今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第108回 2012/05

看護師だからこそ果たせるゲートキーパーの役割

2011年、国内の自殺者数は3万651人(※)にのぼり、14年連続で3万人を突破。その原因のひとつはうつ病があげられ、自殺のサインを見逃さないよう、ゲートキーパーの人材育成に国も力を入れています。看護職を対象にゲートキーパーの研修会を開くなど、自殺予防に積極的に活動している公益社団法人千葉県看護協会専務理事の山木まささんに、研修内容や看護師の役割についてお伺いしました。
※内閣府・警察庁発表

公益社団法人 千葉県看護協会 専務理事
山木 まさ 氏

公益社団法人 千葉県看護協会

看護の専門性を発揮した自殺予防対策への参画

千葉県内の自殺者数は2009年に1320人と、ここ数年は年間1300人台で推移しています。県内の交通事故死亡者数と比べて約4倍で、横ばい状況が続いています。もともと千葉県では自殺対策推進計画を策定してその取り組みを進めており、当協会は、県が事務局である千葉県自殺対策連絡会議の構成員としても活動しています。2009年に県から、構成団体それぞれの役割の中で自殺予防に取り組んでほしいとの声かけがあり、看護職として何ができるのかを考えました。

従来から、うつ病による自殺の原因としては健康上の問題が多いと言われていますが、最初の治療として患者さんが自ら、精神科など専門的な外来に行くことはほとんどありません。なぜならば、自分が精神疾患であることを認めたくなかったり、精神科病棟に対する間違ったイメージを持っていたりするからです。また、頭痛や不眠などの場合、精神科ではなく一般外来で診察を受けることが大半で、検査の結果、特別悪いところは見つからなかったという診断を受けるケースも少なくありません。実は、患者さんが「何となく診断結果に納得していないのではないか」と感じている看護師も多くいます。

そこで当協会では、一般外来で働く看護師を対象に2010年度から、外来においてゲートキーパーとしてどんな役割ができるかを探ろうと、研修会を開くことにしたのです。ゲートキーパーとは、心の問題で悩んでいる人に気付き、声をかけたり話を聞いたりして、必要な支援につなげる「見守る人」のことです。また、もうひとつのきっかけとして、看護師たちが日常的に接する入院患者さんの中で、うつの症状が出てしまう方もいらっしゃいまして、うつ病の患者さんに対応する必要性が従来より増してきたという背景もあります。普段、病院で働いているだけだと、うつ病や自殺を取り巻く状況などが見えにくいので、研修を実施してさまざまな情報や知識を知る必要があるとも感じていました。

看護職を対象に研修を実施し、外来でうつ病の症状を早期発見

研修の大きなテーマは「一般外来におけるうつ病の早期発見と対応のポイント」です。基本的には、うつ病や自殺を取り巻く県内の現状を知ってもらうとともに、外来の中で看護師(専門看護師、認定看護師も含む)がゲートキーパーとして何ができるかを考えます。対象は当協会の会員が優先されますが、入会していない方にも研修の通知を出しており、2010年度の初回は48人、2011年度の第2回は62人の参加がありました。

研修では主に、①外来における看護職の役割と意義、②精神的な問題を抱えた患者さんを看護する看護職のストレス対処法、③患者さんに「死にたい」と打ち明けられたときの対応、④うつ病事故チェックなどへの理解を深めます。2日間の研修日程のうち、初日は、うつ病の患者さんが心理的にどんな状態にあるかなど病理的な分析とともに、その対策について講義形式で学びます。もちろん、県内の自殺者数や原因なども示しながらです。2日目はより具体的に、外来で看護師が果たすべき役割や、うつ症状の早期発見の対応のポイント、うつの兆候や自殺のサイン、うつ病の患者さんに対するアセスメントの実施方法などを学習します。さらに、これらの情報を自分の中に取り込んだ上で、看護師が現場でどんな役割を果たせるかについて、事例も交えて考えてもらいます。2011年度の研修では精神科病院の副看護部長さんを講師に招き、うつ病や自殺に関する理解をより深めました。座学だけではなく、研修で教わった内容をいかにして日々の外来診療で実践し、うつの症状が見られる患者さんを早期に発見して自殺予防につなげられるか、これが大きなポイントです。

専門科への橋渡し役を看護職が担う

精神的な症状から健康不安を感じて外来を受診する方は人数が非常に多いのですが、われわれ看護師も人手不足などさまざまな理由で、外科や内科などの患者さんと同じように接してしまうこともあります。しかし、例えば自殺者の多い年齢層についての情報が看護師に備わっていれば、そういった年齢の方々の様子に注意が向けられるようになり、結果的に、その知識を自殺防止に役立てられるのではないかという気持ちがあります。ゲートキーパーですから、患者さんがどこかで発するサイン(うつ病であることや、自殺の可能性が感じられる言動など)を見逃さないことが肝心です。

そして、うつ病の可能性が高いとみられる患者さんがいた場合は、自分たちの外来ですべて解決しようと考えるのではなく、院内の精神科や専門の医院を紹介するなど、橋渡しの役割を果たすことも看護師の重要な務めなのです。全員が精神科専門の看護師ではありませんが、「患者さんを診る目」は看護の専門職として皆に備わっていますので、この目をもっと研ぎすますべきでしょう。重要なのは、研修をきっかけとして、看護師それぞれが外来で患者さんのサインに気づけるかどうかなのです。そういった意識を常に持ってもらうために、研修を実施しているという側面もあります。

看護師ならではのゲートキーパーの役割とは、やはり外来においての対応に尽きると思います。精神科の専門医療はその道のプロに任せるとして、最初に患者さんが症状を診てもらうところは、私たち大勢の看護職が携わる一般外来がほとんどだからです。その外来のうち、待合室での患者さんの様子をはじめ、医師が目にすることの少ない何げない場面で異常(サイン)を見つけられるかが重要だと思います。ただ、うつや自殺に関する基本的な知識や、自殺を防ぐという強い意識が備わっていないと、患者さんの変化に気づくことは難しいかもしれません。だからこそ、研修が必要なのです。身体の症状だけでなく、どこか心の部分で異常がないかを意識しながら患者さんに接すれば、見えてくるものがあるはずだと私は感じています。

看護師自身もメンタルヘルスケアが必要


昔と比べまして、いま看護師になっている若者の世代は、どちらかというと守られて育っている側面があると思います。そのせいか、早ければ看護学校の時点で、初めて病院に実習に出る際、患者さんも含めて周りとのコミュニケーションがうまく取れずに休学してしまう人もいるのです。また、看護師として働き始めて以降、患者さんやそのご家族からの厳しい言葉で精神的にダウンしてしまう人も少なくありません。中には、休職に追い込まれるケースもあります。実は、当協会の「心の総合相談窓口」に、仲間の看護師が来ることもあります。

ほかにも、医療事故を起こしてしまうのではという不安感に日常的に襲われるなどして、心にゆとりがなくなってしまう。患者さんの前で必要以上に緊張したり、例えば点滴の注射がうまくできなくて、患者さんから叱責の言葉を受けたりして、どんどん悪循環になってしまう看護師もいます。私たちの仲間の中にも、うつ病とは言わないまでも、精神的に苦しんでいる人たちが増えていることを忘れてはいけません。こういった背景から、最近では病院内部に臨床心理士など専門職を置いて、看護師のメンタルヘルスケアの環境を整える動きも増えています。

課題は研修内容の評価、看護師の数の多さをフル活用


協会・機関誌『看護ちば』
研修事業を始めてから日が浅いという事情もあり、これまで参加した看護師が学んだ内容をどう現場で生かせたか、また、橋渡しの役割として何ができたかなどについては、まだ詳しく把握できておりません。このため、3年ぐらいを目途に、研修の内容や結果を詳しく評価しなければいけないと考えています。今年度がちょうど3年目になりますので、評価をした上で、看護職が自殺予防でより大きな役割を担うにはどうするべきかを探っていきたいです。

私どもとしては、仲間である看護師の数の多さを最大限に活用し、まだまだ人材育成の余地はありますので、ゲートキーパーとしての役割が担える看護師を増やしていかなければなりません。そして、それぞれがゲートキーパーの視点を持ちながら、できる役割を現場で果たすことに尽きます。2011年度末現在で当協会には約2万3000人の会員がいて、県内で働く看護師の約半数が入会している計算になります。協会事業として今後も研修会を開催すれば、続けて参加してくれる看護師もいるでしょう。たとえ参加しなくても、協会が自殺予防のアナウンスや情報発信を続ければ、私どもの思いは広く伝わり、現場での実践につながっていくと信じています。

また、うつ病に限らず看護師は、病院に来る患者さんを看護する仕事に最も長い時間を割いています。一方で今後は、地域の人たちのより身近な相談役となるため、病院の外に向けての情報発信や関わり方が重要になるでしょう。例えば最近では、病院の公開講座を地域で開いたり、一般の方に病院を開放したりして、病気の予防に力を入れる医療機関も少しずつ増えています。当看護協会の12地区部会では「まちの保健室」という相談事業を展開しています。各地区で月に1回、デパートなどの一角を借りて実施しているのですが、今年度からはゲートキーパーを含め、看護全般に関する相談をより気軽に受けていただけるよう、一般の方に向けてのアナウンスに注力したいと考えています。

山木 まさ 氏
【略歴】

1971年3月 三重県立高等看護学院保健助産学科卒業
1971年4月 日本赤十字社産院に就職
1972年7月 千葉県に就職(船橋・市川保健所等勤務)
2006年4月 同健康福祉部医療整備課副技監兼医療技術者育成推進室長
2007年4月 同健康づくり支援課副技監兼がん・生活習慣病対策室長
2009年3月 千葉県を定年退職
2009年6月 社団法人千葉県看護協会 専務理事就任 現在に至る
【役職】
公益社団法人千葉県看護協会 専務理事
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