今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第128回 2013/12

「生活改善」こそ認知症の最大の予防方法

現在、日本では65歳以上の介護保険利用者の約8割が認知症と判断されています。高齢者の看護・介護を行う上で認知症と関わることは不可避の状態です。認知症患者の治療はもちろん重要な医学的テーマですが、その前に認知症に罹らない方法を取ることにも心を砕く必要があります。そこで今回は、認知症介護の最前線で臨床研究を行っている東京の浴風会病院の須貝佑一先生に、認知症治療の現在と発病前にできる予防方法についてお話を伺いました。

認知症介護研究・研修東京センター 副センター長
社会福祉法人 浴風会 浴風会病院 精神科
須貝 佑一 氏

認知症介護研究・研修東京センター
社会福祉法人 浴風会 浴風会病院

認知症治療には「介護」が必要不可欠

超高齢化社会に向かって認知症患者が急激に増えています。認知症に対する治療についての現状を一言で言い表せば、そのスピードに医療、看護、介護の“インフラ”が追いついていない状態です。悲観的な言い方ですが、現時点では有効な治療手段はほとんどなく、唯一追いついているのは診断技術だけだと言っていいと思います。後ほど診断技術についてお話しします。 通常の疾患の場合、医療と看護だけで治療が完結するものが多いのですが、認知症は介護が必要不可欠な疾患です。
つまり家族の存在が重要であるということです。家族が治療の中心となり、家族がいない人には社会全体が患者の治療を引き受ける。そうした“気構え”がなければ、真に認知症患者のことを考えた医療体制とは言えません。 そうしたことから、認知症治療に関しては経済的、社会的、人的にかなりの負担を伴うことは不可避です。さきほど申しました有効な治療手段が現時点ではほとんどない。そうした状況で唯一有効なのが「認知症予防」という方法なのです。

アルツハイマー病の原因は解明。しかし治療法が追いつかない

物忘れが激しい、記憶が頼りなくなったなどという症状は、誰でも老化とともに起こるものです。これはごく普通の老化現象です。その一方、本当の認知症というのはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などを指します。現在、認知症のうち、アルツハイマー型認知症が60%、脳血管性認知症が20%、レビー小体型認知症が10%とされ、これを「三大認知症疾患」と呼びます。

したがって、認知症治療の最大のターゲットがアルツハイマー病であると言えます。 アルツハイマー病を簡単に説明すると、脳内に「ベータたんぱく」という異常な物質が蓄積し、それがある量を超えると「神経毒」となって脳の神経細胞を傷害して、認知症を発病するというものです。これがいわばアルツハイマーの“種”です。ベータたんぱくは発症する10年前、20年前から脳を検査することによって発見できます。それが先ほど述べた「診断技術」で、その診断方法が「アミロイドイメージング」というものです。 診断技術は確保できました。そこで、医学界、製薬業界が必死になってワクチンや薬の開発を進めていますが、残念ながら有効な治療手段は未だ確保できていません。

生活改善で原因「ベータたんぱく」をブロック

私たち医療従事者は長年、認知症の実に60%を占めるアルツハイマー型認知症は予防できないのかと考えてきました。変性疾患のため一度発病してしまうと進行を止めることは難しいのですが、先ほど述べた“種”の段階、つまり、ベータたんぱくがこれから蓄積しようとするプロセスをブロックすることができるのではないか、ということがさまざまな疫学調査でわかってきました。 アメリカに移住したナイジェリア系アメリカ人と、元からナイジェリアに住んでいる人、あるいはハワイに移住した沖縄系アメリカ人と、元から沖縄に住んでいた人を、65歳以上の年齢に限定してアルツハイマー病の発症率を調べたところ、いずれもアメリカとハワイに住んでいる人の方が圧倒的に発症率が高いという調査結果があります。 これはアルツハイマー病の発症には環境の違いが大きく影響している、つまり「環境因子」が大きく関わっていることを示唆するものです。その環境の違いは何か。それは「生活習慣」です。そこで、現在、アルツハイマー病の有効な予防策として、私たち医療従事者から注目を浴びているのが「生活改善」によるベータたんぱくのブロックです。

カロリーのとり過ぎをやめて活性酸素を抑制


アルツハイマー病を予防する「生活改善」には、体内の「活性酸素」、別名「フリーラジカル」を減らすことが最も有効であると考えられています。 そのひとつが「食習慣」。具体的には「カロリーの過剰摂取」をやめることです。体内にとり込まれたカロリーは、消費する際に大量の酸素を必要とします。しかし、カロリー過多な食習慣を続けていると、その酸素はすべて消費されることなく、残りは活性酸素という有害なものに変わってしまいます。これがアルツハイマー病の原因であるベータたんぱくを蓄積させる働きを持っています。

そうしたことを防ぐためには、カロリーの少ない栄養バランスがとれた食事内容を心がけることが大切です。脂肪の多いものはできるだけ避け、魚や野菜を中心とした昔ながらの日本人の食事をとることが大切です。理想的な食生活に適しているとされているのが、ヨーロッパの「地中海料理」です。魚、野菜、果物、精白していない穀物など、単価不飽和脂肪酸と抗酸化作用が享受できる料理です。

有酸素運動で活性酸素を追い出し「頭を使う習慣」も

2つ目の方法は「運動習慣」です。特に「有酸素運動」を行うことが大切です。ある意味では食習慣の改善より有効であるとも言えます。有酸素運動を行うことで肺に新鮮な酸素が大量に送り込まれ、それが血液に含まれて体内のすみずみまで行き渡る。そして、体内に残存していた活性酸素を追い出す。そうしたメカニズムです。 では、どのような有酸素運動がお勧めかと言いますと、「ウォーキング」と「水中ウォーキング」「階段の昇降」です。いずれも誰でも簡単に行える運動です。

最も効果的な運動は、安静時脈拍60を90ぐらいまで増やすのを目安としています。週3回のウォーキングを毎回30分間行うことが有効基準の最低ラインです。犬の散歩はさほど効果がありません。犬に引っ張られて歩くことになるからです。あくまでも“自分の意思”で歩くことが大切です。自信を持つとよりハードな運動へ移行しようとする人がいますが、それはお勧めしません。重要なのは運動習慣を持続すること。ハードな運動に変えて続かなくなったら元も子もありません。

また、活性酸素とは直接の因果関係はありませんが、「頭を使う習慣」もアルツハイマー病を予防するのに有効な方法です。頭を使う習慣を実践している人のアルツハイマー病の発症率が30%減るという調査結果がそれを物語っています。 頭を使う方法で私が勧めているのが「報酬型」です。それを行うと楽しくなるという“報酬”が得られるもの。マージャン、囲碁、将棋、チェス、トランプ、花札、オセロなどのゲームですが、ここで重要なのが「他人とのコミュニケーション」を取りながら行うこと。他の人との交流によって楽しい気分になれる。それが認知症を防ぐのに大きな効果を挙げています。

認知症患者と一緒に「遊ぶ」「笑う」

ここまで認知症になる前に行っておきたい予防の方法をご説明しました。認知症は75歳以上になると急激に発病率が高くなります。ベータたんぱくの有無に関わりなく、高齢者はすべからく認知症に対する予防を心がけることが重要だと考えます。 そのためには、高齢者自身が先ほど述べたような生活習慣の見直しを行うことはもちろんですが、医療従事者、たとえば医師や看護師が高齢患者に、あるいは高齢者福祉施設において介護士などが入居者に対して生活習慣改善のアドバイスを行うことが重要です。

しかし、そこで注意したいのはいわゆる“上から目線”で指導するという“押し付け”を行わないこと。あくまでも相手の気持ちを尊重してやさしく“導く”ことが必要です。たとえば、福祉施設では入居者ととにかく「遊ぶ」、そして一緒に「笑う」。これが大切です。

須貝 佑一 氏
【略歴】
1969年 東京大学医学部卒
1969年 朝日新聞入社
1980年 京都府立医科大学卒
1980年 川崎市立川崎病院 精神科
1982年 国立精神・神経センター武蔵病院
1990年 社会福祉法人浴風会病院 精神科
2000年 認知症介護研究・研修東京センター 副センター長
【役職】
社会福祉法人 浴風会 認知症介護研究・研修東京センター 副センター長
浴風会病院 精神科 日本老年精神医学会評議委員
【資格】
医師免許 日本老年精神医学会専門医、指導医、精神保健指定医
【主な著書】
『認知症の最新治療法』洋泉社、2012年
『死ぬまでボケない頭をつくる』すばる舎、2012年
『認知症の最新治療法がわかる本』洋泉社、2011年
『認知症のすべて 血管性認知症』永井書店、2011年
『本人と家族のための認知症介護百科』永井書店、2010年
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