今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第138回 2014/10

「医師は決して万能ではない」。セカンドオピニオンで最も適切な治療を探る

患者さんが主治医とは別の医師に自身の治療方針について意見をあおぐ仕組み「セカンドオピニオン」。どんなに素晴らしい能力をもっている医師でも、間違いは起こり得るものですが、複数の医師が診ることでそれを防ぐとともに、患者さんにとってよりよい治療を探ります。今月は、日本医師会で医師の職業倫理を担当する小森 貴氏にお話をうかがいました。

日本医師会 常任理事
学術生涯教育、倫理、感染症危機管理、予防接種担当
小森耳鼻咽喉科医院 院長
小森 貴 氏

日本医師会
小森耳鼻咽喉科医院

セカンドオピニオンを受診しやすい環境づくり

患者さんの病気について、医師はすべてを理解しているわけではありません。医療の分化が進んだ今、医師は、自分の専門外の分野は適切な判断をその分野の専門医にゆだねる場合があります。このように、主治医が自ら解決できない事態が発生したり、生命にかかわるような大きな判断をしなければならないとき、他の医師に患者データを提供し、意見を求める、その仕組みがセカンドオピニオンです。

紹介を受けた医師は、自分の専門分野を生かして相談に応じ、治療に専念する。そうして患者さんにとって最も適切な医療を提供していくのです。場合によっては、セカンドオピニオンだけでなく、サードオピニオンが入る例も少なくありません。 生命にかかわる重篤な病気の場合、医師から勧められた治療が本当に最善かどうかを不安に思う患者さんもいます。医師は、その不安を察し共感することが大切です。患者さんからセカンドオピニオンを求められる前に、その気持ちを先回りして医師側から「他の医師の意見も参考にしてみましょう」とうながすことも医師の務めだと考えます。

日本医師会では『医師の職業倫理指針』を会員に配布しています。患者の自立性の尊重・善行・公正の3原則を基本とした医師の社会的ルールで、研修会などで周知にも取り組んでいます。その中にセカンドオピニオンについて説明された章があります。「セカンドオピニオンはよりよい意思決定のために推進されるべきであり、他の医師の意見を取り入れつつ最も適切と思われる治療を行うよう努力すべきである」といった内容で、患者からの要望があった場合や、主治医が必要だと判断した場合はセカンドオピニオンを勧めるべきだとしています。 この指針に沿わず、ある患者さんがセカンドオピニオンを求めているのに、主治医がそれを認めないという報告があれば、医師会がその医師に注意をしたり、適切な処分をしたりしています。 「医師会のルールがあるから」「診療報酬が加算されるから」といった理由でセカンドオピニオンを利用するのではなく、医師が自ら他の医師の意見を仰ぐように進め、情報を提供していく。私たち医師会は、その理想形に向かって今後も努力をしていきたいと思います。

政府でも「セカンドオピニオン外来」を設置するなど、患者さんがセカンドオピニオンを利用しやすい体制づくりを進めています。また、診療報酬の評価も高くし、経済的なインセンティブをつけ、医療者・患者双方にメリットのあるものです。ただ、個人的にはこの仕組みには疑問が残ります。別の医師に相談することは、特別に評価されるものではなく、業務の中にもともとあるべきです。セカンドオピニオン外来などという新しい診療科をつくるのではなく、通常の外来でもセカンドオピニオンを求める患者さんの受け入れができる環境づくりを推進すべきと考えています。

検査データやカルテは患者自身のもの

かつては患者さんからセカンドオピニオンを求められたとき、「私を信用できないのか」と不機嫌になる医師が多く、残念ながら今でもそのような考えをもつ人もいます。 しかし、検査や病状のデータは、患者さんご自身のものであり、私たち医療従事者はそれをお預かりしているにすぎません。カルテは当然患者さんが閲覧できるべきであり、求められた医師はそれを断ってはならないと私は考えています。 病状は患者さんの体や精神の状況、生活環境により変化します。そのため、ある疾患を正しく診断するためには、過去のデータと比較することがとても大事です。
10年前のデータを見せていただき、検査値の変化の有無や、各部位の状況などを、現在のデータと比較することでわかることがたくさんあります。 私は金沢で耳鼻咽喉科を営んでいるのですが、当院には突発性難聴やメニエール病など、再発する病気の患者さんの中には、別の病院での診療経験がある方もいらっしゃいます。「過去の聴力検査のデータはありますか?」と訊ねると、最近はお持ちの方も増えてきました。つまり、患者さんにデータを開示したり、複製をご提供する医療機関が増えてきたということです。

また、電子カルテの存在が医師同士や患者さんへのデータ提供を容易にしました。電子化されたデータであれば、保存や複製も便利です。また、従来の手書きカルテは一部略語や外国語をつかっていたり、走り書きで字が読みづらかったりして、医療従事者以外にはとてもわかりにくいものでした。電子カルテであれば読みやすく、患者さんにもお見せしやすくなりました。医師間、医師―患者間でデータを共有する環境が整ってきたのです。 遠い将来、セキュリティの問題をクリアできれば、患者さんの許可を得た範囲の情報をクラウドサーバーに置く時代が来ると思います。患者さんが転勤などで住居を移動しても、患者さんの同意の上で転勤先の新しい主治医が簡単に過去のデータを引き出せるようになり、より適切な判断ができるようになるのではないでしょうか。

データを開示し、患者さんの自由な受診をうながす

「セカンドオピニオンに相談することで、主治医が気を悪くしないか」と主治医に黙って受診される患者さんも多いのが現状です。「先生の診療方針に不安があるので、セカンドオピニオンで診てもらいたいのですが」とはなかなか言えませんよね。 だからこそ、医療機関が積極的にセカンドオピニオンをうながす必要があるのです。主治医が自身の治療方針に自信があるのなら、他の医師も同じ判断をするに違いありません。自信をもって受診を勧めてはいかがでしょうか。他の医師の意見を取り入れることで、患者さんの安心につながります。

私は平成元年に金沢で開業して以来、患者さんの検査データのコピーを必ず本人に提供し、保存しておくようにお願いしています。また、ご希望の方にはカルテのコピーを提供するサービスを行っています。セカンドオピニオンに相談したいと思ったときは、これらのデータを持って受診していただき、診断の材料にしていただくのです。患者さんの症状や訴え、それに対し医師は何を考えどんな初見をだし、どのような治療を行ったかを記した治療記録があれば、セカンドオピニオンも判断しやすくなるでしょう。

この取り組みは、ほかの医療施設にも広まって欲しいと思っています。 私が情報公開を積極的に進めようと考えたのは、医療業界全体が情報を抱え込む傾向にあったからかもしれません。「あなたのカルテをご覧になりませんか?」というポスターを作成し、院内に掲示したとき、とても満ち足りた気持ちになったのを覚えています。自身の治療は、患者さんご本人にも他の医師にも情報公開できる、自信のあるものだと提示できたからです。

セカンドオピニオンは医師本来の業務のひとつ

患者さんの過去のデータが必要なとき、私は全国の医師にデータの提供を依頼します。データをまとめ、送付する作業は無報酬です。それでも、ほとんどの医師がきちんとデータを提供してくれます。 セカンドオピニオンは医師にとって「外の業務」と認識されてきました。しかし、これからは業務外の仕事ではなく「本来の業務である」という意識に変えていかなくてはなりません。そしてそれを率先して医師に啓発していくことが、私たち医師会の役割です。すべての医師にその意識を認識させ、周知に取り組んでいく努力を進めていきたいと思います。

実は、個人的には「セカンドオピニオン」という名称はあまり好きではありません。なぜなら、主治医以外の判断を仰ぐことはもともと患者さんの権利であるにも関わらず、あたかも外国から入ってきたような横文字の名称を使っているからです。今後、「セカンドオピニオン」に代わる日本語を使ったわかりやすい用語が生まれるといいと思っています。

小森 貴 氏
【略歴】
1979年 金沢大学医学部卒業、金沢大学附属病院耳鼻咽喉科勤務
1985年 石川県立中央病院耳鼻咽喉科医長
1989年 小森耳鼻咽喉科医院開設・院長
2006年-石川県医師会長 2012年-日本医師会常任理事
【資格】
医師
日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医
日本気管食道科学会認定気管食道科専門医
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