今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第11回 2004/03

この会社を通じて日本に健全な病院を育てたい

昨年3月に、日本初の医療機関格付け会社誕生とメディアに取上げられ注目を浴びた㈱医療福祉経営審査機構。今回は、設立後ほぼ1年を迎える同社の活動や本来の目的等について、CEOの開原成允さんにおうかがいしました。2011年1月12日、開原成允さんは解離性動脈瘤のためご逝去されました。謹んでお悔やみ申しあげますとともに、心からご冥福をお祈りいたします。

株式会社 医療福祉経営審査機構
CEO(最高経営責任者)
開原 成允(故人) 氏

民間の医療機関を審査し、病院を良くするのが目的

私どもの役割は、医療機関の「経営」と「医療」を審査して、その医療機関が立派で将来性もあるということを、世の中に知っていただくことだと思っています。
どうしてそういう役割が必要かと言いますと、例えば、民間の病院が資金が必要になっても、銀行が簡単に資金を貸してくれない場合があります。実は、銀行もいい病院だったら貸してもいいと思っているのですが銀行は病院を調べる手段を持っていませんから、いいかどうかわからない。その時、私どもが銀行の替わりに病院を調べさせていただいて、これは将来性のある病院ですと言えば、銀行も安心して融資できますし病院もお金が手に入ります。そうすれば民間の病院がどんどん良くなっていく。そういうことをやりたいというのがこの会社の目的なのです。

現在は、銀行から依頼される医療機関の審査、医療機関から依頼される経営診断とコンサルテーション、格付け、の4つが我々の仕事です。おかげさまで設立以来たいへん順調で、忙しくしております。

医療機関の実質的な格付けを行う

格付けについて誤解のないように申し上げますと、今、日本では格付けができる会社が決まっていまして、私どもの会社はそういう意味での指定格付け機関(※1)ではありません。しかし、病院の実質的な格付け機関であると思っております。

いわゆる格付け機関は、本来、債券を発行したいという場合に格付けをするためのものです。しかし、病院が格付けを求める場合は必ずしも債券を発行したいというわけではありません。そうではなく、「わが病院は経営的にも医療的にも健全です」ということを世の中に示したい、そういうご要望なのです。
普通の意味での格付け機関は、債券発行を頭においていますから経営しか見ません。また指定格付け機関で医療を扱うところは非常に限られていて、規模の大きな医療機関しか扱いません。普通の医療機関はなかなか指定格付け機関の対象にはならないのです。病院はだいたいが中小企業ですからね。
ですから、それとはニュアンスのちょっと違った医療機関向けの格付けというのが別にあってもいいと思っていまして、そこはこの会社がやっていきましょうということです。

医療の質は同じなのに、赤字を出す公立病院

よく、経営的に良い病院は、金儲け主義で良い医療を提供していないのではないかなどと言う人がいます。しかし、それはまったく違います。例をあげるとわかりやすいですね。
私が実際に経験した例ですが、ある市の医療は、「市立病院」と「市が委託して作った民間の病院」によって支えられていました。市立病院は年間20億以上の赤字を出し、民間病院は1億くらいの補助金ですんでいたのです。
なぜそうなのかを調査する委員会ができ、委員は、最初、市立病院は民間病院ができない医療をしているから赤字なのだと思っていました。しかし、市立病院と民間病院の医療内容、つまり救急患者の受入数、土曜の診療、診療科の種類、手術の種類と件数などを調べた結果、民間病院のほうがはるかに医療内容が良かったのです。救急患者はたくさん受け入れていますし、土曜日も診療している。高度な手術をやっているのはむしろ民間病院のほうでした。それでは、なぜ市立病院に赤字がでるかというと、医療スタッフの数は同じなのに圧倒的に人件費率が高いのです。

市立病院の「赤字」は税金で補填されているわけですから、税金が職員の給与になってしまったということになります。私はこれは非常におかしいと思いまして、市立病院は民間に委譲したほうがいいという答申を出しましたが、同じような例がたくさんあるのです。

公立病院は赤ひげ(※2)ではない

私は、日本人には「赤ひげ幻想」があると思っています。「清貧に甘んずること」と「赤字を出す」ことを混同して、公立病院は、身銭をきって(赤字を出して)良い診療する「赤ひげ」だと思っているのではないでしょうか。ところが、今、土曜日に診療をしているのは全部民間病院で、公立病院は休みです。その一事をとってもどちらの病院が良いかわかるのではないでしょうか。

「赤ひげ」なら身銭をきっているからまだいいわけです。しかし、赤字を出している公立病院は、身銭ではなく国民の税金を使っているから「赤ひげ」ではないのです。赤字を出すことは国民の税金を無駄に使っていることで悪いことなのです。そういう病院が経営を良くすれば税金がそれだけ助かるわけですから、公立病院だって赤字を出さないようにしなければいけないのです。
日本人の心理の中には、儲かるのは悪いことだというイメージがありますね。しかし、私はそうではないと思います。適正な利益をあげることはいいことで、儲からなければ病院は存立できません。赤字を出したらつぶれるのです。病院を健全に維持していくために、利益をあげる必要があるのです。

さまざまな立場からの評価を見る知恵を持とう

日本ではこれまで病院の評価というものがありませんでしたが、最近色々出てきて私はたいへんいいことだと思っています。
ちなみに、「日本医療機能評価機構」と私どもの「評価」は違います。日本医療機能評価機構は経営のことは原則的には見ないことになっているので、何十億の赤字を出している病院でも、良い病院ですという場合もあるわけです。また、日本医療評価機能機構は、医師一人一人の資質を見るということはなかなかできません。ところが我々にとっては実はそこが非常に大事です。我々はどういうお医者さんがいるかによって、その病院が生き残れるか生き残れないかが決まると思っています。医療の質と経営は一体化していると思っているのです。医療の質を支えるのは医師の能力によるところが非常に大きい。ですから、一人一人面接するところまではできませんが、そこにどういう資質のお医者さんがいるかを知ることは重要なのです。

一つの価値判断だけが横行する社会は健全ではありません。病院の評価も、日本医療機能評価機構の評価や我々の評価もある、健保連や患者さんが見た評価もある、そういうものが並列に存在することが私は健全だと思います。大事なのは、評価の尺度が複数あるということなのです。これからの患者さんは、いろんな立場からの評価を見るという知恵を持つ必要があると思いますよ。

さらに質の高い審査やコンサルテーションをめざして

私どもの会社を通じて日本に健全な病院を育てたい、というのが今後の抱負です。もっとたくさんの質の高い審査や経営診断をしたいですね。そして将来は私どものやる経営診断が社会的評価を獲得し、当社が立派な病院だという格付けをした病院は診療点数が上がるとか、それが世の中に公表されて患者さんがたくさん来るようになりさらにその病院が良くなる、そういう方向に働いていくようになるといいなと思っています。

編集部注
※1.指定格付け機関:現在、わが国には、金融庁長官から指定を受けた指定格付け機関が5社ある。R&I(㈱格付投資情報センター)、JCR(㈱日本格付け研究所)、S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)、ムーディーズ・インベスターズ・サービス、フィッチトレーディングスがそれで、それぞれが独自に格付けを提供している。(なお、上記指定格付け機関の有効期間は平成17年12月31日まで)
※2. 赤ひげ:山本周五郎の小説「赤ひげ診療譚」の主人公。病苦の大半は社会悪に原因があると、献身的に施療をつづけた江戸の施療院小石川養生所の所長がモデル。黒沢明監督、三船敏郎主演で「赤ひげ」の題名で映画化された。

開原 成允 氏(故人)
1937年生まれ。1961年東京大学医学部卒業。医学博士。米国留学より帰国後、東大病院の電算プロジェクトを推進。1983年同大教授・中央医療情報部長に就任。東大退官後、国立大蔵病院院長を経て、2001年4月より国際医療福祉大学副学長ならびに国際医療福祉大学大学院院長。(財)医療情報システム開発センター理事長も兼務。2003年より兼務の形で現職。この間、厚生省、日本医師会等で多くの審議会委員を歴任し、1986年から3年間は国際医療情報学連盟の会長も務めた。
主な著書に『21世紀の「医」はどこに向かうか 医療・情報・社会』(NTT出版)、『医療の個人情報保護とセキュリティ』(有斐閣)などがある。
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