今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第122回 2013/06

助産師の偏在を是正し、「日本のお産」を守る

助産師の偏在によって、いま、全国で、適切な助産ケアを受けられない妊産婦さんが増えています。すべての妊産婦さんに充実した助産ケアを受けてもらうように「助産師の活用による出産環境の整備」を推し進めている、日本看護協会常任理事・福井トシ子さんに、助産師を取り巻く現状や課題の解決方法について、詳しいお話を伺いました。

公益社団法人日本看護協会 常任理事
福井 トシ子 氏

公益社団法人日本看護協会

助産師の不足ではなく、偏在が問題となっている

現在、全国規模で、助産師の偏在が問題になっています。妊産婦さんが出産をする場所は、病院が約50%、診療所が約47%。1%ほどは助産院や自宅で出産する方もおり、妊産婦さんは「病院だけではないところ」で出産を経験しているのです。ところが、3万2,480人(2010年)の助産師の就業先は、病院が約60%、診療所が約25%。多くの助産師が病院で働いており、診療所の助産師が圧倒的に不足していることがわかります。 妊産婦さんがいる場所に助産師がいないことで、全体的に助産師が不足しているように見えてしまっているのです。根本的な問題は、助産師が「偏在している」こと。ですから、偏在を是正し、バランスを整えていくことが重要なのです。

現場の助産師が、いま、すべきこととは

助産師の偏在は、働く環境の違い、産科医の不足、政策のおくれなど、いろいろな課題が複雑に絡み合って発生しています。一部分だけを切り取ってなんとかしても、根本的な解決にはつながりません。 そこで考えなければいけないのが、問題を大局的に捉えること。「年間約100万人と言われている赤ちゃんが、どこでどう生まれているのか」「どんなケアを必要としているのか」「求められているケアを行うには、どこにどんな体制を整備して助産師を配置すべきなのか」、こういったことを、現場の助産師が真剣に考え、国や自治体にどんどん要望を上げて、大きな仕組みを作ることが欠かせません。

そもそも、看護師の配置についてはルールが定められているのに、なぜ助産師の場合は、こうしたルールがないのでしょうか? 看護師を適切に配置すれば診療報酬上の加点があるのに、助産師の場合はありません。現場の助産師が、国にその重要性を訴え要望を上げれば、助産師のためのダイナミックな枠組み作りや法整備が進むかもしれません。枠組みができたら、労働環境が改善し、適切な配置も進むことでしょう。 将来的には、100%の妊産婦さんと赤ちゃんが、助産師のケアを受けられるようにしていきたい。そのために、現場で働く一人ひとりが考え、声を上げることが必要だと考えています。

助産師偏在の是正につながる「助産師出向システム」

現在、日本看護協会では、「助産師出向システム」の制度化を提唱しています。助産師出向システムとは、助産師が不足している分娩取扱い施設に、期限付きで異動する仕組みのことです。現在の勤務先の身分を有しながら他施設の助産師として働くことができ、助産師偏在の是正につながるものと考えています。出向期間はおよそ半年~1年間。正常分娩の経験などを豊富に積むことができ、助産師の実践能力を高める役割も担っています。

こうしたシステムを使って、地域で安心してお産できる体制づくりに取り組んでいるのが広島県です。医師の高齢化と助産師不足から分娩施設の休止が相次ぎ、2012年、県を上げての試みとして助産師派遣事業をスタートさせました。県立広島病院の助産師が1年間、診療所に派遣されるという画期的な内容で、効果も絶大だったそう。受け入れ側の診療所は人材確保が、派遣側の病院は助産師のスキルアップが実現でき、助産師同士の交流の輪も広がったと聞いています。

妊産婦さんから「助産師が必要」だという声が上がるよう、働きかけを!


日本看護協会の助産師ページ。ここから、キャリアアップや研修に関する資料がダウンロードできる
「現場で働く助産師が声を上げること」と同じぐらい重要なのが、「地域の住民からも声が上がること」。地域の妊産婦さんが助産師の重要性を認識しアクションを起こしてくれれば、自治体が動き出す可能性がグンと高まり、問題解決のスピードがアップします。 かつて滋賀県の小児科医が、あまりの忙しさに撤退を宣言したことがありました。そのとき地域のお母さんたちが、「コンビニ感覚の夜間受診はやめよう」と率先して呼びかけあい、役所を動かし、その小児科医を地域にとどめたことがあったのです。このような動きを私たちも作り出し、地域の妊産婦さんや自治体をどんどん巻き込んでいかなければなりません。

そのために助産師は、力を付ける必要があるのです。助産師が本来持っていなければならない技術や知識は、産科の縮小やお産の減少で、年々継承されにくくなってきています。だからこそ、助産師は、出産・産後ケアのプロフェッショナルでなければいけない。日本看護協会では、助産師が力をつけるためのクリニカルラダーを作り、これを使って研修体制を整えるよう、全国の病院に働きかけています。 高い実践能力を持つ助産師が全国で活躍すれば、自然と妊産婦さんに、助産ケアの素晴らしさや助産師の必要性が伝わるはず。そしていつか、妊産婦さんたちからも声が上がるに違いありません。

すべての妊産婦さんに出産の感動を。一致団結して、日本のお産を守り抜く


『分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド』(平成25年1月)
助産師出向システムの提唱やクリニカルラダーの立案以外にも、私たち日本看護協会はさまざまな取り組みを行っています。助産師の育成に関する調査を行ったり、『分娩施設における災害マニュアル作成ガイド』を策定したり……。産科管理者の交流集会を開催し、積極的な議論を促す活動などもしていきます。しかし、こうした試みが実を結ぶには、まだまだ時間がかかることでしょう。 なかなか労働環境が整わず「このまま助産師を続けていていいのかな」と悩む方もいるかもしれません。そういうときは、自分がなぜ助産師になりたいと思ったのかを思い出し、初心に帰ってみてください。また、不安や疑問を抱え込まず、声に出して仲間に問いかけてみてください。 すべての妊産婦さんが充実したお産を体験し、産後ケアを受けられるように。決してあきらめず、一致団結して、助産師偏在を取り巻く諸問題を解決していきましょう。

福井 トシ子 氏
【略歴】

2005 年3 月 国際医療福祉大学大学院博士後期課程修了 東京女子医科大学病院 母子総合医療センター、糖尿病センター、杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センターなどを経て現職
【役職】
公益社団法人日本看護協会 常任理事
【資格】
看護師、助産師、保健師、診療情報管理士、経営情報学修士、保健医療学博士
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