今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第23回 2005/03

医療サービスへのフリーアクセス確保を求めて

混合診療の解禁か否かをめぐる論争に象徴されるように、医療制度の改革や医療規制の廃止を迫る動きが盛んになっています。今回は、阿曽沼元博さんに、内閣府の規制改革民間開放推進会議の主張する医療規制改革についてうかがいました。

国際医療福祉大学
国際医療福祉総合研究所教授
順天堂大学 客員教授
阿曽沼 元博 氏

確保されていない、医療サービスへのフリーアクセス

私達が規制改革を迫るのは、生活者の視点、つまり患者主体性の確保という意味が大きいと思います。医療サービスへのフリーアクセスを確保することが重要であると同時に、実は新しい医療技術を発展させ定着させて、身近な医療にするためにはどうしたらいいかという、普及のプロセスを早く見つけないといけないと考えるわけです。

私達は、保険証を持っていればどこでも医療を受けられます。いわゆる病院という施設に対するフリーアクセスは、日本は本当に世界に冠たるものを確保しています。しかし、どういう医療を自分たちが受けたいかという医療サ-ビスや医療技術の選択をすることに関しては、フリーアクセスを確保されていません。規制改革は、この扉を少しずつ開いていこうということでもあるのです。

それから、健全な競争原理を働かせるということが医療にとっても重要であります。病院間の競争というのは利益をあげる競争ではないんですね。企業活動でも、競争があり顧客に受け入れられるサービスを提供し続けられれば、利益というのは必ずあとから付いてくるものなのです。基本的には、サービスや技術の競争を前提としていない限り利益は付いてきません。医療の競争も利益の競争ではなく、医療技術、医療サービスの競争をしていく、そういう健全な競争の市場を作っていくことが重要で、医療機関もしくは医療従事者の努力が報われるような制度にしていきたいと思っているのです。
規制改革の要求の争点は、十数項目ありますが、その中で、地域医療計画、医療法人経営のあり方、混合診療の解禁、医療のIT化の推進という、主な4つのものについて簡単に説明してみたいと思います。

一般病床の規制撤廃で、やる気のある病院の拡充を

まず、地域医療計画というのは、いわゆる病床規制のことです。限られた地域の中で、適正な病床というものを決める算数式があるわけです。しかし、今、患者さんはより良い病院にかかりたいということで、自分の診療圏以外に医療を求めていくという現実があります。ですから、今のいわゆる病床の算出のあり方が本当にいいかどうか、また二次医療圏の設定のあり方など見直す時期に来ているのではないか、というふうに思います。

現在、医療圏というのは363ありまして、病床数が過剰な医療圏が212、不足している医療圏が151で、平成14年度現在で、日本全体の病院では8万1千床の病床が溢れているということです。私が勤務しております東京都港区は8000床以上オーバーしています。しかし、例えば私どものグループの山王病院は75床しかありませんが、外来の患者さんが900人もいて、入院を心ならずも待って頂いている患者さんがたくさんいます。でも75床しかありませんから入院していただけません。当然、病床を増やしたいのですが、地域医療計画があるから増やせない。結果的に患者さんにご迷惑をおかけすることとなります。よく、人はこれは特殊な例であると一言で片付けますが、全国各地で同様の現象が顕著になってきています。さらに病院は日銭が入ってきますから、不健全な経営で医療の質も低いにも関わらず、市場から撤退せずに運営している。それは病床規制があるために、変な話ですが病床が売り物になってしまい、金銭的に有利な買い手が現れるまで倒れない。いわゆる既得権益化してマネーゲームの対象になってしまっている例も多く散見されるようになりました。そうすると、健全な医療、やる気のある病院の拡充ができないという矛盾が出ているのです。
それからもう一つは、患者さんの受診行動を見たときに、なぜこの病院を選びましたかというと、山に登るのと一緒で、そこに病院があるから行きました、というような回答が本当は多いのです。患者満足度の調査がありますが、満足度には0の満足度、プラスの満足度、マイナスの満足度があります。同じ満足度でも仕方なく来ている満足というのはネガティブセレクションです。患者さんが仕方なく来るネガティブセレクションを、「満足度が高い、だから我々はこれ以上努力していかなくていいんだ」と思ったときに、その病院の成長は止まるわけです。例えば、病床規制がなくて、自分の病院の隣に非常にカンファタブルなクオリティの高い専門の病院があったら、その病院はどういう問題意識を持つでしょうか。これが、健全な競争を喚起するわけです。私達は、比較的財政には影響しない一般病床に関してのみ、病床規制のあり方を、規制撤廃を視野に考え直していく必要があると思っているのです。

健全な医療の発展に結びつく、医療法人経営の改革

医療法人経営のあり方ですが、よく規制改革は株式会社の医療への参入を認めるもので、医療で貪欲に利益を追求するのはけしからんと言います。しかし、私達は、株式会社の参入ということだけを主目的にしているわけではありません。医療法人は、公的な資金の援助もほとんどなく、企業並みに30%の税金を取られているわけですから、株式会社という経済的仕組みをツールとして旨く使うことによって、健全な直接金融の資金調達の道が拓けるようにしましょうと言っているのです。もし本当に医療法人が非営利だとしたら、なぜ税金を取るのでしょうか。こういったことをきちんとさせて、健全な資金調達で病院が困らないための仕組みに変えていかないと、これからの医療の発展はないのだということを言っているわけです。

私は個人的には、むしろ医療法人というものが、人間が発明した株式会社という最高の仕組みを、うまく健全に使っていける道を拓くことが重要であると思っています。

高度医療をもっと身近なものにする混合診療解禁

今回の一連の議論で一番注目されたのが混合診療の解禁です。1984年に特定療養費制度というものができて、その制度自体は、患者負担を少なく、日進月歩の新しい医療技術の導入に関して制度が追いつかない狭間を埋める、当時としては非常に良く考えられた制度だと思います。しかしそれから20年程経ったわけですが、その間、選定療養の範囲の拡大とか高度先進医療などいろいろな仕組みができました。現実には非常に選定療養の解釈の幅が広くなってきています。それは、差額ベッド徴収というようなアメニィティーの部分から、本来保険対象部分の制限項目(例えば180日を超える長期入院に関する実費請求)、また承認済み抗がん剤の適用症以外の利用など、最近は医療現場も解釈に迷うほど複雑化してきています。また欧米では一般的に行われている全く高度でもない治療に関して、わが国で保険で認められていないので、ひと括りに高度先進医療として扱われています。いわゆる特定療養費制度は、実は混合診療を合法的に行うための制度なのですが、この制度を見直して、分かりやすくより実態に合った形にしていくというのが大きな私達の望みなのです。

今の医療は一連の医療行為の中で、保険の適用が認められていない薬を使ったり、治療を行なったとたんに、保険の治療が認められている行為まで自費にしなさいというものです。保険で認められていない高い医療をあなたはできるんだから、保険で受けられる給付も放棄しなさい、というのが混合診療の趣旨とも言えるでしょう。混合診療を認めないという理由の一つは、混合診療が認められると、患者さんが医療技術の進歩と高い質を求めるので、医療費が増大する。また私的保険が蔓延し、不平等が生じるから、それはけしからんという主張です。
しかし、私達が言っている混合診療の解禁は、むしろ国が大きな借金を抱え財政的に困窮の時期を迎えている時に、皆保険制度を健全に永続させるためには必要であると考えており、ゆめゆめつぶすものではありませんし、何でもかんでもというのでもありません。例えば、欧米では一般に認められ使用され有効性が認められた抗がん剤などは、速やかにわが国でも保険適用できるように認証期間を短縮することや、認められるまでの期間は混合診療を行えるようにする。また乳がんの治療における再建術など、医師と患者の納得と合意があり、医学的に見て問題のない場合はこれを認めるなどです。そして、何もかもお上の認可を取るのではなく、医療機関が一定水準を超えたと認定すれば、これはもう届出制でいいでしょうということです。

今後の争点はこの一定水準というのがどうなのかということです。私達は、高度先進医療の中でも中程度のものに関しては、専門の診療所や小規模の病院、民間でも公的でも関係なく、一般の医療機関がどんどんやれる、身近な医療にしていくというのが私達の大きな望みです。
この混合診療問題は、先日の12月15日の村上規制改革担当相と尾辻厚生労働相の間で合意され、大きく前進しました。詳しくは内閣府や厚生労働省のホームページにありますから、是非読んでください。
私達は、この合意内容が現実のものとなるように、壁となる課題があればどんどん指摘して、より良い方向になるように不断のフォローをしていかなくてはなりません。

急がれる医療のデータベースの充実

あまり報道されてはいませんが、実は規制改革民間開放推進会議の中で私達が非常に強く主張しているものが、医療のIT化の推進です。レセ電算処理の徹底や電子カルテシステムの健全な普及によって日本の医療のデータベースを充実させるということです。データベースの充実は、医療政策立案の側面でも、疾病研究の側面でも、そして患者のためにも大きな光明を与えてくれます。しかし日本には残念ながら、きちっとした利用価値のあるデータベースが存在しません。点としては色々なところにデータベースがあります。しかし医療の政策を決めていこう、もしくは医学の発展のために大容量のデータを解析していこうというためのデータベースは、国として非常にプアであると言わざるを得ません。もう一つは情報の透明性というものを確保していくことを主張しています。

IT化というと一般には電子カルテシステムのことだけと考えがちですが、実は、規制改革民間開放推進会議はまずレセプトの電算化に注目しています。今は、ほとんどの医療機関がコンピュータで処理しているレセプトを、支払い機関がいちいち紙に出して審査して、健保組合がまた紙でもらってコンピュータにまた打ちこんで無駄なお金を使っています。この仕組みをもっとシンプルにする。その仕組みができない限り、いくら医療機関がコンピュータ化を競って良いシステムを入れても、情報のネットワーク化と価値あるデータベースは生まれないんですね。レセプト電算を進めて、きたる電子カルテシステムの充実が、より恩恵に結びつくようなインフラを作っていくと言う意味で、実はレセプト電算というのは非常に重要なテーマなのです。

阿曽沼 元博 氏
1952年生まれ。東京都出身。1974年慶應義塾大学商学部卒。同年富士通㈱入社。一貫して医療ビジネスを担当し、2000年同社医療統括営業部長。1989年医療情報学会理事就任。2002年4月より現職。現在、順天堂大学の客員教授を勤める傍ら、厚生労働省『標準的電子カルテ推進委員会』委員、内閣府『規制改革民間開放推進会議』医療WG専門委員、NPO法人『東京地域チーム医療推進協議会』理事を務める等、活躍の場が多岐にわたっている。著書は「医療とマルチメディア」(東洋経済新報社)など多数。
【編集部注】
※ 特定療養費制度 : 1984年に創設された制度で、対象を限定して、基礎的部分は保険でカバーし、特別な治療やサービスの部分は患者が全額負担することを認めたもの。 対象の1つは「高度先進医療」として承認された先端的な医療。もう1つは、快適な療養環境のような医療周辺部の特別サービスを対象とする「選定療養」で、差額ベッドや、200床以上の病院で、紹介状なしに初診や再診を受ける場合などがこれにあたる。
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