今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第19回 2004/11

中規模病院における効率的な電子カルテ活用

より高度で効率的な医療・経営を実現することで、急性期病院と病床を減らそうとする政府方針の下、地域医療の中核を担う病院は大きな転機を迎えている。福岡県の公立八女総合病院は、全国約6割の赤字経営自治体病院を尻目に、30数年来、地域住民に信頼され黒字経営を続けるいわば勝ち組。2003年12月に電子カルテを導入し、病院機能の向上、地域完結型の医療をめざす病院長の吉田博さんにお話をうかがった。

医学博士
公立八女総合病院 院長
八女筑後医師会 理事
吉田 博 氏

公立八女総合病院

電子カルテ導入、きっかけは院内の閉塞感

私は、平成12年(2000年)4月に院長に就任しました。病院経営が健全でなくてはいい医療ができないという先代院長の背中を見て育っていますから、病院は黒字経営で当たり前という考えを持っています。これは民間の病院経営者なら当たり前のことだと言うでしょうね。院長に就任して初年度が前年よりも3%の上昇、翌年もプラスでした。平成14年に初の診療報酬マイナス改定がありましたが、色々な対策をとってプラス1.5%の上昇ということで、毎年、平均2%ぐらいの業績の伸びを達成しています。もちろん地域の信頼があったからできたことですけれどね。

しかし、病院をきちんと保つためにスタッフ一丸となって一生懸命に頑張っている中で、なぜか病院の中に閉塞感がでてきたのです。私自身が閉塞感を感じたくらいですから、現場のスタッフはもっと感じていたと思います。それで3つのことを考えました。1つは外来のリニューアル。もう1つは救急病棟の充実。3つ目が電子カルテの導入です。
実は病棟を新築して10年ぐらい経っていて、外来の機能が落ちて今の医療に追いつかないという状況が出てきていました。例えば抗がん剤の治療でも、入院ではなく外来でやるようになったのに、外来は非常に手狭で、患者さんが狭いベッドで抗がん剤の点滴をしている。抗がん剤治療は副作用の強い治療ですから、本当はゆったりとしたソファーでテレビでも観ながら治療してあげたいわけです。また、救急病棟が各病棟に散らばっていましたので、急患で入ってこられた方をすぐに収容できる救急病棟を作りたいということがありました。
あとは、みんな頑張っているけれど、このままではたぶん燃え尽きみたいなことになる、何かモチベーションを上げる必要があると考えた時に、電子カルテを導入しようということになったのです。目的は病院の機能を上げることですが、その背景にはスタッフのモチベーションを上げたいという意識も働いていたわけです。本当は他の病院が入れて、評価が固まる平成18年ぐらいに入れようと思っていたのですが、医療情勢が段々厳しくなるものですから、病院の足腰が強いうちに投資をしようということで決定したのです。

コストパフォーマンスを考え、ノンカストマイズドタイプ導入

電子カルテはたいへん経費がかかります。ですからどういう機種を入れるか色々研究しました。そしてノンカスタマイズドの選択をしたのです。当院の企画室が中心になって考えたわけですが、従来の電子カルテシステムはパッケージ化されたシステムのコア部分を核として、個々の病院の事情に合わせてプログラムをカストマイズするのが普通です。しかし、それですと技術もツールも日進月歩で進化しますから、せっかく高額な予算を使って立ち上げても、最先端のシステムほどすぐに陳腐化するという問題がでてきます。ランニングコストを考えれば、時代遅れになってもたやすくはバージョンアップできません。ノンカストマイズドのシステムであれば、コストの割には高機能のシステムが入れられます。パッケージ導入によって初期コストを低く抑え、しかも技術の進化に遅れることなく成長型のシステムを常に維持できる、という判断をしたわけです。

導入の初めの頃はスタッフが慣れていませんから大変でした。慣れるまで外来の患者さんも抑えたりしましたから、導入した月(2003年12月)は医療収益が前年比7~8%落ちました。でも3月には前年よりもプラスになりましたので、導入4ヵ月で元に戻す結果となりました。
実は今回導入したシステムのメーカーにとって当院は、ノンカストマイズドタイプ電子カルテのファーストユーザーなのです。キックオフから導入まで半年という非常に短期間での立ち上げで、大変でしたよ。メーカーがこれまで完成したパッケージを持ってきて、ここでどんどん組み立てたような感じでした。

納得の診療と、セーフティマネジメントに役立つ電子カルテ

電子カルテを導入して一番良かったのは、医療情報を患者さんに効率良く、たくさん伝えることができることです。今まではフィルムでお見せしていたレントゲン写真や内視鏡検査を、キレイな液晶画面でご説明できる。マウスで指して「ここに少し出血していますね」とか。また例えば、糖尿病の患者さんには、血糖とヘモグロビンA1C という血糖の一つのマーカーを、時系列にグラフにして見せることで、良くなっている悪くなっているなどわかりやすく説明できます。それから CTなどでも、クリックしながら一番重要な部分を拡大してお見せすると、患者さんが「何かできてますね、ガンですか?」などとおっしゃる。医師は「かもしれませんけど入院して調べましょう」という話ができて、患者さんが非常に納得します。これが一番良い点です。患者さんお一人当たりの外来の時間は長くなりますが、それが本来の姿だと思います。

それに合わせてスタッフの間で医療情報を共有できることが良いですね。例えば、私が午前中、急患で診た患者さんを若い先生に指示を出して入院させたとしますね。その場合、その医師がちゃんと治療しているかどうか、検査したかどうかは、カルテを開ければすぐチェックできます。
それと例えばCTをオーダーするとしますね。紙カルテの場合は『何月何日CT』と書いてレントゲンに回していました。電子カルテではCTの項を開けて、何のために検査するのか、アレルギーはないのかなど、色々なことをチェックして初めてオーダーできるようになっています。つまり、今までは看護師さんなどに任せてオーダーしていたのが、全部医師がチェックをしてオーダーするようになった。また、看護師はPDA(携帯端末)で、患者さんの氏名とオーダーされた薬、自分の名前をバーコードで確認しないと予薬できません。セーフティマネジメントの点で、非常に安全性が高くなりました。

専門に特化することで、医療の質と良好な経営を両立

医師の仕事は、電子カルテ導入前に比べ1.5倍ぐらい増えたと思います。外来の患者さんの数も減らす傾向にありますから、一見すると経営上マイナスではと思われる方もあると思います。しかし、そこがポイントになります。私どもの病院は、いわば血圧を測って薬をお出しするだけという患者さんは診る必要がないのです。そういう患者さんは一般の先生にお任せして、我々は専門的知識、専門的な検査が必要な患者さんだけ診させていただくようになります。専門特化することが私どもの役割なのです。また、そうすることで1件当たりの報酬単価も上がることになります。

電子カルテ導入前は1日680人ぐらいの外来患者さんがありました。現在は530人で、紹介率35%となっています。入院・外来比率は1:1.6ですから、1:1.5と在院日数平均17日をクリアすると、1年間で急性期特定入院加算として1億8千万円ぐらいの加算があります。ですから、医療収益全体は下るかもしれませんが、ちょっと発想の転換をすることで、内容がいいという方向に転換できると考えています。高度、かつ安全で質が高い医療をやることがポイントなのです。

私は、やはり赤字ではいい医療はできないと思います。自慢するわけではありませんが、私どもの病院はCTもMRIも最新機種を入れています。黒字だからそれだけの投資ができ、だから高度な医療ができるとも言えるのではないでしょうか。よく、小児医療をやっているから、救急をやっているから、高度医療をやっているから赤字なのだなどとエクスキューズしている病院がありますが、私に言わせればとんでもないことだと思っています。

地域の方々が、地域の中で治療できる地域完結型の医療をめざす

私が院長になって掲げている目標の一つに、地域完結型医療があります。この地域で病気になった方は、この地域の病院できちんと治してさしあげたいのです。当院のある八女・筑後保健医療圏は、人口15万人弱、2市4町2村から成っていて7つの病院があります。三次救急や専門がいない心臓の手術は無理としても、それ以外、胆嚢の手術や、肝臓がんの治療、心臓のカテーテル治療など、この地域の病院が協力して、それぞれの専門性を生かして地域で完結できるようにもっていきたいと思っています。

平成10年のデータでは久留米などの隣接医療圏に入院して治療をしている患者さんが35%近くいます。また、この地域の20%ぐらいの人が久留米市で外来治療を受けています。自分の住んでいる地域で入院できて、きちっとした医療が受けられれば、住民の方々にとってこれほどいいことはないわけですから、早くそういう体制を作りたいと努力しているところです。

吉田 博 氏
1950年生まれ。1977年久留米大学大学院医学研究科終了(細菌学専攻)。1977年~79年まで米国立衛生研究所(NIH)留学(Visiting fellow)をはさみ、久留米大学助手、社会保険田川病院内科医長等を経て、1988年、久留米大学第2内科医局長。1994年、公立八女総合病院副院長。2000年4月より現職。2004年8月より久留米大学医学部臨床教授を兼務。
【資格等】
日本内科学会認定医・指導医、日本肝臓学会専門医・指導医、日本消化器学会専門医・指導医、日本感染症学会専門医、ICD。 専門分野:内科学(肝臓病・感染症)
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