今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第111回 2012/07

日本のヘルスケア産業振興に対する経済産業省の取り組み

経済産業省では、医療現場を支える医療周辺サービスの市場の拡大をはじめとして、人々が求める医療サービスを提供することを目的に、さまざまな取り組みを展開しています。日本のヘルスケア産業の現状や実例、海外への医療圏拡大などについて、経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課長の藤本康二さんにお話を伺いました。

経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長
藤本 康二 氏

ヘルスケア産業課
Medical Excellence JAPAN

国と医療機関、民間企業が連携したサービスの提供

少子高齢化社会が進む今の日本では、疾病構造の変化とそれに伴う医療・介護に対する公費支出の増大、予防医学的な観点も含めたヘルスケアの推進など、さまざまな課題が混在していることが現状です。こうした背景をふまえながら、2011年7月、経済産業省にヘルスケア産業課が設立されました。

日本の医療分野では、公的保険制度をベースに医療サービスが提供されることが大前提となっています。治療を受けている間は公的保険制度内でまかなわれますが、それ以外の部分、つまり治療を受ける前と受けた後の生活におけるサービスが求められてともとらえることができます。実際、この部分には潜在的な需要があるわけですが、十分な供給がなされていません。その理由の一つに診療報酬があります。国や自治体、医療機関がすべての需要に応えようとすると、診療報酬適用外のサービスも含まれるからです。それを改善するには、医療機関・民間企業が一体となったアイデアや行動力が欠かせません。

日本の公的保険制度は非常に重要なものでありますが、ここにすべてを集約しようとすると、例えば病気や身体の不具合と付き合いながら生活することへの支援など、人々が望むサービスを提供できない可能性もあります。また、すべてを公的保険でまかなうことも適当でないかもしれません。個々人の生活の嗜好やニーズに個別に対応するような需要に対しても柔軟にサービスを供給できるようにすることで、人々の健康の保持とヘルスケア産業の発展にもつながっていくはずです。 ヘルスケア産業課では、こうした医療と生活が交わる部分をフォローしていくために、医療機関が持つ技術力をベースにしながら、国と医療・介護機関、民間企業が連携し、地域のコンソーシアムをつくり上げて人々が求めるサービスを提供していくなど、さまざまな取り組みを推進しています。

サービスを利用する側にとっても大きな効果


すでに進んでいる事例があります。沖縄県ではある医療法人グループが主体となって従来の医療・介護の範囲に留まらないサービスの提供を開始しました。その一つが、このグループの医療施設の元患者や利用者から成る会員組織に対する生活支援サービスです。会員の方が地元商店街で買い物をする際、医療法人グループに所属する理学療法士や作業療法士が会員の方に付き添って、一緒に買い物をしながらリハビリテーションや健康指導を行うのです。当初は会員から会費を募ることも考えたのですが、集客につながることもあり、地元商店街が医療法人グループに対して委託料を支払う形も将来的には考えられます。また、このサービスを利用する会員にとっては、自己流ではない健康管理の方法を生活の中に取り入られるようになったことで、健康の維持・増進につながると非常に好評です。

この事例では地元のスイミングスクールと連携した取り組みも行っています。高齢者の方がなるべく杖を使わずに自立歩行ができるよう、理学療法士や作業療法士がメニューを組んでスイミングスクールで水中運動指導を行うのです。この取り組みも効果が高く、実際にそれまで杖を使っていた方がご自分の脚で歩けるようになったということがありました。

また、ほかの事例として民間企業が主体となって行われた取り組みもあります。大手の病院食の企業が地域の病院と連携し、在宅患者に向けて医師が発行する食事箋に基づいた糖尿病食のお弁当の配食と管理栄養士による栄養指導を実施しました。その結果、入院する予定があった方が在宅治療で済むなど、効果が認められました。学会でも評価を得ており、ほかの地域でもこうした取り組みを始めようとするところが出ています。さらにこの例で言えば、「もしも症状が進んでも、あのお弁当を配食している病院なら安心して診てもらえる」といったように、病院の付加価値も生まれていくはずです。

経済産業省ではこうした取り組みに対して支援を行っていましたが、今ではそれぞれがモデルケースとして成り立っており、自立的に運営を行えるまでになっています。今後もこうしたモデルケースをたくさん生み出し、ヘルスケア産業の振興につなげていきたいと思います。

海外で日本式医療を展開し、あらゆる問題の解決を目指す

これまで国内の事例についてご紹介しましたが、海外にも目を向けています。その代表例が医療国際化です。海外の患者に対しても日本の医療を提供することで、医療技術の革新に必要な症例数を確保するとともに、日本の医療関連サービスや機器の利用拡大を推進することが大きな目的です。

実際に、国際的に日本の医療には需要があり、すでに世界各国で日本式医療を展開した事例がいくつも生まれています。例えば、中国の上海にある上海交通大学附属第六人民医院(以下、第六人民医院)と東京大学医学部附属病院(以下、東大病院)が連携したケースがあります。第六人民医院は中国国内で糖尿病治療の権威として知られる病院なのですが、ここに東大病院が糖尿病の重症患者の外来を実証的に開きました。費用は現地の通常の外来の受診費用とほぼ変わらない設定とし、半年間にわたって1カ月に1週間、東大病院の医師による診察と管理栄養士による栄養指導を行ったり、日常生活の中で日本のメーカー製品の活動量計や血糖測定値を患者に使用してもらったりと、日本式の医療を展開したのです。指導をメインとした診察、つまるところソフト面での医療サービスは中国ではあまり見られないこともあり、効果も高かったことから、こうした日本式医療が患者から高い評価が得られました。その結果、「日本の医療を受けたい」と中国から来日する患者が増え、東大病院では国際診療部開設に向けて始動しています。また、大阪大学医学部附属病院でも同様の取り組みが始まっています。

日本の医療周辺産業にも多大なチャンス

海外で日本式医療を展開することは、日本の医療技術のみならず、医療周辺の産業にも注目を集める好機となります。以前、ある国から日本の医療チームが着用していた白衣や制服が欲しいという声が上がったケースがありました。日本製のものは機能的で汚れにくいといった利点があるのです。海外での医療展開によって、技術そのもの以外に現場で働くスタッフにとってのメリットにつながるものを、間近で知ってもらう機会になったわけです。ほかにもロシアから、病室のベッドサイドにあるカーテンが欲しいという要望が寄せられました。ロシアの病院では多床室であっても日本のようなカーテンがないそうなのです。

このように、日本的な感覚だと当然のようなことであっても、海外の医療現場からすると優れているものが日本の医療周辺産業にはまだまだたくさんあると考えられます。

さらなる発展の可能性を秘めるMEJ


日本のヘルスケア産業の海外でのさらなる展開を考えると、医療サービスを事業として考えられる日本の医療機関が増えなければなりません。しかし、これまで公的保険制度という枠内のみでやってきたために、医療のグローバル展開を事業として成功させるための事業化力を持っているケースは多くはないのではないでしょうか。 そこで経済産業省では、Medical Excellence JAPANプロジェクト(以下、MEJ)を実施しています。MEJでは日本での検査や治療を希望する海外の患者のコーディネートを行っています。言葉の問題はもちろんのこと、支払いや価格設定などの課題にもサポートを行っています。 MEJは海外患者の日本国内への受け入れからスタートしていますが、近い将来海外に日本式医療を行う拠点の設置や運営の支援も開始します。

藤本 康二 氏
【略歴】

1987年 東京工業大学工学部機械工学科卒業
1993年 ハーバード大学ケネディスクール(Master of Public Policy)修了
2003年 商務情報政策局医療福祉機器産業室長
2005年 JETRO ドイツ・デュッセルドルフセンター(軽機械センター所長)
2008年 商務情報政策局サービス産業課長
2011年 商務情報政策局ヘルスケア産業課長(現職)
【役職】
経済産業省 商務情報政策局 ヘルスケア産業課 課長
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