今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第124回 2013/08

日々の感染管理が院内感染を未然に防ぐ

近年、新型インフルエンザやノロウイルスなどの流行により、医療・介護施設側、患者・利用者側の双方で院内感染への意識が高まっています。患者・利用者に安心してケアを受けてもらうために、病院や施設では感染管理の取り組みが活発に行われるようになりました。院内感染予防対策に力を入れている東京都立墨東病院の感染管理担当看護長、舩木曜子さんにお話を伺いました。

東京都立墨東病院 感染管理担当看護長
感染管理認定看護師
舩木 曜子 氏

東京都立墨東病院

院内感染に対する人々の関心は高まっている

10年ほど前と比べてみますと、院内感染は今のように話題にのぼるものではありませんでした。近年になって発生件数が急増したというわけではなく、当時も院内感染は国内の病院や介護施設で発生していたと考えられます。ただ、以前よりも「注目されるようになった」という違いは大きいと思います。これほどまでに注目を集めるようになったきっかけは、テレビや新聞等で広く報道されるようになったことが影響しているのではないでしょうか。院内感染に対する人々の関心が高まっているからだと感じています。ケアをする側としても患者さんを守るために、感染管理に対する意識はますます強まっているのです。

私は、感染管理専従の看護師として実践や職員の指導・教育を担当しています。院内には院内感染予防対策委員会(ICC)があり、さらに医師や看護師、薬剤師、臨床検査技師などが連携し、感染管理活動を行う感染対策チーム(ICT)が組織されています。院内の全部署を横断させることで、病院全体が一丸となって院内感染を未然に防ぐ活動を行っているのです。

院内感染の定義とは

院内感染とは、「1.病院などで患者が原疾患とは別に新たに罹った感染症」「2.医療従事者が自施設で感染した感染症」です。自宅にいて家族から感染したものではなく、病院に来た時に感染すれば、それは院内感染となります。また、たとえ退院後に発症したものであっても、入院中に感染したと見なされれば院内感染にあたります。 院内感染における代表的な病態についてですが、流行性角結膜炎や、季節性のものですと冬季のノロウイルスやインフルエンザがあります。ノロウイルスは下痢や嘔吐など、症状が明確なので早めの感染管理がしやすいのですが、インフルエンザについては、症状が「咽頭痛のみ」「微熱のみ」など検査なしでは風邪との見分けがつきにくいといった問題があるのが現状です。
そのため発症者の発見が遅れ、院内感染が拡大してしまう可能性もあります。そのような状況を回避するためには、少しでも疑われる症状があれば早期に検査・対応することがとても大切です。 さらに厚生労働省や国立感染症研究所では、Webサイトなどで感染症の発生状況に関する報告を発表していますので、当院では日々、新しい情報を得てそれに即した対応に努めています。

院内ラウンドで客観的な立場から評価

もう一つ、当院が注力しているのが院内ラウンドです。感染管理において、院内環境を適切に保つことは欠かせません。 ラウンドの際にチェックすべき項目はさまざまですが、例えば、汚物室があります。汚物室では使用した医療用具や尿便器を洗浄するため、水を扱う機会も多いのですが、水分を好む緑膿菌やアシネトバクターといった菌が増殖し、感染の発生源となり得ます。また、正しく洗浄されたはずの物品であっても、それらを置く棚と汚物層との距離が近ければ、処理する時に汚物がはねて物品に付着する可能性があります。 現場で働くナースには気付きにくい点でも、ICTのように客観的な視点で評価できるチームがあれば、新たな問題点が見えてきます。
改善すべきところがあった場合は院内全体でマニュアルを定め、職員全員に対して意識付けを行っていきます。 こうした取り組みが本格的にスタートしてから約7年になります。当初は、ICTから「こうしていきましょう」と声をかけていくことがほとんどでしたが、最近では「現場でこうした問題があるのですが、どうしたらいいですか?」と、逆に相談を受けることも増えてきました。患者さんの最もそばにいて、患者さんを守るのは、やはり現場のスタッフです。決められたマニュアルを守るだけでなく、自らが課題を見つけて解決しようとする意識が広まってきていることを実感するとともに、頼もしく思っています。

病棟の特性によって発生の原因は異なる可能性も

さらに当院では各病棟に一人、感染リンクナーススタッフを配置し、ICTチームと連携して感染管理にあたっています。現場の問題や状況を一番良く見ることができるのはその部署の感染リンクナースです。病棟によって患者さんの特徴や作業の流れが違いますから、それぞれの病棟にスタッフを置くべきだと思います。先にお話ししたように、院内全体のマニュアルを決めたとしても、病棟によってはスムーズにできないことも出てきてしまうからです。

例えばノロウイルスが発生したとすれば、ご自分で歩いてお手洗いに行ける患者さんが多い病棟と、おむつ交換の必要性のある患者さんが多い病棟とでは、同じ感染症であっても感染源は異なると考えられます。前者はトイレなどの環境によるもの、後者はケアする医療者の手を媒介した可能性が生まれるわけですが、各病棟に感染リンクナースがいれば、患者さんの安静度やトイレの使用状況、スタッフの配置を把握しているため、万が一、院内感染が発生したとしても、早急に対応策を立てることができるのです。

地域の病院・施設と共同で取り組む感染管理

ほかにもセミナーを開催し、現場で活用できる内容を紹介しています。これまでは院内向けのものがメインでしたが、最近では同じ地域の病院や施設の職員を対象としたセミナーを開き、感染管理に対する知識を共有する取り組みを始めました。 患者さんは、地域内にあるほかの病院に通院してから紹介などによって当院にいらっしゃるケースも多々あります。

だからこそ、感染管理は一つの病院だけでなく、地域全体で行っていく必要性があるのです。こうした取り組みは今後、ますます重要になるのではないでしょうか。 そうした場で実際にお話を伺ってみると、どうしても日々の業務に追われてしまい、感染管理に対する新しい情報をなかなか得る機会がなくてご苦労なさっていることがあるようです。これだけ院内感染が話題にのぼることがあると、ささいな点で不安を感じることもあるかもしれません。それを解消できる場を設けることで、地域全体の医療の底上げにつながればと思っています。

患者さんを守るために、今こそ基本に立ち返る


中小規模の病院や施設ですと、感染管理専任のスタッフを置くことは難しいかもしれません。スタッフ一人ひとりが高い意識を持つことが求められるわけですが、院内感染を防ぐ上で要となるのは、手洗いの徹底と防護用具を適切に使うことではないでしょうか。ごく基本的なことではありますが、防止策としては重要だと思います。 専任のスタッフを配置できなくても、有症状の際に報告が集まる担当者を決めておくなど、院内に何らかのシステムを構築することは大切だと思います。数人でも感染してしまうと、さらに広がってしまうおそれがあります。拡大させないために最も大切なのは、少しでも早く状況を判断すること。それをジャッジできる人があらかじめいることで、スピーディーな対応ができるはずです。

舩木 曜子 氏
【略歴】
1987年 東京都立豊島看護専門学校 卒業
    東京都立荏原病院 勤務
1994年 東京都立豊島病院 主任
1999年 東京都立荏原病院 次席
2001年 東京都立豊島病院 感染症科病棟看護長
2005年 東京都立墨東病院 感染管理担当看護長
2007年 感染管理認定看護師 取得
【役職】
看護長
【資格】
感染管理認定看護師
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