今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第14回 2004/06

病院の安全、いま何が問題か

このところ、院内感染や病院での安全対策論議が盛んです。だいたいが患者側の安全がとりあげられることが多いのですが、ケアをする看護職の方々の安全も気がかりです。今回は竹内幸枝さんに、病院の安全について主に看護職の方々に視点をあててお聞きしてみました。

日本赤十字社医療センター 看護部長
竹内 幸枝 氏

日本赤十字社医療センター

医療者の身体上の安全は専門的知識に基づくルールの遵守で守られる

病院においては、まず、患者さんが安全で安心できる医療やケアを受けられることが大前提となります。そのためには提供者側である私たちが健全であることが求められます。

しかし、看護職員は、様々な病気やそれぞれ背景の異なる多くの患者さんに瞬時に、また同時に対応しなければなりません。また、医療チームのあらゆる職種の人々とのかかわりの中でコーディネーターの役割も果たしながら仕事を進めていく必要があります。身体的にも精神的にもストレスは高く、安全を脅かす状況にあるといえるでしょう。医療者側の安全について考えた場合、感染などの身体上の問題だけでなく、安心して仕事に専念できる環境の整備も重要だと考えます。

身体上の健康問題に関しては、医療の専門家として専門的知識に基づいて活動すればそう怖いことはありません。また、感染予防対策や安全管理については病院内にルール化されているものが数多くあります。なぜその対策をとるのか理解して実践していれば恐れることではないのです。
感染症について言えば、廃棄物の処理の仕方や扱い方のほかにも、例えば、当医療センターの結核病棟に配属する職員については、事前にツベルクリン反応の結果を確認して陽転している者のみを異動の対象とする取り決めをもっていますし、各職場では定期的な健診が行なわれています。また、看護助手やクラーク、メッセンジャーや清掃担当者など、直接医療には関わらないけれども共に働く人々には、業務上のパートナーとして看護職員が日常の仕事の中で安全について理解してもらえるように関わっています。

大きな割合を占めるストレスの問題

看護職員の安全を脅かす要因としてストレスの問題は大きいですね。個人的な理由によるもの、システムが整っていないことによる仕事上のトラブルなど様々です。

個人的なものとしては、コミュニケーションの問題があります。現在は新採用者のオリエンテーションの時期にありますが、指導をする側、指導を受ける側の態度や言葉遣いが意欲や理解度に影響して、些細なことで、元気が出たり自信がもてなかったり、安定した状況で職場に臨めないことも考えられます。
また、患者さんとの関係において、対応や看護技術の未熟さからケアすることを拒否されて自信が持てなかったり、受け入れてもらえないことから自分は看護師に向いていないのではないかと不安になって、職場に出て来られなくなるということもあります。

当医療センターでは、カウンセラー1名が月に2回午後の半日を「語らいの部屋」と称する部屋に来ており、全職員が利用できるようになっています。また、カウンセリングだけでなく職場訪問をするなどの活動も行っています。ストレスを一人でためこまないですむための工夫の一つなのですが、実際には活用される機会は少ないのが現状です。
システムに関連することとして、病院内にはたくさんの専門職がいます。看護職員のほか、医師、薬剤師、検査技師、栄養士など資格を持った者同士が一つのことを成し遂げようと協力し合わなければならないのですが、それぞれの立場から仕事を進めていく上での条件など折り合いがうまく付けられないこともあります。チーム医療推進にあたっては、コーディネーターとしての役割を看護職員がとる場合が多く、中でも医師の協力を得ることにエネルギーを要することでストレスが高まるように感じます。
個人の努力ではどうにもならないことに対するストレスは、職員ひとり一人が安定して気持ちよく業務を行なうことにブレーキとなってしまいます。物事を進めていく上での段取りやしくみなど組織的に対応することがきちんと明示され、職員全体の共通理解のもとに進められることが必要であることを痛感しています。

難しい看護師個人の氏名公表と安全の関係

私の検討課題の一つとして、看護職員の顔写真と氏名の公表の問題があります。当医療センターでは周産期部門に力を入れており、妊娠・出産に関連する外来、入院棟、分娩室、未熟児室では、職員の氏名入り写真パネルを職場ごとに掲示しています。利用者にとっては親しみのもてる安心材料になっているようです。それを一般の病棟においても実施するよう要請を受けているのです。
周産期部門においては、一般に喜びの状況が多く、夫婦単位、家族ぐるみでのかかわりですので、あまり問題になることはありません。

しかし、一般病棟では若い方からお年寄りまで様々な方に対応しますし、看護職員に好意をもつ患者さんもいまして、ストーカーの問題が起こったこともありました。また、救急外来では、救急車が次から次に到着しその対応に追われているときは、既に診察の順番を待っている方の待ち時間が長くなったり、問い合わせの電話になかなか応じられないこともあります。やっとつながった電話の向こうから「何回電話しても出なくていったいどういうつもりだ、お前は誰だ名前を言え」などとどなられたり、外来で待っている患者さんから適切な対応ができていないと指摘されるなど、職員としては努力した結果に対しても苦情を投げかけられたりすると、受け入れがたく、名前や顔が公表されることで後々何かあるのではと、恐怖や不安を感じることも少なくないようです。
以前に、他県の病院の救急外来で職員が襲われた事件などもありましたことを考えるとそれは特殊なケースとはいえ、看護職員の立場にたって慎重に検討しなければと思うのです。

一方、患者さん側については、病院によっては、病室にネームプレートを表示せず外来者が訪ねてきてもわからないように工夫されているところもありますし、社会的立場のある患者さんの名前を別名で表示するなどの方法をとっているところもあります。
患者さんの側だけでなく職員側においてもどの程度まで考慮すべきか考えなければならないと思っています。

院内感染とは実際どういうものか

院内感染として、最近社会に取り上げられているものにはMRSAやSARS、インフルエンザ、血液に関する感染などがあげられるでしょうか。
昨今は、医療用具や衛生材料などはディスポーザブルの製品を使うことが多くなりましたが、処理の仕方や取り扱い方が適切でないために問題が生じる可能性があります。例えば、家庭でも燃えるごみと燃えないごみを分けますが、病院では、燃えるか燃えないかという分け方だけでなく、医療廃棄物としての取り扱いをきちんと行なう必要があります。使用済みの注射針や注射器を捨てる場合、厳重に分別しないと、例えば、一般ごみの中に注射針が誤って入ってしまった場合など、清掃担当者がごみ処理をしている最中にけがをしたり、感染の被害を受けることになりかねません。

MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)感染は抵抗力の落ちている患者さんに発症すると治りにくく重症化しやすいため注目すべきことなのですが、実際に病院内で感染したものか否かわかりにくいのです。健康な人の中にも保菌してはいるものの感染症として発症していないという状況にある人もいます。ですから、その人がもともと保菌していたのだけれど害になる状況ではなかったのが身体状況の変化により症状として現れてきたということもあります。
病院内の治療の過程で起こった感染なのか、もともと保菌状態にあってそれが顕在化してきたのか院内感染の意味合いが異なりますが、医療者を介して他の患者さんへの感染を引き起こさないよう感染防止対策の実行が重要なポイントとなります。

一般的に、病院内に限らず日常生活においても隣の人が何らかの感染症を持っているかもしれないし、風邪を引いている人が一緒にいれば感染する可能性はあるのです。ただ、病院では様々な病原菌に触れる機会、可能性も高く、抵抗力が落ちている人への影響も大きいことから、職員として健康を維持できるよう個人的な努力はもちろん、健康を維持しやすい勤務条件や働きやすい職場環境の整備に務めなければと常々意識しております。

気をつけたい抵抗力の少ない人のお見舞い

当医療センターでは、感染予防を意図して面会時間や面会者の年齢制限をしています。例えば、10歳未満のお子さんをできるだけ面会に同伴されないようにとしていますが、現実的には難しいところがあります。核家族化に伴い、家族の入院に際して子どもを預けて来院することは無理な状況があります。要は制限の意図が、病院内からの感染を受ける機会をもたないようにすること、入院している抵抗力の弱い状況にある人に外部から感染源を持ち込まないことであることを理解し、制限を守っていただきたいのです。

日常において、外出後には必ずうがいや手を洗うことが基本的な感染予防対策であり、風邪などの自覚症がある場合は、他人への感染を予防できるようマスクを使用するなど自ら積極的に対策をとることが得策と思います。何のためにその対策を実行するのか、何のためにそのルールを決めているのかを理解できるように働きかけることで受け入れやすくなるのではないかと思います。
患者さんや家族の方々にかかわりをもつ機会の多い看護職員は、その機会を利用して、患者さん側においても医療者側においても安全を保持していけるよう意識していけたらよいと思います。

竹内 幸枝 氏
栃木県出身 日本赤十字中央女子短期大学(現在の日本赤十字看護大学の前身)卒業後、日本赤十字社医療センターに就職。手術室、一般外科、脳外科で臨床経験を経た後、日本赤十字社幹部看護師研修所において研修修了。
ICU、夜間管理専門、内科、神経内科、脳外科において看護師長として勤務 平成7年より日本赤十字社事業局看護部に出向、看護教育課、企画課において勤務。平成12年より日本赤十字社医療センター、平成14年より現職。 日航機墜落事故、三原山噴火、メキシコ地震、阪神大震災の救護経験をもつ
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