今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第117回 2013/01

看護基礎教育と臨床教育との接続性をより良くするために

札幌市立大学看護学部では、看護基礎教育と臨床教育との接続を強化していくために、地域の医療施設との連携を構築しています。その一つの取り組みは、卒業生に対するメンタルヘルス研修などの「シャトル研修」で、平成24年度は卒後1年目2回、2年目1回、3年目1回の計4回実施ししています。これらの活動について、札幌市立大学副学長・看護学研究科長・教授の中村惠子さんにお話を伺いました。

札幌市立大学 教授、副学長、研究科長、理事
中村 惠子 氏

札幌市立大学

教育の「接続性」に着目した教育活動

私は現在、札幌市立大学で看護基礎教育に携わっていますが、それ以前は長い間、臨床現場で仕事をしてきました。杏林大学医学部付属病院で看護師長を経て、看護部長を10年間務めました。その間に、杏林大学保健学部に看護学科が設置されたのを機に、1993年から看護基礎教育に関わるようになりました。 看護部長をしていた頃から、私は教育の「接続性」という点に注目してきました。昨今の医療情勢の中、さまざまな職務ストレスを抱えがちな看護師の、人材育成と職業継続ならびに看護の質の向上を図るための看護基礎教育と臨床教育の接続性がほとんどなかったため、看護専門職としてキャリア継続の方法論について関心を抱いてきたのです。

札幌市立大学は2006年にスタートしたばかりの若い大学ですが、実践力のある学生を社会に送り出すために、看護基礎教育と臨床教育とをどのように繋ぐべきかと考えながらカリキュラムを検討し、地域の医療施設とのネットワークを構築してきました。この繋がりについては2010年に開催した「第30回日本看護科学学会学術集会」や2012年の「第17回日本看護サミット」でも紹介しました。

地域の医療施設の臨床現場との連携


本学で実施している主な取り組みをご紹介します。まず、地域の医療施設と本学とが契約を結び、臨床現場で生じるさまざまな課題について、本学の教員が支援する取り組みを2007年から行っています。現在、年間契約を結んでいる病院は6施設で、ほとんどが中規模病院です。契約病院がどういった点でお困りなのか、どのような看護師を育成していきたいのかなどを伺った上で、一年ごとに契約し課題に対するサポートや教育支援を実施します。最も多いご依頼は、臨床研究のサポートです。病院側には、看護過程や院内急変対応などの集合教育に本学の教員を活用していただき、臨床の方々の学習力や論理的思考力やアセスメント力などの向上に役立てて頂いています。大学側は、教員を現場に派遣することで、臨床での看護力をできるだけ落とさないようにするといったメリットもあります。教員は教育の能力だけでなく、臨床の現状を適切に把握した上で、基礎教育にも臨床教育にも携わることが重要と考えているためです。

次に、北海道内の看護管理者に医療の中でより力を発揮してもらいたいとの強い思いがあり、2008年から認定看護管理者のサードレベル教育を始めました。看護のトップマネージャーを育成するために、日本看護協会の基準カリキュラムに沿った上で、受講者がどのように医療や看護に取り組むべきかを一緒に考えています。こうした取組みで、看護管理者と本学との接点がより強固になっています。例えば、何か困ったときなどは、電話やメールで互いにサポートをしています。さらに今年度は、本学の強み(デザインと看護)と地域の強みや課題を検討する「北のケア環境研究会」が立ち上がりました。

リアリティを重視した大学での教育の試み

学部教育の中でも特に専門性が高いテーマについては、現場の看護師の方々に非常勤(実務家教員)として講義を依頼するなどで、学生ができるだけリアリティを感じながら学べるように取り組んでいます。その他の試みとしては、模擬患者を育成しています。臨床場面を想定したシナリオを用意してシミュレーション教育をする際に模擬患者を活用しています。学年末には、その評価として学年毎のOSCE(オスキー:Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)による到達度評価を導入しています。
OSCEは、医学教育では学内試験に導入されるなど約20年位の歴史がありますが、本学のように看護基礎教育全体で導入した例は先駆的ではないかと思います。OSCEの活用はいろいろあるのですが、本学では「育てるOSCE」として活用しているので、学生が自分の弱いところを把握し、今後何を学習すべきかを確認できるように結果をフィードバックしているのも特徴です。

OSCEを受けるかどうかは学生が意思決定するのですが、65%くらいの学生が受けています。 また大学院の教育では、専門看護師コースも用意しているほか、社会人の方にも受講いただける学びの環境を整えています。臨床現場の方々が大学院の修士課程や博士課程で学んで論理的な思考力や研究力など、看護の「核」になるものを再学修し、それを現場に持ち帰って活かしてほしいとの思いからです。現在は博士前期課程(修士課程)の定員18名のうちの8割は看護師として働きながら通っている方々です。

メンタルヘルス研修などの「シャトル研修」を実施

先にもお話ししましたように、看護基礎教育と臨床教育の循環型就業力育成プログラムにも取り組んでいます。卒業生が社会に出てからも、大学との接点を持ちながらキャリアステップを踏んでいけるように考えた枠組づくりです。卒業生のキャリアプロセスがわかるようにデータベースを作成したり、卒業後の3年間に4回、「シャトル研修」と呼ばれる大学での研修会を実施しています。

シャトル研修では、1年目は卒業生が落ち込みがちなタイミングである7月に、メンタルヘルス研修として「お元気ですか? へこんでいませんか? メンタルヘルス」を、11月には『「若手看護職員のキャリアアップ」組織人としての役割り』をテーマに取り上げています。
そして2年目には、臨床の現場でのコミュニケーションをより円滑にするための「アサーション・トレーニング」や「組織論」などを組み込んでいます。
また、3年目は「キャリアアップナビゲーション」を実施しました。卒業生たちにとっては、大学時代の教員や仲間たちに会うことで、日々の激務で疲れた気持ちをリフレッシュして、職場に戻るきっかけになっている人もいるようです。研修後に「先生、私もう少し続けてみます」と話される人もいるんですよ。こうして卒業後もフォローアップしていくことで、大学と医療施設との垣根のないシームレスな実践教育が可能になると考え、実施しています。教員にとっても学生たちを今後どのように育てていくのか、カリキュラムの中で強化すべきポイントなどを考える機会にもなっています。

また、シャトル研修では臨床現場で教育を担当している方々にも集まっていただき、意見交換をしてもらっています。「異なる施設の教育担当者同士で課題を共有し、悩みを相談できる場はなかなかない」と、参加者の皆様からは評価いただいています。

卒業生が速やかに現場になじむための努力をしていきたい


毎年2、3月頃に実施している臨床指導者会議では、約100の実習施設に参加いただき開催しています。会議では、現在の看護基礎教育の動きや本学の教育スタンスがどういったものであるのか、またどのような点で教育側と臨床側が困っているのかなどの事柄について意見交換を行っています。その際、本学で実施しているOSCEの模様を記録した映像をお見せするのですが、参加者の方々は食い入るように映像をご覧になられ、「学生さんたちは大学にいる間にこんな実践的なところまでやっているのですか?」とみなさん一様に驚かれます。「臨床実習指導や卒後の教育担当者が基礎教育内容を知る」、このような認識を持つことがとても重要なのではないかと私は考えています。看護基礎教育に携わる私たちの側からは、大学で学生たちにある程度の看護の能力を身につけさせた上で送り出しているのに、その学生たちが現場に入った時に、「臨床現場ではまだ何もできない人」というところからスタートさせられるのは、ちょっと違うのではないかと思います。

しかし、臨床側からみると、卒業生たちが社会に出る際の準備状態がどの程度のレベルに達しているのか把握できていないのも確かなのです。このような双方の認識の乖離を少なくするためには、大学側と臨床側との接点をもっと強化していきたいというのが、私達の取り組みであり今後の課題の一つです。

このように、本学ではさまざまな場面において、看護基礎教育と臨床教育の接点を作りながら活動しています。両者の間には乖離があって当然という方も居られます。しかし、その乖離を縮めることは可能なはずなのに、看護基礎教育側も臨床側も何とかしてほしいと言いながら、互いに相手が問題として努力をしてこなかったのではないかと考えています。両者が歩み寄ることによって、卒業生たちはより速やかに現場になじんでいくことができるようになるのではないかと思っています。

中村 惠子 氏
【略歴】

1990年 杏林大学医学部付属病院 看護部長
1993年 杏林大学保健学部(看護部長兼務)
1999年 青森県立保健大学
2006年 公立大学法人札幌市立大学
【役職】
教授、副学長、研究科長、理事
【資格】
看護師
【著書】
『看護OSCE』メヂカルフレンド者、2011年 他
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る