今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第137回 2014/09

「主治医は二人」の体制づくり。紹介状などを介して進める地域医療

2014年7月、厚生労働省は「紹介状(医療情報提供書)のない患者が大病院を受診した際に一定の定額自己負担を求める」仕組みの検討を打ち出しました。患者が大病院に集中する傾向が続いていることが、この背景にあります。今回は東京女子医科大学病院の瀬下明良医師に、合理的な医療の提供に向けた地域医療機関との連携についてお話を伺いました。

東京女子医科大学 第二外科学教室准教授
東京女子医科大学病院 社会支援部 運営部長
瀬下 明良 氏

東京女子医科大学
東京女子医科大学病院

大病院志向・利便性への期待が大病院の運営を圧迫

大病院への患者の集中が問題になっています。その原因として、患者が抱くふたつの心理が挙げられます。ひとつは大病院志向です。規模の大きな病院は設備が充実し、手術などの治療経験も豊富だろう、という信頼感があるものと思われます。そしてふたつ目が利便性です。多くの診療科があるため、複数の病気を抱えていてもひとつの病院で治療をまとめられる、また科同士の連携も行われるだろう、という期待があると考えられます。
しかし、医療機関には、規模に応じて担う役割があります。大病院は特定機能病院や地域医療支援病院として承認されていることが多く、専門的で高度な医療や救急医療を提供しています。一方、地域の小規模病院や診療所は風邪など一般的な病気についての相談を受け付け、治療を行っています。

大病院に軽~中等度の病態の患者が集中した場合、その対応に追われて専門的・高度な医療や救急医療の提供など担っている機能を充分に果たすことができなくなります。患者さんにとっても、待ち時間が長くなるなどのデメリットがあります。

したがって、いつどんな状態でも大病院にかかることがよいとは言えません。患者さんが合理的かつ効果的な医療を受けるためには、状況に合わせて適切な選択をすることが大切です。いつでも足を運べる場所にある小規模病院や診療所を「かかりつけ医」として、普段の生活スタイルや健康管理、病気の履歴などを把握してもらいます。ひとつの分野に特化した専門医とは異なり、かかりつけ医は患者さんを総合的に診る医師が多く、病気やけがの初期診断と治療を担います。そしてかかりつけ医が「専門的な治療が必要」と判断する場合は紹介状を書いてもらい、大病院にかかるという手順です。しかしこうした「状況に合わせて医療機関を使い分ける」ことのメリットは、まだ一般に浸透していないと感じています。

厚生労働省が「紹介状のない患者が大病院を受診した場合、一定の自己負担を求める」仕組みを検討しているのは、こうした問題の是正に向けてのことと考えられます。それぞれの医療機関がもつ機能の振り分けを明確にし、国民への周知を図ることがねらいでしょう。

看護師やMSW、事務職からなる、地域医療機関との連携部署を設立


東京都新宿区を拠点に約40の診療科、1,423床を有し、特定機能病院の承認を受け地域医療の基幹病院となっている当院でも、他の大病院と同様、患者さんの集中が生じています。現在のところ、多くの科では紹介状を持たない初診患者さんについても診察を行っていますが、軽~中等度の患者さんも多く、当院が担うべき高度医療にかけるマンパワーや時間が圧迫される事態も生じています。そのため、「紹介状がない場合は診察を引き受けない」方針を検討している診療科もあります。

こうした状況の改善に向けて、当院では小規模病院や診療所など、地域の医療機関との連携に取り組んでいます。かかりつけ医が一般的な病気の診察と治療を担い、専門治療が必要と判断した場合は紹介状を発行して、患者さんに当院を受診してもらいます。治療した患者さんの病状が落ち着いたら当院からかかりつけ医にお戻し(逆紹介)し、病状管理を引き継ぎます。

 
この推進役となっているのが、「社会支援部」です。看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)、事務職員が集まり、地域医療連携業務を担当しています。従来、紹介状のやり取りや転院先の手配は事務、保険や介護に関する手配はMSW、患者や家族への退院後の生活指導や患者の状態についての在宅診診療所等への申し送りは看護師と、担当業務がそれぞれ分かれていました。これらの業務には重なる要素もあり、部署として統合した方が合理的に進められるだろうということで、2012年に社会支援部が発足しました。その結果、業務効率が向上するとともに、情報交換もスムーズになり、より充実した支援ができるようになったと感じています。

医師も含めた委員会を設置、適宜グループをつくって多様な課題を解決

当初より、社会支援部には実務を担当する専属の医師が所属しておりません。そのため、地域との医療連携で生じている課題について、病院として十分な対策をとることに時間を要していました。
そこでこのような問題を解決するため、社会支援部の中に「医療連携推進委員会」を設置しました。ここには各科から選出された43名の医師が所属し、月1回集まって、課題として挙げられたテーマについて話し合います。重要な課題について看護師やMSW、事務職を含むグループをつくり、それぞれの立場の意見やアイデアを集約しながら解決策を追求しています。このグループは課題が解決した段階で解散されますが、過去には「緊急入院」「逆紹介」「返書」「後方連携」などがテーマとなりました。

「緊急入院」のグループでは、地域の医療機関から患者さんの受け入れの要請があっても、ベッドの空き状況などにより引き受けられないケースが取り上げられました。当院は規模の大きさもあり、各科では担当する病棟のベッドの空き状況しか把握できないため、「うちの科には空き病床がない」と断ってしまうことがあったのです。この問題について対策を検討した結果、病院全体のベッドの空き状況をすべて把握する看護師との連携を強化することにしました。緊急入院の際、該当の科にベッドの空きがない場合は、この看護師が他科に空き病床があるか確認し、入院の手配を行います。こうした体制を整えることで、受け入れ態勢の充実を図りました。

「逆紹介」のグループでは、地域の医療機関から紹介状を発行されて当院で治療を受け、病状が落ち着いた患者さんをどのようにして元の医療機関にスムーズに戻っていただくかを検討しました。「安定期にあるとはいえ、やはり大病院で継続して診てもらった方が安心」と考える患者さんも少なくありません。「今後は地域の医療機関へ」と伝えると「自分は見放されたのではないか」「もうここで治療は受けられないのか」など、誤解されたり心配されることもあります。そこで安心・納得してもらうための説明の内容や方法などについて考えました。そのひとつが「主治医は二人」という考えです。
このように課題を一つひとつ解決しながら、地域医療連携をよりスムーズなものへと強化していきました。

「主治医は二人」院内や地域医療機関、患者へのさらなる啓発を図っていく

しかしまだ課題はあります。そのひとつが、地域医療機関との連携体制を図る必要性の認知度が高まっていない点です。
入院中、医師や看護師は疾病の治癒を最終ゴールとして目指しています。しかし、地域へ患者が帰るということは、入院から退院前後の生活を含めた患者の状況を適切に捉えていくことが必要です。そうした意味でも、地域医療連携について、大病院の医療者は関心が不充分な傾向があるように思われます。

特に高齢者は、かかりつけ医は患者さんの病状を見るとともに、多くの場合で普段の生活についても十分に注意を払っています。こうした患者さんが当院で治療を受けることになった場合、かかりつけ医からその人の生活スタイルや血圧などの身体情報、風邪などの一般的な病気の履歴などを教えていただくことは重要です。また在宅医療に移行する際には、入院中の環境と日常生活の環境の違いや、引き続いてかかりつけ医が治療を担当するためには、どういう情報を必要とするかなどを、充分に想像することも大切です。こうした面からも、当院の医師には地域医療連携について理解を深めてもらいたいと考えています。

そこで地域医療連携について院内啓発に力を入れ、各科で定期的に開かれている医局会議などで医療連携担当医師が説明をしています。当院と地域の医療機関とがつながり、みんなで協力しながら患者を診る。そういったチーム医療の意識を広げていくことが大切です。
地域の医療機関に対しても、当院の体制や取り組みについて紹介する講演会を年に1回ほど開催しています。会の後は各科の医師が出席する懇親会を行い、直接顔を合わせることで、より密な連携の実現を目指しています。

患者さんへの啓発も引き続き必要です。当院は地域の小規模病院や診療所と密接な連携を結んでおり、切れ目のない医療をめざしていること、「生活スタイルや病歴の把握と一般的な病気の治療」「専門的・高度な医療の提供」と役割は分かれるものの、どちらも一緒に患者さんを担当している体制であること。これを「主治医は二人」と表現し、パンフレットなどを通じて広報しています。状態に応じて医療機関を使い分ければ患者さんの安心度や利便性が高まることを、これからも周知していきたいと考えています。
 

厚生労働省は現在、在宅医療を推進しており、当院でも年間400名ほどの患者さん(社会支援部の看護師が介入する高カロリー輸液などの医療処置が必要な患者さん、介護度の高い患者さん)が自宅での療養を希望されています。在宅医療では地域の医療機関が訪問診療や看護を担当するほか、理学・作業療法士や薬剤師なども関わります。このような状況を背景に、地域医療連携の重要性は今後さらに高まることが予想されます。
医師も、看護師などの医療従事者も、患者さんも、その仕組みについて理解を深めることにより、合理的でより良い医療が成り立っていくのではないでしょうか。

瀬下 明良 氏
【略歴】
1979年 信州大学医学部卒業
1979年 東京女子医科大学病院 第二外科入局
2006年 東京女子医科大学 第二外科学講座 准教授
2012年 東京女子医科大学病院 社会支援部 運営部長
【役職】
東京女子医科大学病院 社会支援部 運営部長
東京女子医科大学 第二外科学講座 准教授
【資格】
日本外科学会 認定医 専門医 指導医
日本消化器外科学会 認定医 専門医 指導医
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