今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第129回 2014/01

新看護方式PNSが日本の看護界を変える

福井大学医学部附属病院の看護部から始まった新しい看護方式「PNS」。これまで当たり前だった超過勤務をなくし看護師のWLBも実現させた、革命的な新方式に全国の病院から注目が集まっています。福井大学医学部附属病院の橘幸子さんと大北美恵子さんのお話しには、労働環境の改善にお悩みの病院にとってたくさんのヒントがちりばめられていました。

福井大学医学部附属病院
副病院長・看護部長
看護部 情報担当看護師長
橘 幸子(右)氏 大北 美恵子(左) 氏

福井大学医学部附属病院 看護部

労働環境を改善するために生まれた看護界初の看護方式

 2006年の入院基本料改定で当院は7対1の看護配置に変わり、看護師を大幅に増員したことで労働環境の改善に大きな期待を膨らませていました。しかし実際は、現場の忙しさは変わらず超過勤務も減らない状態。看護師は黙々と業務を進めるあまり、職場からはいつしか会話が途絶え、新人は不安があっても先輩に確認することを躊躇してしまうなど、他のスタッフへの気遣いも薄れてしまうような環境でした。そのような状況下にあった2009年、全病棟の中でもより忙しい消化器外科病棟で、超過勤務がどんどん減っているということに気がついたのです。その背景にあったのが、看護師長を中心に消化器外科病棟で独自に発案し取り組んでいた「PNS(パートナーシップ・ナーシングシステム)」という看護方式でした。
PNSとは、二人の看護師がペアになって、お互いの受け持ち患者の情報を共有しながら二人三脚で看護を提供する方式のことです。序列関係ではなく、対等な立場で相互に補完し合いながら、成果と責任を共有するものです。もともと多忙だった病棟が成果を挙げているということで、看護部でも2011年の目標にPNSを掲げ、各病棟での取り組みを一斉にスタートさせました。

課題はパートナーシップマインド。調整を重ねながら完成形へ

 まずは看護部全体説明会においてスタッフへの浸透や進め方などの話し合いを行いました。消化器外科病棟への見学や研修による交流、質疑応答などを繰り返し、8月の発表会では他の病棟の進捗を確認するなど、各病棟が切磋琢磨しながら環境を整えていきました。また、看護師長や副看護師長の研修会においても頻繁に議題に取り上げて意識づけを強化するなどし、徐々に体制づくりが進んでいきました。
もちろんすべてが順調だったわけではありません。現場からは不満や戸惑いの声が聞こえ、なかなか成果が表れない病棟もありました。すべての業務を二人で行うにあたり、ケアの進め方や時間の管理、指示の受け方など、これまで何年も実践してきた“自己流”のやり方を崩すことができなかったり、初めての試みで相手への気遣い方がわからないといったことに原因がありました。二人で10人の患者さんを担当しても、5人ずつに分けて対応してしまうなど、二人三脚の体制が守られずにPNSの仕組みが崩れてしまうケースもありました。そこでスタッフの「パートナーシップマインド」に対する理解を強化する必要があると考え、2年目からは全看護師を対象に勉強会を実施することにしました。

大北 勉強会では、先輩から後輩へ技術指導をするシーンを撮影したDVDを上映し、教え方がスムーズでない事例や、ペアの関わりや声のかけ方が良い事例などを学びます。その後、良かった点や注意すべき点などについてディスカッションします。「この場面ではこういう風に声をかければ良かったのか」と自分の言動の振り返りにもなりますし、どのような発言が相手の気持ちを損なっていたのかなどを改めて確認できます。

 現場にPNSを浸透させるためには、スタッフのマインドへの働きかけが大切です。例えば、1年目の新人と10年目の看護師がパートナーであっても、対等な立場で相手を認めるとはどういうことなのか、どのような気持ちでペアに接すればスムーズな関係づくりが成り立つのかといったことを伝えながら、PNSへの理解を深めていきました。

3年目にして多くの成果が表れた。PNSがもたらすメリットとは

 PNSの取り組みを開始して3年目にあたる2013年は、「熟成の年」としてPNSの完成を目指しました。現在はほぼ全病棟の足並みがそろい、PNSを実践しています。それぞれの病棟では、新人教育や業務の効率化などのさまざまな場面で成果が表れています。 例えば教育面においては、先輩の処置や患者さんとの接し方などを直に学ぶことができ、新人看護師のレベルアップが図れます。看護師にとって患者さんとのコミュニケーションは何よりも大切で、会話の中で患者さんの症状や訴えを読み取る必要があります。新人看護師が患者さんとの会話につまずいても、横から先輩がフォローに入ることで、患者さんにとっても安心ですし、新人も「こういう風に伺えばいいのだな」とその場で理解することができます。さらに、これまで新人では担当できなかった重症患者も、先輩と共に受け持つことができるようになるなど、新人の独り立ちが早くなる結果も生みだしています。

大北 今までできなかった処置ができるようになったとき、側で見てくれる先輩から「上手にできるようになったね」と成長を認められることは、新人看護師にとって何よりの励みです。看護師としての充実感や達成感、さらには新人の離職防止にもつながっていると思います。

 実際の数値にも表れていまして、平成15年以前の全体の離職率は15~16%程度でしたが、去年は4.3%と激減しています。2011年度の全国平均の10.9%(常勤)と比較するとかなり少ない結果になっています。
また、業務面でも超過勤務が全体的に減少する結果が表れています。超過勤務の理由のほとんどが看護記録の記載です。PNSでは、ペアで患者さんのベッドサイドへ行くため、一人は患者さんと話しながら容態を確認し、もう一人はそれらの情報を見聞きしパソコンに記録することができ、その場で記載業務を終わらせることができるのです。さらに、話している看護師が何かの情報を聞き忘れたとしても、パソコンで情報を確認している看護師がフォローできるというメリットもあります。

大北 体位変換やおむつ交換など、看護師の業務には一人ではスムーズにできない作業があます。忙しい時間帯などに他のスタッフや先輩に手伝いをお願いするのをためらいがちになっていたところを、ペアという頼みやすい相手がいることで、あらゆる作業を先送りする必要がなく、その場で完了させることができます。ナースコールの対応などでこれまでは中断しがちだった業務も、一人が残ってもう一人が呼んでいる患者さんの元へ行くといった対応が可能なため、看護の質の担保にもつながっているようです。
ただし、二人で業務を担当することで、「ペアが確認したからOK」と、相手の判断に依存してしまうようなことはあってはなりません。

 例えば、TさんとDさんのボトルの名前の読み間違いなど、今まで一人では見逃しがちだったことも二人だと確実に気づくことができる。そういった相互の補完にPNSを役立てるべきなのです。

スタッフ同士の明るい会話が病棟を飛び交うように

 このようなスタッフ同士の支え合いの中で、「準備してくれてありがとう」「その処置は初めてなら一緒にやろう」と院内ではどんどん会話が飛び交うようになり、病院全体が明るくなりましたね。新人でも疑問を感じたら先輩に意見を伝えられる関係性が育ち、カンファレンスや病棟会などの場面でも活発なディスカッションが行われるようにもなりました。

大北 苦手意識があった相手でも、ペアになってじっくり向き合えたことで、新たな一面が発見できたり、マイナスイメージがプラスに転じたスタッフもいるんですよ。

成功の要はブレない方針と古い固定観念からの脱却

 これまでお話ししたように、PNSは看護師にとってイイコトづくしな方式です。多くの病院に取り組んでいただきたいと考えていますが、導入にあたっては必ず守っていただきたいことがあります。それは、「ルールは絶対に崩さないこと」。ここでいうルールは、「仕事のやり方や性格、考え方などの違いを活かして病棟会などの場で同僚に昇任を得て、自分でパートナーを選ぶ」、「そのパートナーを副看護師長(主任)を中心にしてグループを作る」、「毎日の仕事を行うペアを決める際は、補完性の原理を活かす」ことです。そしてもうひとつ大事なのが、「やると決めたら最後まで貫き通すこと」です。業務は必ずペアで行い補完性の原則を崩さないこと、そしてたとえスタッフから不協和音が出たとしても、看護師長を中心に最後までブレることなく、必ずやり遂げてください。

大北 「この時間帯は忙しいからフリーが必要」「点滴係はなくさない」といったこれまでのやり方に固執していては変わりません。「こうだからできない」ではなく、「どうしたらPNSを導入できるのか」という発想の転換が大切なのです。

 看護師は定時に帰れますから、デートの約束もできますし、夫や子ども達との時間もつくれます。PNSで労働環境が必ず良い方向に変わります。一人でも多くの看護師の幸せのために、PNSが役立つことを願っております。

橘 幸子 氏
【略歴】
1975年 国立金沢病院附属高等看護学院 卒業
1975年 国立金沢病院 入職
1992年 国立山中病院 看護師長
2003年 国立金沢病院 副看護部長
2004年 福井大学医学部附属病院 看護部長
2007年 同病院 副病院長・看護部長
2007年 福井大学大学院 医学系研究科看護学修士課程 修了
【役職】
副病院長、看護部長
【資格】
看護師

大北 美恵子 氏
【略歴】
1982年 福井県立看護専門学校 卒業
1982年 滋賀医科大学附属病院 入職
1984年 福井大学医学部附属病院 入職
1992年 同病院 副看護師長
2002年 同病院 看護師長
2006年 福井大学大学院 医学系研究科看護学修士課程 修了
2008年 医療情報技師認定 取得
2011年 看護部医療情報担当看護師長として専任業務にあたり、現在に至る
【役職】
看護部 情報担当看護師長
【資格】
看護師
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