今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第136回 2014/08

インターネットが変えた医療情報のあり方

インターネットの普及により、さまざまな医療情報を手に入れることができるようになりました。患者が自分の病気についての情報を入手しやすくなっただけではなく、患者自身が情報の発信者にもなっています。日経BP社で2014年春まで医学記者を務めていた北澤京子氏に、インターネットで医療情報を収集するメリットとその際の注意点についてお話を伺いました。

医療ジャーナリスト
京都薬科大学客員教授
北澤 京子 氏

京都薬科大学

医療従事者と患者の情報格差を縮めたインターネットの普及

私は2014年3月まで日経BP社で記者を務めていました。現在は京都大学で、患者・市民が医療情報を読み解くための方法論について研究を始めています。
昔は、患者は自分の病気の治療方針について、医師の言うことにただ従っていたケースが多かったのです。医療従事者が圧倒的に多くの情報をもつ一方、患者はほとんど情報をもっていないという“情報の非対称性”があったためです。しかし、インターネットで誰もがさまざまな情報を得ることができるようになり、患者がアクセスできる医療情報も格段に増えました。自分の病気や治療法について調べたり、専門医のいる病院を探したり、セカンドオピニオンを求めたりと、インターネットで得た情報を基にして自ら行動する患者も珍しくなくなってきました。

患者が情報を得て、自身の治療の選択肢の幅を広げられるのは良いことだと思います。ただし、注意しておきたいのが、インターネット上の情報は必ずしも正しいものばかりではないということです。情報量は莫大なうえ、玉石混淆です。わずかな情報のみを信じて行動し、本来ならば治療が必要なのに、自己診断で対処してしまい、病気が悪化し後悔することもあるかもしれません。情報があっても、うまく活かせなければ意味がありません。

これまでは、新聞やテレビ、書籍といったメディアが情報を取捨選択したり、専門的な知識をわかりやすく提供する役割を担ってきました。しかし、今はマスコミを経由せず、インターネットで患者に直接情報が届くようになってきています。そのため、患者自身が「自分に本当に必要かつ正確な医療情報」を取捨選択するリテラシーが、これまで以上に必要になってくるのです。質の高い情報を選ぶためのポイントを押さえておくと、自分に合った情報をさがしやすくなると思います。私は現在、身の回りにある医療情報が信頼できる質の高いものかどうか、自分で判断するための簡単なチェックリストができないかと考えているところです。

多量の情報に惑わされないためのチェックポイント

では、必要な情報を選択するには、どのような点に気を付ければよいのでしょうか。
まず、「いつの情報なのか」が一つの判断材料となるでしょう。新薬が開発されたり、新しい治療法やガイドラインができたりと、情報は日々更新されています。以前は正しくても今は正しくないという類の情報もありますので、その情報が最新のものかどうかをチェックする必要があります。ですが、インターネット上の情報には更新された日付がわからないものが意外と多いのです。何年も前の情報が、最新の情報と区別されることなく残っていることもあります。SNSなどで情報がどんどん伝わっていくので、いつの情報なのかがいっそうわかりにくくなっているようにも思います。
情報の出所、つまり「だれが発信した情報なのか」ということも、情報を判断するポイントになります。医療に限らないのですが、信用して読んでいたら、実は商品の宣伝だった、ということもあり得ます。

インターネットで情報を提供する側の医療機関などには、その情報をいつ、だれが発信したかを明確にしていただきたいと思います。細かなことですが、「今年」や「去年」といった表現は避け、「2014年」など西暦や年号できちんと明記してもらいたいものです。

多くの患者体験が臨床研究のヒントに

患者自身がブログやSNSで自分の体験について発信することができるようになったのも、インターネットによる大きな変化の一つです。医療情報を収集するだけでなく、患者自身が情報の発信者になっているのです。
イギリスには、ヘルストークオンラインという、患者の「語り」をたくさん集めたデータベースサイトがあります。さまざまな患者が自身の体験を語る様子が、動画で公開されています。これらの「語り」は、貴重なデータとして、公的な報告書の中で活用されることもあるそうです。患者の「語り」のデータベースは、イギリスだけでなく世界中に広がっており、日本ではディペックス・ジャパンが活動しています。2014年8月現在、「認知症」「前立腺がん」「乳がん」の「語り」が公開されています。今後発展していけば、とても価値の高いデータベースになると思います。

というのも、集められた患者や介護者の「語り」は、別の患者が自身と比較するのに役立つだけではなく、医療従事者にとっても有用な情報源になるからです。看護師や医師、薬剤師、医学生などの教育にも、ディペックス・ジャパンの「語り」が活用されています。患者が治療に対して感じていることや治療の副作用など、患者にとって「よかったこと」「困っていること」を具体的に知ることで、次の研究のテーマも見えてくると思います。

情報は一方通行から双方向へ

医療情報は従来、医療従事者から患者への一方通行でした。しかしこれからは、患者・医療従事者双方の情報共有・情報交換が盛んになっていくと予想しています。
例えば、自分が勤める病院で抱えている問題について、看護師同士が意見交換できるWebサイトがあります。今後はこうした、同じ職種間のコミュニケーションに加えて、患者と医療従事者が共に参加するコミュニケーションも発展していくのではないでしょうか。現場の看護師が抱える問題に対して、ケアを受ける患者の立場からの意見やアドバイスがあれば、参考になることも多いと思います。

インターネットがなかったころは、個々の医師や看護師が患者の声を聞きたいと思っても、ヒアリングできるのは自身のまわりの患者に限られていました。しかし、インターネットは日本中どころか世界中の患者の声を聞くことを可能にしました。医療従事者が一方的に情報を提供するのではなく、患者とコミュニケーションを取りながら、ともに治療に取り組んでいくことができればよいですよね。今後、患者と医療従事者をつなぐネットワークが広がっていくといいと思います。

大切なのはお互いの話をよく「聞く」こと

インターネットは患者にも医療従事者にも、たくさんの情報を提供してくれます。医療従事者と患者の間の“情報の非対称性”は、まったくなくなることはありませんが、従来に比べれば両者の距離は縮まっているといえるのではないでしょうか。最近ではご自身の病気について、インターネットを駆使して非常に多くの情報を集めている患者もいます。臨床技術や経験、医学的な知識は、医療従事者の方が豊富なのは当然ですが、患者自身のもっている情報が治療の参考となる可能性も高いのです。患者自身の情報や実体験について医療従事者がよく「聞く」ことで、患者からさらに情報を引き出せれば、その患者に合ったより良いケアへつなげていくことができるかもしれません。

高血圧や糖尿病などの慢性疾患の患者が増える中で、医療従事者には、患者の病気を治すことだけを目標とするのではなく、患者が日常生活を続けながら治療を継続できるように伴走することが求められていると思います。そのためにも、まずは患者の話をよく聞いて、どうしていくのかをともに検討していくことが、より重要になると考えられます。患者と医療従事者が双方向で情報を共有しながら、その患者にとって一番良い治療方法を探って行けると良いと思います。

北澤 京子 氏
【略歴】
1984年 京都大学理学部卒業
1994年 日経BP社入社
2007年 ロンドン大学公衆衛生学・熱帯医学大学院公衆衛生学専攻修士課程修了
2014年 同社退社後、京都大学医学研究科社会健康医学系専攻進学、 京都薬科大学客員教授
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