今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第125回 2013/09

新型インフルエンザや新感染症の現状と対策

世界各国から新型インフルエンザや新感染症の症例が報告されており、日本国内でも人々の意識が高まっています。例え海外で発生したものであっても、日本に侵入する可能性はぬぐいきれません。日本国内に侵入させない・発生させないために、また、万が一発生した場合、感染拡大を未然に防ぐために、どのような対策が行われているのでしょうか。国立感染症研究所 感染症疫学センターのセンター長、大石和徳さんにお話を伺いました。

国立感染症研究所 感染症疫学センター センター長/医学博士
大石 和徳 氏

国立感染症研究所

新型インフルエンザの定義とは

まず、国立感染症研究所感染症疫学センターの役割についてお話しします。当センターは感染症情報の収集や分析・提供、感染症対策に関する立案や技術支援、研究などを行っています。感染症の情報や研究内容は日本国内だけではなく、海外の協力機関とも交換しており、世界各国の最新の状況についても把握しています。 医療・介護に携わる方や一般の方が「感染」と聞いて真っ先に思い浮かべるものに、新型インフルエンザがあるのではないでしょうか。

ご存じのとおり、新型インフルエンザは疾患名ではなく、過去数十年の間にヒトが経験したことがないウイルスがヒト同士で伝播し、インフルエンザの流行を起こした時のことを新型インフルエンザと呼びます。新型インフルエンザが出現するとパンデミックになる恐れがあり、それを未然に防がなければなりません。 日本でのパンデミックの例としては、2009年、新型インフルエンザのH1N1の発生があります。日本国内では学校を中心とした集団感染のほか、地域での学校閉鎖や濃厚接触者への自宅待機要請などの措置がとられました。また、海外ですと、これは新感染症に分類されますが、2003年のSARSがあります。高い発症率をみせた香港では、空港が閉鎖されるなど、都市機能が3ヵ月ほどストップしました。

日本国内の対応について

こうした症例が発生する以前から新型インフルエンザや新感染症の対策準備は進められてきましたが、2009年の日本でのH1N1パンデミックの発生を契機に特別措置法が立ち上げられ、2013年から公布されています。これは緊急時のガイドラインや政府の行動計画がまとめられたもので、「感染拡大を可能な限り抑制し、国民の生命及び健康を保護する」「国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最少となるようにする」の2点を基本方針としています。 国民生活に混乱をきたさないことが主眼となっていますが、そのためには、発症のピークをできる限り遅くすることが重要です。2009年のH1N1パンデミックのケースでは、学校閉鎖などを行ったことで初期の流行を最小限に抑えられたとともに、その後の流行のピークを遅くすることができました。これでどういったメリットがあるかというと、ワクチンの研究開発が進められたのです。ワクチンが間に合えば、発症しても罹患率は確実に下がります。そして、重症化率、致死率も減らせるのです。

感染拡大を防ぐ特別措置法

特別措置法で想定している経過例ですが、これには第一段階、第二段階があります。まず、新型インフルエンザ等が海外で発生すると、政府に対策本部が立ち上げられ、行動計画に基づいて基本的な対処方針などを策定します。 その後、病原性が明らかになり、万が一、日本国内に侵入した場合、それがまん延する恐れのあるものならば、緊急事態宣言を発令します。各自治体に対して、外出の自粛や人の集まる施設等の使用制限の要請をしたり、予防接種の呼びかけなどを行います。各自治体がイニシアチブを持っているので、密に連携をとりながら進めていく必要があります。

緊急事態宣言の発令についてですが、その判断というのは見極めがやや難しい面もあります。まず、初期段階では情報がふんだんにあるわけではありません。海外から新型インフルエンザや新型感染症が流入して日本で発症した際、国内ではどの程度の罹患率となるのか、はっきりとは予見しにくいのです。 なぜなら、たとえ同種の新型インフルエンザであっても、各国の医療環境や医療レベルによって「ウイルスの重み」が変わってくるからです。例えば、途上国で発生した初期事例では重症化率が高かったとしても、医療水準が異なるわけですから、それをそのまま日本に当てはめると異なる可能性も十分に考えられます。

もう一つ、各国の水際対策の違いもあります。罹患していても無症候性感染の可能性もあります。そうすると、海外の空港の検疫所ではスルーされてしまうことも考えられる。ですから、それもふまえながら日本国内に流入してしまったらどうするのか、世界各国の最新情報をキャッチして状況を的確に判断しながら、柔軟に対策を考慮する必要があります。

ガイドラインの概要と課題

もちろん、平時からの対策も欠かせません。先にも申したように、特別措置法の中ではガイドラインを策定しています。これには10項目あり、サーベイランス、国民や関係機関への情報提供をはじめとする国がやるべきことのほか、医療機関に関係するものとしては、「医療提供体制を整備し、発生段階や役割分担に応じた適切な医療を提供する」といった医療体制に関するもの、「抗インフルエンザウイルス薬を備蓄し、流通体制を整備するとともに、医療機関における適切な投与方法を周知」という抗インフルエンザウイルス薬に関するものがあります。

しかし、まだ議論が続いていることがありまして、それはやはり、ウイルスの病原性の見極めです。ある新型のウイルスが発生したら、それは重症なのか、軽症なのか、毒性はどうなのかといった点について、どの段階で評価できるのかということは、なかなかはっきりと断定できない側面があります。重症度によって対応も変わるはずですし、事態をあまりにも重く見すぎれば、国民の不安を余計にあおってしまうことにもなりかねません。このことについては、今後もまだまだ検討していかなければいけないところといえます。

現在の世界の事例について


鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応
最後に、最近の世界の事例にふれておきましょう。今、我々が最も懸念にしているものに、中国国内で流行している鳥インフルエンザA(H7N9)があります。2013年2月ごろから流行の兆しを見せ、8月30日時点で135名の症例数が報告されています。日本では4月26日にこれを指定感染症として定めており、感染が疑われると判断された場合は保健所と相談の上、検体採取を行うことが義務付けられています。 中国からの確定患者の報告者数は減少傾向にありますが、いまだ感染源や感染経路は不明であり、今後日本国内に流入する恐れもあります。また、医療機関のみなさまの協力が必要不可欠であり、疑わしいと思われる段階で先々のことを考えながら適切な対応を行っていただければと考えています。 院内感染対策としては、日ごろから標準予防策や飛沫感染対策を行っていると思いますが、感染拡大を防ぐためには、緊急時だけではなく、その都度、動向を見据えながら対応策を考えていくことが欠かせません。

新型インフルエンザの場合、風邪やインフルエンザと同様、冬場に罹患者が増えるといった季節性のパターンもあります。これからの季節は、特に注意が必要となります。 海外で起こっているということ、症例が決して多くはないということから、なかなかリアリティを持てないかもしれませんが、当研究所のウェブサイトでは「鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応」を発表しています。また、これ以外にも、各種感染症について常に最新の情報をアップデートしていきますので、ぜひお役立ていただければと思っています。

大石 和徳 氏
【略歴】

昭和55年 長崎大学医学部 卒業
昭和55年 長崎大学医学部附属病院熱研内科 入局
昭和62年 米国Uniformed Services University留学(在外研究員)
平成7年 長崎大学医学部附属病院熱研内科 講師
平成9年 長崎大学熱帯医学研究所、宿主病態解析部門感染症予防治療分野 助教授
平成14年5月〜7月 WHO短期専門家(中国のSARS対策に参加)。
平成18年1月 大阪大学微生物病研究所 感染症国際研究センター 特任教授
平成24年4月 国立感染症研究所感染症疫学センター長
【役職】
国立感染症研究所感染症疫学センター センター長
【資格】
医師免許、日本感染症学会指導医、日本呼吸器学会指導医
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