今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第114回 2012/10

患者さんのこころとからだを両面からサポートする在宅緩和ケアの今

2007年に「がん対策基本法」が制定されてから5年。がん診療連携拠点病院では緩和ケアチームが設置されたり、専門医や認定看護師の育成が推進されたりと、緩和ケアに対する取り組みの強化が進んでいます。近年では「在宅ホスピス」といった言葉も聞かれるようになるなど、患者さんやそのご家族も緩和ケアに対する興味や意識はますます高まっています。今回は在宅緩和ケアに力を入れる越川病院訪問看護ステーションの看護師として活躍する仲田朝子さん、足助由梨さんにお話しを伺いました。

医療法人社団杏順会 越川病院訪問看護ステーション
管理者・看護師
看護師
仲田 朝子(右) 足助 由梨(左) 氏

越川病院訪問看護ステーション
越川病院

緩和ケアの現状とは

仲田 緩和ケアは、患者さんが感じられている苦痛を和らげていくことを主としています。緩和ケアにおける苦痛とは、疾病や治療に伴う痛みといった身体的な面はもちろんですが、つらさ、恐怖など、精神的な面も含まれています。

足助 手術や化学療法などの積極的な治療方法がなくなった時点から始められるというイメージがあるかもしれませんが、がん専門病院などでは、早期であっても治療段階から並行して疼痛コントロールといったケアが行われています。病状が進むと緩和ケアの占める割合が増し、最終的には緩和ケアがメインになります。しかし実際には、すべての病院でこうしたケアが行われているわけではないのです。例えばがんが発見されてからできうる限りの治療を続けてきたものの効果が見られなかった場合など、その時点から緩和ケアに移行するといったケースもあります。

仲田 緩和ケアへの切り替えは、医師による判断と患者さんご本人が希望する場合とがありますが、前者のほうが多いですね。「少しでも治癒の可能性があるのなら、まだ積極的な治療を続けていきたい」という患者さんも多くいらっしゃいますから。 足助 「病気を抱えている」というだけでも患者さんとそのご家族の心の負担は大きいと思うのです。それなのに、「治る」と思って痛みや苦痛を乗り越え、頑張ってずっと治療を続けてきたのに、「もう緩和するしかない」となったときの患者さんとご家族のショックは、かなりのものではないでしょうか。

病院やホスピスにはない在宅緩和ケアの強み


仲田 越川病院訪問看護ステーションの母体である越川病院では、「緩和医療の積極的提供」を理念のひとつとしています。訪問看護ステーションのほか、訪問診療を専門とする越川ホームケアクリニック、居宅介護支援を行う西荻ケアプランセンターも同一グループにあります。越川病院にはがんの緩和ケアがメインとなった患者さんが他病院から転院される方が多くいらっしゃるのですが、外来と在宅とでフォローしたり、入院された患者さんなら退院後は在宅で、といったように、4者が密に連携しながらケアにあたります。病院に訪問看護ステーションが併設されている良さはいくつかあるのですが、訪問看護ステーションの看護師が入院中から患者さんに関われることはそのひとつですね。入院中のケアは病院の看護師があたりますが、私たちも病室を訪問し、お話しさせていただくことがあるのです。

足助 そうすることで入院されているときから患者さんと「顔見知り」になれます。訪問看護はその方のお宅にうかがうわけですが、ご自宅というのは、病院とは違ってその方のプライベートな空間。いわば、こちらが「おじゃまする」かたちになりますよね。在宅に切り替わってから初めてお会いするのでなく、事前にお会いできることでコミュニケーションがスムーズになります。

仲田 緩和ケアを受ける際、入院、ホスピス、外来への通院や往診を受けながら在宅でという3つの選択肢がありますが、入院は在院日数に限りがありますし、ホスピスですと順番待ちをしなくてはならないこともあります。在宅緩和ケアにはそうしたストレスがありません。なによりも、患者さんが慣れ親しんだご自宅で過ごせることで、ご本人の心にゆとりが生まれます。聴こえる音、見える景色など、そうした一つひとつがご本人の安堵にもつながると思います。

足助 ご自宅は患者さんにとってかけがえのない「居場所」であることもそうなのですが、ご家族と過ごすことで、その方自身の「役割」も尊重できるのではないかと感じます。ご自宅が療養の場になるとはいえ、例えばそのお宅のご主人であれば、「父」という家族内の役割に変わりはありませんから。

仲田 本当にそうですね。そういえば患者さんの印象が、入院中にお会いしたときとは違うことがあります。たとえすでに終末期を迎えられていて病状は変わらなくても、とてもいきいきとしているのです。でも、それがその方の本来のお姿。最期までその人らしく生きることを支えるのも、在宅緩和ケアの役割だと実感しています。

在宅でのケアにあたる看護師に必要なもの

仲田 患者さんのご自宅へは、看護師が一人でうかがうことがほとんどですね。頻度は患者さんの症状にもよりますが、多い方ですと週に3、4回ほど訪問することがあります。医師の診察は外来や往診で行い、それ以外の部分を訪問看護でフォローしています。ケアの内容は入院とほぼ変わりはありません。

足助 在宅でのケアの一番のメリットは、患者さんの意思を尊重できること。例えば入院ですと、病院の管理のもとではできないという判断になるようなことも、ご本人が望むことは最大限できるよう、私たちがサポートしていきます。

仲田 在宅緩和ケアの主役は、患者さんとそのご家族です。QOLを向上させるには、意思を尊重しながらご納得いただけるケアをすることが欠かせないのです。その大元となるのが看護師の豊かな経験と確かなスキル。それがあるからこそ、患者さんやご家族の思いをかなえることができたり、その場に応じた適切な状況判断ができます。

足助 明らかに入院が必要なケースをのぞき、「どうしても最期までご自宅で」という場合は、医師と相談しながら可能な限りその思いを尊重できるようにするなど、医師とのコミュニケーションも重要なポイントですね。

仲田 もうひとつ大切になってくるのは、患者さんやご家族の思いを「先取り」することでしょうか。これもスキルがあってこそできることなのですが、病状が進んでいく過程をあらかじめ把握できていれば、次にどのような症状が起こりうるのかがわかるのです。例えばそれまでご自身で入浴できていても少しつらそうになってきたら、ご本人やご家族に「私たちもいつでもお手伝いできますからね」と、お声がけできます。「まだ大丈夫だから」と言われることもあるのですが、そうした「いつでも見守っていますよ」というひと声や思いが信頼関係へとつながりますし、ふだんのケアも受け入れてもらいやすくなると感じますね。

ご家族と共同することでオンリーワンのケアを実現

足助 私たちが訪問するのは週に数回、ごく限られた時間です。当然、それ以外のときは私たちが行う処置と同じことをご家族の方がなさっています。そういった意味では、看護師とご家族という垣根はなく、「お互いに力を合わせてケアをしている」という感覚がありますね。

仲田 入院ですと、「こうしましょう」と病院側が言ったら「それでお願いします」といったように、どうしても病院の言うことが絶対的なものになってしまいがちです。でも、在宅でのケアですと、患者さんやご家族から「こうしたい」という積極的な意見が出てくるのです。その意見を尊重しながらともに考え、より良い方法を見つけることは、結果的には患者さんにとって、最適で、オンリーワンのケアとなります。

足助 私たちがご自宅にうかがうと、ご家族が本当に愛情を込めてケアをしていることがひしひしと伝わってくるのです。患者さんのことを最も理解しているのは、ご家族。終末期であっても「その人らしさ」を守れるのは、ご家族の力によるところが大きいですね。

仲田 ご家族にとって在宅でのケアは不安もあるでしょうし、ご苦労が多いと思うのです。でも、残りわずかとなった日々を患者さんと過ごすことで、家族のきずなを再確認できる機会にもなっているように感じます。例えばそれまでは疎遠気味だったご家族であっても、そこで結束することがあるのです。そうしたご家族の姿を見られることは、患者さんにとって励みになるのではないでしょうか。

ご家族が自宅で看取るということ


足助 病院であってもご自宅であっても、大切な人が亡くなるというのはご家族にとって悲しいことに変わりありません。でも、ご自宅ですと、患者さんご本人が望んでいた「最期まで家で過ごしたい」という意志を守ってあげられたという安堵感は、ご家族の心にずっと残るものだと思います。

仲田 そうですね。最期の願いをかなえてあげられたのは、ご家族の力あってこそですからね。ご家族のその後の支えにもなるのではないでしょうか。患者さんが亡くなられると、私たち看護師もうかがって清拭やエンゼルメイクをします。病院の場合、すべて看護師がするのですが、ご自宅だとご家族も手伝ってくださったり、洋服を選んで着替えさせてあげたりと、臨終後も「その方のためにできること」を、自然となさるのです。

足助 ご家族がみんなで過ごすそうしたひとときは、悲しみを分かち合い、受け止める時間にもなっていると感じますね。

仲田 病気だけでなく、患者さんの生き方やご家族の思いも深く見つめていくことが在宅緩和ケアなのだと思います。先ほども申しましたように、主役は患者さんとそのご家族。看護師がリードするというよりは、私たちが持つ専門知識をもとにアドバイスしながら、支えたり、伴走していくものだと感じています。在宅だからこそできることはまだまだたくさんあるはず。これからも患者さんとご家族に寄り添いながら私たちにできることを見つけ、より良いケアを実現していきたいですね。

仲田 朝子 氏
【略歴】

1980年 帝京大学医学部附属高等看護学校卒業
1980年 帝京大学医学部附属病院勤務
1983年 博慈会記念病院 看護主任、同高等看護学校 教員
1988年 東京都看護教員養成講座終了
1989年 公立小浜病院勤務
1991年 至誠会高等看護学校 教員
1992年 博慈会記念病院分院 看護師長
1997年 田無病院 看護師長を経て看護部長
2003年 救世軍ブース記念病院 看護師長
2004年 越川病院 看護主任
2005年 越川病院訪問看護ステーション 管理者

足助 由梨 氏
【略歴】

2000年 愛知県立看護大学卒業
2000年 静岡県立静岡がんセンター勤務(在職中の1年間、虎の門病院にて研修)
2006年 越川病院訪問看護ステーション 実習指導
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