今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第25回 2005/05

医療の高度化で注目される臨床工学技士の役割

診療放射線技師や臨床検査技師に比べ、一般の人にはなじみが薄い臨床工学技士。まだ新しい職種ともいえる臨床工学技士の存在は、現代のチーム医療においてコメディカルとして欠かせないものになっています。今回は、東京都臨床工学技士会の会長である加納隆さんに、臨床工学技士の役割や現状についておうかがいしました。

東京都臨床工学技士会会長
博士(学術)
三井記念病院 MEサービス部
加納 隆 氏

東京都臨床工学技士会

現代医療の必要性から生まれた臨床工学技士

臨床工学技士というのは、臨床工学技士法が昭和62年に制定されて誕生しました。ですから、ほとんど平成と同じくらいの歴史しかない職種です。一般の人々にとって医療技術職としてなじみが深いのは、診療放射線技師と、臨床検査技師くらいだと思います。しかし、そういった方々が扱う医療機器とは違うタイプの医療機器がだんだん増えてきて、新たな種類の専門職が必要になって生まれてきたと言えます。

臨床工学技士の、法で定められた業務は、「生命維持管理装置の操作及び保守点検」です。ここで言う生命維持管理装置というのは、人の循環・呼吸・代謝といった重要な機能を補助代行する装置のことで、具体的には人工呼吸器や人工透析装置、心臓の手術の時に使う人工心肺装置、ペースメーカ、除細動器というような医療機器です。文字通り生命を維持、管理する、人の命に関わる医療機器を言います。
現代医療の中で、生命維持管理装置を中心とした、新たに色々登場した医療機器は、従来の臨床検査技師や診療放射線技師が扱う医療機器ではないわけですね。では誰が扱うかというと、法的には医師か看護師です。ところが医師や看護師は基本的にそういう医療機器の勉強はほとんどしていません。カリキュラムの中にそういうことは含まれていないことの方が多いのです。でも、それでも何とかやっていたわけですがだんだん手に負えなくなって、臨床工学技士と言う新しい技術職を作ったというのが経緯になります。

チーム医療の中で医療機器部分を支える

臨床工学技士が、他の診療放射線技師や臨床検査技師と決定的に違うところは、その職種単独で仕事をすることがほとんどないということです。先ほど言った生命維持管理装置は、医師、看護師、臨床工学技士、もちろんそれ以外の方も関わりますが、その三者で関わるものが大半なんですね。ですから、チーム医療としての職種と言ってもいいですね。チーム医療を行う上で、医師や看護師は、どうしても患者さまの方に目が向いています。その患者さまに高度医療をするための生命維持管理装置のような器械回りのことまでは、なかなか手が回らないのが現状です。そこに臨床工学技士が入ることで、その器械の部分の専門家としてチーム医療を支えるということになります。これにより、チーム医療の安全性を高めることができます。

また、臨床工学技士の役目としては、教育的な部分もあります。特に看護師さんに対する医療機器の操作に関する部分でのサポートとか教育指導などは大きな役目だと思います。それと、いわゆるメンテナンスの問題があります。医療機器が薬と決定的に違うのは、メンテナンスが必要だということで、保守管理をしっかりしなくてはいけない。そういう部分の役割が今かなり求められていると思います。

足りない人員と、ばらつきのある配置

現在、臨床工学技士は全国にほぼ2万人おりますが、病院における臨床工学技士の定数というのは特に決まっていません。ですから、施設によってかなりのばらつきがあるのが現状です。一般的に大学病院とかある程度規模の大きい病院で、高度医療をやっているところにはだいたいいると考えていいのですが、何人いるかということに関しては、必ずしも一定ではありません。

東京都が平成13年度に行った、都内にある677の病院を対象としたアンケート調査の中で、「臨床工学技士はいますか?」という質問があります。90%以上の回収率ですから非常に実態を反映していると思いますが、臨床工学技士がいると答えたところは28%でした。もちろん中小の病院も含めてなのですが、現状では28%しか臨床工学技士がいない。しかも、その28%の施設にいる臨床工学技士の平均人数は約5人です。実際、臨床工学技士が何十人もいるところがある一方、1、2人しかいないところもあるわけです。
臨床工学技士法ができる前から、こういう職種の必要性を感じて早くから採用する体制ができていている病院にはそれなりの人数の臨床工学技士がいるのですが、そうではない病院も少なくありません。例えば国公立の病院など、定員の問題があったりして、なかなか臨床工学技士が採用できない。何百床の病院で一人とか、極端な場合は0ということもあります。最近はそれではいけないということで、東京都の場合は都庁が非常に積極的に人員の採用をしたり、臨床工学技士の適正配置に関しても積極的に働きかけたりしています。またそういう機器の安全管理なども、いわゆる病院の立ち入り検査のチェック項目として入ってきています。ですから、行政も臨床工学技士の必要性というのはだいぶ認識してきていると思います。
確か1年くらい前に、同じような調査を大阪府でもやっていますが、やはりほとんど同じ割合なんですね。3割程度しかいない。東京、大阪という大都市でそのくらいしかいないのです。それでは臨床工学技士がいない病院では、人工呼吸器を使っていないかというとそんなことはないわけで、輸液ポンプや患者モニタなども当然使っていると思われます。逆に専門家である臨床工学技士がいない状況で、命に関わる医療機器を使っている病院がまだまだあるというのが実態だと思いますね。

特異な日本の臨床工学技士の仕事範囲

日本の場合、アメリカやヨーロッパなどと状況が少し違っています。実は、日本の臨床工学技士のような資格が世界的にあるかというと、似たような資格はあるけど、決して同じとは言えないのです。日本の臨床工学技士の資格は、実に幅広く色々なことをやれるのです。臨床工学技士の仕事には、循環・呼吸・代謝・保守管理の四本柱があるとよく言うのですが、循環・呼吸・代謝に関わる生命維持管理装置の取り扱いから、メンテナンス、安全管理まで、そのすべてが業務範囲になっています。

アメリカの場合は、今言った循環・呼吸・代謝それぞれの装置のテクニシャンとメンテナンスを行うエンジニアが、専任で分かれています。例えば人工心肺装置を操作するのはポンプテクニシャンですが、その仕事だけをやってそれ以外はやりません。アメリカの場合、要は、日本の臨床工学技士がカバーする業務範囲のそれぞれが、専門職になっているということですね。例えば医療機器の安全管理の部分を見ますと、病院にもよりますが、非常に大きな病院ですと、メンテナンスをするだけで何十人という数のスタッフがいます。例えば、うちの病院ではMEサービス部のスタッフが臨床工学技士の業務範囲のほとんどをやるのですが、人数はアルバイトも入れて10人で、正規の臨床工学技士は9人です。ところが、アメリカでは同じぐらいの規模の病院で、メンテナンスのスタッフだけでだいたい10人程度はいます。
技士の数がまったく違いますね。でもそれはもっと言うと看護師の数でも同じことが言えます。アメリカでは看護師の数が日本の5倍いるということは有名な話ですが、日本の医療は実にマンパワーが少ない。臨床工学技士の場合は発展途上の職種なので、もっと厳しい状況があるのではないかという感じがします。

質の高い医療には人手が必要

今、臨床工学技士の数が圧倒的に少ないという現状では、もろもろの医療機器を実際に扱うのは看護師さんです。我々は生命維持管理装置などを患者さまに導入する時、例えば人工呼吸器を装着する時や、定期的に回路を交換するときには、医師とともに必ずそこに立ち会うわけです。ところがいったん装着してしまうと、看護師さんが医療機器を装着した患者さまをケアするわけですね。なにかトラブルがあったら、第一発見者は看護師さん達なわけですから、そういう意味において、看護師さん達も自分がケアする患者さまに付いている医療機器についての最低限の知識、基本的な原理だとか、簡単なトラブル処理だとか、そういうことはもう少し勉強して欲しい気持ちはあります。
ただそれが本来の姿かと言うと必ずしもそうとは言えないと思います。本来、看護師さんは看護のことをやればいいのであって、医療機器のことはやらなくてもいいはずなんです。本当はもっと臨床工学技士が増えて、人工呼吸器が付いているような患者さまに対しては、付きっ切りじゃないにしても、今よりももっと頻回に見回ることができればいいわけです。しかし常にこれ、人手にかかっているんですよね。

人手をかけないでいい医療をすることは、不可能だと私は思います。医療費を削減しければいけないというと、すぐ人件費削減に走ったりしますが、それは絶対おかしい。私は医療費をもっと上げてもいいのではないかと思います。日本の医療費は欧米先進国に比べても低水準なのですから。いい医療をするためにはお金がかかります。国は、そのことをきちんと国民に問えばいいと思います。これだけのちゃんとした医療を責任持ってやるにはこれだけかかりますよと。私はそこが一番重要ではないかと思っています。

加納 隆 氏
上智大学理工学部電気電子工学科昭和48年卒業、昭和49年4月より三井記念病院MEサービス部に勤務、現在に至る。博士(学術)、臨床工学技士、臨床ME専門認定士。主に、病院内の医療機器管理と心臓カテーテル室の仕事を行っている。最近は病院内の携帯電話使用や医療機器のリスクマネジメントに関する研究発表や講演が多い。 会員・委員となっている主な学会等には、東京都臨床工学技士会(会長)、日本生体医工学会医療電磁環境研究会(会長)、日本医科器械学会(理事)、日本医療福祉設備学会(理事)、電波の医用機器等への影響に関する調査研究会(総務省関連)委員などがある。
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