今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第24回 2005/04

診療情報提供は患者さんとの信頼構築のツール

2005年4月からの個人情報保護法施行を踏まえ、日本看護協会から『看護記録および診療情報の取り扱いに関する指針』が出されています。今回は、このガイドライン策定の担当理事である楠本万里子さんに、ガイドライン策定に至る背景や目的等についておうかがいしました。

社団法人 日本看護協会 常任理事
楠本 万里子 氏

日本看護協会

『看護記録開示のガイドライン』の延長としての今回の指針

今回のガイドラインに至る背景をざっと振り返ってみますと、まず、医療におけるインフォームド・コンセントや診療情報の開示をめぐる問題が起き、情報開示や診療情報提供に関する国の検討会が相次いで開かれました。さらにOECD8原則のプライバシーに関する勧告を踏まえ、個人情報の保護が世界的に大きな課題になってきた経緯があります。そして個人情報保護法が制定され、その付帯決議において、医療、金融・信用や情報通信は、特に個人情報の適切な取り扱いの厳格な実施が必要な分野とされ、個別法を早急に検討し法の全面施行には一定の具体的結論を得ることとされたわけです。

その付帯決議に則って国では、個別法制定も視野に入れ、個人情報保護法に基づく医療・介護分野でのガイドライン作成の検討会が持たれました。このような流れの中で、日本看護協会は情報開示に関する検討会の時から、情報開示は医療の受け手側の当然の権利であるとして、その権利を擁護する観点から、情報開示については法的に位置づけるくらいの形できちんと実行すべきだという意見を申し述べてきました。2000年5月には、『看護記録の開示に関するガイドライン』を提示しております。

日本看護協会は、厚労省から診療情報の提供に関するガイドライン(2003年9月)が出る前から一貫して、診療情報は患者さんのものだということ、個人情報を取り扱うことは人権を取り扱うことであること、個人情報を守り、かつその情報は患者さん側にコントロール権があるのだというスタンスに立っています。今回のガイドラインは、前回の『看護記録の開示に関するガイドライン』の個人情報保護法施行に伴う修正版という位置づけで作成しました。

診療プロセスの経過と結果を知る権利は患者さんに

前回のものは、情報開示ということを看護者としてどう捉えていくか、患者さんにとっての開示の意味、それを看護記録の中でどのように整えるか、記録開示を推進するのに必要な環境整備など、開示ということへの看護者の対応に特化して作成しました。今回は、看護者として個人情報をどう取り扱っていくかがメインで、個人情報を保護しつつ、かつ医療・看護提供などに活用するための考え方を示すガイドラインです。個人情報使用の目的、収集範囲、第三者提供などについて組織でルール化し、患者さんの同意を得た上で使わせていただきましょう、当たり前のことを改めて誠実に行いましょう、ということがポイントになっています。

看護は通常、医師の治療方針に沿って、患者さんから収集した個人情報をもとにその人の個別性に応じた看護ケアの計画を立て、実践し評価する、いわゆる看護過程を展開しながら進められます。このプロセスでは看護者は、患者さんとの信頼関係を構築しその関係を深めていきながら、患者さんの持てる力を引き出し健康行動を起こせるように関わります。患者さんが治療や療養生活に関する自己決定を主体的に行うには、診療情報の提供が最も重要です。患者さんが自分で納得して治療や療養生活に積極的に参加していくことにつながる、言い換えれば、患者さんの知る権利を保証した前向きな情報提供をしていきましょうという観点で、このガイドラインは作られているのです。
くどいようですが、患者さんには診療や看護の経過と結果を知る権利があること、看護者はそれをしっかり守っていくんだということをきちんと表明しよう、というスタンスのガイドラインであることを会員看護職に伝えていきたいですね。

患者さんの情報収集にあたって考えるべきこと

医療が扱う個人情報には患者さん個人の疾病の情報だけでなく、家族の状況や遺伝のことなど、実に膨大な情報が含まれています。特に、生活習慣病などでは入院前の日常生活、社会生活、職業生活などに要因があり発生しているものがありますので、さかのぼってのライフスタイルなどもお聞きすることがあります。もしかしたら精神的なことが影響しているかもしれないとなれば、職場の人間関係などの情報も必要になりますので、収集範囲を限定するのは難しいことがあります。
このガイドラインでは『原則として同意を得ること』という立場で、院内掲示やパンフレットなどを手渡すなどで特にクレームがなければ、患者さんから黙示の同意が得られるとしています。しかし、少しセンシティブな事柄をお聴きする場合は、収集の目的について説明をしっかり行い、提供する範囲ついてもいちいちお断りする必要があります。

看護過程を展開していくには継続した情報収集が必要ですし、看護がトータルに収集した情報をもとに、患者さんの治療にどの職種が加わるか決め、クリティカルパスなどを活用し、情報共有しながらチーム医療を進めていきます。ですからその情報を誰がどの範囲で使うことができるのかを組織でルールを決めなければなりません。たとえば事務職は、いつ手術したかの情報は必要でしょうが、どんな手術で何時間かかったか、出血はどのくらいしたかなどという情報は必要ないわけです。

個人情報のコントロール権は患者さんにある

患者さんは自分の情報、名前や生年月日などある程度のことは持っていないと医療者が動けないということは、了解はしていらっしゃると思います。しかし、研究やケーススタディとなれば、やはり事前に「この病院ではこういうことに使わせていただくことがあります」ということをお伝えしなくてはいけないと思います。さらに、部分的であれ写真を学会発表に出すというようなことがあれば、実際の使用方法をお見せして了解を得る必要があると、個人的には思いますね。国のガイドラインでは匿名化、無名化すればいいとされていますが、やはり丁寧にご説明して納得していただくことが必要です。

またそれ以外に、レセプトの処理や、行政機関への報告、医療事故報告などでは微に入り細に入りの報告がなされます。そういうことへの活用については、患者さんはあまりご存じないでしょう。そういうことも含めて、医療ではこんなに個人情報が溢れていて、それ故に洩れていく可能性もありますよ、というところも改めてお知らせしなくてはいけないと思います。
患者さんには、個人情報のコンロトール権が自分にあるのだということをちゃんとご理解いただいて、医療を受けていただきたいですね。それとやはり、疑問や不審については言語化し行動を起こすことが保証されている、ということもわかっていただきたいので、医療者側からも理解を深められるよう工夫することが必要です。

現在、多くの病院はセカンドオピニオンをとることや、診療情報提供は当然のことだという意識に変わっていますので、これまでのように患者さんが遠慮して何も言えない、言えば難しい患者と思われるのではないかなどの文化とは変わってきていると思います。むしろ患者さんが行動を起こすこと自体が医療の文化を変えていく一つの大きな力になりますので、我慢しないで是非行動を起こしていただきたい、特に看護者におっしゃっていただきたいと思います。

ガイドライン遵守と医療提供における今後の課題

今、現場で混乱のもとになっていることの一つは、病室の入り口のお名前や、ベッドネーム、「○○科におかかりの○○さん」という館内放送、並べてある蓄尿ビンに書かれた氏名、大部屋での情報収集など、すべて個人情報であり厳正に守る必要があるということへの対応です。これらすべてに対応するには、医療の提供システム自体を見直し、人手もお金も設備も考えていかないと難しいと思います。

包括医療に象徴されるように、現在、医療提供自体はできるだけ標準化して効率よくという流れにあります。一方、個人情報保護法は「個人としっかり向き合って」ということを要求しています。医療界全体のコスト面からきているものと、個人情報保護のガイドライン遵守というのは組織的な葛藤が起こる種になるのではないでしょうか。

また、ナースコールボードの名前は外から見えない配慮が必要ですが、開かれた医療という流れの中で、ナースステーションはオープンカウンターになり、また医療安全との兼ね合いでの問題もあります。地域に開かれた病院としてボランティアの方々に参入の声かけをしていますが、個人情報保護をどう守るかの観点からの検討が必要になっています。
そもそもは情報化社会の中、大量かつ瞬時に起き被害も広範囲になる情報漏出を防ぐことが法律制定の大きな目的だったのですが、別な視点の個人情報保護と言いますか、一歩深まった形のプライバシー保護や権利行使の問題もあるので、複雑になっていると言えます。医療提供体制は多様ですし、制度変革が進行中でもありますので、今後さまざまな点で問題が提起されてくるでしょう。今後も看護の立場から課題を整理し、現場に資する情報提供に努めていきたいと考えています。

楠本 万里子 氏
1951年東京都出身。国立京都病院付属看護助産学校助産婦科、明治学院大学社会学部社会学科卒業。国立京都病院、同看護助産学校、厚生省健康政策局看護科勤務を経て、1995年、日本看護協会中央ナースセンター勤務。1999年、日本看護協会出版会勤務後、2001年より現職。
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