今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第7回 2003/11

知的専門職として認められる看護の確立を目指して

滋賀医科大学病院の創設に関わり、診療システムを作り上げた自らの経験から、看護がおかれているさまざまな問題点を見出すことになった中木高夫さん。POSや看護診断の考え方を紹介し、看護師も社会も看護職を知的専門職として認識することが重要と主張されています。これからの看護のあり方についてうかがいました。

日本赤十字看護大学 教授
中木 高夫 氏

日本赤十字看護大学

看護職は知的専門職である

病院に取材に行ったことがあるという人に、看護師のイメージを尋ねたところ、「とても真面目で、すごく勉強熱心なイメージを持ちました」という答えが返ってきました。でも、自分たちの仕事について、一生懸命勉強することは職業人なら誰でも同じではないでしょうか。看護師が自分の専門領域のことを一生懸命勉強しているからと感心されるのは、おかしな話なんです。そこに何か原因がありそうです。つまり、一般の人は、看護師は自分の専門の勉強を一生懸命する人だと思っていないのではないか。看護職は免許が必要な職業だけれども、いつも親切に身の回りを世話してくれる人で、理屈っぽいこととはあまり関係ない人と捉えられているのではないか。私はそこが問題だと思います。
私は、看護職というのは、看護をするためのちゃんとした理論を持ち、その理論を使って患者さんのケアをする、そういう知的な専門職だと思っています。そして、看護職自身も自分を知的専門職だと思い、世間に向けても知的専門職だとアピールしてほしいなと思っているのです。しかし、それにしては今の看護教育の中でも、実践の場でも、理論的に筋がとおっているとはいえません。

ナイチンゲールが近代看護を作り、現代看護はアメリカで発展してきましたが、それはアメリカの大学制度の中で看護を教えることになったところから、看護の研究が進んできたからです。そういう研究成果をきちっと日本にも伝えて、使えるようにすること必要だと思っています。ただ、それを自発的にやるというのはなかなか難しいことです。

考えていることが見えない記録の理由

滋賀医科大学病院の診療記録システムを作るにあたって、 "やったこと"の記録、どういう理由でどう考えたか、その考えたことと実際に行ったことなどを書く、そういうシステムでやりましょうということになりました。ちょうどその頃、日野原先生が日本に持ち込んだPOSが最善だと考えて、医師もナースもそれでやろうということになったわけです。

POSシステムを診療の中で定着させる、記録は医師とナースが同じ紙面に書き情報の流通をよくする(統合患者記録)、というようなシステム構築は簡単にできました。しかし、内容はというと、医師の記録は医学診断ごとに展開するクセがついているのでわかりやすいのですが、ナースはPOSの形がうまく使いこなせていない。経時的にSO、SOと書いている、いわゆるSOSの記録だったのです。それで、どう考えてどうしようとしているのかよくわからない。ナースの中に入って、そのうちわかってきたのが、SOの中にいろいろなものをごった煮にしてしまっている。だから、考えがまとまらないということだったのです。
それで、「今日、患者さんのこれに対して看護を提供した」というときの「これ」というのをタイトルにして、それに関連することだけSOを書く、そうすれば視野が決まって、ちゃんとしたPOSのスタイルで書けるようになるからと提案したわけです。
で、これは非常にうまくいったのですが,タイトル、本当はプロブレムと呼んでいるんですが、何が看護師としてとりあげるべきプロブレムなのかというのがわからないという問題が出てきました。これはさっきの「理論的に筋がとおっていない」ということが原因なわけですが、そこをなんとかするいちばんの近道として、プロブレムを看護の学問を反映した専門用語で書くようにすれば何とかなるのではないかと思いました。医師が医学診断を使っているようにです。

ちょうどその頃、アメリカで看護診断というものが出てきていて、こういう患者さんの看護学的な状態はこう呼びましょうという、そういう用語が開発されていたんですね。それを日本に言葉として輸入する。そして、それだけでなく、その背景となる理論も輸入する。こういったことが、日本の看護に必要だと思いました。

こういったことは、看護の世界ではなかったかもしれないけれど、心理学や社会学の世界では既に行われたことだったのですね。看護診断の用語の基本部分には,そうした心理学や社会学の用語がそのまま使用されていたので,そこはそれぞれの学会の訳語をそのまま利用して、それが患者さんだったらというところを看護独自と考えて翻訳しました。こういう専門用語をきっかけとして、看護の世界の中で、理論がしっかり定着すればいいなと、私はずっと思い続け主張してきたわけです。そして一時期、そういう考え方が一世を風靡したこともあります。

気持ち的に楽な方向に流れている最近の風潮

しかし、医療の世界が大きく変わってきて、ここ10年ぐらい、何か安易な方へ楽な方へ流れるという感じになってきました。どういう患者さんであるかということをはっきりさせるための勉強よりは、事故を起こさないためにはどうしたらいいかとか、術後の患者さんをスムーズに帰ってもらうにはどうすればいいかとか、具体的にはリスクマネジメントとか、クリティカルパスなどが流行りだしてきて、一番根本にある看護過程という看護師さんたちの仕事のやり方がずさんになってくる。仕事が過重になって、身体がたいへんですから、気持ち的に楽な方へ流れようとしているんじゃないかと思います。
ですから、例えば看護支援システムが入ると、そこに患者さんの状態を表示しなくてはならない、看護診断があるからそれを使おうということになる。ところが上の人がそう決めたところで、スタッフは今まで勉強しないままで済ませてきたわけですから、びっくりしたように勉強しなければならない。ところが看護診断の勉強をするといっても、今まであまりやってきていない人にとってはたいへんです。だけどコンピュータは待ったなしに入ってくる。そうすると、時間切れになって、ぎりぎりやれることは、画面に表示された字面だけで多分これじゃないかな、とやっていくことなんですね。そうならないように、やはり看護界全体が、どこが最低レベルでこれだけはきちっとやっておきましょうというものを出さなければいけないのではないでしょうか。

つまり、学校教育です。大学だけに限らず、専門学校や短大など、学校教育の中で、患者さんのこういう部分はこういうふうに考えて、こういうふうに問題を見抜いて、それに対してこういうケアをしていこうという、患者さんのアセスメントから実際の看護行為まで一貫した考えの中でやるように教えています。しかし、ここでもかたちを作るのは簡単ですが、アセスメントから評価までの背後に一貫した理論の裏打ちがあることが大切です。そういう実践で患者さんを理解し,介入するのに使える理論を学生の時代からやっていくのがいちばん効率的だと思っています。よく看護支援システムや電子カルテ、オーダリングシステムが入るからと講演依頼を受けますが、そういう勉強は即効性のあるものではないのです。

本来の意味の基礎看護学の充実が必要

私は、日本の看護教育というのは、実はあまりグローバルスタンダードにのっていなくて、日本独特のスタンダードをとっていると思います。厚生労働省の保健師助産師看護師学校養成所指定規則に、こういうことを教えなさいというカリキュラムのようなものがあります。以前、看護学総論、看護学概論と呼んでいたものが基礎看護学となり、それに対して各論は成人看護学とか母性看護学、小児看護学、老年看護学、地域看護学と言っています。
基礎看護学では、看護とはこういうものだ、たとえばナイチンゲールは、といった大きな看護理論を教える部分があったり、あるいは看護過程、問題解決過程ですね、情報の収集から始まる一連のプロセスを教えるようなものもあります。あとは、身体を拭いたり、ベッドメーキングをしたりという基礎看護技術ですね。つまり、看護技術の中の特に基本的なものを教えるようなものがあります。

実は、看護の場合、基礎看護学はそういう看護の基本的なものを言っているのであって、臨床系各看護学の基礎という感じではないわけです。普通、医学の場合は、基礎医学があってその延長線上に臨床医学があるんですね。臨床医学と基礎医学は講義したりする分量が同じくらいのボリュームです。それにプラス臨床実習がある。ところが看護の場合には、基礎がものすごく弱いです。基礎看護学の充実といっても、人数を増やすのはむずかしいでしょうから、臨床系各看護学の先生も基礎を教えて、そこを充実させることが必要だと思います。患者さんのこの部分はどういうふうに考えたらいいのかという理論の部分がきちっとまとまった形で教えられ、それの使い方まできっちり筋をとおして教えられるカリキュラムが作れたらなと思っています。

また、日本の病院では長くナースが差別されてきたという歴史があります。看護の管理体制も何か軍隊的なところがあり、上から命令されて動く、抑圧的な働かされ方がある。これは、病院の最末端で看護師が患者さんを抑圧する装置として働くことにつながりかねません。医師・看護師関係で、医師は医師らしくナースはナースらしくという働きかたをしてほしいと思います。看護師さんには、医師にできない仕事をやってほしいと同時に、ナースがナースの社会の中で本当に大事にされて、大事にされるから患者さんのことも大事にできるという構造が理想的なのではないでしょうか。

中木 高夫 氏
1948年生まれ。1973年3月、京都府立医科大学卒業。内科医(消化器)。1976年4月、滋賀医科大学医学部附属病院勤務。滋賀医科大学医学部附属病院創設時に診療記録システムをはじめ、病院内のさまざまなシステムの開発に関与。その集大成として1987年から病院情報システムの開発を行う。1994年4月、名古屋大学医療技術短期大学部教授。1997年10月、名古屋大学医学部保健学科教授。2002年4月より現職。
主要所属学会:日本看護診断学会、日本看護研究学会、日本看護科学学会、日本保健医療行動科学会、日本医療情報学会、他
著書:『POSをナースに・第2版』(医学書院)、『POSなんて簡単さ』(医学書院)、『薬剤師のためのPOS』(JIHOU)、『NANDA看護診断:定義と分類2003-2004(訳)』(医学書院)、『看護介入分類(NIC)黒田裕子共訳』(南江堂)、学習漫画『改訂版・あすかちゃんのPOS』『あすかちゃんの看護診断』『あすかちゃんの看護診断Part2』『あすかちゃんの看護管理』(照林社発行・小学館発売)他
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