今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第2回 2003/06

経営主体を超えて、患者中心の地域チーム医療をつくる

昨年末発足した「東京ベイ・メディカルフロンティア研究会」。目的は、病院の経営主体を超えて、患者さんがスムーズに医療機関を活用できるような、地域のチーム医療の仕組みづくり。その構想についてうかがいました。

東京ベイ・メディカルフロンティア研究会 事務局
学校法人 国際医療福祉大学
国際医療福祉総合研究所 教授
阿曽沼 元博 氏

東京ベイ・メディカルフロンティア構想の背景

この構想のきっかけは、電子カルテシステムのネットワークを病院内から地域へ広げようというものでした。実は癌研究会附属病院が、有明地区に平成17年に新病院をお建てになるということで、武藤院長先生が、東京臨海部に隣接するいろいろな病院の院長先生とお話をなさった。その際、コンピュータ以前に、地域に根ざした良い医療をしていくにはどうするか、また、地域で、病院の経営主体を超えて患者さんがスムーズに医療機関を活用できるような仕組みづくり、地域のチーム医療が必要だねと、そんな話し合いになったのです。

例えば電子カルテを入れようとすると、今は病院の経営環境が厳しいですから、その経費を捻出するのがなかなかたいへんです。電子カルテシステムは安いものではないので、安くていいものをということになると、ある部分は共通化、標準化して共同利用していく、そういうスキームが必要ではないかということになります。
たまたま近隣の聖路加国際病院や東京都高齢者医療センター、東京臨海病院、癌研究会附属病院などが、電子カルテを入れたり、入れようとしている時期で、それだったらいろんなことを共有化していけたらいいのではないかという話になったわけです。この研究会は、医療機関、医師会、それから大学の方々などが、今は個人のレベルで参加しています。ただ、もう個人のレベルでは限界がきておりまして、大学、医療機関、個人、医師会、そういう趣旨に賛同する企業などが、組織としてコンソーシアムを作っていこうというという話し合いが行われているところです。7月くらいには立ち上げていきたいなと思っています。

電子カルテが医療に貢献できることとは何か

電子カルテは今どんどん入ってきていますが、どちらかというと電子カルテを入れる、システム化をするということが目的になってしまい、それによって何を変えていくのか、何を良くしていくのかというところが不足しています。電子カルテが医療の質の向上に貢献するためには、集まってきたデータをどのように活用し診療にフィードバックしていくか、そこが大事なのです。例えば診療ガイドラインを作っていく、EBMの生成に貢献する。それは当然、データベースを作っていくということで、集まってくるデータを価値のあるデータベースにして、そのデータを共有して調査分析し、活用にもっていく。それを診療最前線にフィードバックしていく。そういった仕組みが必要なのです。

また、電子カルテのデータベースはどんどん増えていきます。例えば500床くらいの病院で、外来が1000人くらいとしますと、1年間に2テラ、画像が増えてくれば3テラくらいのデータ量になってきます。そうすると10年間で30テラくらいになります。そんな大容量のデータを、保管・管理して活用するということは1医療機関の努力を超えています。ですから、今はいいですが、将来のためには病院が共同で利用できるような、地域の電子カルテのデータセンターが必要になってきます。そういうデータベースを作ることによって、経営主体を超えて患者中心の地域チーム医療を作っていくことができるのではないか、そういうビジョン作りをしていきたい、というのが各病院長さんの強い思いだったわけです。

モデルとしてのIHN(Integrated Healthcare Network)

現在、東京ベイ・メディカルフロンティアの構想そのものはできていますが、それをやるためのイニシアチブをとるのが、大学や自治体、1医療機関ということになると、どこもそれはたいへんです。やはりそれをマネジメントする組織が必要ではないかということになります。
その1つのモデルがアメリカのセンタラ・ヘルスケアや、UPMCで、IHN(Integrated Healthcare Network=統合型ヘルスケアネットワーク)と呼ばれているものです。このモデルの大きな特長は、地域の代表者が非営利の統合会社を作って、その配下にいろんな事業を共同で展開していくというものです。

アメリカでは、一部の安かろう悪かろう主義の弊害で、マネジド・ケア全般が批判された時期があります。IHNはそこの地域の人たちやお医者さんが、その弊害を皆で克服しようという力学が働いてできてきたものです。色々な共同事業を行う、マネジメントを効率化していく、そこにいろんな医療機関やドクターが参加をしていく、そこで上がった収益は地域に還元していく、というスキームを始めていたわけです。急性期の病院やリハビリの病院、長期滞在型のナーシングホームといった、地域に根ざした組織の垂直統合です。同じような病院をネットワークするのではなく、患者さんの病態、生活シーンに合わせて医療や健康、介護、福祉がどういう風に関わっていくのかということを考えて、患者の視点で地域ネットワークを作っていこうという動きが大きく出てきたのです。もちろん、アメリカと日本では制度が違いますから、すべてがすべていいわけではありません。

構想の広がりと実現のための問題点

今、議論されているプロジェクトの1つは、地域の電子カルテのIDCセンターです。そのデータベースは、例えば、生涯電子カルテというような位置づけとなるでしょう。もちろんすべてのデータがすぐに集まるとは思いません。しかし、個人が自分の意思で、そのデータセンターに自分の職域、学校、家族のデータを登録してくださいといえば、登録できるベースになるわけです。個人が認めれば、そのデータはその個人の診療に関わる人たちが共有できるということになります。ただ、個人情報保護法の問題や、プライバシーの問題など、医療の問題は住基ネット以上にたいへんな問題があります。これからその重要なことを考えていかなければならないと思っています。

構想としては、特定目的のスペシャル・パーポス・カンパニー、もしくは地域の共同の事業体のためのホールディング・カンパニーを作る。これは原則、非営利です。
そしてその下に、電子カルテのIDCセンター、画像診断の集中センター、炭素線治療など色々な癌の治療センターなどを置きます。高額のそういうセンターは、それぞれ医療機関もしくは企業が責任を持って運営していく。またそれは利益をどんどん上げていっていいと思います。その利益は当然、非営利のホールディングカンパニーに還元できて、それが地域に還元できるような仕組みを作っていくのです。誤解をしてはいけないのは、非営利、営利に拘らず利益は上げなくてはいけないということです。非営利で利益を追求して、その利益を地域と医療に還元していく。そこの原点がないとこの事業はうまくいかないと思います。

民間主導の民間のプロジェクトで、高い志の実現へ

私たちが考えているのは、官が企画を立てて予算を付けるからやりなさいというプロジェクトではありません。あくまでも民間のファイナンスで、民間のプロジェクトとして事業を立ち上げようとしています。それを官に後押ししてもらう。日本のプロジェクトはこれがいつも逆転しています。そのことが志の高い実験が拡大していかない最大の理由だと思います。例えば、いろんな地域情報ネットワーク事業のほとんどが尻切れトンボではないでしょうか。お金の切れ目や、推進している個人がいなくなったらプロジェクトが終わってしまいがちです。そうではなくて、組織対応していかなくてはいけないのです。
ですから、私たちは基本的にはプロジェクト・ファイナンスを組んでやっていきます。プロジェクト・ファイナンスが引けなければこの事業はできません。民間が民間主導で民間のアイデンティティを持ってやっていく。ですから医療機関も基本的には民間の医療機関が中心になってきます。

阿曽沼 元博 氏
1952年生まれ。東京都出身。1974年慶應義塾大学商学部卒。同年富士通㈱入社。一貫して医療ビジネスを担当し、2000年同社医療統括営業部長。1989年医療情報学会理事就任。2002年4月より現職。現在、岡山大学医学部、浜松医科大学で医療情報学の非常勤講師を勤める傍ら、内閣府『生活産業創出研究会』委員、内閣府『総合規制改革会議』医療WG専門委員、ふくおか健康未来都市構想検討委員会の委員を務める等、活躍の場が多岐にわたっている。著書は「医療とマルチメディア」(東洋経済新報社)など多数。
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