今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第10回 2004/02

病院での医療事故防止への取り組みは、大きな審査項目の一つ

日本の医療の質向上を目指し、病院の医療機能を第三者の目で評価する(財)日本医療機能評価機構。1997年から、機構の評価基準を満たす病院に認定証を与える認定業務を行っている。全国に約9200ある病院のうち1100の病院が既に認定病院となった(03年12月15日現在)。今回はその評価委員長である大道久さんに医療事故の問題を中心にうかがいました。

財団法人日本医療評価機能機構
理事・評価委員長
日本大学医学部教授 医学博士
大道 久 氏

財団法人日本医療機能評価機構

医療の質を向上させ改善を支援する第三者機関

当組織の基本的な創立の趣旨や、活動のあらましを申し上げておきますと、病院の機能評価・認定事業が一番大きな事業です。20床以上の病床を持つ医療施設を病院と言いますが、1000床を超える病院もあり、いろいろな種類や規模の病院があります。それらが地域において本当に役割・機能に見合った良い医療を提供しているのか、ということを、第三者の立場で専門的・学術的な視点で中立的に審査します。

 さらに大事なことは、審査の結果明らかになった問題の改善を支援することです。審査の結果は色々な問題が明らかになってきますから、その病院に「この問題を解決・改善していただきたい」という改善要望事項をお伝えして、そこを直さないと認定されません。そういう仕組みになっています。つまり、認定された病院は、問題部分を指摘されて改善をし、認定証を取得されているわけですから、患者さん、住民・国民の皆さんにとって、一般的にはより信頼が高いと考えていいと思います。

大きな部分を占める医療安全に関する評価項目

最近の医療界、特に病院医療での深刻な問題は、やはり医療事故だと思います。昨年一年間を振り返りますと、かなり深刻かつ重大な医療事故の報道がありました。中には、医師として、あるいは医療機関として、あるまじき事件・事故が報道されておりますので、私どももこの問題を深刻に受け止めています。

医療の質を向上させること、あるいはその改善を支援すること、それがこの財団の目的だと言いましたが、医療の質の基本部分を構成しているのが安全ですね。医療を受けようと思ったのに、障害を残したり、命をなくしたりすることはどうしてもあってはいけないわけです。医療事故を防止するための病院での取り組みは、実際最も重要な課題になっています。病院の認定審査を行う上で、評価の項目の中に基本的に6つの領域があり、その一つが医療安全に関連した領域になっていて、そこに医療安全に関する評価項目が体系的にしっかり述べられています。

高度な医療はそれぞれリスクを残念ながら持っています。大きな手術をする、複雑な機械を駆使する、さらには医師一人がやるのではなく、組織、チームが医療を行うわけですから、様々な要因で医療事故が起こってしまうわけです。非常に単純な医療過誤というものから、背景が根の深い問題まで、少なくとも考えられる医療事故防止の対策をとっておられることが、必要だということで審査の項目になっているわけです。

残念ながら、認定された病院でも医療事故が起こることがあります。その場合、起こった医療事故の原因や背景、事実の経過に則して、改められるところは改めていただき、評価委員会が審議を重ね、場合によっては認定証をお返しいただきます。契約的には、自主的な返還ということになりますが、お返しいただく事例が出ていることも事実です。なかなか厳しい対応をせざるを得ないということをお伝えしておきます。

事故予防対策のため活動する患者安全推進協議会

医療事故について、特段に患者さんの安全を推進するために、しっかりとした協議の場や機会を持ちましょうと言うことで、当機構の中に『患者安全推進協議会』ができました。認定された病院が希望すると会員になることができます。平成15年4月から発足して、今540の病院が参加しています。どういうことをやるかと申しますと、匿名性を確保した上で自分の病院で体験された医療事故の事例を機構に報告していただく。報告された情報に基づいて、辛い経験ですが非常に重要な経験を他の会員病院にしっかりとお伝えして、それぞれの病院でそのような事故を起こさないように予防対策をしましょうという趣旨です。

多岐にわたる医療事故がありますが、この協議会が取り組んでいる分野は現在6つあります。その中の、例えば『投薬プロセス検討部会』は投薬のプロセスに関連した医療事故の協議の場の代表的なものです。薬を誤投薬したとか、量を間違えて10倍量を投薬したとか、別の患者さんに投与してしまったとか、薬剤の投与に関する医療事故が半分近くを占めますからね。
また『IT情報機器検討部会』というのもあります。これだけコンピューターが医療の現場に普及していきますと、コンピューター画面から薬の指示をクリックすると処方されて現場に届けられるシステムが運用されています。非常に迅速で便利ではあるんですが、クリックを間違えると別な薬が出てしまう。それから、情報機能が夜は動かないとか、そういう問題が起こる。そうすると、深夜や時間外で機械が運用されていないときに薬を処方して薬を出そうとすると思うように行かないとかいろいろあります。情報機器は便利ではあるけれど運用を誤ると大きな事故になります。

もうひとつは、深刻な事例を引き起こすとして、『処置チューブトラブル検討部会』があります。点滴したり、栄養を与えたり、医療の中で管を体内に入れる処置というのはたいへん多い。これにともなう深刻な事故も多いんですね。栄養をいれるために静脈を辿って心臓近くまで管を入れるときに、胸腔内に入ってしまって、体内に点滴しているつもりが、胸腔内一杯に輸液が溜まってたいへん深刻な事態になるということがあります。知らない間に管が抜けて出血多量でお亡くなりになる等々、この種の様々な分野における、有用で緊急性の高い分野における辛い経験を、情報的な管理をしっかり行って協議会を開催しています。このような貴重な経験を、重要かつ有効な事故防止のため『患者安全推進ジャーナル』という冊子を発行し、会員さんには無償で配っています。これは一般の方でも入手することができます。

病院機能評価は改善支援事業

病院機能評価は2002年から評価審査の項目が新しくなり、従来体系より評価項目数も増えましたし、医療安全の他にも審査の視点が拡大しています。新体系は患者さんの立場に立って、一連の診療や看護のプロセスについて、それぞれの過程に沿った形で、病院の中の部門部署が適確かつ適切に関わって医療をやっているか、まさにそのやるべきことの順序をしっかり踏まえた項目立てをして評価の項目体系をつくりました。診療及び看護の一体的なプロセスを見る。これが従来の評価の基準に付け加わった点です。

ところで、病院機能評価の考え方というのは、認定されたかされなかったかをはっきりさせるということではないんです。留保された病院が、認定された病院より劣った病院であるという考え方は正しくありませんね。優れた病院でも、たった1ヵ所の問題で留保になる病院は、かなりあるのです。確かに多くの問題を抱えた病院もありますが、受審した以上は最後まで取り組んで認定を取得していただくように支援するのが事業の基本趣旨であって、評価機構の役割は結局、改善支援事業なんですね。

現在、認定された病院の9割近くはホームページ上で審査結果の公開に応じています。公表される審査結果、5段階の評点からコメント文まで、病院の合意があれば載っています。WEBにアクセスしない方も本という形で読めなくてはおかしいということで、書籍にもしました。
当機構は病院機能の評価ですので、病院という組織が行う医療、これを適切に行っているかを見る審査で、個々の医師の評価というのは方法的に無理なんですね。ということで、個々の医師をどうこう評価するということはありませんが、病院が個々の医師の業務実績をしっかり評価しているかとか、看護師の側から医師をどのように評価するかについては審査の対象となっています。したがって、個々の医師の手術実績を見るとか、成功率というようなことを直接的に把握して審査することありません。

いずれにしても患者さんは、当然、より良い医療を受けたいと思っているわけですから、医療の質向上という観点から、第三者機関としての当機構の役割に対する社会的な要望は、ますます大きくなってきているのではないかと思っております。

大道 久 氏
昭和45年 東京大学医学部卒業
昭和52年 同大学院博士課程修了 医学博士
同年 国立病院医療センター(当時)臨床研究部医用生体工学室長
昭和54年 厚生省医務局(当時)併任
昭和57年日本大学医学部病理管理学教室 助教授
平成元年 同 医療管理学教室 教授
平成14年 同社会医学講座医療管理部門 教授

現在
厚生労働省 独立行政法人評価委員会員(国立病院部会)
同 保険医療審査専門診療報酬調査専門組織委員
日本医師会 医療政策会議委員
同 病院委員会委員長
東京都 社会福祉審議会委員
同 特定機能病院連携推進協議会会長
同都立病院経営委員会委員長
日本医療機能評価機構 理事・評価委員長
日本病院管理学会 理事長 
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