今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第20回 2004/12

看護情報の見直しをして、看護現場からの積極的な情報発信を

医療事故や診療録開示の流れの中で、看護記録の重要性が高まっている。今回は、日本医療情報学会の看護部会会長として、看護情報や看護記録のあり方にさまざまな提言をしている宇都由美子さんに、看護記録の現状や今後のあり方などについて詳しくお聞きした。

日本医療情報学会 看護部会会長
鹿児島大学医学部保健学科地域看護・看護情報学講座 助教授
鹿児島大学医学部・歯学部附属病院 医療情報部 副部長(兼務)
宇都 由美子 氏

鹿児島大学医学部

看護情報の見直しを迫る個人情報保護法

これまで、看護情報の見直しをする大きなきっかけは二度ほどあったと思います。一つは99年の患者取り違え事件以降に、リスクマネジメントということが医療や看護の現場で強く言われるようになった時。もう一つは情報開示時代を迎えて、いわゆる診療記録の開示請求に対して各施設が積極的に開示をしていきましょうという時代になり、2005年4月から、個人情報保護法が施行される予定となっていることです。これらを契機に、看護の現場は、情報開示に耐えられる看護記録であるかどうか、その都度、看護情報というものを立ち止まって見直すきっかけを得ています。しかし、そういう見直しや改善の努力が、内部で一つの大きな成果になる、あるいは流れになって社会に対して看護は今こういう動きをして、自分たちの質改善をやっていますという情報発信にまでは至っていないと、私は感じています。

特に今度の個人情報保護法は、今までは努力目標だったものが、患者さんから開示請求をされるとすべての医療機関は必ず開示しなければならないわけです。そういういわば外圧が加わることで、自分たちがその外圧に対抗できる実力を付けていけばいいのですが、どうも看護というのは全体主義というか、みんなで渡れば怖くないという意識があって、個人の責任とか自覚が生まれにくい土壌なのではないかと、私自身も看護の世界にいながら思うところです。個が評価されようとか、個同士が比較、評価されるということは、あまりチャンスがなかったし、そういう経験もない。したがって個人が実力を備えていくことがなかなかできにくい集団であると思います。そういう人たちが扱う看護情報というのは、得てして自己満足的な情報になりがちだと言えます。

後利用が可能な看護情報の蓄積が必要

個人情報保護法の施行を来年4月に控え、今、たぶんどの施設も情報の見直しや、その情報を記載した看護記録の見直しをやっていると思います。しかし、その一つ一つの情報が本当に必要な情報なのかどうかも検討していただきたいですね。例えば、婚姻の有無を問診で必ず聞いたりしますが、最近は離婚して子供さんを連れて自分で働いているというシングルマザーが増えてきていますね。そういう人に婚姻の有無という問いかけをしたらどうなのか。自分たちの定義も一致していなくて、あいまいな状態で聞きますから、答えてくれる患者さんも自分は婚姻ありと言うべきなのか、なしと言うべきなのかとたいへん困ってしまうし、あいまいになる。

今までこういう情報をいただいてきたから今もやっている、そこに何の疑問も感じないというのはどうかということです。よく情報を蓄積してそこから色々な看護研究に活かすとか、看護教育に活かそうと言いますね。でも、私自身がなぜ臨床のエビデンスが育ちにくいんだろうと考えた時に、そういう蓄積しても何の役にも立たない情報、あいまいな情報が蓄積されているから臨床のエビデンスにつながらないのだと気がついたのです。あいまいな情報は分析しても意味がないのです。

客観的な事実に裏付けされた情報の収集、情報活用が意識的になされていないことに自分たちが気がつく必要がありますね。せっかく患者さんからいただいたこの情報を何に使う、それからこれがどういう後利用につながるのだというように、情報を通じた自分たちのケア活動というものに気がついてほしいと思います。

求められる情報活用によるコストベネフィット評価

システム、技術というのはツールであり、常に時代の要請で変わっていきます。ですから、そういうツールを使って結局は専門職がその情報をどう活用していくのか、そこをもっと皆さんが取組んでいただければと思います。しかし、学会の発表などでも、こんなシステムを作りました、こんなシステムを作りこんなに便利になりました、という発表がまだ多いですね。そうではなく、情報を活用して、医療や看護の質にどう貢献したのか、コストベネフィットとしてどういう便益がでてきましたという評価をしてほしいと思います。
特に、電子カルテの評価がありませんね。便利になった、画面が見やすくて患者さんへのインフォームド・コンセントがしやすくなった、というような、クリティカルパスと似たようなメリットがでてきます。でもそれは感覚的な評価でしかないと思います。例えば、電子カルテにしたら紙の診療記録の時代よりも感染率が何%減りましたとか、死亡に至る例がこんなに改善できたとか、そういう評価があれば、多少高くてもみんな惜しまず情報投資できるようになると思うのです。

明らかに事故が減りましたなどと言われますが、明らかというのはどれぐらいなのか、それをきちんと出してほしいわけです。お金があまりなくて、情報投資を迷っている病院が、いわゆるコストイフェクティブアナリシスという対費用効果を考えた時に、先行病院や先行部門がきちんと評価を出していれば、自分たちが情報投資をやっても報われるという保証があり、安心して投資できますよね。先行した病院、特に公的資金で運用している病院は、そういう義務があるということを忘れてはいけないと思います。

看護記録は看護の質を反映する

情報の透明性や情報公開が叫ばれていますが、院内ですら隠そうとする情報がある中ではどうでしょうか。確かに良い部分の情報共有はできていますが、術後合併症がどのくらいあるかとか、クリニカルインディケーターに近い情報をみんなが等しく共有しているかというと、必ずしもそうではないのが現状です。医療の透明性を世間から求められても、なかなか説明責任が果たせないというのは、自分たちがまだハードルを越えられないというところがあるからだと考えています。

情報に対して非常に緻密になっていくと、それが記録に反映して、記録の質が向上し看護の質が上がります。看護記録というのは鏡みたいなものです。看護記録がきちんと書けるということは、とりも直さず看護の質が良いことを表しています。患者さんからいただいた情報をまず取捨選択できて、必要な情報だけが記載されている。それが正しい用語を用いて書かれている。この情報は一次利用として患者さんに良い看護を提供するために使われるのですが、その情報を蓄積していくことによる後利用も考えてとるわけですから、非常に質は上がります。ですから看護記録が良くなければ、そこで展開されている看護の質は良くないです。とにかく、自分たちの看護行為をそのまま展開しているのが看護記録ですから、良い看護記録というのは患者さんからいただいた情報とそれに基づくアセスメントができて、アセスメントの結果、実施して評価してということがきちんと記録できる。良い看護をしているところでは良い記録が、良い記録を書いているところは良い看護をしていると言えるのです。

画期的な看護必要度による診療報酬加算

今回、特定機能病院に診断群分類別包括評価(DPC)と、日額、定額払いが結びついた仕組みが取り入れられました。しかし、残念ながらその中に、看護の人的資源が全然反映されていませんでした。それで、医療資源の中で、人的医療資源が一番多く投入されている看護が反映されないのは片手落ちだということで、今度、中医協の指示によって看護必要度を調査してできるだけ早く反映させようと、具体的に取組まれることになっています。

その場合、看護必要度に応じて、診断群分類が同じ狭心症でも看護力をたくさん必要とするグループ、あまり必要でないグループというふうに、枝分かれしていってくれれば一番ありがたいのですが、現実にはまだそこまで精緻化する道具を私たち自身が持っていません。ですから、当面は施設ごとの認定になるのではないでしょうか。この病院の看護必要度は何度、こちらは何度、だからこの加算になりますというふうに。しかし、限定的かもしれませんが、看護必要度ということが初めて診療報酬請求で加算という形に結びつけば、これは画期的なことです。
例えば、褥瘡を作りやすい人とか、非常に感染を起こしやすい人などに対して、褥瘡を作らないような看護、感染を起こさないような看護を提供していくことができますね。そうすると自分たちの看護の力が日本の医療費をこれだけ抑制しているというデータを取って、それを世の中に情報発信していくことができます。そうすれば、診療報酬請求という限られたパイを、「もっと看護にお金を出してもいいではないか」という国民の合意形成を取り、それが診療報酬請求に反映する、そういう可能性も出てきたわけです。

そのためにも国民に理解してもらうためにも、看護情報の中で扱われている情報が、いかに精度が高く標準化されていて優れているかということを証明していく必要があります。看護情報と言うとコンピュータシステムそのものの利用ということをイメージされやすいのですが、実際はそのデータで自分たちがどういうことを実現していくかなのです。そこを強調したいですね。

宇都 由美子 氏
【略歴】

1979年        熊本大学教育学部卒業後、鹿児島大学医学部附属病院看護部勤務。
1984年        鹿児島大学総合病院情報システム(THINK)開発・導入のため設置された医療情報室兼務。
1988年        鹿児島大学医学部附属病院医療情報部助手に就任。
1997年        同病院医療情報部副部長。
2000年より        同医療情報部副部長を兼務し、現職。
現在        日本医療情報学会理事、日本医療情報学会看護部会長、看護用語の標準化検討委員会委員(MEDIS)、ISO(国際標準化機構)Technical Committee215、WG3エキスパート委員、鹿児島県職業能力審議会委員、看護協会ファーストレベル講師、看護協会セカンドレベル講師としても、幅広くご活躍中である。
【専門分野】
看護情報学、医療情報学、病院情報システム
【著書】
『看護情報のシステム化』(1992年、医学書院)、『看護に生かす情報システム(共著)』(1996年、日本看護協会出版会)、『看護サービス管理(共著)』1998年、医学書院)、『クリティカル・パスと病院マネイジメント』(1998年、薬業時報社)、『看護情報学への招待(共著)』(2001年、中山書店)
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