今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第3回 2003/07

広がる看護職の活動領域と重要さを増す看護の専門性

少子高齢化の時代。医療を取り巻く状況が大きく変わり、看護師の方々を取り巻く状況も、病院で医師とともにという1つのパターンだけでなく大きく変わっているようです。看護を取り巻く現状や課題などについて、日本看護協会の広報担当常任理事である山崎摩耶さんにおうかがいしました。

社団法人 日本看護協会 常任理事
山崎 摩耶 氏

日本看護協会

少子高齢化でますます広がる看護職の領域と課題

現在、日本で働いている看護師は約119万人で、そのほとんどが病院や診療所などの、いわゆる医療機関で働いています。一方、最近、在宅医療、介護保険での在宅ケアが重要視されてまいりました。日本看護協会でも訪問看護事業を大きなテーマにしています。
病院のナースもこれからますます大事になりますが、一方で在宅での看護もこれから非常に重要になってきます。21世紀型の医療提供体制ということでは、看護もそれと連動していかなければならない。マンパワーの問題も含めて、そこに一つの課題があります。

少子高齢化の問題も大きな課題です。国の医療の施策には少子高齢化対応のいろんなものがありますが、少子化対策ということでは、例えば不妊治療の問題や、妊婦さんが健康な赤ちゃんを出産して健やかな子育てができるという、母子保健や子育て支援の地域づくりなど。高齢化対策ということでは、ただ長生きだけではなくて健康でいきいき生きてぽっくり死ねるというような、高齢者の健康長寿から、最期のターミナルケアまで。縦軸が少子高齢化、横軸が病院から施設へ、ということで、今、医療・看護の現場が変わりつつあります。それに伴って看護職の課題も広がってきているのが現状です。

看護職の状況が様変わりした90年代

こうした保健・医療・福祉の変化に伴って、看護職自身が質の高い看護、もっと自立的な専門性を発揮できる能力が求められてきています。
実は、1980年代の終わりくらいは、看護職は3Kとか6K、8Kのたいへんきつい職場だと言われ、月8日以内で2人夜勤を、という2・8(ニッパチ)闘争などがあった時代で、たいへんな看護師不足でした。教育も3年課程の専門学校が圧倒的多数で、准看護師養成も多かった。大学の数はまだ10校に満たなかったんですね。

しかし、92年に看護師等人材確保法という法律ができてから、90年代の10年間で、人材確保が100万人を超えるところまでまいりましたので、もうニッパチではなく夜勤も3人とか4人、5人と、急性期の高機能の病院でしたら深夜の時間帯も3人とか4人で夜勤をするというところまで変わってまいりました。そして、人材確保が充足しつつある一方で教育も、10校たらずだった看護大学が現在110近くあり、10倍もの数に増えました。また訪問看護ステーションという看護職が経営できる制度もできました。
ですから、看護界にとっては90年代は充実の10年間だったわけです。また、少子化の中で、看護系大学・看護学部・看護学科など、4年制の看護大学教育が、今、学生たちにとって魅力のある学問領域になってきているという、嬉しいトレンドもあるのです。

まだまだ看護師は足りませんが、一方で病院の在院日数が少なくなりますと、病院のベッドの必要数は多分もっと少なくなります。日本のベッド数はたいへん多く、今120万床ありますが、厚労省では60万床とか70万床でいいのではないかと言っています。そうなると、今の看護のマンパワーで私たちの言っている、1対1看護、患者さん一人に対して看護師が一人、それも24時間を通してというのが実現するのではないでしょうか。現在は2.5対1、患者さんが2.5人に対して看護師1人、または2対1というのが病院に対して支払われる診療報酬のマックスですが、それでは足りませんからね。

求められる看護職全体の質の向上と専門性

最近は、高機能のハイテク高度医療が行われる一方で在院日数が短くなり、医療現場の密度がたいへん濃くなってきています。このような状況を踏まえ、看護職の技術能力や資質もさらなる質の向上が求められるようになりました。
その意味では、例えば14年4月の診療報酬の改定では、リスクマネージャーですとか、感染管理、褥瘡、緩和ケアといった、その領域の専門ナースを活用するなどの体制整備に対して診療報酬が加算・減算されていく仕組みが少しずつできてきました。このため、ゼネラルな、看護職全体の資質の向上、技術の向上ということと、もう一つは専門看護師とか認定看護師といった、専門領域の卓越した看護職を増やしていくという2つの質向上が急がれています。そのための研修や教育を、看護協会も率先して行なっております。

これからは、現職の人たちが現場を離れずに勉強できる機会、研修できる機会が重要になってきます。このIT時代、医療現場や福祉現場にもITが浸透してまいりましたので、今、私たちはいろいろとトライアルをしております。例えば、全国レベルで研修をやるときに、東京会場の研修が衛星放送を通じて全県の看護協会で一挙に2000人くらいが受講できる衛星研修や、ご自分のパソコンや病院のパソコンでプログラムにアクセスすれば勉強できる、e-learningや、衛星チャンネルを通じた研修とか、ITを活用して現職の方が研修にアクセスできるような仕組みが徐々に出来上がっています。
本会は、研修センターを東京の清瀬と神戸に持っておりますし、47都道府県の看護協会もそれぞれ研修事業は充実しております。ですから、その場に行って受講する研修はもちろん、いながらにして研修が受けられる仕組みというのも今後かなり充実してくるのではないでしょうか。

訪問看護ステーションの充足でより良い福祉に貢献

病院から在宅へということで、本会は今、訪問看護ステーションを全国各地につくっていく運動を行なっています。現在、5400ヵ所くらいある訪問看護ステーションの60%近くは、各地の病院がご自分のところのナースを地域に訪問させるという医療法人立なのです。本会では、看護協会立の訪問看護ステーションをつくるとともに、看護職が自分で訪問看護ステーションを立ち上げるということに去年辺りから力を入れております。NPO法人とか有限会社、株式会社など法人格を持てば訪問看護ステーションを立ち上げることができますので、開設意欲のある看護職をサポートしております。

また、介護保険の領域や福祉施設の看護も求められています。特別養護老人ホーム、老人保健施設、身体障害者の施設や痴呆の方のグループホームなどでも看護職は重要な役割を果たします。在宅のサービスも含めて、福祉領域にもっと人材の活用が求められているということが言えますね。

IT化で大きくなる院内チームケアでの看護職の役割

電子カルテ導入の動きはこれから加速度的に増えていくと思いますが、導入するに当たっては、標準化というところに実は重要なポイントがあります。その意味で、導入がうまくいっている病院は、看護部門がちゃんと関わっており、それが成功の秘訣だったりします。院内のIT化の動きは今後加速すると思いますし、標準化したり質をあげていくためにはIT化は必要なことだと思っていますが、看護がそうした動きにどうコミットしていくかということが重要になると思います。
例えば、看護行為も標準化しなければなりません。1000ベッドの病院が電子カルテを導入したとしますと、20ぐらいあるナースステーションがみんな違う用語を使っていると、統一したカルテの用語にはならないわけです。医療や看護行為をどのように共通言語にして、用語標準化していくのか、そういう膨大な作業が実は電子カルテ導入の時には必要なんです。そういう意味でも、ますます院内のチームケアで看護職の役割が大きくなってくるのではないかと思います。

もう一つ、こういったIT化の動きは、看護の現場から見ますと、質を上げるために看護業務を整理をしていくことになると思います。例えば、食事の配膳がどうして看護業務なのかなど、圧倒的多数の病院で、ナースがナーシング以外の業務を行なっている現状があります。
また夜間の病院の保安体制について本会が行なった調査では、驚くべきことに、夜間の安全確保不十分が6割というデータがでており、そういうところでは、これは一例ですが、ナースが夜中に電話受付や薬剤業務、事務までやるといったようなケースもあります。ベッドサイドの患者ケア以外の、これはナースがやる仕事なのかという業務をナースが行なっているのです。
こうした電子カルテやパスのような、IT化の動きは、ナース本来の業務にスリム化し、看護職がベッドサイドケアに専念していく一つのいいきっかけにはなると考えています。
● 日本看護協会とは
社団法人日本看護協会は1946年、保健師、助産師、看護師、准看護師の有資格者による職能団体として設立され、47都道府県看護協会が法人会員として連携活動している全国組織です。民法第34条の「公益に関する社団法人」として認可され、国民の健康と福祉に寄与する活動を展開しています。現在、会員数は54万人。看護の質の改善・向上、専門看護師・認定看護師・認定看護管理者の教育と認定、訪問看護の推進など重点事業に取り組むとともに、「まちの保健室」事業を推進し、街角に学校の保健室のイメージの拠点を作り、一般の方々の健康に役立つ社会貢献事業にも取り組んでいます。
日本看護協会の詳細については、http://www.nurse.or.jp/

山崎 摩耶 氏
1968年、北海道大学医学部附属看護学校(現・医療短期大学部)卒業、1971年、道立衛生学院保健婦科を卒業の後、医療機関にて在宅ケア、訪問看護に従事。1981年より東京都新宿区立・区民健康センターにて訪問看護に従事。1990年より帝京平成短期大学助教授。1995年6月より現職。現在、高齢者ケア・訪問看護などについて全国で講演に飛び回り、新聞やテレビなどでも広く発言する傍ら、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会委員や身体拘束ゼロ推進会議委員を務める等、活動は多岐にわたっている。著書に『やさしい長距離ランナーたち』(潮出版社・第三回潮ノンフィクション賞受賞)、『日本で老いるということ』(中央法規出版)、『おとしよりの在宅ケア』(NHK出版・監修)など多数。
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