今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第115回 2012/11

超高齢社会を見据えた「特定看護師」の活躍

特定の医行為を医師の指示の下に行うことを認められた「特定看護師」。法制化について検討が重ねられています。当サイトのアンケート調査によると、特定看護師を「知らない」と回答した方は約6割。試行事業の最中のため、あまり知られていないのは当然といえるでしょう。しかし超高齢社会に身を置く私たちは、さまざまある医療・福祉問題の解決の糸口のひとつとなり得る特定看護師について、積極的に考えなければいけないかもしれません。特定看護師の活動を支援する医療法人恵愛会中村病院の看護部長藤川桂子さんと、特定看護師として現在活躍している村井恒之氏にお話を伺いました。

医療法人恵愛会 中村病院
看護部長・認定看護管理者
特定看護師
(右)藤川 桂子 氏 (左)村井 恒之 氏

医療法人恵愛会 中村病院

大分県で力を入れる「特定看護師」の養成

日本は今、超高齢化による在宅医療の要請、医療の高度化・複雑化に伴うチーム医療の推進、医師の負担軽減などさまざまな医療・福祉問題に取り組んでいます。その打開策のひとつとして、厚生労働省などで検討されているのが「特定看護師」の創設です。現在は医師にしか認められていない、床ずれなどによる壊死した組織の切除(デブリードマン)や脱水の判断と補正(点滴)などを「特定行為」と位置づけ、それらを医師の包括的指示の下に行うことを認められた看護師のことです。

大分県立看護科学大学では2008年4月より、全国に先駆けて特定看護師の養成に取り組んでおり、大学院修士課程においてプライマリ・ケア領域の「ナースプラクティショナー(NP)※1養成コース(以下NP養成コース)」を開設しています。養成コースの設置の背景には、大分県の高齢化や無医地区などが深刻化していることが挙げられます。大分県の「高齢化率及び高齢人口の推移」によると、2020年の高齢化率は31.9%(全国平均27.8%)と予測されているほか、2009年度の無医地区数が40地区※2にのぼり、全国第4位となっています。そのため大分県では、地域医療の充実や在宅療養の支援における体制づくりが急務となっていました。なかでも特定看護師は、特定行為を行える専門的な看護師であることから、高齢者をはじめとする患者さんに、より充実した医療・ケアを提供できるのではないかと考えました。

※1ナースプラクティショナー(NP):アメリカでは40年以上前から制度化されており、臨床現場では、NPが医師から独立して自ら判断で医療的処置(診断および治療)を提供している。日本では未だ制度化されていないため、NP、診療看護師、認証看護師、特定看護師などさまざまな名称が使われていますが、本稿では「特定看護師(仮称)」で統一しています。
※2:厚生労働省「平成21年度無医地区等調査・無歯科地区等調査の概況について」

日本は今、超高齢化による在宅医療の要請、医療の高度化・複雑化に伴うチーム医療の推進、医師の負担軽減などさまざまな医療・福祉問題に取り組んでいます。その打開策のひとつとして、厚生労働省などで検討されているのが「特定看護師」の創設です。現在は医師にしか認められていない、床ずれなどによる壊死した組織の切除(デブリードマン)や脱水の判断と補正(点滴)などを「特定行為」と位置づけ、それらを医師の包括的指示の下に行うことを認められた看護師のことです。 大分県立看護科学大学では2008年4月より、全国に先駆けて特定看護


私が看護部長を務める中村病院は、地域密着型の民間病院として別府市の皆様の健康を見守ってまいりました。併設の訪問看護は特に力を入れて取り組んでいる部門のひとつで、主治医との連携をとりながら、安心の療養生活を送っていただくサポートを行っています。その在宅部門で現在活躍しているのが、NP養成コースを修了した特定看護師、村井恒之さんです。村井さんはもともと当院の透析室で勤務をしていましたが、大分県看護協会が主催する「訪問看護従事者研修」に参加するなど、かねてから地域で生活(暮らし)する患者さんへの指導に興味を持っていました。「高齢者の多くが望む在宅療養をもっと充実させたい」「看護師がより専門性を身につければ、より包括的で質の高い医療・ケア(看護)を提供できるのではないか」といった志からNP養成コースに入学しました。

修了後は、NP養成課程の実習施設での活動を勧めましたが、地域に開かれた民間施設である当院での採用を強く希望されたので、私も受け入れ準備を進めていきました。 前例のない先駆的な動きだったこともあり、私も当初は「医師の協力は得られるのか」「職員が理解を示し、受け入れてくれるのか」などといろいろと思案しました。院長や指導にあたる医師とは何度も話し合いを重ねましたが、最終的には支援してくれるとの回答を得ることができました。そして、組織上の位置づけを医局などでなく看護部長室付にして、3つある病棟をローテーションで回るなど組織横断的な動きをとることにしました。これは、他部門との調整をしやすく、さまざまな実績を積めるようにするためです。

一方、職員へは全体朝礼で特定看護師の役割や活動を紹介したり、師長や主任が集まる看護管理者会議での説明をするなど、理解・協力を得ることに尽力しました。それでも最初の3~4カ月はスタッフから「何をしている人なのかわからない」と言われることもしばしばありましたが、村井さんの努力もあって特定看護師としての活動が次第に認められていき、少しずつ活動しやすい環境が整っていきました。

特定看護師の参加で、チーム医療がより強固に

村井さんの特定看護師としての活動は、2011年3月から始まりました。最初の1年間は研修ということで、在宅部門を主体に訪問看護師と行動を共にするほか、医師の往診への同行や入院患者の医療処置の見学、外来診療の見学・予診、皮膚科医から褥瘡デブリードマンの指導を受けるなど、着実に実績を積み上げていきました。また安全管理面においても毎月1回の安全管理委員会を開催し、活動報告、インシデント・アクシデントレポート、今後の業務内容などについて慎重に確認を進めました。現在は院内外を問わず活動をしています。

医行為に関しては、医師の包括的指示の下、在宅療養の患者さんの褥瘡デブリードマン、動脈血の採血、カテーテル交換などを行っています。褥瘡に関しては皮膚科医とともに看護師・栄養士・理学療法士などと連携をとり、褥瘡対策委員会に参加するなどチーム内の調整役として力を発揮しています。 村井さんがチームに加わるようになってから、チーム医療が充実してきたと感じています。それは、村井さんが医学的な視点でアセスメントを実施でき、医師などに的確な情報を伝えられること、医師やコメディカルスタッフからの要望にしっかり対応できることなどが大きく影響していると思います。

また、通訳というわけではないですが、医師からの伝達を村井さんがほかの看護師に伝えることで、理解度が高まっている様子もあります。村井さんの姿を見た看護師は「私たちももっとレベルアップしなければ!」と良い刺激を受け取っているようで、少しずつ看護全体のレベルも上がりつつあると、看護管理者としては喜んでいます。

在宅部門におけるチーム医療


特定看護師として活躍する村井さん
活動事例:褥瘡患者Aさん 担当医は褥瘡が治癒してからの退院を勧めましたが、ご本人と奥様の強い希望があり在宅療養に変更したAさん。ご帰宅にあたり、私たちは医師、社会福祉士、ケアマネジャー、ヘルパーなどさまざまな職種でチームを組んで、問題点の洗い出しや対応について会議しました。その後在宅療養に介入し、アセスメントとアプローチを行っていきました。また、各職種の役割や動きを調整するのも、特定看護師である私の役目でもありました。 「家できちんと創傷の管理をします」とおっしゃっていたAさんですが、ご自宅ではなかなか思うように処置できないこともあります。褥瘡部の範囲が大きくなっていましたが、食事療法をとり入れたり、車いすに座る時間を少なくすることで、35日目に完治しました。褥瘡学会の指標では、同等の大きさの褥瘡部であれば病院療養の場合1~3ヵ月で治る確率が63.9%となっています。各職種がうまく連携して専門的な治療を施せば、在宅でも病院療養と同様の結果が得られる場合もあることが証明されました。チーム医療の強化に期待が高まる一例となりました。

「特定看護師=医行為」ではない

村井さんの活動は在宅部門が主体になっているため、ほかの養成コース修了生に比べると実施している医行為自体は多くはありません。クリティカルな側面から言えば経験が足りないかもしれません。しかし、私は医行為をするのが特定看護師とは思っていません。私たち医療従事者の使命が「患者さんの幸せ」だとすると、単に医師の負担を軽減することのみが特定看護師の役割ではないと思っています。医学的な知識を持った専門性の高い看護師だからこそ提供できる、医療・ケア(看護)を実現する人材が特定看護師だと思っています。 本来、医学と看護学は根本的に視点が異なります。そのため看護師はどうしても医学的な視点が弱くなるのは仕方なく、だからといってそこに甘んじていては医療・看護の質はいつまでたっても向上しません。

ところが特定看護師のように医学的判断ができる知識や技術を修得した看護師であれば、医師やコメディカルとの共通言語を用いたレベルの高いコミュニケーションが図れ、かつ看護的な視点での医行為やケアが行えます。これは患者さんに一番身近な存在である看護師だからこそできることです。患者さんの全体像を把握できる看護師が治療にあたれることは、ひいては患者さんの幸せにつながるのではないでしょうか。

高齢者人口が約3,500万人になると推計される「2025年問題」が話題になっています。在宅部門のレベルアップは強く求められており、私たちのような中小の民間施設は、その問題に対してどのような役割を果たせるのか考えなければいけないでしょう。「がんばろう!中小!」です。また、そのような場で活躍する専門性を身につけた看護師は、絶対に欠かせない存在だと私は思っています。現在、特定看護師の制度化について検討が重ねられていますが、医行為のみをクローズアップするのではなく、包括的観点での特定看護師の在り方を考えていくべきだと思っています。

プロとして常にキャリアアップを求めてほしい


医療界・看護界は、今後ますます複雑多岐にわたることでしょう。社会の変化に対応するには学び続けるしかありません。「患者さんの幸せ」のために看護師は、プロとして、専門職として常にキャリアアップを求めてほしいと思います。「これだけは絶対に負けない」というものを持つことがプロである証です。
特定看護師に興味があれば、認定看護師でキャリアを積む道もありますし、大学院で座学を学んでから挑戦する方法もあります。専門性という意味では、特定看護師に限らず、専門看護師を目指すのもひとつでしょう。ご自分が何を目指したいのか看護の道をあらためて見つめ直し、日本の医療界・看護界を支える人材になってほしいですね。私も看護管理者の一人として、特定看護師(仮称)の活動をサポートし続けていきたいと思っています。

藤川 桂子 氏
【略歴】

1979年 天理看護学院卒業
    天理よろづ相談所病院 胸部外科病棟勤務
1986年 神奈川県立看護教育大学校卒業
    天理看護学院 専任教員
1990年 大分県別府市医師会看護専門学校 専任教員→教務主任
2003年 医療法人恵愛会中村病院 教育担当→副看護部長
2006年~ 現職 看護部長 認定看護管理者(2006 :セカンド/2011:サード)修了
 【役職】
看護部長
【資格】
認定看護管理者 村井恒之 氏
【略歴】
1999年 宮崎県立宮崎高等看護学院卒業
    医療法人恵愛会 中村病院 透析室勤務
2011年 大分県立看護科学大学大学院「老年NP養成コース」修了
【資格】
特定看護師
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