今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第5回 2003/09

患者視点を重視した病院環境を考える

「患者中心の医療」についての議論がさかんである。しかし、平成14年9月に開設した静岡がんセンターでは、「患者の視点を重視した病院」を実現するべく、医療はもちろん、建物や組織、運営面に至るまでさまざまな工夫をこらしている。静岡がんセンターを含め3つの病院開設に立ち会われた、副院長兼看護部長の戸塚規子さんに、病院環境の観点からお話をうかがいました。

静岡県立静岡がんセンター
副院長兼看護部長
戸塚 規子 氏

静岡県立静岡がんセンター

病院の基本理念を組織や運営に具現化する

静岡がんセンターは、言葉としてちょっと難しいのですが、「がんを上手に治す」、「患者さんと家族を徹底支援する」、「成長と進化を継続する」ということを理念に掲げています。

「がんを上手に治す」という言い方をしますと、「がんは治るの」ということになると思うのですが、今、5年生存率が50%を超えようとしています。それを70%までもっていきたいという目標や、治療する場合でも患者さんの生活の質を損なわないようにする、がんを手術でなく内視鏡で取るなど、そういう治療面のこともありますし、痛みを極力少なくする、すっかりお治りにならなくてもご自分の生活の時間をどう快適に過ごしていただくかなどといった意味で「上手に」という言葉を使っています。

「患者さんと家族の支援」とは、あらゆる面で患者さんの視点を大切にして、満足度を高めるために尽くすということ。「成長と進化」というのは、1つにはこの病院自体の成長、それはがんの治癒率を高める、最新の治療や研究をするということです。それと同時に、看護師もそうですが、職員個人個人が常に成長を続ける、それが患者さんと家族を支援していくときに我々に必要とされるものではないか、ということです。

病院の主人公は患者さんである

この病院では、特に看護が前に出ていると言っていいと思います。というのは、看護は患者さんの生活に密着している、これは普遍的なものです。ですから、患者さんの生活や、どう過していただくかを考えた時には、看護がかなり大きな役割パワーを持って病院が機能していかなければならないのです。
ですから、病院の、患者さんと家族に尽くす、がんを上手に治すという目標を実現するために、多職種でチーム医療を行いますが、その時の統括責任者が看護職という組織になっています。特に病棟の組織図は患者さん・家族のケアを中心とした組織になっていまして、病棟には複数の診療科の患者さんが入院しておられますから、各診療科部長がその診療科のチームリーダーで、看護師長の統括する病棟にチームが複数存在する形になっています。それが多職種チーム医療の構図なんですね。看護の役割を病院の中で大きく捉えたのは、この病院の基本構想からのこだわりなのです。

本当の意味のチーム医療が機能すれば、職種の垣根を越えた形で組織づくりができ、それぞれの部門が専門性を発揮して、病院の理念を具現化していくことができます。患者さんを中心にして各職種がそれを取り囲み、医療を行っていく形は、部門別の縦割りの組織図に比べ、目標実現がスムーズになります。
また、患者さんの側から見た場合、静岡がんセンターの職員ということでは常勤でも非常勤でも違いはありません。非常勤、常勤、医師、看護師、薬剤師といった身分とか職位を越えて、ここで仕事をする人たちは全員患者さんの方を向いて仕事をしています。自分の専門性を発揮しながら相手の専門性も認め、患者さんが主人公だということを忘れないようにしながら仕事をしていくことが大切だと、私たちは考えています。

患者視点を重視した建物とは

この病院は、最初に「患者の視点重視」という基本理念がありましたので、富士山の裾野という場所選びから始まって、徹底して患者さんと家族の視点を重視する造り方をしております。ユニバーサルデザイン、カラーコーディネート、木の材料もなるべくたくさん使った建築など、一言で言えば病院らしくない病院をつくるということでは最初からずいぶん配慮しています。
特に病棟については、看護師が一番患者さんの生活をよくわかっているという観点から、建物が完成する4年前、準備室の段階から看護師が参画しています。そして、自分たちの経験や、外国の病院、国内のいろんな病院の良い例、そういうものを参考にして設計者の方々とずいぶん時間をかけて準備をしました。

病院ですから医療環境を整えることはもちろんですが、生活環境、アメニティを高めるといいますが、生活の場としての工夫を最大限にしています。明るい、わかりやすい、安らぎの空間づくりなど、いくつかのキーワード、それを形にしてきたといえます。
たとえば、わかりやすいということでは、1フロアに2つの病棟、病棟の真ん中にスタッフステーションを配置し、病室はスタッフステーションの周りに放射状に3つのコアで構成しています。明るいということでは、病室の廊下の突き当りは壁というのが常識ですが、3つのコアの突き当りを抜いて全面ガラスの談話コーナーをつくり、ソファを置いて外のすばらしい景色を眺められるセミパブリックスペースにしました。
居住性を高めるという意味では、今の時代感覚の中で大部屋をなくし、個室と2人部屋だけにしました。プライバシーを保つ観点から、病室にお名前を出さないなど、いろいろな配慮をしています。

家庭の環境に極力近づけた病院づくり

がんの治療には、いわゆる高度先進医療だけでなくて、当然、緩和ケア病棟が必要になります。この病院は高度先進医療から緩和ケア病棟まで、あらゆるがんの患者さんが利用できる施設です。病院の建物については、本棟は先進的な治療を積極的に行いながら、疼痛緩和などの症状緩和も行う、別棟は家庭的な生活の場で症状緩和を行います。診療科もがんの専門科だけでなく、循環器科や内分泌代謝科、歯科、形成外科など、診療なさる患者さんのすべての健康問題に対応できるように配慮しています。

別棟の緩和ケア病棟は、できるだけご家庭の普通のお部屋の感じを大切にし、お茶室も作りました。病室は庭に向かってガラス戸を大きく取り、ウッドデッキへベッドのまま出て、外気に触れることができるようにしました。ペットの面会もそちら側からできます。
また、建物は造っただけではだめでして、そこを自由に使っていただかなければなりません。面会時間も、緩和ケア病棟は24時間フリーです。一般病棟も面会時間をなるべく長くし、ご家族の場合は状況によっていつでもお出でいただけるようにしています。富士山を眺めながらの展望浴場の入浴も毎日できますし、家族とご一緒に入れるお風呂も作りました。

それでも、医療従事者だけでは生活者の視点になりきれません。その部分はボランティアさんに入っていただいて、いわゆる安らぎや潤いの空間作りをしていただいています。季節ごとのディスプレーやイベント、緩和ケア病棟のティーサービス、患者図書館の図書を持って病室を回る移動図書サービス、お話の相手や散歩、手作りの教室等、患者さんが普段過ごしている生活に近い過ごし方をしていただくために、いろいろな活動をしていただいています。

使う人が日々感じることを察知して建物を完成していく

もう少し具体的なことを申しますと、患者さんご自身がベッドサイドの液晶テレビの端末からいろんな情報をとれるようにしました。たとえば、テレビのチャンネルを変えると病院の画面になります。食事は、その画面から、前日の夕方までにオーダーを入れれば、翌日からの朝昼晩の三食、主食から副菜まで全部自分でメニューを選べるようになっています。また、患者さんご自身も治療に参加していただくために、ご自分の検査データや治療計画、療養生活のスケジュールが画面で見られるようになっています。プライバシーの問題がありますから、ご自分の暗証番号を入れてご覧いただくようになっていますけれど。

医療関係の情報は電子カルテと連動する仕組みです。患者さんにご自身のデータを読んでいただくことで、ご自分から治療について質問をしていただけるわけです。「患者さんの権利」と「患者さんへのお願い」を明示しており、患者さんご自身も医療に参加していただきます。カルテは全面開示ですから、電子カルテ画面で、患者さんにデータや治療内容、看護記録を見ていただくこともできるわけです。面談室でもご覧いただけますし、退院なさってからはカルテの情報開示の申し込みをしていただき、ご覧になった内容をコピーでお持ちいただくことも可能です。

病院環境というのは、建物などのハード面だけではなく、ソフト面といいますか、日々の生活空間をどのように設えていくかということが非常に大切で、それを維持し継続していくという仕組みや努力がないと、患者視点に立った病院環境とはいえません。建物は建ててもそれっきりではだめなのです。使っている方々、訪れる方々が日々どんな風に感じていらっしゃるかということを早く察知しながら、完成させ成長させていくものだと思います。

戸塚 規子 氏
1963年静岡赤十字看護専門学校卒業後、静岡赤十字病院・同看護専門学校勤務。1970年より3年間インドでハンセン病の国際医療協力に参加。帰国後、聖マリアンナ医科大学病院(川崎市)の開設準備にあたり以後18年間勤務。後半の8年間は同医科大学の横浜市西部病院の建築・開設準備に携わり、開院後看護部長を務める。1991年退職し大学にて社会学を専攻、卒業後、日本看護協会学会部長などを経て、1999年新潟大学医学部保健学科教授就任。2002年5月より現職。日本国際保健医療学会評議員、国際協力事業団青年海外協力隊看護分野技術専門委員、日本医療福祉建築協会理事、日本医療福祉設備協会理事等としても幅広くご活躍中である。
主な関心領域:看護管理、異文化看護・国際看護、国際保健医療協力、病院建築・設備
主な著書:『国際看護学入門』(医学書院1999年)
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