今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第22回 2005/02

理念に基づく病院経営

医療法改正や社会の価値観の変化等により、病院経営を取り巻く環境は厳しい変革の波にさらされています。そのような中、脳神経運動器疾患の専門病院である岡山旭東病院院長の土井章弘さんは、病院経営はまず患者さんを第一に、理念に基づく経営をすることが大切であり生き残りの方法であると力説されています。今回は岡山旭東病院が実践している、「理念に基づく経営」の具体的な内容についておうかがいしました。

(財)操風会 岡山旭東病院院長 医学博士
土井 章弘 氏

(財)操風会 岡山旭東病院

経営理念は病院経営のバックボーン

病院にはいろいろな職種の人がいます。医師や看護師、薬剤師、放射線技師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、社会福祉士、管理栄養士等、国家資格を持っている人が多数を占めます。専門職はその仕事だけやればいいかなと思いますが、これからはそうはいかないと思います。今のところ資格がないのは事務職ですが、事務職は専門職にない視野の広さを持つように学び続けることが大切と思うし、学びがないと、医療職からの対等の関係と尊敬は得られないと思います。

医療の世界は患者様の命を預かるところであり、医療職は一定のレベルの能力を要求されています。しかし、病院は専門職集団でセクショナリズムがはびこる温床ともなりやすく、しばしば組織は病んで沈滞し腐っていきます。元気のいい病院は医師、看護師、コメディカル、事務職等の職種が互いに協力するチーム医療が行なわれています。病院の組織をある方向に向けていくには、何のために病院を経営しているのか、経営理念を明確にしてこれに向かって、計画を立てて一丸となることが大切です。病院は、「理念を追求するのであって、利潤を追求してはならない」と思います。

優良企業であった三菱自動車や雪印食品でさえ、有る時期、利潤を追求し、理念を追求しなかったために会社存亡の危機に結びついたと思います。病院経営の基本は理念を追求し、その結果、社会から支持されて利潤を上げることではないかと思います。経営理念は病院経営のバックボーンです。病院の未来は経営管理者や職員の方がどれほどの思いで経営理念に向かって取り組むかにかかっています。

岡山旭東病院の経営理念とビジョン

私どもの病院には目的と目標である4つの経営理念と3つのビジョンがあります。私どもの経営理念は次のようなものです。

1つは安心して生命のゆだねられる病院です。あたりまえのことですが、患者様が安心して生命を託すということは、病院のスタッフを信頼してくださっているからです。私たちは期待を裏切らないように患者様に最善の医療をさせていただくさまざまな試みが必要です。医療スタッフの質の向上、病院システムの改善、医療施設、医療器具の充実もはかっていかなければなりません。このような病院にしていくためには健全な財務体質と、人材育成が車の両輪となってくると思います。

2つ目は、快適な、人間味のある温かい医療と療養環境を備えた病院ということ。私は病院というものは最高のサービス業だと思っております。医療サービスの本質は、合意と納得の医療を快適な人間味のある温かい医療環境でさせていただくことではないかと思います。患者様に「感動のサービス」を提供できるかどうかが病院存続の鍵だと思っています。

3つ目は、他の医療機関・福祉施設とともに良い医療を支えるということです。自分の病院だけでは良い医療の完結はできません。病院の特色を生かし、自分の病院で対応できない、専門外の患者様は他の医療機関へ紹介して治療をお願いします。助け合って患者様本位に医療を推進していくことが大切です。特色あるオンリーワンの病院を目指します。

4つ目は、職員ひとりひとりが幸せでやりがいのある病院、ということです。職員にとって良い職場が患者様にとっても良い病院です。良い職場はその職員にとって出番があり、自己実現ができる、そういう職場です。私は、職場はあなたの晴れ舞台と言っております。もちろん主役は患者様です。私も院長という役を演じる一人の役者だと思うのです。そのために私はあちこち勉強に行って院長の役作りをする。看護師さんは看護師としての勉強をしていただいて、自分の役作りをしてほしい。演技する舞台づくりは経営者の務めです。
このように経営理念を述べましたが、経営理念というのは、司馬遼太郎が明治の若者を題材にした本の題名のように「坂の上の雲」だと私は思います。私達は経営理念に到達するということはないわけです。坂の上に雲があるかなと思って登ってみると、雲はまたその次の坂の上にある。それが経営理念だと思います。

3つのビジョンの1つは、脳神経運動器の総合的専門病院です。総合病院化はしない方針です。2つ目は学習型病院。学び続ける、常に勉強する病院でありたいということ。3つ目が総合的画像診断センター機能を持とうということです。最新のPET‐CT やMRIなどを備え、地域の皆様や診療所・病院の先生方に利用していただきたいと思っています。

経営指針書の成文化で経営理念の実現を図る

経営理念を実現するために、どのようにしているかと言いますと、経営指針書というものを作成します。いわば経営のクリニカルパス、くだけていえば演劇の脚本です。

経営指針は3つのことを総称しています。1つは、経営理念、これは一番大事な経営の基になるものです。2つは経営理念に基づく経営方針、そして3つ目は経営計画です。病院の組織は専門職集団で、経営者と職員間、それぞれの職域間に溝があります。それを少しでもなくしていくのが経営指針書なのです。究極的には全員参加でないとこの溝は埋まらないと考えています。

経営指針書を作る手順ですが、まず初めにその年の経営方針を打ち出します。経営の基本方針は既にありますので、これを踏まえて単年度の経営方針をつくっていきます。

このやり方として、私どもは毎年10月に入ると、全職員に経営戦略検討シートというものを書いてもらいます。岡山旭東病院を取り巻く環境・市場の変化、我が病院の持ち味、患者様は何を望んでいるか、地域社会への貢献、克服すべき弱点、我が病院の戦略、あなたの思う理想、または夢の病院はどんな病院ですか、ということを全職員272名の全員に書いてもらいます。パート20名の方にも書いていただきました。それをそれぞれの部長のところにあげて、ディスカッションして集約して年明けに経営方針として発表します。

もちろん言われたことが全部できるわけではなく、本当に大切なものを方針として策定するわけです。これはやってみると本当に素晴らしい意見がでてきます。最初の年はドクターがあっという間に全部書きましたので、ドクターはけっこう能力が高いなと思いました。今は全職種の人が書いてくれます。皆さん本当によく理解して書いているなと思います。
例えば、克服すべき弱点では、看護師の離職率が高い、医師不足、病棟クラークがいない、看護師のストレスが高いなど、非常に的確でたくさんの項目が上がってきます。その中で改善できるところから改善していきます。例えば看護師のストレスという指摘を受け、今年からメンタルヘルスを重視してラインリスナー制度を取り入れることにしています。このようにして、皆さんの知恵を拝借するという手法をとっているのです。

この経営方針に沿って、各部署から経営計画を各部門長に提出し、予算のことがありますので院長とのすりあわせを行います。そして最終的に経営会議で決定して3月に全部門の経営指針の発表会を行っています。

経理の公開と経営指針で学んだこと

経営指針の発表会では、経営側から経理の公開を行います。経理の公開をすると、職員は自分の病院の経営がどういう状態かわかります。ボーナスの他に期末手当が出るのですが、それはどのくらいの利益が出たらこのくらいというのがあるわけ、公開された経営状態をみて職員も納得してくれるわけです。経理を公開することで経営者と職員の間に信頼関係ができると思います。

それから、経営指針書を作成していくプロセスの中で、社会性や人間性、科学性を学ぶことができます。経営指針書は私が作成してもだめですし、事務長が作成してもだめです。現場の人間が本気になって作成することによって、社会性や人間性、科学性が計画の中に入ってくるのです。そして経営指針書が成文化されれば、計画は実行されます。
ポイントは職員の提案をよく聴き、尊重すること。職員が提案してきたことを、これはだめだというのでなく、失敗してもいいからやってみること、これが大事ですね。失敗の責任は経営者がとればいいわけです。
理念に基づく経営の中で、経営者に求められるものは、理念経営、財務管理、適正なマンパワーの充足、職場環境の整備だと思います。ただ一方的ではなく、当然、医療従事者に求められるものとして、経営理念の実践、これは他人事でなく自分のこととして受け止めて実践してほしい。それから自己実現を目指す学習態度、人間性の涵養ということが求められると思います。
このような理念に基づく経営をすることにより→病院の社会的評価の向上→適正な利潤→病院施設や教育への投資→質の高い医療サービス提供という、理念経営による好循環サイクルが実現すると考え、それを目指して日々実践しているところです。

土井 章弘 氏
岡山旭東病院院長。1966年、岡山大学脳神経外科入局。1970年~1972年、米国ペンシルバニア大学・ブロードストリート病院留学。国立岡山病院脳神経外科勤務、岡山大学医学部講師、香川県立中央病院脳神経外科主任部長等をへて1988年より現職。日本脳神経外科学会専門医。日本脳卒中学会認定医。
【所属学会、役職等】
社団法人 日本病院会常務理事
全国公私病院連盟 副会長
岡山県病院協会会長
岡山県中小企業家同友会代表理事
財団法人 日本医療機能評価機構 評価調査者
日本脳神経外科学会 評議員
日本脳ドック学会  評議員
岡山県交通事故安全教育講師
日本病院脳神経外科学会理事
癒しの環境研究会  理事
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