今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第134回 2014/06

リーダーによるラインケアが介護スタッフのメンタルヘルスを支える

介護職は「ストレス負荷の高い職業」と言われています。ストレスに耐えながら頑張りすぎた結果、うつ病などの精神疾患に陥るなど、心の健康に悪影響を与えることも多い職業です。介護職のメンタルヘルスケアは、個人の力だけでは対処しきれないことが多いため、介護リーダーなどが中心となって部下に対するラインケアに取り組むことが求められています。今月は、介護職のストレスマネジメントに篤い、国際医療福祉大学大学院の小野寺敦志准教授にお話を伺いました。

国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 臨床心理学専攻 准教授
小野寺 敦志 氏

国際医療福祉大学大学院

職員同士の人間関係がストレスの原因に

不規則な交代制勤務や専門職にも関わらず低い賃金、認知症の利用者さんのケアへの戸惑いなど、介護職はストレスを抱えることが多い職業です。ストレスがたまると、ケアの質の低下や虐待を引き起こす原因にもなります。そのため、介護職にはメンタルヘルスケアが欠かせません。

介護労働安定センターの平成24年度の調査によると、前職の介護の仕事を辞めた理由として最も多かったのが、職場の人間関係の問題。続いて施設の理念や運営に不満があったことを挙げる結果が多く、それぞれ約24%を占めました。これは、給与面(16.9%)や将来への不安(15.9%)などの他の項目と比較しても割合が高い結果です。このような結果からも、人間関係の問題や施設の運営方針への不満などの理由でストレス負荷が高まっていることがうかがえ、介護職員のメンタルヘルスへ大きな影響を与えていると思われます。

※データは「平成24年度 介護労働実態調査結果(介護労働安定センター調べ)」より引用
http://www.kaigo-center.or.jp/report/pdf/h24_chousa_kekka.pdf

介護リーダーによるラインケアが重要

職場の人間関係を改善したり、労働環境をより良く整備していくことが、職員のストレス軽減のための方法だと言えます。しかし、これらに対応するためには個人の力だけでは限界があるため、組織的に取り組む「ラインケア」が必要です。ラインケアとは、管理職が部下に対して行うメンタルヘルスケアのことで、内容は大きく分けて「職場環境の把握と改善」と「部下への個別相談対応」の2つとなります。ラインケアの要となるのは、現場の職員のことを最も把握している介護リーダーです。一般的に多くの施設で行われているラインケアは、介護リーダーが職員とともに職場環境や業務内容における問題を洗い出し、施設全体の共通課題として解決策を探っていくケースが多いとされています。

例えば、リーダーが職員の仕事の様子を観察して、職員間や利用者さんとの関係を把握したり、定期的に個別相談や面談を実施して、職員の現状を確認したうえでのストレスマネジメントを行います。問題が発生したときにだけ面談をするのではなく、問題がなくとも定期的な面談を実施し、状況把握をしておきましょう。普段からコミュニケーションを取っていれば、ストレスが極度に達する前に、メンタルサポートや予防策を打つことができるかもしれません。また、介護リーダーはセルフケアの力を向上させるために、ストレスに関する知識やセルフケアの方法を職員にアドバイスする役割も担います。部下に対する適切なサポートを行うために、介護リーダー自身がメンタルヘルスに関する知識やラインケアのスキルの向上を心がけることも大切です。

グループワークを通じて職員が主体的に介護に臨める環境づくりを

研修や実務を通して、施設の運営方針と職員の介護業務に対する考え方をマッチングさせることも介護リーダーの役割の一つです。職員に施設が掲げている方針や理念を理解させ、いかに実際の介助業務と結び付け、具体的なケア内容に昇華できるかを考えていきます。

例えばある施設では、法人理念をもとに介護に関する一年間の業務目標を作ることを目的としたグループワークを行いました。各フロアのリーダーを中心に、スタッフ全員の意見を反映した介護業務目標を作成します。施設の介護職員は、主にローテーション式の勤務形態のため、全員で集まって意見を言い合う場をつくることはなかなか難しいものです。そのような状況下でも、各フロアで意見の聞き方を工夫してもらい、必ず全員に意見を出してもらうようにしました。あるフロアでは、中心となるスタッフを仲介して進めましたし、別のフロアではアンケートを収集し、リーダーが集計してフィードバックする形で進めました。

介護業務目標を決定するまでのプロセスを職員一人ひとりの目に見える形で進めることで、目標に対する関心度が高まります。上司が一方的に決定した目標ではなく、職員が自ら決めた目標ならば、仕事に対するモチベーションややる気が増幅されるでしょう。また、副次的な効果として、職員の一体感が生まれる可能性が高いこともグループワークの利点です。方針・理念をもとにした目標を施設全体で共有することで、統一した介護の提供も可能となります。

ピアサポートでリーダー自身もガス抜きを

介護リーダーは、施設の管理職と現場の職員のハブとなる大切なポジションです。上司と部下にはさまれる中間管理職の役割に負担を感じ、燃え尽きてしまうことも少なくありません。部下のメンタルヘルスケアに積極的に取り組むことは大切ですが、自分自身のケアを怠らないことも大変重要なのです。では、介護リーダーはどのように自分をケアしていけばよいのでしょうか。

私は「ピアサポート」、つまり各フロアのリーダーたちが集まり、同じ立場にいる者が支援し合うことをおすすめします。仕事のやり方や部下の指導方法などをリーダー同士が共有する時間を作ります。内容は愚痴でも構いません。他人に聞いてもらうことで気持ちが整理できたり、胸のつかえが取れたりすることがあるのです。同じ施設内でも、普段は交流する機会が少ない場合も多いので、私が介護リーダー向けのメンタルヘルスの研修を行うときは、グループワークで相互交流していただくようにしています。グループワークを通じてリーダー間の関係が深まるとうれしいですね。

また、別の手段として、介護職向けのメンタルヘルスの相談窓口があります。事業所が専門家と契約していたり、各都道府県の社会福祉協議会が中心となって相談窓口を立てているところもありますので、それを利用してみるのも良いでしょう。

ストレス軽減中心の環境から楽しく仕事ができる環境へ


ストレスの原因となるものを排除・軽減することがメンタルヘルスケアの一つの方法です。しかし、いくら対策を講じてもストレスを完全になくすことはできないでしょう。
だからこそ、考え方を少し変えてみると良いかもしれません。私は、ストレス対策を重点化するのではなく、職員が主体的に楽しく仕事をすることを目指した取り組みを考えていただくと、結果的に良い方向に向かうのではないかと考えます。対人ケアの現場では、職員のメンタルヘルスの向上がケアの質の向上にも直結します。眉間にしわを寄せてため息をつきながらケアをするよりも、笑顔で生き生きと仕事にあたる方が、利用者さん側にとっても良いと思いますね。

職員と管理職、研究者が協同でつくる職場環境

厚生労働省が労働者のメンタルヘルス検査を義務化したことにより、数年前と比べると介護界でもメンタルヘルス教育や知識は広がってきました。しかし、現在主に進められているのは一般職員向けのセルフケア研修であり、管理職向けのラインケア研修に関する情報はまだまだ不充分なのが現状だと思います。メンタルヘルスの知識を得るだけでなく、現場のラインケアにも応用していけるよう、私たち研究者や関連団体がセルフケアとラインケアのノウハウを提供していくことも大切です。

意欲をもって仕事に向きあえる環境は、一般の職員やリーダー職などの現場の人々だけでつくり上げられるものではありません。理事長や施設長クラスの管理職もメンタルヘルスケアの重要性を理解し、施設全体で対策を進めていかなければ、心身ともに健康で働き続けることのできる環境整備は難しいものです。施設に関わるすべての人々がより良い職場環境をつくろうという意識をもって、メンタルヘルス対策の体制づくりを進めていければ良いと思います。

小野寺 敦志 氏
【略歴】
1987年 日本大学文理学部心理学科卒業
       特別養護老人ホーム 特別養護老人ホーム菖蒲荘 生活指導員として勤務
1990年 聖マリアンナ医科大学病院神経精神科 臨床心理職として勤務
2001年 認知症介護研究・研修東京センター研究企画主幹
(2005年に,「認知症」への名称変更に伴い現名称に呼称変更)
2009年 国際医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 臨床心理学専攻 准教授
【資格】
臨床心理士、精神保健福祉士、介護支援専門員
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