今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第139回 2014/11

新たな事業に積極性を。理想の訪問看護を追い続けて

団塊の世代が75歳以上となる2025年を前に、在宅医療の需要がますます高まっています。住み慣れた自宅で暮らしたいという方は多く、地域で最期を迎えるために訪問看護には新たなサービス展開を考えていく必要があるでしょう。今月は、訪問看護ステーション はーと 代表取締役の木戸恵子氏に訪問看護ステーションのサービス展開についてお話を伺いました。

訪問看護ステーション はーと
代表取締役
木戸 恵子 氏

訪問看護ステーション はーと

地域の方々へ多角的なアプローチを行う機能強化型訪問看護ステーション

訪問看護ステーション はーとは、機能強化型訪問看護ステーション(※)に指定されています。看護師は非常勤とパートも含めて17人所属しており、 そのうち4人のスタッフは10年以上の訪問看護のキャリアを有しています。私も前職では訪問看護ステーションの所長を務めていました。

設立して5年目となる2013年には、訪問看護業務と居宅介護支援事業業務を行う訪問看護ステーションに加えて、終末期の患者さんが地域で最期を 迎えられるよう支援するホームホスピスを、2014年度は医療・介護従事者と地域の方々が集まる支援カフェ「介護のみのりはーとカフェ」の運営をはじめま した。また、地域にお住まいの方向けに「町の保健室」という活動もしています。「町の保健室」は新宿区の「暮らしの保健室」事業を参考にしたもので、地域 の皆様の医療・介護についての相談を受ける場です。介護保険利用者やそのご家族のほか、薬の飲み方を知りたい方など、介護保険に加入されていない方々の疑 問に答えることもあります。経営には苦しい部分もあるのですが、地域のニーズに応えられる訪問看護ステーションでありたいという思いをもってさまざまな サービス展開を進めています。

※機能強化型訪問看護ステーション……看護・介護の両方の事業所を有し、地域住民への情報提供、重症患者の利用者が月10人以上などの条件を満たす訪問看護ステーションのこと。各地方厚生局に届出をして、指定を受ける。

段階を経て潜在看護師を復職させる

地域に質の高いケアを提供するためには、まずスタッフの確保が大切です。現在、在宅医療を希望する患者さんが増える一方、訪問看護師はどこのステー ションでも人手不足です。その問題を解消するために、潜在看護師の職場復帰を目的とした相談会や研修が、各地の看護協会やナースセンターで開催されていま す。しかし、「短時間しか働けない」「現場を離れて時間が経ち、最新医療に関する知識が足りない」など、さまざまな理由で復帰できずにいる潜在看護師が多 いのが現状です。みのりはーとカフェにも、「訪問看護師として働くには少し不安がある」と相談に来る方がいます。

そのような不安を抱えている潜在看護師の方々に、私はまず、「町の保健室」の相談役として働くことを提案しています。看護の現場をしばらく離れて いた人が、充分な準備をせずに訪問看護師として患者さんのご自宅に一人で伺うことは、とてもハードルが高いことです。

そこではーとでは、職場復帰を望む潜 在看護師が、高齢の方の健康相談や生活相談にのることから看護職への復帰を試み、最終的に訪問看護師として働くというモデルケースを設け、復職支援の取り 組みを行っています。はじめはお子さんが幼稚園に通っている数時間だけでもかまいません。仕事に慣れてきて現場に出てみたくなったら、次のステップとして ホームホスピスで患者さんのケアをして高齢者の傾向や病気の特性を知り、「患者さんの暮らし」を感じてもらう。そうすることで、訪問看護師としての医療処 置や患者さんとの触れあい方を身に付けたら、訪問看護師としてステーションへの勤務に移行する。こうして段階的に看護師の仕事へ復職していくのです。

スタッフの長所を伸ばす機会を奨励

看護師は、自分の興味のある分野があれば、自分の力量で可能性がどこまでも広がっていく職業です。だからこそ私は、スタッフにはさまざまな経験をし てもらいたいと思っています。スタッフに業務に関する疑問や関心が生まれた時、管理者は研修会への参加や看護研究の機会をつくってモチベーションを高めて あげる必要性があります。スタッフが深めたいと思った技術・知識を後押しすることが、管理者のあり方ではないでしょうか。

例えば、当ステーションの子どもの利用者さんを担当するケアチームには、小児の訪問看護に興味のある看護師がいます。スキルアップのため、彼女は 小児の訪問看護を専門にするステーションへ直接学びにいき、経験を重ねました。現在はそこで得た技術を生かして、当ステーションでよりよいケアを提供して います。このようなスタッフによる新しい分野への挑戦は、私たち管理者もたくさんの刺激を受けます。
実ははーとの看護師には、独立して起業を夢見て集まってきた人も多いのです。若いスタッフは特に、どんどん独立して各地域で活躍してもらいたいで すね。「患者さんに寄り添うケアをする」という看護師の基本の考え方をもとに、アイデアを広げていくことが大切です。これからますます在宅医療の需要が高 まる中、訪問看護のさらなる発展を考え、地域に貢献していくことが必要だと伝えていきたいと思います。

地域で暮らし、地域で最期を迎えられる場所、ホームホスピス


訪 問看護ステーションの設立は、私の長年の夢でしたが、実はもうひとつ大きな目標を抱いていました。それが「ホームホスピス」です。ターミナルの患者さんが 必要に応じて宿泊でき、そしてある程度病状と精神状態が安定したら、ご自宅に戻れるような場所。私は、2013年に「ホームホスピス はーとの家」の開設 を実現しました。

地域に生きる人々が、最期の時をご本人が望む場所で迎えられるように支援するのがホームホスピスの役割です。ホームホスピスは、現在行政が定める 制度外のものです。当施設の場合、看護師は常駐ではなく訪問看護ステーションから看護師をホームホスピスへ派遣し、医療の必要度に応じたケアを提供しま す。病院や介護施設とは性質が異なり、「ケアを行う場所」というよりも、お一人では療養生活をできなくなった方々が、同じ建物内で協力しながら暮らす場所 です。かつて長屋で他人同士が助け合って暮らしていたようなイメージですね。食事の準備などサポートが必要なことだけを看護師や介護士がお手伝いしていま す。住み慣れた地域のホームホスピスで、笑いあったり、愚痴を言い合ったりしながら、患者さんには暮らしていただきたいと思っています。

実は、病院の依頼を受けてホームホスピスを退院支援として利用いただくこともあります。24時間ケアの体制が整っている病院から、退院後にご自宅 へ戻ることを不安に感じる方は少なくありません。ところが、病院とご自宅の間にホームホスピスをはさむことで、吸引の練習をしたり、食事の工夫を学んだり することができるため、在宅治療に移行する心構えができるのです。ホームホスピスには栄養士も配置しているので、今後何かあったら相談できるよう、ケアマ ネジャーや介護ヘルパーとつながりをもつこともできます。そのご縁から、ご自宅に戻った後もはーとの訪問看護を続けてご利用いただき、利用者さんもぐっと 増えました。

経営者として訪問看護の可能性を追い続ける

今後、地域に根差した訪問看護を続けていくためには、ケアの質の向上はもちろんですが、事業展開における新しいアイデアで勝負をしていく必要がある と感じています。「患者さんに寄り添う」という看護の本質を裏切らなければ、訪問看護の分野はさまざまな方向に事業を拡大していけるのではないでしょう か。私自身もみのりはーとカフェやホームホスピスに代表されるように、より地域に貢献できる訪問看護のあり方を探っていきたいと考えています。

事業を展開するには、やはり経済的な問題が大きな課題となっています。正直に申し上げますと、みのりはーとカフェやホームホスピスの事業の経営は 赤字続き。訪問看護の利益で補ってなんとか運営している状態です。それでも、看護師としてこれからの時代を支えるためにどうすればよいか仲間たちとともに 考えながら、営利に惑わされず強い意志をもって質の高いケアを提供していきたいです。一歩でも前に進むことで、変化が生まれたり、見えてくるものがあるか もしれません。私たちの当面の目標はまず、ホームホスピスの第2号を展開することですね。

新しく面白い事業を進めていると、不思議と人材も集まってくるものです。当ステーションも、潜在看護師や地域の方々に「こういう形でなら手伝え る」「一部だったら協力できる」と賛同いただき、少しずつ協力者やスタッフ数が増えています。実は起業した2008年から人材募集をかけたことがありませ ん。どこかで当ステーションの話を聞き、駆け付けてくれた方がスタッフに加わってきました。これからは事業を拡大するために、求人の出稿も考えています が、私たちの考えや方向性を伝え、共有していくことがケアの質の維持向上につながると思っています。

私は今、本当に訪問看護が楽しいと感じています。一度も「つらい」と思ったことはありません。職員や利用者さんが一丸となり、ともに共働作業を進めていけるとても楽しい仕事です。若いスタッフたちにもつなげていきたいと思っています。

いのちを考える市民講座 いのちつぐ「みとりびと」

日程:2014年12月21日(日) 12:30~15:30(12:00開場)
場所:マリアージュ6階大ホール
参加費:大人800円、小中学生500円
写真家 フォトジャーナリストの國森康弘氏を迎え、「いのち」について考える市民講座を開催。団塊の世代が75歳以上となり、医療・福祉サービスの需要が拡大される「2025年問題」をひかえ、どこで最期を迎えたいか、これからの看護・介護について話し合う。

木戸 恵子 氏
【略歴】
2008年 訪問看護ステーション はーと設立
2013年 ホームホスピス はーとの家 金町設立
2014年 訪問看護ステーション はーとが機能強化型訪問看護ステーションの指定を受ける
介護のみのりはーとカフェ設立
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