今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第107回 2012/04

生活習慣病はオーダーメードの「チーム医療」で治す

糖尿病をはじめ、本人に自覚症状がないまま悪化してしまう生活習慣病。患者数は増加傾向にありますが、専門的に診られる医療機関はそう多くないのが現状です。病院外に専門部署を設け、オーダーメードの治療を行っている三楽病院附属生活習慣病クリニック院長の田上幹樹さんに、専門クリニック設立の背景や独自の教育入院システムなどについてお伺いしました。

社団法人東京都職員互助会 三楽病院附属生活習慣病クリニック 院長
田上 幹樹 氏

生活習慣病クリニック-三楽病院

糖尿病患者が増加、徹底した治療に向け専門クリニック設立

三楽病院で私は糖尿病の専門医を長く務めてきましたが、患者が増える一方であるにもかかわらず、血糖値などのデータを渡し簡単な説明と指導をする、という流れ作業に近い外来が長く続いていました。これは当院だけでなく、病院の規模を問わず、どこも似たような状況だったと思います。

三楽病院では2000年ごろから、インスリン注射の患者さんを対象とする外来を設けていました。そこでは、私と看護師が生活習慣病(主に糖尿病)に関する指導と介入をしながら治療にあたったのですが、対応は不十分でした。糖尿病は薬を出せばいいというわけではなく、患者さんの生活習慣や性格、病気との向き合い方などがわかっていないと、正しい治療ができません。ここまで徹底して診るためには、十分な数のスタッフを配置して患者さんの情報を集め、繰り返し会話を交わすことでスタッフと患者さんとの距離を近づける必要があります。また、相手の人格がわかっていないと、治療が長続きしないということも痛感していました。だいたい10人に6人、7人ぐらいは、半年ぐらいは治療がうまく続くのですが、その後は元に戻ってしまうからです。

こういった背景から、私はかねて、専門クリニックの必要性を院内で主張していました。また、院外に新しくクリニックを設けると、診療報酬体系が診療医扱いになることも重要なポイントでした。つまり指導料が加算されることで、患者さん1人当たりの診療報酬が増えるということ、しっかりと人員を配置し、質の高い「チーム医療」を提供すれば、個人の医療費の負担が多少増えたとしても、患者さんが来てくださるのではないかと考えたわけです。そして2005年4月1日に生活習慣病クリニックの開院に至りました。

開院に伴い常勤の医者を2人から4人に増やし、看護師3人、薬剤師2人、臨床検査技士1人、栄養士2人が最低限必要だと病院側に訴えました。病院とクリニックを兼任する者、私の母校である東京医科歯科大学から新しく呼んだ者もいます。看護師に関しては、糖尿病療養指導士の資格を持つ人材が欲しいと主張し、資格があるスタッフが病院に3人いたので、全員引き入れました。薬剤師も専属で配置し、「チーム医療」がすべてクリニック内で完結するという体制を敷いたのです。

教育入院の改革に着手、心理面で患者のタイプを分類

教育入院する患者さんは、入院期間中は症状が改善するものの、退院後に10人のうち半数以上が元の体に戻ってしまい、その後、2年か3年に一度は再び入院するパターンが繰り返されていました。そこで繰り返し入院を減らすために、教育入院のシステムを変えることに着手しました。まず、患者さんの性格や心理面を重視し、①知識不足型(初回入院)②参加型③他力本願型④危機感ゼロ型の4つのタイプに分けます。これを基に、患者さんのタイプに合った指導を行う「オーダーメードの教育入院」を開始したのです。

そして退院の際には、この4タイプをさらに①本人主導型②他人主導型に分類し、その後は外来治療となります。教育入院後の通院では、患者さんの行動記録の管理(目標のうち何ができて、何ができなかったかのチェック)を少なくとも半年以上は続けようと決めました。教育入院だけで終わるのではなく、その後も外来でしっかりと診るわけです。患者さん1人に対して医者や看護師、栄養士などが長期にわたってフォローするという仕組みを築いた結果、血糖コントロールが良好な状態で維持され、2回目、3回目の教育入院が激減しました。
また、患者さんの性格特性が細かく分類できれば、外来の一環としてもオーダーメードの治療ができるのではないかと考えました。そこで2009年、患者さんの性格の分類を行うために、糖尿病の患者さんに対して12項目の質問を用意して、それぞれ5段階の回答からひとつ選んで答えてもらうシートを作成し、アンケート調査を実施しました。身長や体重、家族構成、治療の状態なども含め1309人分のデータを集めたのです。本人主導型と他人主導型をさらに5タイプ(本人主導型=①自律型②自己非難型、他人主導型=①医療者依存型②家族依存型③運、偶然型)に分け、型によって指導方法を変えようと考えました。

例えば、患者さん自ら率先して糖尿病と向き合う「自律型」の方は、積極的に自らの生活を見直そうとしていますから、本人の知りたい情報を提供し、必要な指導を進めていきます。一方で「自己非難型」の患者さんには、できなかったことを指摘するのではなく、改善できたことをほめることを基本にしています。このように、現在はタイプ別の指導方法を模索しているところです。実は、「自律型」はさらに2つのタイプに分かれ、指導をちゃんと守る人、口では守ると言うのに実際にはできない人がいます。こういった細かい分類への対策を練ることが新たな課題です。オーダーメードの糖尿病治療は、実証を積み重ねてノウハウを身に付けるほかありません。当クリニックでは看護師や栄養士が患者さんの状態をチェックし、その情報をスタッフ間で共有した上で医師が診察します。患者さん一人ひとりに適した治療方法を多職種の医療従事者が関わって考える。これがオーダーメードの糖尿病治療なのです。

さらに、2009年と同様のアンケート調査を、当院に通院する糖尿病の患者さんを対象に2011年に再度実施した結果、性格特性は2年を経ても7割弱が変化していないことがわかったのです。これらのデータから、年齢が上がるごとに「他人主導型」が多くなり、「運、偶然型」の患者さんは治療の中断が多いことも判明しました。そして2011年度から、タイプごとに異なる治療の本格実践を開始したのです。

「チーム医療」で糖尿病を治療、多職種が患者に関わる

糖尿病治療での介入や指導の方法は、クリニックの開院から現在に至るまで研究を続けています。最近では、従来の手法と比べ、多職種が患者と関わる方が症状改善の可能性が高いという事実も分かってきました。一番深く介入しなければならないのは、病気は運に左右されると考えている「運、偶然型」の患者さんたち。医者だけでなく、看護師や栄養士、薬剤師などとも会う機会を増やし、多くの医療従事者が接する手法で治療します。患者に関わる医療従事者の人数が多いほど、糖尿病のコントロールはうまくいくようになるのです。患者さんの体に染みついた「快適習慣」を変えるには、「チーム医療」で接し、診察で訪れるたびに「ここだけでも変えてみましょう」と説得することが大切。それを続けると、相手の気持ちも徐々に変わっていくものなのです。

また、クリニックと本院が連携して対応できるのも大きな利点です。開院当初からクリニックのスタッフばかりでなく、病院で糖尿病治療に携わっているコメディカルも参加して月に1、2回のカンファレンスを開き、今後の方針について話し合い実践に移しています。この2年ほどは毎週火曜日に病棟でミニカンファレンスを設け、その週に入院、退院した人の情報を共有しています。その場には病棟の看護師も多数出席し、症例検討を行います。

やる気ある人材が質の高い治療を維持、新規患者の受け入れ拡充へ体制強化

質の高いオーダーメードの糖尿病治療を維持するには、大きなエネルギーが必要です。当クリニックがこれを7年間続けてこられたのは、モチベーションの高いスタッフが集まっているからです。また、スタッフたちがクリニックもしくは三楽病院から外部に向けて、「糖尿病治療はこうあるべきだ」と情報発信する意欲にあふれていることも大切な要素です。これは学会発表の部分で、発表は準備などが大変なのですが、やってみると意外に楽しくてどんどん学びたくなる。院内でのカンファレンスや情報共有を通じて、スタッフ各自が徐々にステップアップしてきました。学会以外でも私が講演に出向いたり、看護師が症例の発表をしにいったりと、外への情報発信には力を入れています。

今後の課題としては、増え続ける患者数に対してクリニックのスペースが手狭になっており、できれば新たに場所を確保して人員も増やしたいと考えています。もちろん、生活習慣病患者が増加しないように努めなければなりません。患者でない状態、つまり予備群までデータを戻し、外来通院の回数が半年に1回、年1回で済むぐらいに改善させること。これに尽きますね。食事と運動の基礎をきちんと指導して、快適習慣を少しでも改めてもらえるよう、チーム医療でしっかりと指導する。また、新規の患者さんは情報収集に時間がかかるため、場所と人員の都合で現状では難しいのですが、こちらも十分に受け入れられる体制を整えなければ、と感じています。

日本の医療界については、最近、新型の高額な薬剤を患者にすすめる医師が増えており、この点に疑問を感じています。糖尿病の治療では、何よりもまず食事と運動が先決です。これを踏まえた上で薬剤をすすめるのならまだわかるのですが、若い医師、ベテラン医師を問わず、この順番を間違えている方が多いのではないでしょうか。医療費が高くなれば患者だけでなく、国も苦しくなりますので、こういった傾向が続くとすれば、日本の医療そのものが破綻してしまうのではないかと危惧しています。

田上 幹樹 氏
【略歴】

1971年9月 東京医科歯科大学医学部卒業 同年12月 東京医科歯科大学医学部第三内科研修医
1981年10月 東京都教職員互助会三楽病院第二内科科長
1992年4月 同第三内科部長
2003年4月 同副院長
2005年4月 同附属生活習慣病クリニック院長
【役職】
日本糖尿病学会評議員
日本成人病(生活習慣病)学会評議員
東京都糖尿病協会理事 神田医師会理事
東京医科歯科大学医学部臨床教授
【資格】
日本内科学会認定内科医、指導医 日本糖尿病学会専門医
【著書】
『糖尿病の話』(ちくま新書)
『生活習慣病』(ちくま新書)
『生活習慣病を防ぐ七つの秘訣』(ちくま新書)
『克服できるか生活習慣病』(丸善ライブラリー)
『懲りない患者 快適習慣の落し穴』(生活人新書)
『それは患者の責任です』(生活人新書)
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