今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第18回 2004/10

院内感染防止のため、急がれるスペシャリストの養成

1990年、日本に感染看護学という看護学の専門分野がスタートした。2001年4月には日本感染看護学会が発足している。この分野を確立し、学会の立ち上げに携わった日本の感染看護学の草分けである林滋子さんに、感染看護学の現状や現場での状況などについておうかがいいたしました。

山梨県立看護大学・山梨県立看護大学短期学部 学長
山梨県立看護大学大学院
感染看護学担当教授
林 滋子 氏

公立大学法人 山梨県立大学

感染看護学の成り立ち

1990年(平成2年)、北里大学で看護学の大学院修士課程を発足させたのですが、その時に感染看護学という専門分野を設けました。それが感染看護学という言葉を使った最初になります。

もともと、看護教育のカリキュラムには、まず基礎看護学があって、看護の対象の発達段階や特性によって成人看護学、老人看護学、小児看護学、母性看護学、精神看護学、また看護活動の場による地域看護学などの学科目が置かれておりました。これらの学科目はそのまま大学院の専門分野としても積み上げられてきました。
北里大学で大学院看護学研究科を開設した平成2年当時は、日本で修士課程の教育を行っているところはまだわずかでした。それで、大学院構想を持って米国の四大学をまわり大学院教育に携わる先生方とディスカッションをしながら意見をきいたのです。そのときいただいた意見を踏まえ、大学院の専門分野を対象別ではなく、健康問題別という考え方で取り上げることとしました。例えば、がん看護のように、がんは成人でも、老人でも、小児でもかかる今日の日本の大きな健康問題で、がんという病気の特性やそれにかかった人のもつ心身のケア上の問題にも共通のものがあり専門的なケアが必要となります。

また感染も今日の日本の大きな健康問題であり、感染予防という立場から見ていきますと、小児でも、成人でも、老人でもみんな感染の対象であり、共通して取り組まなければならない問題なのです。病気を引き起こす微生物は人から人へと直接的、間接的に伝播していきますので、病院であれば全体的に取り組んでいかなければ感染は防げません。また深い知識や技術に支えられた専門的な活動が必要となります。

欧米では早く(1960年前後)から病院にインフェクションコントロールナース(ICN)が置かれました。他の職種でなくナースが活躍すると院内感染防止に効果があがるということがわかり、ICNが広く置かれるようになったといわれています。私は欧米の状況を見て、日本にもそれが必要ではないかと考えておりました。でも日本では長い間、感染防止活動に携わる看護師の育成には関心がもたれておりませんでした。

ICNは内科、外科、小児科というような特定の病棟や外来に勤務するのではなく、常に病院全体を見て、感染の問題があるかを監視したり、各病棟や外来の職員に専門的な相談にのったりするのです。そうでなければ院内感染の防止の効果をあげることは困難です。
そのような考え方から北里大学で修士課程を始めた時は、がん看護に並んで感染看護のスペシャリストの養成をスタートさせたのです。

診療や看護過程での感染防止が目的

感染看護という場合、広く地域や施設における感染防止をねらいとした看護活動を指しますが、現状では主に病院における診療や看護の過程で起る感染のことを重視しております。
感染看護の対象となる患者さんには二つの場合があります。一つは例えば、MRSAのような細菌による感染症を発症していたリ、 あるいは発症はしていないがMRSAを保有しているという場合です。そういう患者さんのケアはMRSAを他の患者さんに広げないようにしていかなければなりませんし、患者さんが行動制限をされていると強く感じたり、疎外感をもったりしないように、MRSAをもっていても、そのことについて十分説明され納得のいくケアがなされなければなりません。もう一つの場合は、易感染状態にある患者さんのケアです。血液疾患や悪性腫瘍などの疾患によって、また副腎皮質ホルモン剤、抗腫瘍剤、免疫抑制剤の投与、放射線照射などの治療によって感染防御機構や抵抗力が低下した患者さんでは、各種病原体に対して易感染性となり、ときには非病原体による感染(いわゆる日和見感染)も起こすようになります。

そこで易感染状態にある患者さんには感染予防のための厳重なケアをしなければなりません。ときには無菌隔離が必要な場合もあります。そんな場合も特定の場所に閉じ込められたと感じたり、不安をもったりすることのないよう安心して治療が受けられるよう、そして患者さんにも納得して協力していただけるようにしていかなければなりません。
今日の院内感染の問題として、例えば腸管内に誰もが保有している大腸菌のような細菌によって身体の他の部分に感染を起こしてしまうことがあるのです。つまり、腸管内に常在する細菌によっても呼吸器感染症や尿路感染症を起こしたりするのです。特に入院中に抗菌剤による治療を受けた患者さんの湿性生体物質(分泌物や排泄物など)にはしばしばこれらの細菌が見出されます。一方、肝炎のウイルス(B型やC型)やエイズのウイルスなどのように血液や体液に存在するものもあります。この場合は職員の感染予防のことも重要な問題となっております。

このような問題に対応するためには、かつては陽性者のみに防護策をとっていたものの、今日ではすべての人が院内感染を引き起こしうる微生物を保有しうるという前提に立って、すべての人のケアに防護策をとるということが必要になってきます。そのため手袋、マスク、予防衣などの防護具を着用したり、手洗いを徹底することが重要になります。最近では病院において看護師が手袋を着用して処置やケアにあたっている場面がよく見受けられると思います。
いずれにしても、治療のため病院を訪れた患者さんが、新たな感染症にならないよう、すなわち院内感染を予防しながら看護するのです。

日本の感染看護の現状

厚生労働省をはじめ、日本で院内感染が問題だとして取り組み始められたのは10年くらい前だと思います。それから本格的に医師や看護師を対象とした講習会や研修会が始まりました。日本看護協会も平成5年に6週間にわたる研修会を始めました。一方、感染防止活動に携わる看護師の資格制度が検討され、平成6年に日本看護協会によって修士課程の修了者を対象とする専門看護師制度が発足したときに、10分野のうちの1分野として感染看護が置かれました。その後、同じく日本看護協会は、平成12年に認定看護師制度による感染管理の研修を始めました。

感染看護の認定看護師や専門看護師が病院に何人必要だというような規定はありませんし、まだまだ数としてはとてもどこの病院にもということにはなりません。ただこれからは、各病院でそういうスペシャリストを積極的に育てていく必要があると思います。

現在は、多くの病院がインフェクションコントロールチーム(ICT)を置いて感染対策に携わっています。ICTにおいては実質的に看護職の役割が大きくなりますけれどいろんな職種の方が関わることになります。
感染管理を担当するのに一番適切な人は、24時間患者さんの身近にいて、かつ病院の多くの職種の人と密接なかかわりをもつ看護師であるとされています。これからは、病院の中に感染看護専門の看護師を置き、その人が、常に新しい知識を修得しつつ、全体の指導的立場で活躍していくことが期待されます。

林 滋子 氏
1958年東京大学医学部衛生看護学科卒業。1965年米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校大学院修士課程(看護学)修了。保健学博士。東京大学および北里大学において看護教育に従事。2002年より山梨県立看護大学長、大学院感染看護学担当教授。
【主な論文等】
MRSA感染患者の看護に関する研究(看護、2002)
感染看護の課題 ―学会設立まで―(日本感染看護学会誌、2003)
看護の定義と概念(日本看護協会出版会)
日本看護関係文献集(編集)
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