今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第6回 2003/10

患者参加型の医療をめざして

医療者ではないがゆえに客観性を持って患者視点を提供し、患者はもちろん医療者の間にも賛同の輪が広がる和田ちひろさん。大学時代から患者参加型の医療を問い続け、地道な調査研究を行っています。今回は、その和田さんに、現在の関心領域や今後の活動などについてうかがいました。

HCRM(ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング)研究会
代表幹事
和田 ちひろ 氏

HCRM研究会

本当にいい病院とは、を問い続ける

もともと私は文学部出身なのですが、医療にたいへん興味がありまして、大学生の頃からいろいろな病院に取材にうかがっていたのです。その時に感じたのは、今は生活の質が高まってどこに行ってもすごく腹が立ったり悔しい思いを したりすることは少なくなったのに、病院に行くと患者さんはやはりすごく虐げられているし、院内はとても殺風景で、医療だけがどうしてこんなに遅れているのかなということでした。

大学院で、非営利組織のマーケティングを専攻し、例えば病院、学校、教会、行政などの、営利を目的としない組織の顧客満足というのはどうあるべきか、という研究をしました。当時(95年)、国立医療・病院管理研究所の医療政策部(現国立保健医療科学院)で、患者の満足と経営とがどういうふうにリンクしているのかを研究していましたので、私もそこで患者満足度調査を行い、3年ほど研究をしました。
それまでですと、意見箱で患者さんの声を聞く以外にはあまり患者さんの声は吸い上げられなくて、あとは院長に直談判という形で電話をしたり手紙を書いたりするしか方法がなかった。それをどうやって患者さんの意見を聞くのかなといったときに、はじめて患者満足度調査が注目されてきたのです。それが95年くらいだったんですね。

病院での患者満足度調査の問題点

その後、いろいろな病院で患者満足度調査を行うようになりました。しかし、問題はその手法です。病棟の看護師さんがベッドサイドに調査用紙を1枚ずつ持っていって「明日回収しますから書いておいてくださいね」と言って、回収するやり方ですと、入院中の患者さんは遠慮してしまって、仮に医療者に不満があっても書けないのです。私が調査した時も、入院患者さんの8割が医療機関に満足と答えています。
外来の患者さんの場合は、ある特定の1日に入り口で全配布して、出口で回収するやり方をしました。ものすごく回収率がいい。外来の患者さんはそれでも外に出られるという気持ちがあるのか、満足と答えた方は7割でした。
ところが、当時の新聞の世論調査で、医療に対する満足度調査をやっていまして、不満の方が半数を超えたと書かれていました。でも、病院でやってみるとさほど不満はないのです。私は、これが実態なのかなととても疑問を抱きまして、次に離反患者の調査を行いました。手術をしますと言ったのに、何らかの理由で手術をキャンセルし、その後手術の必要性があるにもかかわらず、2度とその病院を訪れなかった人を追跡調査したのです。
そういう患者さんは、手術をしなかったのですから医療の質は評価できないはずですね。それなのにその病院で手術を受けずに、もう2度とここには来ないと思わせてしまったものは何か。ポイントが2つありました。1つは信憑性のあるうわさに患者さんは左右されているということ。例えば、救急車に乗っている救急救命士の方がたまたま小学校の同級生で、あそこには絶対行かない方がいいと言ったというような、一見リアリティのあるうわさです。
もう1つは、医師の対応です。例えば、手術のことで不安がいっぱいで医師に説明を求めたけれど、電子カルテに向かって入力しているだけで全然顔を見て話をしてくれなかった。そういう人間的なコミュニケーションが不足して、患者さんの不安が解消されなかった場合に、もう一方の信憑性のあるうわさが重なって、やっぱりそうなんだと、自分の経験を正当化してしまう傾向があるのではないかという分析をしました。

今、私の大きな活動の柱になっているものは3つあります。人は病気になると、どうして自分だけがこんな病気に、という気持ちになります。そんな時、同じ病気の人と出会うことができる環境を作りたいと思っています。患者会は病気別に集まっており、日本に1000以上あると思われます。
2つめは患者図書館です。患者さんとヒアリングをしているうちに、説明が足りないことや自分の病気のことが理解できていないことから不安を感じるという方が多いことに気づきまして、そういう情報提供を補完する意味で、自分の病気のことを勉強できる学習環境が大事なのではないかと思ったのです。
3つめは、これからやっていきたいことです。患者さんは自分が病気になると、その闘病経験を誰かのために役立てたい、また、人のためになることによって自分の病気を受け入れることができたり、病気はつらかったけれどこれも自分の人生の一つの役割だったのかなと思えたりします。闘病経験のある方に、そういう、人の役に立てる場所を提供することが必要と思っています。

患者への情報提供と自己責任

病院の先生がAという治療法を勧めたが、患者さんは病院図書館でいろんな治療法を見て、Aという治療をやめてこの代替療法をやった。それなのに治らないとか、治療の時期を逃してしまった、どうしてくれるというようなクレームがあると、それが病院の責任になってしまう。だから患者図書館をつくることには賛成できないという意見もあります。
また、私の把握した1000団体の患者会は本で紹介していますが、看護師さんはこの本を見て紹介することはできないと言います。理由は、チーム医療なので、患者会を紹介して、もしその患者会が宗教がかっていたり、壷を売ったりする患者会だったら一人で責任が取れなくて、師長さんや看護部長さんの責任になってしまう。だから確信の持てない情報は紹介できないというのです。ソーシャルワーカーの方も、自分が一回電話をするなりここが出している発行物を取り寄せるなりして自分の目で質を見極めてから紹介するとおっしゃいます。

専門家の方は、専門職が提供する情報は自分で責任を取れる範囲でなければ出してはいけないと思っていらっしゃるのでしょう。でも、患者さんはどうやって患者会を知るのかというと、テレビや雑誌、口コミやインターネットで知るわけです。結局、責任が持てないような状況で患者会やいろんな治療法を知る。ですから、専門家だけが、情報に責任を取れないからと言って情報を閉ざしてしまうのは問題ではないかと思います。
一方で患者さんは、情報の選択は自分でしなければならないという情報社会の中にあっても、まだおまかせ医療というか、医療に関しては自分自身で責任を取ろうという気持ちが弱いですね。ですから、専門家だけの問題ではなくて、医療を受ける側も自己責任ということに対する問題意識をもっともっと高くしなければならない。しかし、カルテをもらうのはたいへん、検査データはもらえない、紹介状を書いてもらうときにはあまりいい関係で書いてもらえないというような、患者さんが主体的に医療を受けにくい現状もあるわけです。ですから、専門家の情報に対する意識も変えていかなければいけないし、患者さんがもつ自己責任ということに対しても、もっともっと考えていかなければならないと思います。

本当の意味の患者中心の医療を求めて

最近は患者中心と言わない人がいないくらいに、みなさん患者中心と言っていらっしゃいます。しかし、患者中心ということを、患者さんが言っても、結局、医療者の方が変わってくださらなければそれはできません。
では、医療者とは誰なんでしょう。いろいろな研究会をみますと、看護師さんだけだったり、医師だけだったり、それぞれの職種ごとになさっているようです。いろんな職種の方が交じり合って患者中心の医療を考えると、職種間で考えがかなり違うことがわかります。看護師さんが言う患者中心は、ソーシャルワーカーの方はそれはずれているとおっしゃるし、病院管理の方は患者中心と言いつつもやはり在院日数をいかに短くするかを考えなければいけない。患者さんはもちろん自分が居なれた病院にずっといられたらいい。それぞれみなさん利害関係が違うんです。

HCRM研究会では、そういういろんな職種の方の本音を出し合いながら、どうしたら患者中心の医療が出来るのかとか、先駆的な病院で行われている事例を話していただいて、こういう場合はどうするんですか、ここはどうやってクリアするんですかということをお話しいただいています。どうやったらできるのかということは、それをやった病院に聞いてみると、なあんだと思ったりすることが多いですよね。そんなことをやり続けていけば、医療の現状を少しずつでも変えていけるのではないかという思いを抱いています。

和田 ちひろ 氏
1995年、慶應義塾大学文学部人間関係学科卒業。1998年同大学大学院政策・メディア研究科修士課程終了。1999年HCRM研究会を立ち上げる。国立医療・病院管理研究所 医療政策研究部協力研究員、杏林大学保健学部助手を経て2002年NPO法人楽患ねっと理事長就任、翌年辞職の後、現職に活動を集約。さまざまなシンポジウムを主催するなど、多方面でご活躍中である。
著書:『病気になった時すぐ役立つ患者会・相談窓口1000』(共著・三省堂)、『みんなのこんな病院あったらいいなが実現する本』(共著・日総研出版)、『急性期病院のあり方と外来分離』(共著・じほう社)、『市民の道具箱』(共著・岩波書店)、『ナースがつくる患者に選ばれる病院』(日本看護協会出版)、『脳神経疾患病棟の看護サービス』(共著・メディカ出版)
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