今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第9回 2004/01

大学病院の使命を全うしつつ、経営視点を導入する

国立大学の法人化が目前となってきました。それに伴って附属病院のあり方もかなり変わることが要求されています。さまざまな改革が急務とされる国立大学医学部附属病院の動きについて、国立大学附属病院長会議常置委員会委員長の藤澤武彦さんにおうかがいしました。

医学博士
国立大学医学部附属病院長会議 常置委員会委員長
国立千葉大学医学部附属病院長
藤澤 武彦 氏

千葉大学医学部附属病院

強まるトップダウン方式

国立大学の法人化は、大学全体が法人化するということで病院も含めて法人化されます。例えば千葉大学は国立大学法人千葉大学という名称になり、我々の病院は国立大学法人千葉大学医学部附属病院が正式名称になります。附属病院だけが独立して法人化することはありません。各国立大学全体がそういうふうに動いています。

これまでと大きく違う点は、附属病院だけではなくて全体ですが、新聞などにありますように、職員が非公務員型になることですね。待遇面は今の状態を引き継ぐ形にはなりますが、今までの人事院規則ではなく、今後は労働基準法の制約を受け、それに則って病院をやっていく形になります。また、トップダウン方式ができるだけ取りやすいように移行させていくのが、法人化の目的ですので、国立大学の中の色々な運営の組織が組織的にかなり変わると思います。学長の権限が強まり、学長がお考えになっていることを推進していけるようになります。附属病院の場合、病院長の色々な考え方も推進できるようになり、自由とはいいませんけど、前に比べるとだいぶやりやすくなります。

必要になる経営的な考え方

常置委員会では個々の大学に個別にああしろこうしろという提言はしません。ある程度おおまかに決めて、基本的なところを色々提言します。国立大学は42校ありますが、各大学がそれぞれ異なる規模や歴史、地域性に合わせて、それを上手く組み込みながら計画を練っていくことになります。ですから去年、今回の法人化に向けて、常置委員会が国立大学附属病院におけるマネジメント改革と運営に関する提言を出しましたが、あくまで提言ですので、あれを上手く使って拡大、発展していく手段として作られているのです。

具体的に附属病院には、運営費交付金という国からの補助金がありますね。大学全体の運営費交付金のうち、附属病院は約40%を占めています。このように高額な費用が投資されるわけですが、診療報酬としていただいた分を国に返す形になっています。ですから私たちがもし何億円かの赤字を出すと大学全体に影響し、他の学部のお金でそれを補てんする形になるかもしれないわけです。ですから、経営的な考え方を抜きにしては全くやっていけないのです。
来年からは経営的な管理をして病院長が責任を持たなくてはいけない。私たちの病院の場合、それをサポートする体制として企画情報部を作り、戦略的病院経営会議や全般的なことを計画し、医療経済コンサルタントなど外部の方にも加わっていただくというように、病院経営的なことを戦略的にやる専門ができてきています。しかし、あくまで病院長が責任を持つことには変わりはありません。

現在、私たちの病院は在院日数が22日ぐらいで、稼働率は85か90%ぐらいです。ここは835床ですから平均在院日数を17日に減らし、5日間短くしてなおかつ同じ稼働率にしたら、新患を含め患者さんを年間2000~2500人増やさないとだめなんですね。これは病床数300床ぐらいの規模の病院に匹敵する数です。ということは近隣の病院の経営が圧迫されていくことになりかねません。その辺を上手く修正し、連携を組みながらやっていく必要があると思っています。

今後は確立された治療も進んで行う

大学病院は確立された治療はやるべきではないと言う人がいますが、それは間違いです。紹介していただく患者さんに、大学病院でやってもらってよかったと言ってもらわないと困ります。確立された治療法を100%患者さんにして、その患者さんが帰られてという繰り返しで大学を紹介していただくわけですから。

大学病院に経営的な考えを入れるということは、患者さんに積極的にきてもらい、数多く診たり、手術したりしなければなりません。確実に患者さんが早く退院される方が経営的に楽ですよね。ただ、あまりそっちの方だけに動けば、経営的には楽ですけど研究的には停滞してきます。そうすると研究を中心とした大学病院本来の目的の、難病と言われている原因がはっきりしない患者さんの治療法を開発したりすることが難しくなってきます。
私は逆にこういう時だからこそ、経営的な考えでやるということは、お金がかかる先端医療や難病の診断を開発するために必要なことだとも思っています。経営をちゃんとしておいて、研究にお金が使えるというふうになれば、大学病院としての目的も果たせるし、経営の観点からも大丈夫ですから。臨床研究も含めて、これからも研究が大学病院の中で中心であることには間違いありません。もしその観点を軽視して、国立大学の病院が経営的なことだけに終始すると、これから5年10年経ったときにその弊害が出るでしょうね。少しずつ経営感覚も入れながら、研究は研究で積極的にやっていくことが必要です。

患者さん中心の医療とは

法人化されるからというわけではないのですが、患者視点の医療という点ではよくなると思います。ただ、患者さん中心の医療と患者さんが言うことを全部認める医療とは違うと思います。医師は専門職として、その病気に対して、現状ではこれが一番いい方法、次がこれということは分かっているわけです。もし患者さんが納得して、一番いい方法を選択していただけない場合、それは患者さんのせいではなくて、医師に力がないからだと私は思います。

ファミリーレストランのように、オーダーを聞いて治療をするわけではないのです。そういうことと医療は全然違います。患者さんがおっしゃればそれでいい、患者さんに決めてもらうというのは、自分の考えは何もないということです。自分の考えがちゃんとしていて、現状はこうですよ、一番適した治療法はこれだと説明できることが必要です。患者さん中心の医療とは、患者さんの人格とか人間性を尊重して医療をやることなのです。
また、病院ですから医療安全を抜きにしては絶対あり得ないですよね。どういうことをやるにしても、医療安全の考え方を軽視した病院の中での決定というのはあり得ないと思います。医療安全を無視して経営の方に走って、効率化を図って人を減らし黒字を生み出しても、医療事故を起こしていたのでは何の価値もない。医療安全を絶対担保する、その中で病院の効率化を図り健全な運営をしていくということが大切です。

大学病院は、5年10年先はかなり変わると思います。今いろんな形で努力して今後大きく伸びる病院と、今とそう変わらない病院と2つに大きく分かれるのではないでしょうか。そこに看護師さんが果たす役割は大きいと思いますね。患者さんが何か痛いとか苦しいとか訴えるのは、まず看護師の方です。医師も当然呼ばれますけど、医師には言えないことも看護師には言えるわけです。看護師さんの接し方で病院の評価も大きく変わってきます。

専門的な医療をやるということと、患者さんが精神的に満足されると言うことは別です。技術はパーフェクトだけど人間的にやや冷たいとか、自分の考え方だけを主張する医師や看護師には患者さんは絶対満足しません。同じことを同じように説明しているようですけど、ちゃんと考えている人は言い方も微妙に違います。患者さんの精神状態とか理解力を把握しながら、一つひとつ確認してよく説明をしていくことが必要ですね。

藤澤 武彦 氏
1942年長野県生まれ。1972年千葉大学大学院医学研究科博士課程修了後、同大医学部附属病院肺外科医員、文部教官同大助手(肺癌研究施設第一臨床研究部門)、3年間の米国City of Hope National Medical Center留学をはさみ、同大講師、助教授、教授を経て、2003年4月より現職。多数の学会活動にも精力的に取り組まれ、お忙しい毎日である。
資格等:日本胸部外科学会指導医、日本呼吸器外科学会専門医、日本胸部疾患学会指導医、日本呼吸器内視鏡学会気管支鏡指導医、日本外科学会認定医
学会活動等:日本学術会議呼吸器学研究連絡委員会委員、日本肺癌学会副会長、日本呼吸器外科学会理事、日本呼吸器内視鏡学会理事、日本胸部外科学会理事、日本レーザー医学会理事、日本臨床細胞学会理事、日本呼吸器学会評議員、日本画像医学会評議員、日本外科学会評議員
著書:『蛍光気管支内視鏡』(金原出版)、『内科学』(朝倉出版)等、他論文多数。
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