今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第120回 2013/04

高齢者の「閉じこもり」のリスクとその支援

外出や対人接触といった活動の機会や意欲が減少し、活動範囲が自宅にとどまることが多くなる閉じこもり高齢者が増えています。「家にいるから安心なのでは?」と安易に考える危険性を強く訴え、ライフレビューを活用した介護予防プログラムを提供している首都大学東京健康福祉学部准教授の藺牟田洋美さんに、閉じこもり高齢者の実態やその支援についてお話を伺いました。

首都大学東京 健康福祉学部 准教授
藺牟田 洋美 氏

首都大学東京 健康福祉学部

寝たきりにもつながる閉じこもりとは

皆さんは閉じこもりという言葉をご存知でしょうか。閉じこもりとは、生活空間が狭小化し、生活時間の多くは家の中で過ごすことが多くなり、外出や対人接触といった活動の機会や意欲が減少する状態のことです。厚生労働省では、外出頻度が「週1回未満」の者を閉じこもりと定義しており、高齢者の寝たきりや要介護状態を引き起こす原因の一つとして位置づけています。

私は1995年以降、山形、秋田、福島、東京などの自治体と協働で、地域在住の高齢者の実態調査を行ってきました。最初の調査を行った山形市では、閉じこもりの方のうち3割が、1年後には寝たきり状態になり、中には死亡に至るケースもあるという事実が明らかになりました。
また、地域によって差はありますが、高齢者の1~2割程度の方が閉じこもりに該当するといった結果も出ています。ただし、これらの数値は自記式のアンケートであり、100%の回収でもありません。また、閉じこもっている高齢者は未回答が多いことから、実際にはもっと多くの方が閉じこもりに該当するのではないかと考えています。

閉じこもりのリスクへの認識不足が寝たきりを招く要因にも

外出頻度が低下し、高齢者が閉じこもりになる要因はさまざまです。老化による体力低下や疾病、外出先での転倒などによる障害などが要因になることは多々ありますが、定年退職を機に閉じこもりになる方や、友人の死などが引き金となり外出が減っていくケースも見られ、高齢者の心理・社会的環境に目を向けることは重要です。また、閉じこもりの高齢者はその生活をご自身で選択されていることも多いのです。 寝たきりや要介護のリスクを低減するには閉じこもらないという予防が大切です。

しかし、閉じこもり自体は疾病ではなく高齢者の生活様式であるため、ただ外出頻度が少なくなったからといって医療機関に出向いたり、地域の窓口などに相談する方はいらっしゃいません。ご家族も「家でおとなしくしてくれて安心」と思う傾向にあるようです。つまり、ご本人やご家族をはじめ、地域で高齢者を支えていらっしゃる方々なども含め、残念ながら閉じこもりのリスクを認識されていない方が多く、このことが閉じこもりを助長する大きな理由の一つではないかと考えています。

人生を振り返り評価する 「ライフレビュー」の活用による心理的支援


介護予防マニュアル改訂委員会『介護予防マニュアル改訂版(平成24年3月)』
現在、私は「ライフレビュー」を活用した閉じこもりの訪問型の支援事業に携わっています。ライフレビューとは心理療法の一つで、人生を回想しながらこれまでの経験や未解決だった問題や葛藤などを意識し、それらを自分の中に受け入れることで、ご自分の人生を整理していく作業のことです。閉じこもりの高齢者の多くは、ご自分のADL(食事、入浴、排せつ、移動などの日常生活動作のこと)に対する自信を喪失されています。ですから、ライフレビューを通して過去の葛藤と折り合いをつけたり、「自分はこんなことができていたんだ」と自信を取り戻すことで、間接的に外出行動への意欲を引き出していくのです。元々は認知症やうつ病の患者さんに用いられた手法ですが、訪問型の介護プログラムとして開発 し、各自治体と協力しながら支援にあたっています。

プログラムは、研修を受けた在宅専門の保健師などによって行われます。各自治体で二次予防対象者と判明した閉じこもり高齢者を対象に、週1回、全6回の訪問を通じて対面による個別の心理的支援を行っています。幼少期から現在までを振り返りながら、ご家族やお仕事のこと、心に残っている思い出話など、ご本人が話されたいことを中心にじっくり時間をかけながらお聞きしていきます。初回から心を開いてお話しいただくことは難しいですが、回を重ねていくうちに信頼関係が生まれ、高齢者の方から積極的にお話をされるようになることもあります。稀なケースではありますが、中には立ち上がることも難しかった方が少しずつ活発になられ、散歩をしながら話をするようになり、閉じこもり解消プログラムから運動のプログラムへ移行されたという事例もありました。

理想はオーダーメイドのサポート

ライフレビューにより、閉じこもり高齢者の心の内が見えてくることがあります。好きなもの、嫌いなもの、苦手なもの、大事にしているもの……こういったご本人の価値観から想定した、外出の動機につながる活動や場所、コミュニティーなどを提供できるようになれば、閉じこもりの解消につながるのではないかと思います。例えば、読書が趣味の方であれば、地域で朗読のボランティア活動を提案することで外出につなげたりすることです。

閉じこもっているからといって、むやみに外へ連れ出すことは得策ではなく、中には人との会話が好きではない方や、他人とコミュニケーションをとることが苦手な方など人それぞれに個性がありますから、そこを理解した上で次のアクションにつなげていくことが大切なのです。現実的には難しいかもしれませんが、いわゆるオーダーメイドのような感覚で、一人ひとりに合ったきめ細やかなサポートを提供できるようになることが、理想的な支援ではないでしょうか。

ガイドヘルパーなど他分野による協力の可能性

寝たきりの発生や要介護状態を未然に防ぐためには、閉じこもりに潜む危険性を身体・心理・社会環境の側面から総合的に理解することがまず大切で、さらには、外出頻度が高齢者の健康指針になることを改めて認識していただきたいと思います。ご自身やご家族はもちろんですが、高齢者を支える次の世代にも広く伝えていくことが重要ですし、医師や看護師、介護士、保健師などのコ・メディカルの方々には、その役割を担ってほしいと思います。 また、ライフレビューといった介護予防プログラムを保健師などのコ・メディカルや専門職が行うには、高齢者が増え続ける社会的状況を踏まえますと、マンパワー的に限界があることは言うまでもありません。

先ほど申し上げたオーダーメイドのサポートにはまだまだほど遠い状態です。さらなるサポート体制を築くには人材の補充が急務なのです。ですから、ある一定の研修を受けた者であれば、ライフレビューを実施できる体制にするなどの対策を講じる必要があると考えています。例えば、閉じこもり高齢者の聞き手として傾聴ボランティアの方に協力を要請したり、高齢者の外出サポートの専門家であるガイドヘルパーなどが、外出よりも前の段階である閉じこもりから介入し、高齢者との関係を築きながら外出行動を促し、その後の外出もサポートするといった方法もあると思います。 10人に一人は閉じこもり高齢者という日本の現状。今後も一人でも多くの方にライフレビューによる介護予防プログラムを提供し、閉じこもり高齢者であっても心理的に充実した生活を保てるような支援に力を注ぎたいと思います。

藺牟田 洋美 氏
【略歴】

1991年 千葉大学大学院文学研究科修了 東京都立保健科学大学保健科学部助教授などを経て、2005年より現職
【役職】
健康福祉学部 准教授
【資格】
博士(医学) 臨床発達心理士
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