今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第121回 2013/05

教育現場で活躍する臨床心理士「スクールカウンセラー」

コ・メディカルに位置づけられる臨床心理士の活動の場の一つに教育現場があります。幼稚園、小中高校などで、子供たちの悩みや相談を聞く心の専門家である「スクールカウンセラー」として活躍しています。ご自身もスクールカウンセラーである、東京学芸大学教育学部教育心理学講座准教授の松尾直博さんに、子供たちが抱える悩みやスクールカウンセラーの活動などについてお話を伺いました。

東京学芸大学 教育学部 教育心理学講座 准教授
松尾 直博 氏

東京学芸大学

予約相談と自由相談で気軽なカウンセリングの場を提供

私は現在、児童臨床心理学、スクールカウンセリング、道徳教育などを専門に、東京学芸大学の教育心理学講座で指導にあたっています。また、文京区の竹早地区にある東京学芸大学付属の幼稚園、小学校、中学校でも、スクールカウンセラーとしての定期的な活動を行っています。月に2~3回程度中学校に常駐しながら幼稚園や小学校も訪問し、保護者や教師の方々と連携することで児童・生徒のカウンセリングを実施しています。

カウンセリングは、個別に行う「予約相談」と、オープンルームで誰でも自由に相談できる「自由相談」の二つの体制をとっています。予約相談は、担任の先生や親御さんから予約が入る場合もありますが、中には児童・生徒が自ら問題を認識してカウンセリングを求めることもあります。 一方、自由相談の場合は、予約相談が入っていない昼休みや放課後に相談室を開放することで、誰でも気軽に立ち寄れる場を提供し、子供たちが自由に話せる環境を整えています。

子供たちが抱える悩みとその背景

子供たちからの相談内容で最も多いのは人間関係です。「友達とうまく付き合えない」「クラスに居づらい」といった友人との関係に悩む子供に加え、家族の問題を抱える子供が増えているのも現状です。「親があまり相手をしてくれない」「両親の仲が悪い」と子供は悩んでいますが、親御さんの話を聞くと厳しい社会状況の中で必死に生きていらっしゃる様子も伺え、なかなか親御さんだけを責められない現実もあることがわかります。しかし、そのような中で大きな影響を受ける子供たちは、精神的なバランスを崩したり、攻撃的になったりと、苦しい思いをしているのです。

このような現状も踏まえ、平成7年度から、国でも臨床心理士などをスクールカウンセラーとして全国に配置することに力を入れていますが、スクールカウンセラーの需要増大の背景には、価値観の多様化や社会構造の変化が大きな要因の一つとして挙げられると考えています。現代はあらゆる面において選択肢が豊富に用意されています。自由に選べる利点があるものの、選択肢が無数にありすぎて複雑化していることで、子供たちは早い段階で迷ってしまうのです。自分の考えを聞いてほしいという悲痛の心の声が高まる一方で、3世代同居の世帯が減少したり、両親共働きという家庭が増える中、子供の欲求を満たす場が少なくなっていることにも問題があるのです。

問題解決のためにスクールカウンセラーができること

スクールカウンセラーの役割として大切なのは、子供たちの問題が深刻化する前に解決することです。予約相談の場合、授業の合間の昼休みや15分程度の中休み、放課後などを使って話を聞かなければならないことも多く、限られた条件の中でいかに心の声を引き出せるかが重要です。カウンセリングの最初から悩みを話してくれる子もいますが、中にはうまく表現できない子もいます。そのような時は、テレビやマンガの話などで場をあたためて、話しやすい雰囲気をつくってから相談を聞くように心掛けています。

また、自由相談のほとんどは雑談です。子供が話したいことを自由に話してもらい、なるべく早い段階でその会話の中から問題の芽を摘み出す作業が必要なのです。 スクールカウンセラーの対応方法は、パターン化されているわけではないので一概には言えませんが、①話をとことん聞いて気持ちを発散させる ②問題に対する現実的な対応を施す ③問題の受け止め方を異なる方向に導く などが挙げられます。②の現実的な対応というのは、例えばいじめなどの現状を変えるために対策を講じ、実際に問題解決のための働きかけを行うことを指しています。③に関しては、考え方の転換を手助けすることを意味しています。ある側面で悩み苦しんでいても、他の側面をじっくり説明しながら当人の考え方を転換させることで、気持ちが楽になったり、悩みが解消されることもあるのです。

求められるのは柔軟性とコミュニケーション能力

日本におけるカウンセリング教育はこれまで、カウンセラーとクライアントが閉じられた空間の中でカウンセリングを行うものとしてトレーニングが進められてきました。成人を対象とした一般的なカウンセリングは、1回50分などじっくりと向き合える時間が設定されていますし、個室が設けられていたり、複数回にわたってカウンセリングを行うなど、時間や空間などの仕組みがしっかりと用意されています。
しかし、スクールカウンセラーの場合は、授業の合間の昼休みや中休み、放課後など、限られた時間で行わなければならない上に、子供たちをよく観察しないと見えてこない問題も多く含まれているため、相談室でただ子供たちを待っているだけの受け身の姿勢では真のカウンセリングは務まりません。

つまりスクールカウンセリングは、これまでの一般的なカウンセリングとは異なるものだという、発想の転換が大きく求められるのです。 子供たちをより理解するためには、スクールカウンセラーは相談室を飛び出して、積極的に生徒たちと関わることが何よりも重要です。学校行事に参加したり、教科内容などを知ることも必要でしょう。そうすることで、子供たちの話をより理解できるようにもなれるのです。また、私は「高さの設定」と言っていますが、相談室の敷居の高さ低さも適度なところで調整しなければなりません。本当に相談したいと思っている子供に、気軽に来てもらえるような雰囲気づくりも大切なのです。

さらに、学校の先生方との連携も大変重要になってきます。スクールカウンセラー一人でできることはほとんどないと私は考えています。チームで子供たちを育てていく感覚を持って活動することが求められると思います。職種が異なる先生方との協働は、考え方のぶつかり合いや相互の役割への理解に難しい側面もあるとは思いますが、子供たちを問題解決へ導くためには努力しなければならないことです。時間や空間に対する柔軟性と、他職種との円滑なコミュニケーション能力がスクールカウンセラーには必要不可欠な能力だと言えるでしょう。

すべての学校にスクールカウンセラーを

子供たちを対象としているだけに、チーム連携が求められたり、問題の難しさや複雑さを伴いますが、子供たちが成長する姿を間近で見つめられ、サポートできる喜びは何物にも変え難いことです。先にも申し上げましたが、社会構造の変化や価値観が多様化している現代に、スクールカウンセラーという職業は子供たちの健やかな成長のために重要な役割を担っていると思います。全国すべての学校にスクールカウンセラーが配置されることを望んでいますし、アメリカのように教育スタッフの一員として毎日常駐できるような体制が整う日が来ることが私の理想です。

松尾 直博 氏
【略歴】

1998年 筑波大学大学院博士課程心理学研究科修了 東京学芸大学助手、講師、助教授を経て2003年より現職
【役職】
教育学部 准教授
【資格】
臨床心理士、学校心理士、特別支援教育士スーパーバイザー
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