今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第113回 2012/09

JTASを用いた院内トリアージナースの育成

フィジカルアセスメント(触診や聴診)を活かして病気やケガの緊急度や重症度を判定し、治療などの優先順位を決める“トリアージ”。DMATのような、災害時に現地に派遣する医療チームだけでなく、救急外来や院内でも取り入れられています。トリアージを行うのは医師だけではありません。知識を持った看護師がトリアージを行うトリアージナースに注目が集まっています。当サイトのアンケート調査によると(結果発表はこちら)、トリアージナースについて「賛成」と答えた方は76.7%でした。しかし、反対意見の中では「医師以外の人間に、命に関わる判断をされるのは不安」との声が半数以上で、医療を受ける側の心配や不安が顕在化しています。救急看護およびトリアージナースについて、日本救急看護学会理事の渡邊淑子さんにお話を伺いました。

一般社団法人 日本救急看護学会 理事・評議員・トリアージ委員会担当理事
東京医科大学病院 救命救急センター 看護師長
渡邊 淑子 氏

一般社団法人 日本救急看護学会
東京医科大学病院 救命救急センター

災害トリアージと院内トリアージの違い

東日本大震災などもあり、トリアージという言葉が一般的に認知されてきましたが、トリアージ=災害時医療とイメージされる方も少なくないと思います。数年前までは、救急医療の看護師であってもトリアージの概念を知らない傾向にありました。でも実際には、救急外来を持つ病院をはじめ、近年多くの医療機関でトリアージナースが活躍してきています。

一言にトリアージと言っても、院内におけるトリアージは、緊急度・重症度の高い患者さんを優先して治療に当たり、比較的軽症の方には順番をお待ちいただいたり、経過を見ながら応対したりするのですが、災害時には大きく異なります。多数の負傷者がいる場合は、助けられる命を優先的に助けてから重症者の治療にあたります。人を含めた医療資源が限られた災害医療の現場では、確実に助かる命から多く救っていくことが求められるのですね。そういう意味で、トリアージという文言が誤認されないよう、トリアージといえば災害時や緊急時を主に指し、救急外来や院内でのトリアージに関しては、「緊急度判定」といった言葉を用いたりしています。

平成24年度より、院内トリアージ実施料で診療報酬が加算

診療報酬の改定により、平成24年度より「院内トリアージ実施料」が新設されました。加算の算定ポイントとなる施設基準は大きく3つあり、①専任の医師または救急領域の経験年数3年以上の看護師を配置していること、②院内でトリアージ基準を定期的に見直していること、③患者に対し院内トリアージの実施について説明を行い、院内の目立つところへ掲示等により周知を行っていることが挙げられます。 もちろんこれまでにも、医師のほかに看護師がトリアージを行っていた病院はありますが、専任で配置していたり、通常の看護業務と兼務で行っていたりと、病院によって実態はさまざまでした。

我々としては、トリアージに専念できる看護師を増やしたいという思いもありましたし、今回の加算認定により基準が明確になりましたので、院内トリアージの体制づくりや人員配置などが変わってくると思います。 また、年間450万人以上もの人が救急搬送されていますし、医療機関は全国におそらく何千とありますが、救急看護認定看護師は現在739人(2012年8月現在)しかいないのも問題です。圧倒的な数不足を補うには、救急看護認定看護師だけでなく、救急医療の現場で活躍する看護師達が緊急度判定をできる仕組みづくりが必要です。
そのため、日本救急看護学会は日本救急医学会、日本臨床救急医学会、日本小児救急医学会とともにガイドラインとなる緊急度判定支援システムをつくり、トリアージナースの育成に注力しています。

緊急度判定支援システム「JTAS」による緊急度判定

当学会をはじめとする4学会が協力して開発した緊急度判定支援システム「JTAS」は、カナダで10年以上の実績を持つ重篤度判定システム「CTAS(Canadian Triage and Acuity Scale)」を基にしています。熱中症など日本で多い症状を加えて修正したものが「JTAS(Japan Triage and Acuity Scale)」で、右の写真にあるiPad®を用いて教育を行っています。患者さんの年齢を15歳未満/以上で選択したのち、「呼吸器」「心血管」「消化器」など17カテゴリー、また、「めまい」「動悸」など165の症状から、5段階の緊急度判定ができるようになっています。

例えば心原性の胸痛の場合、重度呼吸障害やショック症状、高度な意識障害が見られる場合はコードブルーのレベルⅠで緊急度が最も高く蘇生レベルと判定され、至急の診察や治療が必要となります。中等度の意識障害や呼吸障害、発熱、免疫不全などは赤色のレベルⅡで緊急レベルと判定されます。レベルカラーは、蘇生レベルが青色、緊急が赤色、準緊急が黄色、低緊急が緑色、非緊急は白色に定義されています。


  • iPad®用の緊急度判定支援システム「JTAS」

  • カテゴリー、症状別にタッチパネルで操作していく。

  • レベルカラーにより、緊急度を視覚的にわかりやすく判定できる。

各地域での講習会で、多くのトリアージナースを輩出していく


右が、2012年6月に発行された「緊急度判定支援システムJTAS2012ガイドブック」(へるす出版)
当学会では、2011年5月より、他学会と協力してこのJTASを用いたトリアージナース育成講習会を実施しています。1~2日間のコースを設定しており、北海道から九州までの主要都市で、JTASの座学、シナリオシミュレーションなどを行っています。講習会の対象は、学会で設定している「救急看護クリニカルラダー」のうち、ステップⅢにあたるスタンダードレベル(救急経験3~5年)の看護師であり、現在、救急外来で看護業務にあたっている方です。院内トリアージにおいてはフィジカルアセスメントが重要になりますので、当学会におけるフィジカルアセスメントセミナーや災害看護初期対応セミナーを受講されていること、または院内などで同程度の研修を受けていることも条件となります。

先程もお話ししましたように、緊急度を判定できるナースがまだまだ少ないので、当学会と日本臨床救急医学会で力を合わせてトリアージナース教育を行っていますが、当学会では年間300名程度の受講者を目指しています。現状の課題としましては、インストラクターとなる看護師の数が足りていないこと、大都市でしか開催できていないことです。地域による医療格差を出さないためには、例えば鹿児島の離島の看護師も鹿児島市に行けば受けられるなど、各都道府県で開催できることが理想です。

また、インストラクターを各地域に派遣するのではなく、地域に根付いたインストラクターが講習会を開催できるようになると良いと考えています。そのためには、インストラクターを養成し、全国の日本救急医学会地方会や日本看護協会などと連携・協働しながら育成していく必要があると感じています。そしてゆくゆくは講習会の実施回数および参加できる人数を増やしていきたいですね。

それから、フィジカルアセスメントのスキルも看護師によって差がありますので、今後はWebによるeラーニングなどでフィジカルアセスメントのテストを実施し、合格した看護師が講習会に参加するというような事前学習の仕組みづくりも検討しています。また、講習を受けた看護師には修了証をお渡ししていますが、現在、認定制度化に向けて取り組んでいます。2日コースを修了した看護師が規定の課題を提出し、認められれば認定となる予定です。課題提出には各医療機関のメディカルアドバイザーのフィードバックを必ず入れることにしていますので、学会だけでなく各病院とともにトリアージナースを育てていきたいと考えています。

院内トリアージ=チーム医療として、チームづくりに力を入れる

緊急度を判定する看護師には、大きな不安やストレスも伴います。独歩で来院された方の中にも緊急性が高く重篤な症状の患者さんが潜んでいることもありますし、診察を待つ間に急変されるケースも想定できます。緊急度の高い患者さんは15分ごと、準緊急の患者さんは30分ごとなど観察する間隔も決まっています。だからこそ、院内トリアージはチーム医療としてのチームづくりが大切になるのですね。オーバートリアージやアンダートリアージを起こさないためにも、看護師が判断に迷う際には、医師への相談や医師からの一言が判断材料や安心につながりますし、待っていただいている患者さんに対して、医療事務の方々も目を配ることで容体の変化などに気付きやすくなります。チーム医療で患者さんの安全を確保することが大事なのです。

また、軽症であるからといっていつまでも後回しにはできませんので、例えば1時間ほどお待たせしてしまっている際には「大丈夫ですか?お待たせしております」と声をかけたり、待ち時間に対する説明をしたり、診察の順番を考慮したりなど、幅広い待合室管理の能力も問われるのです。トリアージを行う看護師だけに大きな負担を強いないチーム医療も培っていければと思います。

トリアージナースの質を保証し、診療報酬の継続を目指す

緊急度の高い患者さんを早急に対応し、重症化や悪化を防止するために、トリアージは大切な業務です。患者さんの精神的なケアも含め、患者さんから信頼してもらえるようなトリアージナースの質を保証する。それができる看護師を育成していくのが、当学会の使命であると思っています。 そして、診療報酬として加算されるようになった今、大切なのは2年後の診療報酬改定のときに継続されることです。そのためにも、各医療機関がトリアージに関するデータを蓄積しておくこと、そして各医療機関の皆様にはルールを守ってしっかり診療報酬を申請していただきたいと思います。

渡邊 淑子 氏
【略歴】

1978年 東京都立広尾看護専門学校卒業
1978年 日本心臓血圧研究振興会附属 榊原記念病院ICU勤務
1990年 杏林大学医学部付属病院 高度救命救急センター勤務
1994年 同病院 高度救命救急センター 看護師長
2006年 杏林大学大学院 国際医療協力研究科修了
2011年 東京医科大学病院 救命救急センター 看護師長
2009年 一般社団法人日本救急看護学会 理事・評議員
【役職】
東京医科大学病院 救命救急センター 看護師長
一般社団法人 日本救急看護学会 理事・評議員・トリアージ委員会担当理事
日本臨床救急医学会移植医療における救急医療のあり方に関する委員
厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会委員 国士舘大学非常勤講師
【共著】
『救急実践に活きるアセスメント(救急看護QUESTION BOX)』中山書店、2006年
『院内トリアージ―緊急度・重症度を見抜け!』日本看護協会出版会、2011年
『熱傷マニュアル』中外医学社、2007
『臓器提供時の家族対応のあり方』へるす出版、2011年 他
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