回 2011/09

患者さんからの暴言・暴力対策~安全で安心な医療機関を目指して~

近年、医療機関における一部の患者さんによる医療従事者に対する暴言や暴力、セクシャルハラスメントが課題になっています。全日本病院協会の調査によると、2人に1人の職員が身体的、精神的暴力、セクハラなどを受けたことがあることがわかりました。医療機関を安全で安心な場所にするための暴言・暴力への予防策や対応策とは……? 北里大学医学部公衆衛生学講師の和田耕治さんにお話をうかがいました。

北里大学 医学部公衆衛生学 講師
和田 耕治 氏

北里大学

医療機関における一部の患者さんによる暴言・暴力とは?

近年、一部の患者さんによる医療従事者への暴言や暴力、セクシャルハラスメントの実態が明らかとなり、その対策が求められています。全日本病院協会の「院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査」(2008年)によると、過去1年間に身体的、精神的暴力、セクハラなどを受けた職員は52.1%で、実に職員の2人に1人が被害を受けていたことがわかりました。

医療機関で起こりうる暴力は、大きく4つにわけられます。
①患者さん(と家族・関係者)から医療機関の職員へ、②医療機関の職員から患者さん(と家族・関係者)へ、③患者さん(と家族・関係者)から患者さん(と家族・関係者)へ、④医療機関の職員から医療機関の職員へ、です。
今回は主に、①患者さん(と家族・関係者)から医療機関の職員への暴言・暴力対策についてお話ししたいと思います。

患者さんからの暴言や暴力が起こる背景にはさまざまな要因があります。もともと悪意のない患者さんであっても、職員の対応への不満や待ち時間のストレスなどからいわゆる「怒った」患者さんもおられ、そのような言動を起こすことがあります。また、患者さんが急に亡くなるなどのケースでご家族・関係者が動揺したり、疾患による症状として引き起こされたりする暴力など、医療機関側もある程度受け入れなければいけない場合もあります。しかし、不当な嫌がらせや暴力、ストーカーやセクハラ行為は犯罪であり、毅然とした対応が求められます。院内における暴力の発生数は極めて少ないといえますが、暴力が起こった際の影響が大きいため、積極的に予防対策に取り組むことが重要です。

ほとんどの患者さんは善良な方々ですが、100人に1人いるかいないかで悪質な方がおられ、トラブルなどにつながることがあるため、ここでは「一部の」患者さんと表記させていただきます。

院内巡視から、暴力につながる要因を見つける

患者さんからの暴力に対する医療機関での組織的な取り組みは、まだまだ不十分なところも多いです。医療安全室やクレーム担当者など対応する部署を設置している病院もありますが、担当職員が通常業務との兼務で忙しかったり、問題発生時の担当者とその役割や具体的な対応や対処の流れなどが決まっていなかったりするのが実情です。

私はよく講演でも、「病院の意見箱を見れば、その病院の文化がわかる」と伝えています。患者さんの意見を聞き、病院の改善に努めようとしている医療機関は、わかりやすい場所に意見箱が設置されており、近くには落ち着いて書けるように椅子や紙、鉛筆などが用意されています。さらには、「○○のご意見をいただき、このように解決しました」といった改善策や対応内容を掲示しています。また、意見箱とするのではなく、「院長への手紙」とするとお礼状なども入るようになるようです。

医療機関における暴言・暴力対策として私が実施しているのが、院長先生らと一緒に「病院巡視」を行うことです。待合室での待ち時間や、椅子の座り具合、意見箱はどこにどのように設置されているか、病棟に誰かが入った際に、職員が元気よく挨拶しているか…などを確認しています。医療機関で起こる暴力は、実は病院が抱えている問題の氷山の一角であることが多く、院内巡視によりこれまで気付きにくかった問題を発見できるのです。暴力対策は、こうした点から始まることを再認識していただければと思います。

院内暴力に対する予防策のステップ

暴力のない安全で安心な医療機関を目指すには、積極的に予防対策に取り組むことが求められます。対策の大まかな流れとしては、医療機関における暴力の実態を簡単に調査して把握したのち、暴力に対する病院の方針を院長などが表明し、対策の具体化をします。

1)  実態を調査します
医療機関で暴力がどれくらい発生しているのか、数値として現状を把握することが大事です。暴言、暴力などそれぞれを半年(または3カ月など)以内に経験したかどうかを、無記名で一定数(例:100名程度)にアンケートを取りましょう。調査に時間とエネルギーを取られないようにし、あくまで改善に重きをおくようにしてください。また、自由記入欄があると事例を書き込むことができ、具体的な暴言・暴力の内容が共有できます。

2) 医療機関として対策を行うという方針を示します
組織的に対策に乗り出すには、院長や理事長など医療機関のトップが暴力に対する病院としての方針を明確に打ち出すことが重要です。「医療機関として、いかなる暴言・暴力も許さない」「被害にあった職員は組織で守る」といった旨を文書や口頭で表明するとともに、できれば数カ月に1度、職員と方針を確認し合いましょう。

3)  対策の具体化を行います
全国の医療機関で行われている良好事例に基づいて作られた「改善アクションチェックリスト」を活用しましょう。リストには、施設の環境づくりや良好なコミュニケーション、安心できる体制づくり、現場の備え、発生時や収拾時の対応など全30項目が並んでおり、対策として取り上げたいものをグループ(例:8名程度)でディスカッションします。各医療機関で優先的に取り組むべきアクションが見えたら、トライ&エラーを繰り返して改善に努めていきましょう。
例えば待ち時間を減らす努力や、待合室の雰囲気の改善、暴言・暴力を許さないといったポスターの院内掲示の他、救急外来の入り口や待合室に、プライバシーを侵害しない範囲で監視カメラを設置したりするのも有効です。

暴力発生時の適切な対応とは?

どんなに予防対策をしても、暴言・暴力が発生する可能性はゼロにはなりません。そのため、暴力が発生した際の問答事例や対応表を作成します。可能であればロールプレイ研修も効果的です。

具体的には、暴言や暴力を3~4つのレベルに分け、それぞれのレベルに応じて、誰がどのような対応をすべきかを示したものを作成し、電話の横などに掲示します。また、クレームや暴力発生時の連絡系統や退避経路の確保、「土下座しろ」「院長を出せ」といった無茶な要望や脅迫に対する答え方とともに、常に毅然とした態度を取る、相手より多い人数で対応する、時間を限って応対する、監視カメラやレコーダーの保管場所を周知するといった対応策も職員に機会をみつけて教育します。入職時研修の場なども効果的です。大切なのは、分厚いマニュアルを作るのではなく、対応問答表をA4用紙1枚程度に簡潔にまとめ、普段から目にする場所に置いておくことです。

警察を呼ぶタイミングとその方法を、院内で決めておく必要もあります。一般的には、「その場にいる誰かが恐怖を感じたら」通報するのがよいかと思います。その際、誰がどのように警察に連絡をするのかを決めておくとともに、暴言については、「これ以上大声を出すなら他の患者さんに迷惑がかかるので警察にも連絡します」といった警告をしてから通報するのが望ましいでしょう。

その他、警察OBを雇用して暴力対策の体制を整えている医療機関が増えていたり、いくつかの医療機関では、暴言・暴力に該当する事例を「コードホワイト」と定め、事件発生時に発令し、チームで事態の収拾にあたっていたりするところもあります。

暴力をなくし、患者さんと医療従事者の安全を確保する

これまで暴力対策における予防策、対応策をお伝えしてきましたが、対策に取り組む上で忘れてはいけないいくつかの重要なことがあります。
ひとつは、怒っている人や単に質問をしているだけの人と、悪質なクレーマーを区別することです。暴言が拡大解釈されすぎて、ちょっとした質問にもかかわらずクレーム担当者が出てくる…といったケースも見受けられます。
そしてもうひとつは、院長や理事長が率先して取り組むことです。熱意を持って対策を進める職員がいても、トップの方々が彼らを支えなければ、改善は成功しません。失敗を恐れずに、院内暴力の排除につながるアクションに挑戦していく土壌や風土を整えましょう。

多くの対策は、費用もかからない上、難しくないものばかりです。医療機関における暴力を排除することは、患者さん同士のトラブルを減らすことにもつながり、医療従事者ならびに善良な患者さんの安全を守ることができます。ぜひ積極的に対策を講じ、安全で安心な医療機関を目指して、環境を整えてもらえたらと思います。

和田 耕治 氏
【略歴】

2000年 産業医科大学医学部卒業、以後臨床研修医、企業での専属産業医として勤務
2006年 McGill大学産業保健修士、ポストドクトラルフェロー
2007年 北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、2009年より現職
【役職】
北里大学医学部公衆衛生学講師/医学博士
【専門資格】
労働衛生コンサルタント(保健衛生)/産業保健修士/日本産業衛生学会指導医
【委員】
新型インフルエンザ専門家会議委員/日本医師会勤務医の健康支援に関するプロジェクト委員
【著書】
『医療機関における暴力対策ハンドブック~患者も医療者も安心できる環境をめざして~』 (共著)中外医学社、2011年 『一般医療機関における暴言・暴力の予防と対策』 (共著)ケアネット、2009年 『ストップ!病医院の暴言・暴力対策ハンドブック―医療機関における安全で安心な医療環境づくりのために』 (共著)メディカルビュー社、2008年 など
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