今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第8回 2003/12

お互いに分かり合える信頼の医療

医療の標準化は、医療者同士や医療者と患者さんがお互いにわかり合える環境をつくり、良好な医療を行う不可欠の手段と語る坂本すがさん。看護部長としてお忙しい毎日を過ごしながらも、クリティカルパス研究会(医療マネジメント学会の前身)の立ち上げにかかわり、現在は医療マネジメント学会理事として、様々な学会活動に力を注いでいます。今回は、患者さんにとってのクリティカルパスの役割など、医療の標準化についてうかがいました。

NTT東日本関東病院
看護部長
坂本 すが 氏

NTT東日本関東病院

信頼される医療は、分かり合うことから

いま病院で何が起こっているかといいますと、病院の中で行っていることを患者さんに開示し、病院の中でどういうことが行われているかを知っていただくこと、そして患者さんが訴えることを分かろうとすること、つまり、お互いのことをなんとかして分かり合えるようにしていこうという動きです。さらにそのためには、患者さんに分かってもらうというだけではなく、当然ですが、同じ病院で仕事をしている者たち同士がまず分かり合うことが実は大切なんです。もちろん患者さんのことを医療者側は分かろうとすること、この2重の意味で「お互いに分かり合う」ということが、今最も求められていることではないかと思っています。
例えば、様々な安全対策を院内で一生懸命やっていても、多くの患者さんはご存じありません。「これだけのことをしていますから安心です」ということを示すような、一般企業でいえば品質保証の紹介や品質保証表示のようなものが医療でも必要ではないかと思っています。

将来的にはそこまでいくとして、現在はとにかく、分かり合えるために、医療者側はやっていることの十分な説明が必要です。説明して、それでも患者さんがわからないなら、分かるまで質問できるような環境を病院は作ることが大事だと思います。その場で医療者に聞きにくいのであれば相談室を作る。医師やその他の医療者に対して、患者さんが不満や疑問をもっている場合に、それをなんら心配しないで相談できるような相談室を作るわけです。つまり患者さんが自分や家族の悩みを持っていける場を院内に作ることが必要になっています。

患者さんは、まず皮膚科、内科、次は何々科と回されていく中で、「誰が責任持って私を診てくれるの!」と不安と不満を当然もちます。そのような時に、なぜ診療科を回らなければならないのかを、「たいへんでしょうが」と一言加えて説明できることが重要なんです。患者さんの悩みを解決するコーディネートすることも重要になってくるでしょう。もちろん病院のしくみも理解していただく術が必要です。医療者側は十分なインフォームドコンセントが重要なことは当然ですが、それ以前のレベルでの意思疎通の努力もとても重要になっています。そのような努力があって、最後には、当院の診断でまだ選択ができなければ、納得できない場合には、納得するために他の病院でも診断を受けることができますよ、と話すこと。つまりセカンドオピニオンが必要なことを、はっきりと説明することができるようになることだと思います。

クリティカルパスはお互いに分かり合うための手段

クリティカルパスは互いに分かり合うためのツールということもできます。クリティカルパスは、診断がついたならば、その後の治療やケアのスケジュールをあらかじめ表すものですので、逆にいえば、それ以外のことが行われた時は、患者さんは医療者にどしどし聞いてください、私たち医療者も積極的に説明いたします、という相互意思疎通のためのたたき台のようなものです。クリティカルパスに書かれていることだけは、お互いにまず分かり合えます。ただ、病気は予定通りに進行しない場合も多々ありますから、まずクリティカルパスを元にしながら話しをしましょう、というのがクリティカルパスなんです。

患者さんからアンケートを取ると、説明が足りないというご不満がすごく多いです。医療内容について説明がなかなかできていないのが現状です。これは多くの病院であることかもしれませんね。例えば、私どもの病院には1日2200人くらい外来の患者さんが来られますので、その患者さんに全て納得できるだけ説明できるかというと、それはたいへん難しいわけです。そのために当院での標準的なケアの流れをクリティカルパスで説明し、標準とは異なることが起こった時には、 あらためて話をするようにしましょうという、医療者と患者さんのコンセンサスが必要なんです。想定しないことが起こること、それをお互い共有し合い、患者さんと分かり合って治療をしていくということが必要なのです。

医療の世界は、どうしても治療やケアを提供する側の視点だけが表立ってしまいがちです。でも今は、それではうまくない状況が多くなっています。というのは患者さんが選択すべき局面や細かな理解が必要な場面が多くなっているんですね。治療法の選択や入院か外来か、薬剤の使い方、リハビリの方法、生活面での注意点、再来予約、その他もろもろです。それに患者さんは医師の前に座ったら頭の中が真っ白になってしまうことも多いんですね。診断を受ける緊張感や医師との会話ということでの緊張感、これは結構大きいんです。私たち医療者だって自分の病名を宣告されるのは怖いでしょう。宣告人である医師と二人で向き合って、心構えも出来ていない間に、「あなたは胃がんですよ」と言われたら混乱しますよ。ですから、看護師が患者さんの傍でサポートしながら、医師が説明図などを示しながら、丸印をつけて「ここですよ」と説明し、患者の状態を見ながら必要な場合に看護師が手助けする、そのような心遣いが必要になっているんですね。

できるならば、医師も1時間でも30分でも時間をかけながら、患者さんに説明してあげたいのですが、そうばかりもいきません。薬だけほしいというような患者さんたちの中に、このような十分な説明を必要とする患者さんが混じってしまっているのが現状です。医療の機能分化が進んでくれば、このようなことも変わってくるとは思いますが。

情報の共有と確認が信頼を生む

病院の中では色々な情報がとびかいます。そして、それをきちっと確認しあいながらすごいスピードで仕事をしなければならないたくさんの職種の人たちがいます。ものすごい数の判断が行われています。ですからその中にミスが生じるのも人間ですから避けられない状況です。複数の人間が一つのことに関わることでミスも生まれますが、複数で関わることでミスの防止にもなります。ですから情報をできるだけ速く共有し、必要ならばできるだけ早く確認しあうということが重要になります。

当院では電子カルテがその面ですごく役に立っています。電子カルテによって、医療職員はどこからでも、いつでも必要な情報を得ることができます。電子カルテから出る情報とクリティカルパスに表示された情報は、医師と各職種みんなが話し合って作っていますから、十分な理解のスタンスにあります。医師が持つ情報と看護師が持つ情報は電子カルテ上にあるものはほぼ同じに取得できますから、看護師は自信をもって仕事が出来ますし、患者さんに聞かれても医師と同じ答えができるわけです。医師が答えても看護師が答えても同じ答えであることで、この病院は信頼できると患者さんに思っていただけるわけです。

多くの雑多な仕事があふれている病院では、余計な仕事や重複する仕事はできるだけ削減して効率化し、いかに情報を共有して医療者同士が一緒に仕事をするかが重要になってきます。電子カルテの導入がそれを実現しました。

医療で力が発揮されるアウトカム・マネジメント

アウトカム・マネジメントとは、成果を高めるための医療活動のマネジメントを意味しますが、簡単にいうなら、あらかじめ成果となる目標を設定しておいて、その実現に向けて医療活動を進めていく方法論です。クリティカルパスがこのアウトカム・マネジメントの有効なツールとなっています。例えば、入院日数5日間のクリティカルパスがあります。その中には入院日から退院日までの標準的なスケジュールが書き込まれていますが、それはすべて退院日の患者のあるべき状態を目標に組まれています。この目標、退院基準といってもいいですが、それが退院時のアウトカム=ゴールです。このゴールに向かって、日々のチェックポイントとなるアウトカムが設定され、それをクリアしながら医療活動が進められていきます。ただ、これらは標準的なスケジュールですから、そこから外れる場合、つまり日々のアウトカムが達成できない事態、これをバリアンスと呼びますが、起こってきます。その場合はそれに応じて、また別のメニューが準備されます。このような形で医療活動が進められることで、より適切な疾患ごとの標準の治療ケアが作られていきます。より適切な標準的治療ケアが作られることで、また患者さんにはより確かなスケジュールが提供できるわけです。これがアウトカム・マネジメントです。

以前は、ひどいときには、患者さんに、「これだったら1、2ヶ月程度の入院ですね」というふうにいわれていました。1、2ヵ月と言ったら30日の差があるわけです。結局はやってみないとわかりませんということですね。まるで行き先のわからない旅行切符を渡されるようなものです。それはまだ医療技術が発達していなかったということ、また医療者側にそれだけはっきり断言する自信もなかったということでもありますが、今はある程度正確に予測できるようになっていますし、患者さんにクリティカルパスを渡して、患者さんと医療者が一緒に、退院のゴールに向かって頑張っていくという関係が作られることで、はっきり断言する自信も強くなってきています。患者さんと医療者の新しいというか、あるべき関係が実際の形となってきているわけですね。今後ますますはっきりと、このような流れができてくるでしょうね。このような医療をよりいっそう発展させることで、お互いに分かり合いながら信頼できる医療をつくりあげていきたいですね。

坂本 すが 氏
専攻「看護管理」
和歌山県出身。昭和47年、和歌山県立高等看護学校保健助産学部卒業。同年、和歌山県立医科大学附属病院(助産婦)。昭和51年、関東逓信病院産婦人科病棟。平成元年、関東逓信病院(現NTT東日本関東病院)産婦人科病棟婦長。平成4年、看護協会看護研修学校管理コース修了。平成8年、青山学院大学経営学部経営学科卒業。平成9年4月より現職。平成4年~平成9年まで日本病院学会病院管理委員を務め、平成9年からクリティカルパス研究会の立ち上げにかかわる。平成10年にクリティカルパス研究会幹事、現在は医療マネジメント学会理事として、医療(看護含む)の標準化活動を行うなど幅広くご活躍中である。また、平成12年12月にNTT関東病院において看護の標準化開発を行い、電子化した。
著書:『クリティカルパス作成・活用ガイド』(日総研(共著))、『患者指導マニュアル』(メディカルフレンド社(共著))、『感染対策ハンドブック』(照林社(共著))、『看護現任教育ハンドブック』(メディカルフレンド社(共著))『看護学入門』(メディカルフレンド社(監修))『医師とクリティカルパス』(医学書院(編集))、『初心者のためのクリティカルパスバリアンスマネジメント』(アウトカム・マネジメント)
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