今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第102回 2011/11

「命を救う」救急現場で活躍するフライトナース

緊迫した救命救急の現場にドクターヘリで駆けつける。ドクターとともに患者の命を救うフライトナースの役割とは……。日本に導入されたおよそ10年前からフライトナースとして活躍する愛知医科大学病院の川谷陽子さんにお話をうかがいました。

愛知医科大学病院 高度救命救急センター
救急外来 主任
救急看護認定看護師
川谷 陽子 氏

愛知医科大学病院

日本で拡大しつつあるドクターヘリの活躍

人工呼吸器、心電図モニター、除細動器などの救急用医療機器や医薬品などを搭載している「ドクターヘリ」。救急処置を必要とする傷病者が発生した現場に、医師や看護師がいち早く駆けつけ、迅速な救命活動を可能にする「救急医療用ヘリコプター」のことです。日本におけるドクターヘリの誕生は、1995年の阪神・淡路大震災の時に災害医療が見直されたことがきっかけでした。2001年より本格的に導入促進事業が始まり、北海道・青森県・福島県・茨城県・群馬県・埼玉県・千葉県・神奈川県・長野県・静岡県・愛知県・岐阜県・大阪府・兵庫県・和歌山県(三重県・奈良県の一部を含む)・岡山県・福岡県・長崎県・沖縄県などを拠点にドクターヘリが運航しています(2011年10月現在)。

私が勤務する愛知医科大学病院では、2002年に全国で4番目となるドクターヘリ事業を開始し、愛知県の基地病院として県全域を対象に出動しています。初期治療をいかに早く行えるかどうかで、傷病者の生命は大きく左右されます。ドクターヘリであれば、県内の一番遠い現場でも25分程度で向かうことができるため、救命率の向上や後遺症障害の軽減に大きく効果を上げています。

フライトナースはドクターと2人だけでドクターヘリへ乗り込む


パイロットとメカニック以外でドクターと一緒にドクターヘリに搭乗するのは、「フライトナース」と呼ばれる看護師1名だけです。ドクターとともに患者様に最善の救命治療が提供できるよう、看護することが最大の役割です。私は当院がドクターヘリ事業を開始した2002年にフライトナースになり、現在は高度救命救急センターの主任看護師としてドクターヘリに搭乗しています。

当院には7名のフライトナースがおり、月に5~6回のドクターヘリ業務を担当します。担当する日は8:30までに着替えはもちろん、機内の薬品や資材などの準備を終え、消防からの出動要請に即座に対応できるようスタンバイします。そして、要請が出たら3分以内を目標に、注射薬や治療用具が詰め込まれた青いバッグを抱えてヘリポートに向かいます。出動回数は多い時で1日に6回ということもありましたが、もちろんゼロという日もあります。 ドクターヘリに乗り込んでから真っ先に行うことが情報収集とアセスメントです。

消防からの要請時には「交通事故です」とか「意識無し」といった、わずかな患者情報しか入ってきません。そこから予測される病態を判断して、点滴や静脈路確保のためのカテーテルの準備などをし、到着してからの必要な処置を考えながら現場へ飛んでいきます。また、搬送先は当院だけでなく他の病院という場合もあるので、地図を見ながら現場から最も近い救命センターをリストアップします。現場に着いてからは、全速力で患者さんの元へ駆けつけます。患者さんに声をかけながら接触し、ヘリ内でのアセスメントが正しいかを確認しながらドクターと協働・分担して治療・処置にあたります。初期治療を行った後、搬送先病院へ患者情報を簡潔明瞭に伝え受け入れ要請するのもフライトナースの業務のひとつです。そして病院へ搬送するという流れです。

数年前の日本は、ドクターヘリによる救急医療体制がまだまだ確立されていない状態で、フライトナースになって間もない頃の私自身にとってもすべてが手探りでした。時には悔しい事例も多々ありました。そのひとつに、すべての要請に応えられなかったことがあります。要請のタイミングが重なってしまったために優先度で向かう現場が決まり、もう一方の現場には行かれないということがありました。現在もそういったケースが全く無いわけではありませんが、全国に拠点が増えて、各病院間の応援協定が充実してきたので、徐々に重複要請にも応じられる仕組みが整いつつあります。

課題はフライトナース実践能力評価と研究

ドクターヘリによる救急医療体制がスタートしてから約10年、医師はもちろん、フライトナースの活動も着実に成果を挙げていると感じています。ドクターヘリで早期に治療をしたからこそ助かった命もあると思いますし、早い回復につながった患者さんもたくさんいることでしょう。とはいえ、より万全な救命救急医療を目指すためには、改善したい点がいくつかあります。
フライトナースの育成に関しては、日本航空医療学会フライトナース委員会によってフライトナース選考基準という一定基準が設けられています。その内容は「リーダーシップがとれる者」「外傷や救急蘇生の初期診療の資格保有者」です。各施設でこの基準を参考にして、その基準をクリアした人がフライトナースとしての教育を受け、フライトナースとして独り立ちをします。

一定基準を満たし、教育を受けた人がフライトナースとして活動していますが、現在フライトナース実践の評価はまだまだ確立されていません。フライトナースが現場でどのような看護実践を行うことで、患者にとってより良い成果が得られるのかということを追求していく必要があります。そのためには、フライトナースの看護実践に関する研究を行うことも課題となります。実践と研究を組み合わせ、フライトナースの最善の看護実践を導き出し、それを実践で評価するということが現在の課題であると感じています。

フライトナースに求められるのは、高いプロ意識と柔軟な対応力

フライトナースとして活躍するために何よりも大切なことは、常に「プロフェッショナル」であるということです。私たちは命を助けなければならない"究極の救急医療"の現場に行くわけで、そこできちんと活動できる人でないとフライトナースは務まりません。普通の看護師でも同じですが、常に新しいことを学ぼうとする姿勢が欠かせませんし、自己研鑽できる人間でなければなりません。また、実践の場においては相談できる他の看護師がいる院内と違って、現場ではわからないことがあっても判断するのは自分一人です。1分1秒を争う究極に限られた時間の中なので、調べている余裕もなければ、人に聞いている時間もありません。そういった現場で瞬時にかつ的確な判断を下すことができる、プロ意識の高い人間であることがフライトナースには求められると思います。

また、現場での臨機応変な対応力も必要です。患者さんの回復は、院内での救急対応の経験をいかに現場で応用できるかにかかっていると言ってもよいでしょう。患者さんも症状も異なるそれぞれの現場に対し、通常業務で学んだことをいかに現場に則した形で業務を遂行できるのか、柔軟な対応が求められます。

フライトナースを目指す皆さんへ

フライトナースは一見、かっこ良くて華やかな職業に思われがちですが、実際の現場は人の生死に直面する非常に厳しいものです。フライトナースを目指されている方は、そのことをしっかり頭に刻んでおいていただきたいと思います。まずは看護師として看護をどう実践するかを学んでいただき、通常業務をしっかりと行ってください。そして救急看護を勉強し、その上でフライトナースを目指してほしいと思います。  

私もまだまだ勉強の日々です。フライトナースが現場で活躍する意義や効果を研究して実証データを収集したり、教育システムを構築したりとフライトナースの更なる地位の確立を目指したいと思っています。また、これからフライトナースを目指される皆さんが活躍しやすい環境をつくるための活動も積極的に行っていきたいと考えています。

川谷 陽子 氏
【略歴】

1992年3月 岐阜大学医学部附属看護学校 卒業
1992年4月~愛知医科大学病院高度救命救急センター 就職
2010年3月 名古屋大学医学部保健学科医学系研究科 臨床看護分野 終了
【役職】
愛知医科大学病院 高度救命救急センター 救急外来 主任
【専門資格】
救急看護認定看護師
【委員】
日本航空医療学会 フライトナース委員会 委員 日本集団災害医学会 評議委員・災害看護委員委員長 日本救急看護学会 評議委員・災害看護委員 JICA国際緊急援助隊医療チーム中級研修実施検討委員会「看護班」班長 JICA国際緊急援助隊医療チーム中級研修実施検討委員会「外科・外傷班」班員
【著書】
『役に立つ呼吸管理の実際プレホスピタルから在宅まで「ミニメモ口腔内ケア」』真興交易(株)医書出版部、2004年
『急変・救急時看護スキル-その根拠とポイント「胃管挿入と胃洗浄」』メディカ出版、2004年11月
『心理的危機状況下にある患者家族への対応,クリティカルケアの看護技術,看護技術』2005年2月
『プレホスピタルにおける患者・家族の心のケア』Emergency Care 2005夏季増刊、メディカ出版
『症状と疾患でわかる救急患者のケア「トリアージ」』Emergency Care 2006夏季増刊、メディカ出版
『【知っておこう!!災害発生時の必須技術】搬送(解説/特集)』EMERGENCY CARE(1349-6557)22巻1号 Page52-57、2009年1月
『国際災害救援活動の現場から JICA国際緊急援助隊救助チーム 中国・四川大地震 がれきの中の中学校,医療班の活動が始まる(解説)』看護展望(0385-549X)33巻12号 Page1204-1205、2008年11月
『国際災害救援活動の現場から JICA国際緊急援助隊救助チーム 中国・四川大地震 救助チーム医療班のナースとして中国へ(解説)』看護展望(0385-549X)33巻10号 Page1012-1013、2008年09月
『フライトナース実践ガイド(共著)』へるす出版、2008年11月
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