今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第140回 2014/12

患者さんが自身のQOLを高めるため、緩和ケアナースにできること

ペインクリニックや緩和ケア外来など、患者さんの“痛み”を和らげることを専門にする診療科があります。患者さんのQOL(Quality of Life)を維持もしくは高めるために、緩和ケアチームは、患者さんがどのような生活を望んでいるかを目標に設定し、ペインコントロールを進める必要があるでしょう。では、緩和ケアにあたる看護師はどのような視点で患者さんに接し、ケアを進めていけばよいのでしょうか。今月は、昭和大学病院のがん性疼痛看護認定看護師 脇谷 美由紀氏にお話を伺いました。

昭和大学病院 看護部 係長
がん性疼痛看護認定看護師
脇谷 美由紀 氏

昭和大学病院

緩和ケアチームの一員である看護師の動き方

当院の緩和ケアチームの活動は、1992年よりスタートしました。全国でも比較的早く取り入れたため、現在は緩和ケアを専門としない病棟看護師にも緩和ケアチームと共同でケアを行うことが一般化しています。 緩和ケアが必要と判断された場合、まず各部署の病棟看護師が痛みのある患者さんに一次アセスメントを行い、QOL向上のためのケアプランを立てます。その後、患者さんの状態が改善されなかったり、よりよい生活につなげたいと考えた場合、緩和ケアチームが介入をはじめるのが当院のスタイルです。

当院の緩和ケアチームは、身体と精神それぞれの症状を診る担当医師、緩和ケアを専門にする看護師および薬剤師で構成されています。診断、観察、考察、処置・処方の流れで、各職種が自身の得意分野を活かした働きをするのです。まず医師が痛みの原因を探り、診断を行います。そしてそれを元に看護師は、患者さんがよりクオリティ高く生活するための方法を探ります。基本的にはそれぞれの職種がもち寄った情報を元に、チーム全体でのカンファレンスの中でケアの計画を立てていきますが、患者さんに一番近い立場にいる看護師主導でチームをマネジメントすることもあります。

完治ではなく、別のゴールを設定する

病状の進行によっては、今までと同じように生活することが徐々に難しくなることもあるでしょう。現代医学で対応しきれない部分もあるので、薬物療法だけでなく、生活の工夫をして痛みを和らげるケースもあります。その場合、病気を治すことをゴールとするのではなくて、日々の生活を病気になる前の状態にできるだけ近づけることを目標にします。 例えば、普段痛みで動くことがつらい患者さんの場合、夜ぐっすり眠れたり、食事の間の30分だけは椅子に座っていられたりと、その人に適した個別のゴールを定めます。「何をしたいか」「何ができるか」に重点を置き、患者さん一人ひとり異なるペインコントロールを行うのです。

ここでのゴールは患者さんご自身と医療従事者がともに決めるものです。医師や看護師だけで決めるものではありません。患者さんが何を求めているのか整理して、患者さんがゴールを選ぶためのお手伝いをするのが看護師の役割です。そして、決めた目標に向かう患者さんにはどのような支援が必要か考え、緩和ケアチーム全体でサポートしていくのです。

患者さんの本音が見える瞬間を逃さない

緩和ケアは患者さんのつらさを理解し、QOL向上に努めること。裏を返せば、患者さんのつらさや心の声に気付かなければ何もケアが提供できないということです。よりよいケアを提供するためには、看護師は精度の高いアセスメントを行い、患者さんの本当の気持ちを引き出す必要があります。 形式ばったアセスメントや医師と一対一での診療では、患者さんはなかなか本心を答えてくださらないこともあります。

しかし、日々のケアの中では、自分の気持ちをポロリと吐露する瞬間があります。例えば入浴介助や清拭、検温など患者さんと触れ合う時間に、患者さんが何に苦しんでいるのか、どのように生活したいと考えているのか、何気ない会話の中で教えてくれることがあるでしょう。緩和ケアには多職種が関わりますが、患者さんに最も近く、触れ合う機会が多いのが看護師です。看護師が聞き出すタイミングを工夫することで、より本心に近い言葉を引き出せると思います。 医師には「病気を治す」という非常にわかりやすい役割がありますが、看護師が何をする職業なのか、実は患者さんに伝わっていないことが多いです。患者さんの胸の内を引き出すにはまず、看護師が患者さんにとってどのようなメリットを提供するのか、意識付けをする必要があります。

例えば、今まで使っていた薬の使い方を変えてみたり、寝る体勢を変えてみたり、あるいは歩く際に歩行器や車いすなどの道具を使うなどして患者さんの痛みが少しでも楽になるよう努力を積み重ねていきます。すると患者さんは「看護師は頼りになる人なのだ」と実感してくださるようになり、そこから信頼が生まれるのです。 看護師と患者さんの間に信頼関係がなければ、患者さんが本当は何を求めていらっしゃるのかお聞きすることはできません。信頼があって初めて、看護師に対し自分の痛みのつらさや困りごとを相談してくれるようになるのです。

もちろん、看護師側も意識を高くもつ必要があります。患者さんの様子を見て、話し方や雰囲気の違いや、いつもできていることができないなど、普段と異なるささいな“違い”を見出し、何か困っていることがないか、アンテナを高く張ってキャッチすることが何よりも大切です。

病状にポジティブに向き合えるよう支援する

患者さんの中には、病気が「治らない」という事実を理解できない、認めたくない方も多くいます。このような場合、まずは医師がCTスキャンやMRIなどの画像診断データを見せ、ご自身の身体がどのような病状なのかご説明します。「こんな状況にあるから、ここが痛むのか」「こんなに骨が崩れているから、負荷がかかって痛いんだ」など自身の病気に対する理解が深まり、その後の症状との付き合い方が変わることも少なくありません。

その際、患者さんの個々の日常生活にどのような影響を及ぼすのか、患者さんの目線にあわせてご説明することも大切です。例えば、「今の病状では骨がもろくなっているから、重い荷物を運ぶことは難しい」ということ事実だけではなくて、「骨への負担が少ない座り体勢であれば、一日お仕事をすることも可能かもしれない」と患者さんご自身の生活に合わせて状況をお伝えすれば、理解しやすいでしょう。

私たちが方法をご提案するわけではなく、患者さんご自身が考え、QOLを向上させる方法を見出した事例もあります。40代の女性、Aさんの場合、大腿骨頭と骨盤に乳がんの骨転移があり、立ち上がって負荷がかかると痛みが強く家事もできない状態でした。画像診断データを見て自身の病状を知ったAさんは、次の受診はキャリーバッグを杖代わりにしていらっしゃいました。杖だと余計な負荷がかかり痛むので、ほかに何かよい方法がないか探したところ、キャリーバッグにつかまって歩くと負担が少ない、とご自身で発見されたのです。 看護師が「こうした方がいい」「これを使わないと歩けない」などと言うのは簡単です。そうではなく、患者さん自身が前向きに考えるという行為自体にプラスの効果があります。

症状がつらく、ネガティブになる患者さんも多いのですが、ゴールに向けて患者さん自らポジティブに行動できるようになるのが理想です。杖や補助器具などの道具を使って少しでも以前のような生活に近づけるよう試し、よい方法を自身で探り出すことで、自分の気持ちに前向きになれるでしょう。患者さんが方法を探り出すお手伝いをするのも看護師の大切な仕事なのではないでしょうか。

専門性の高い看護師の育成も、一般の看護師への意識付けも進めたい

現在、当病院に限らず日本全国で、少しずつELNEC-Jコアカリキュラムというエンド・オブ・ライフ(EOL)ケアの教育が進んでいます。ELNEC-Jはアメリカで生まれた10のモジュールを2日間で学ぶプログラムです。患者さんが死を意識し始めたころから始まるナースのケアや関わり方、看取り後の家族のケアなどの質の高いEOLケアの提供を、ロールプレイやグループワークなどのインタラクティブな教育を通じて学習していきます。看護師の仕事は非常に忙しいですが、ELNEC-Jを学んで一度立ち返り、自分は患者さんのために何ができるか、何をすべきか考えてみるのもいいのではないでしょうか。

緩和ケアを専門とする看護師も徐々に増えてきていますが、まだ充分でないのが現状です。緩和ケアチームの看護師がすべての患者さんを看ることができるわけではないため、普段のケアにあたる病棟看護師が細かい変化に気が付かなくてはなりません。専門分野に特化した看護師だけに限らず、一般の看護師にも患者さんの放つ小さな声も取りこぼさない力をつけていって欲しいと思います。

脇谷 美由紀 氏
【略歴】
1995年 昭和大学医学部附属看護専門学校卒業
1995年 昭和大学病院入職
2004年 がん性疼痛看護認定看護師資格取得
2008年 同病院緩和ケアセンター所属
【資格】
がん性疼痛看護認定看護師
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