今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第1回 2003/05

「癒しと安らぎの環境」を提供することは、私たちが変わること

日本の医療・福祉関連施設の環境をよくするため、「癒しと安らぎの環境」フォーラムが立ち上げられた。昨年11月には初の「癒しと安らぎの環境賞」を決定し、全国の病院、クリニック、ホスピス、介護保険施設の各部門から8つの施設が表彰を受けている。フォーラムの実行委員長であるさんに、その目的や審査基準、今後の活動などについておうかがいした。

「癒しと安らぎの環境」フォーラム 実行委員長
医学博士
日本医科大学常務理事
岩﨑 榮 氏

「癒しと安らぎの環境フォーラム」立ち上げの背景

私は、日本のいろいろな医療、保健や福祉に関わる施設が、環境的にあまりにも整っていないのではないかということを、臨床時代に勤めていた病院の様子や、自分が入院した経験から思っていました。
また、以前、病院管理研究所というところにおりましたが(現国立保健医療科学院)、そこでデザインとか、備品をどのようにしていくか、ベッド一つをとっても、環境をよくしていく研究をしているたくさんの建築家の人たちに出会いました。その一人が長澤先生です。長澤先生だけではなく、この前急死されました外山 義(とやまただし)さんが、老人医療施設やホスピス、特別養護老人ホームなどの建築設備に非常に関心が高かった。そういう人達と交わったことが私の関心をさらに高めてくれたと思います。

特に実際にやらなくてはいけないなと思ったきっかけは、医療機能評価機構の中で、病院の設備環境関係の評価項目を作る時です。病室環境とか病院全体が殺風景なので、そうでないものを求める評価の項目を作りましょう、と言ったのが直接的なきっかけです。
しかし、全国の病院が一斉に評価を受けるわけではないので、もっと幅広く参加する方法として、40年来のお付き合いの日野原先生と話をしているうちに、こういうフォーラムを立ち上げれば、皆さんが建物だけではなくて中身の問題も気をつけられる、そういうところに関心が行くのではないかということになったわけです。

日常の中での癒しと安らぎの環境

最初はそんなに取り組んでおられる病院はないのではないかと思ったのですが、意外や意外、第一回目の募集に全国津々浦々から256件もの応募があったことは少々驚きでした。病院だけが医療施設ではありませんので、あらゆる今ある医療保健福祉の施設を対象にしたことも成功した鍵ではないかなと思っています。
病院だけがよくなっても意味がない。病院からさらに色々な施設に移っていく方たちの施設も、完璧によくなって欲しいというそういう目的もあって募集をしたわけです。

審査は、審査員の方々にそれぞれ手分けをしてもらって、選に残った病院や医療施設を実際に見に行っていただきました。それは現物を見て、写真と同じなのかということだけではなく、地域の方々と患者さんが本当にそれによって癒しと安らぎを与えられているのかどうか、確かめてもらったのです。
実際の場面にどれだけ患者さんたちが憩われているのか、せっかくそんな環境になっているのに日常的に訪れてもらえるのか、そういうものを鑑賞しながら癒されているのかなど、それをそっと見てきてもらいました。 わざとらしく患者さんを誘導しているのではなくて、日常性というのを非常に重んじました。フォーラムのために急遽用意したのではなくて、何年も継続してやっている。そして地域の人々、利用する方々にとっての癒しと安らぎの場になっているのかを重視したのです。

特に示さなかった審査基準

第1回の募集の際の審査基準は何もないんです。とにかく一度投げてみようということで。どういうふうに反応されるのか。第一回のフォーラム応募資料にこういうふうに書いてあるんですね。「癒しと安らぎ環境フォーラムは医療施設にアートを取り入れることにより、癒しと安らぎの場になって欲しいと願い立ち上げるものです」。 

アートというのはこの場合、美術や音楽などです。だからそういうクオリティー・オブ・ライフを重視されている、そういうふうに自分の病院はなっていると、病院の方々が思われれば応募されるということで、何かの基準に合わせて応募されたということではなかったわけですね。 これはたぶんアートであって、患者さんの癒しと安らぎになっているという、そのことをちゃんと書いてPRされて応募されていました。

予想外の水準の高さに驚く

応募された数も意外でしたが、それ以上に受賞された病院が我々の審査基準をほとんど満たしていたということ、これがまた驚きでした。 私たちは、日野原先生もそうですが、外国の病院のことばかりキレイだ、素晴らしいと言っていましたが、日本には日本独特の風土を活かした病院が、施設が本当にあるんだなと、むしろ審査員側が驚いたという結果になりました。日本も捨てたものではないです。

私たちが目指すのは、先程言った日常性、自然派的なそういうことが大事なのであって、必ずしも欧米先進国のアートギャラリー的なものを目指しているわけではない。むしろそういう言い方をすると、日本では手作りのもの、自然のもの、そういうものではないかなと思います。 
それともう一つはこういうことを立ち上げたのは、やはり日本全体の病院や施設がこのような方向で環境をよくしていく、そういうムーブメント、運動が展開できればそれでいいということで、頂点があってそこを目指しなさいと言っているわけではないのです。

音楽と美術がペアになっている受賞施設

音楽は目に見えないですよね。ですから、何月何日に地元のカルテットを呼んで演奏をしていただきました、患者さんや地域の人たちが何人出席しどういう感想を残された、という記録があれば、その記録を見せていただくということにしました。できればその時の写真が残っていればそれを一緒に添付してもらう、そういうことを要求しました。

今度表彰されたところは、それもほとんどやっているんですね。アートというひと括りにできる、美術と音楽のペアでやっています。地元の方々が描いた絵や、患者さんが描かれた絵などを定期的に展示して、3ヵ月に1回は演奏会をやっています、というように。絵だけを飾って何にもやっていないのではなくて、色々なイベントをやっているんです。子供たちを呼んで合唱をしてもらったりとか、ボランティア的なことをやっているようです。

環境を良くすることは、施設の方の意識が患者さんに向かうこと

こういう運動が全国の病院などで展開されるようになれば、私たちの運動は終わりになるのではないでしょうか。そういう意味で、ムーブメントが全国的に起こってくれれば、この事業は成功ではないかなと思います。
全体としてそういう雰囲気が病院の中に出てくる。それは単に飾り付けをやったから出てくるものではない。やっぱり人間自体が変わらないといけない。飾りだけではなくて、そこの職員自体、医師も看護師もそれぞれの人たちが、変わったなと、親切な、それこそ癒しと安らぎを与えるような面接、癒しと安らぎを与えるようなコミュニケーションができるようになった時に、初めてアートが活かされるのではないでしょうか。

美術館に行ったり、音楽会に行ったりすると、それなりのマナーでみんな鑑賞していますよね。病院も同じことだと思います。
心から変わらなければそういう態度は変わらないと思います。口先だけではなくて、本当に患者さんの癒し、安らぎのためには自分たちがどうあらねばならないかというところを分かってくださればいいのではないでしょうか。だからこのフォーラムは、ただ単に環境というものではなくて、我々自身が変わることが大事だと思います。それを行動に表すことだと思います。

岩﨑 榮 氏
医学博士、日本医科大学常務理事、(財)日本医療機能評価機構理事、(財)医療研修推進財団理事
1933年佐賀県生まれ。1957年長崎大学医学部卒業後、長崎大学医学部第二内科助教授、国立長崎中央病院副院長、長崎県立成人病センター多良見病院長などを歴任し、1990年日本医科大学医療管理学教室主任教授。1998年より現職。著書に『地域医療の基本的視座』(ベクトル・コア)、『人間医療学』(南山堂)『医を測る』(厚生科学研究所)等多数。専門分野は医療管理学。
「医療と安らぎの環境」フォーラム
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