今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第103回 2011/12

労働環境を改善し、幸せな働き方を実現する

2009年度の常勤看護職員の離職率が11.2%という調査結果からも労働条件・労働環境の改革や整備が求められている看護界。厚生労働省への働きかけや、看護職のワーク・ライフ・バランスを推進している日本看護協会会長の坂本すがさんにお話を伺いました。

公益社団法人日本看護協会
会長
坂本 すが 氏

公益社団法人日本看護協会

看護職の離職率は11%台。労働条件や環境の整備が不可欠

日本看護協会は1946年に設立され、2011年に公益社団法人として新たなスタートを切りました。現在64万人の看護職が加入しており、47都道府県看護協会と連携・協力して活動している看護職能団体です。「人々の人間としての尊厳を維持し、健康で幸福でありたいという普遍的なニーズに応え、人々の健康な生活の実現に貢献する」という使命のもと、看護の質の向上だけでなく、看護職が生涯を通じて安心して働き続けられる環境づくりを進めています。

そして今年度、重点政策・重点事業のトップに掲げているのが「労働条件・労働環境の改善」です。2009年度の常勤看護職員の離職率をみると、11.2%※とおよそ10人に1人が毎年辞めていることになります。これまでは、結婚や出産などにより職場を離れている55~65万人の潜在看護職に向け、短時間正職員制度の導入や保育所の設置など、復職しやすい環境の整備を進めてきました。また、新卒の看護職が職場に定着するよう、新人看護職員研修の努力義務化などにも力を入れてきました。これらの事業を引き続き継続すると同時に、いま頑張っている看護職たちが離職しないためには、労働環境をしっかり改善することが必要だと強く感じているのです。

※ 常勤看護職員の離職率(公益社団法人日本看護協会調査)

長時間勤務や短い勤務間隔が看護職の慢性疲労につながる


看護職の勤務は2交代もしくは3交代による24時間体制です。夜勤のほか、2交代制では16時間もの長時間勤務になったり、3交代制では勤務と勤務の間隔が8時間しかなかったりするシフトも多いのが実情です。間隔が8時間とはいえ、時間外勤務や早出などの対応をしているケースもあるため、実際に自宅で過ごせるのはおよそ4時間。家族の世話や食事の準備、家事などで寝ずに次の勤務に来ているということもあるでしょう。

また、もうひとつの大きな課題が、在院日数の変化です。DPC制度(診断群分類包括評価を用いた入院医療費の定額支払い制度)などの導入で在院日数が診療報酬に反映されるため、質の高い医療を提供し、いかに在院日数を短縮できるかが急性期病院の経営に関わるようになったのです。私は30年以上病院に勤めていましたが、以前と比べると平均在院日数は半分ほどに短縮されたのではないでしょうか。在院日数が短くなったということは、患者さんの一番変化の激しい時期だけを病院で看るということですし、空床になれば次々と新たな入院患者さんがやってきます。つまり、看護職は倍の数の、急性期の患者さんを看護していることになるのです。

看護職の慢性的な心身疲労はストレスを蓄積し、医療事故の不安を増幅します。今後ますます高齢化が加速するなかで、医療安全を追求しながら、看護職が笑顔でやりがいをもって生き生きと働くには、労務管理の整備が求められます。そのため日本看護協会では、2010年度から「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」の策定を進めています。ILO看護職員条約・勧告や、EUなど国際的な労働時間規制などに則り、12時間前後の勤務時間および、12時間前後の勤務間隔の勤務形態が確保されることを目指しているのです。

厚労省のプロジェクトチームが発足し、医療機関と行政の連携が高まる

2010年11月、当時の細川厚生労働大臣の提案で、厚生労働省に「看護師等の『雇用の質』の向上に関する省内プロジェクトチーム」が設置されました。夜勤や交代制など厳しい勤務環境に置かれている看護師等の"雇用の質"を向上するため、省内の厚生部局と労働部局が協力しながら課題に取り組んでいくという画期的なプロジェクトチームです。これまでに日本看護協会が、看護職の労働条件・労働環境の是正を厚生労働省に働きかけてきた成果でもあると感じています。

そして2011年6月には、「看護師等の勤務環境の改善等をなくして、持続可能な医療提供体制や医療安全の確保は望めない」との基本的な立場のもと報告書がまとめられました。そこには、①結婚・出産・育児など生活上の理由と業務の過重性による離職防止に努めること、②充分ではない勤務間隔や16時間を超える長時間夜勤には早急な改善が必要であること、③病院内における労務管理体制を確立し、負担軽減に向けた取り組みを進めること、④労働時間管理者を明確にし、コンサルティングによる先進事例等を普及することが課題として盛り込まれており、高く評価しています。

また、この報告書は、医政局、労働基準局などの関係5局長の連名で、都道府県労働局長や都道府県知事宛に通知が出されました。医療機関と行政が連携して、"職場づくり""人づくり""ネットワークづくり"に取り組んでいくことが明文化されているのです。

幸せに働き続けられるようにワーク・ライフ・バランスを推進


「ワーク・ライフ・バランス(WLB)」とは仕事と生活の調和を指し、多様な勤務形態のなかで一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら、責任ある仕事をまっとうしていくことです。日本看護協会では都道府県看護協会と協力し、看護職のWLBの実現に向けて「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップ事業」を全国で展開しています。「看護職のWLBインデックス調査」をベースに、現状分析から改善に向けたアクションプランを立てて取り組んでいくワークショップには、2011年度は20都府県・115病院(うち53施設は2010年度から継続)が参加しています。

労働条件や労働環境を変えていくには、行政が指揮を取って制度を改善していくことと、医療機関がWLBを考えながら主体的に改革していくことの両軸が大切です。ガイドラインを作ったところですべての医療機関にあてはまるわけではないですし、常に患者さんがいるわけですから、すぐには変えられない。しかし、各医療機関ができることから着手し、長い時間をかけて、日本の医療文化としてWLBを根付かせていくことが必要なのです。また、労働時間管理者に任せるのではなく、経営層も一緒に推進することで離職防止にもつながります。"医療を作る原点は、人の働き方にある"のです。

看護職は社会貢献!自分らしい働き方を見つけてほしい

看護職になって感じることは、いろいろな働き方があるということ。新興国をはじめ世界で活躍することも、自分の生まれ育った場所に戻ることも、都会へ出ていくことも、災害支援などもできる。看護職は多様な形、多様な場所で求められるので、病院で働くというひとつの見方だけでなく、病んでいる人や助けを必要としている人へ手を差しのべながら、お互いを高めていける職業なのだと思います。人のため、社会のために貢献できる仕事であるからこそ奥が深いし、たとえ現場から離れたとしても、ケアに関することを伝えたり教えたりと人に何かをしてあげられると思います。ぜひ自分らしい働き方を見つけ、生き生きと毎日を送ってほしいですね。

医療機器のさらなる発展で、看護業務をサポートしてほしい

医療機器の発展によって、看護職の仕事は劇的に変化しました。病棟は生活をする場ですから、廃棄物などの臭いが一切出ない脱臭装置などを設置して快適に過ごせるようになりましたし、ナースコールがPHSと連動したことで、ナースステーションに戻ることなく早急な対応ができるようになりました。機器のサポートは、看護業務の効率化だけでなく、医療の安全にも貢献していると思います。

先日、消防署を見学させてもらって驚いたのですが、コールの緊急度によってランプの色が変わるので、瞬時に周りの職員に知らせることができるのです。現在のナースコールシステムは、患者さんからのコールを看護師が受け、対応を考えて、医師に連絡したりヘルプを呼んだりするのですが、消防署のランプのように、患者さんの応対をしながら緊急度を医師や周りの看護師に伝えられるとより良いのかなと思いました。

また、経済的なことなど治療以外の患者さんの悩みも多いのですが、「誰に相談するべきかわからない」「歩けないから相談に行けない」といった理由で、看護師に相談されるケースがよくあります。もしナースコールがソーシャルワーカーや相談窓口につながる連絡手段にもなったら、患者さんの安心やより手厚い看護につながることも可能ではないかと夢を抱いています。

坂本 すが 氏
【略歴】

1972年 和歌山県立高等看護学院保健助産学部卒業 同年、和歌山県立医科大学附属病院 就職
1976年 関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)産婦人科病棟 就職
1993年 日本看護協会看護研修学校管理コース 修了
1996年 青山学院大学経営学部経営学科 卒業
2006年 東京医療保健大学看護学科学科長・教授 就任
2008年 東京都看護協会副会長、日本看護協会副会長、中央社会保険医療協議会専門委員 就任
2011年 日本看護協会会長 就任
【委員】
中央社会保険医療協議会専門委員
【著書】
『わたしがもういちど看護師長をするなら』医学書院、2011年9月
『新人看護職員研修の手引き』日本看護協会出版会、2011年9月
『看護師の仕事につきたい! (教えて、先輩!私の職業シリーズ)』中経出版、2011年6月
『5日間で学ぶ医療安全超入門』日本医療マネジメント学会監修、学習研究社、2008年6月
『術前・術後標準看護マニュアル』(坂本すが監修)、メジカルフレンド社、2007年8月
『看護部が組織を変える!』(坂本すが編纂)、日本看護協会出版会、2007年8月
『脳神経看護ポケットナビ』(坂本すが監修)、中山書店、2007年2月
『業務システム標準化による医療事故予防策実例集』(坂本すが共著)、メジカルフレンド社、2004年11月
『MRが知っておきたいクリティカルパスの実際』エルゼビア・ジャパン、2001年4月
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