今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第131回 2014/03

患者のため「おいしさをあきらめない」透析食を追求

人工透析治療には食事によるサポートがかかせません。治療効果を優先すると、“味は二の次”となることは“仕方がない”とあきらめがちですが、これに対して「おいしさをあきらめない」ことを打ち出し、外来透析患者さんに治療食を無償提供しているのが、社会医療法人財団 石心会 埼玉石心会病院の関連施設である「さやま腎クリニック」です。治療とおいしさを両立させるノウハウについて、献立を管理する同院で透析食のメニュー開発を監修する管理栄養士の大川清さんにお話を伺いました。

社会医療法人財団  石心会
埼玉石心会病院
コメディカル部副部長
大川 清 氏

社会医療法人財団 石心会 埼玉石心会病院

開院以来四半世紀以上、治療食である透析食を提供


食堂または透析中のベッドサイドで透析食を無償提供
かつては多くの病院で、人工透析を受けにこられる外来患者さん向けに診療の一部として透析食が提供されていました。
ところが、2002年の診療報酬改定で食事加算がなくなってしまったため、無償の食事提供を中止、あるいは実費徴収に切り替える施設がほとんどでした。 しかし、石心会グループの病院およびクリニックでは無償提供を継続しました。透析患者さんにとって、毎日の食事は単なる食事でなく治療の一環です。「透析食は味気ない」という一般的なイメージを覆し、毎日おいしく楽しんで食事療法を続けていただくには、実際に「おいしい透析食」を患者さんに食べていただくのが、もっとも効果的な方法だと考えたのです。

実際、当院の透析食は「おいしい」と好評です。特に、他の医療機関の人工透析施設から当院に転院された患者さんは、非常に驚かれます。また、透析食を食べていらっしゃる患者さんから「自宅でも作ってみたい」という声をいただくこともあり、定期的にベットサイド訪問をしてレシピ資料などの栄養情報を発信しています。「これだけ多くの方に喜んでいただける治療食を中止できない」。法人の理念である「患者主体の医療」の信念のもと、私たちは提供し続けています。

透析食の基本は献立全体でバランスを取ること

栄養指導では「具体的な献立を提示すること」が基本的な考え方となっています。つまり、「バランスよく食べましょう」「野菜を多く食べるようにしましょう」という曖昧な指導ではなく、具体的に何をどのように食べるかを指導することが大切です。ご自宅などでどのような食事を実践すればよいかをご理解いただくには、実物を食べていただくことが最も効果的です。当院での食事が透析患者さんの普段の食事のサンプルになればと考えています。

ここで重要なポイントは「組膳(くみぜん)」です。透析治療のための治療食というと、一般的に1品1品の料理をイメージすると思いますが、1つの料理だけでは透析食は完結しません。主菜、副菜、ご飯、汁物など複数の料理がセットになった献立全体で考えるべきです。これが組膳、バランスなのです。主菜は特に減塩を意識しない料理のときは、その分副菜で塩分を使いません。また、スープ自体の塩分量を減らすのではなく、スープの摂取量を半量にすることで塩分は「半分」つまり減塩になります。全体のバランスを取ること。それが透析食で心がけるべきポイントです。

減塩の技と食材にこだわった食事を提供

減塩のポイントは、「塩の代わりに砂糖を使う」こと、「表面に味をつける」のふたつ。例えば、主菜のすき焼きを減塩せずに普通食と同じ作り方をした場合、副菜のトマトマリネには塩を使いません。「きゅうりもみ」では塩の代わりに砂糖を使用してきゅうりをもむという工夫をしています。塩もみは、浸透圧の原理で塩により野菜を脱水することにありますが、これは砂糖でも同じ効果があるからです。野菜ならほとんどこの方法が通用します。
2つ目の減塩テクニックは「振り塩」です。食材の表面に少量の塩をからめるだけで、塩の味がしっかり感じられます。食べ物を口に入れた時、舌が表面の塩気に直接触れるため、塩味を強く感じることができ、塩を多く使う必要がないのです。

また、使用する食材にもこだわりがあり、野菜の仕入れは優先的に地元埼玉産を心がけています。これは「品質」と「おいしさ」を追求しているためで、ほかの食材も国産のものを選んでいます。当院では調味料も「みりん風味」ではなくて「本みりん」、「料理酒」ではなくて「清酒」、塩は「精製塩」ではなくて「伯方の塩」、お酢も合成酢や穀物酢でなく「米酢」を使用しています。醤油も濃口で品質の高いものを選択します。減塩を仕立てる時、高品質の醤油のほうが“薄く”のばしても味がしっかり感じられるからです。

透析中または透析後に食事を提供

人工透析患者さん向けの食事は、さやま腎クリニック内の食堂でも提供しています。以前は、さやま総合クリニックの中に透析部門を開設していましたが、2008年に腎臓病専門のさやま腎クリニックとして分離した際に、食堂も併設しました。これは透析終了後に食事を食べる「後食べ」を希望される患者さんが増えたからです。

かつては透析中に食べる「先食べ」が主流でした。しかし、先食べの場合、食事をすると胃腸の動きが活発になり胃腸に血流が集中し、気持ちが悪くなる場合があります。それを防ぐために「後食べ」は有効です。また、透析中は片腕が使えず一方の腕だけでは食べにくく、ゆっくりと味わえる「後食べ」を希望される方も多いのです。 患者さん個々人のタイミングに合わせて適温配膳車に保管した透析食用の料理を盛り付けて提供するのが当院の流れです。

自宅での透析食作りを患者や家族に提案

当院では食事の提供だけでなく、栄養指導や栄養情報の提供も積極的に行っています。 人工透析は週3回ほどの頻度で受けることがほとんどです。2週間に1回、透析を行っていらっしゃる患者さんのベッドサイドに伺って、ご自宅や外食などでの食事の様子や料理、献立の内容をお聞きし、さらに治療のためのアドバイスをする「ベッドサイドラウンド」を行っています。

その際、患者さんは透析中ですから、なかには「話をするのが面倒くさい」とか「眠らせてほしい」という患者さんもいらっしゃいます。その時、お声がけをするツールとして用いるのが、1カ月分、毎日異なるメニューを記した献立表の配布リーフレットです。単に「何を食べているか」「指導を守っているか」という問いかけだけではなく、「これからこんな献立が出ますよ」というアプローチをすれば、患者さんも興味をもってくださいます。さらに「自宅で作ってみようかな」と考えていただけるかもしれません。

個別指導時にご家族に具体的なレシピを提案する場合もありますね。効果的な手法だと自負しています。 ベットサイドラウンドの結果、「こんなものを食べ過ぎていた」とか「なかなか指導が守れない」などという回答があった時は医師に報告し、その患者さんの診察データと照らし合わせて指導内容を検討します。後日、相談室で管理栄養士が患者さんに個別指導を行うのです。また、場合によっては、「昨日食べたものを書き出して、明日来院する時にお持ちください」と依頼し、それを精査することもあります。 個別指導は患者さんご本人だけにお話をするということはほとんどなく、多くの場合はご家族に同席をお願いしますし、時にはご家族にだけお会いすることもあります。やはり食事の管理、栄養の管理のキーパーソンはご家族です。

減塩していても「おいしい食事をあきらめない」


『埼玉石心会病院の 入院させない健康献立』より「さんまの焼きびたし」(撮影:千葉充)
患者さんから好評の声をいただいたおかげで、2013年9月『埼玉石心会病院の入院させない健康献立』(主婦の友社)を出版いたしました。この本は、塩分の摂り過ぎが高血圧や慢性腎臓病の大きなリスクであることから、「1食あたり塩分2グラム以下※」かつ「おいしさをあきらめない」料理のメニューとレシピを紹介したものです。特に慢性腎不全で人工透析を受ける患者さんに向け、安心して召し上がれるように制限しなければならない水分、カリウム、リン、たんぱく質も考慮しています。そして、透析食として1人前だけ特別に調理をするのではなく、同居家族が一緒に食べられる「健康食」としてとらえていることが特徴です。

当埼玉石心会病院が開院して以来、四半世紀が過ぎましたが、この間、考案して蓄積した透析食を含む治療食の料理レシピは5,000アイテム以上に上ります。その中から選りすぐりのレシピを一冊の本にしました。今後も「おいしさをあきらめない」透析食を追求していきたいと考えています。

※1日当たりの塩分量は、健康な人で10g以下、慢性腎臓病ガイドラインでは6g未満を目安としている。

大川 清 氏
【略歴】
1985年 3月 中村学園大学 卒業
1987年 1月 医療法人財団 石心会 狭山病院(現:埼玉石心会病院)栄養室 入職
2013年 2月 栄養室よりコメディカル部管理室へ異動
2013年 4月 狭山病院より埼玉石心会病院と名称変更
【役職】 石心会本部フードコーディネーター 埼玉石心会病院 コメディカル部副部長(チーム医療担当)
【資格】 管理栄養士 TNT-D(Total Nutrition Therapy for Dietitian )認定管理栄養士 TNT-Dコアインストラクター(日本栄養士会)
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