今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第27回 2005/07

患者さんは生活者でもあるという視点を忘れずに

最近は多くの病院に医療相談室や医療福祉相談室等が設けられ、医療ソーシャルワーカーの方々が患者さんのさまざまな相談に応じています。患者にとって、退院後の生活をどうするかは大きな問題であり、その後の健康回復を左右する鍵であったりもします。高齢者の増大とあいまって医療ソーシャルワーカーへの社会的ニーズが増大している半面、一般の方々の認識が不足していると思われる医療ソーシャルワーカーの仕事について、30年のキャリアをお持ちの菊地かほるさんにうかがいました。

医療ソーシャルワーカー
(社会福祉士・精神保健福祉士・介護支援専門員)
東京警察病院医療福祉相談室
菊地 かほる 氏

社会生活者としての患者さんを援助する仕事

病院の医療ソーシャルワーカーの仕事を一言で言うと、病気や障害を持った方に対して、そこから生じてくる生活のしづらさを援助する仕事と言えます。あくまでも生活援助なんです。たぶんその辺が、一般の方にも病院のスタッフにも分かりにくいところかもしれません。
つまり、病院は治療をするとか看護をする、あるいは検査やリハビリをするところというイメージは持たれると思うのですが、生活者を対象にしているのだということをつい忘れてしまう場所だろうと思うんですね。でも私たちは患者としてずっとそこにいるわけではない。社会の中で生活していた人たちが、病気やけがで入院するということは、その方のそれまでの社会的な背景を全部持ったままで入られるということです。そういう生活者の面に対して援助を行うと言えば、一番分かっていただけるのではないかと思います。

具体的には、病気やけがをしたことによって、仕事ができない、復職できない、家のローンを抱えている、子供の学校の問題、死んでしまった方がいいんじゃないかというような、病気からくる様々な精神的、社会的、身体的、経済的な問題への援助をいたします。たとえば、がんの患者さんのご家族から、告知をした方がいいかどうかというご相談や、患者さんがそれまで持っていた潜在的な問題が病気や障害で顕在化した問題などに対して、面接を通して援助をしていきます。

大切なのは患者さん側の自己決定

病院というところは、医師は治療、看護師は看護をするとはっきりしていますが、医療ソーシャルワーカーは治療でも、看護するわけでもありません。患者さんやご家族と対等な関係の中で、一緒に問題解決をするための援助を行うのです。病院ではやってもらう、してもらうという感覚が、病院側も患者さん側もイメージとしてお持ちなんですね。ですから、してもらうという感覚に慣れてしまっていると、援助をする立場ということは理解しにくいかもしれません。

私共は、自己決定ということをとても大事にしていますから、「どこか病院を紹介してください」と言われても、「ここに行きなさい」ということは申し上げません。どういう問題が患者さんサイドにあって、その問題を解決するためには、患者さんが使えるこういう社会資源がありますとお話させていただくわけです。その中には病院や施設もありますし、色々な制度も含まれてきます。問題を整理しながら活用できる制度をすり合わせていって、最終的には患者さんサイドに自己決定していただくという方式をとっているのです。

患者さん側の病院への不信感、医療ミスじゃないかと疑ったりしている場合も、きちんと向き合って対処していかないと話が進みません。その辺のことをお話しして解決していただくと同時に、患者さんが使える制度や、会社での状況も不利にならないようなアドバイスをさせていただいたりします。患者さんとの信頼関係を築き、急性期の病院はあくまで生活の場ではないのですから、患者さんが今後、生活の場として動けるところを探した方がいいのではないか、そのためにはこのような病院なり施設がありますよと提案させていただいています。

目立つ権利主張と責任回避の傾向

最近は患者さんのご家族の権利主張が強いですね。私がこの仕事に入った頃に比べると本当に様変わりしています。ご家族としての責任、それが本当になくなったと思います。例えば、こういう制度を使えばご自宅で看ていくことも可能ですよと申し上げても、「私が大変だから」とほとんどが在宅を拒否なさいます。「この患者さんにとってなにが一番幸せか考えてください」と申し上げるのですが、「汚物交換なんて私の仕事じゃない。体の動かない主人の世話なんて嫌です」ということになります。病気じゃなくて元気だと家族で、病気になると家族じゃなくなってしまうのかなと思うことがしばしばです。

私はこの原因の一つは団塊の世代の問題かなと思っています。つまり団塊の世代の人たちが、自分たちの問題をちゃんと整理しないまま社会に出て家庭を築き、社会の一員としてそれなりの立場に立たれている。それがアイデンティティーの希薄さとなり、今のような状況を産んでいるのかなと思ったりしています。私も団塊の世代の最後の方ですが、あの頃非常に騒いでいた人たちがそのまますっと就職し会社の中にとけ込んだ。そこの調和はどこで取ったのでしょう。それが結局、今、歪みとなって出ているのかなと思います。家庭の中でも社会の中でも自己責任という言葉を学ばなかったのではないでしょうか。

病院と患者、双方にとってのいい解決を目指す

病院というところは、病気が良くなるところ、または死ぬところというイメージがいまだにあります。しかし今は、病院は病気を治すところではありますが、障害が残るところだと言えると思います。健康回復と死、その真ん中があるのです。医学が進歩し、昔だったら治らなかった病気や、高齢者の病気もどんどん助かる時代になりました。しかし、後遺症として障害が残るのです。
この、後遺症として障害が残ったことに関して、患者さんやご家族がなかなか受け止められないんですね。障害が残ったら、一生病院に置いてもらえるものだと思ってしまう。障害を持っていても、生活者として社会で生きていくという発想にどうしてもつながらないのです。そこが退院の時のトラブルの一番の原因です。

 私は患者さんたちから、「患者の側に立っているんでしょ」と聞かれることがよくあります。そんな時、私は「患者側と病院側と両方に立っています」とお応えしています。医療ソーシャルワーカーは、所属する病院から給料が支払われています。しかし、患者さんの立場で考えます。だから両方の対場に立って考えていますよと、はっきり申し上げることにしているのです。どっちにとっていいかではなく、どちらにとってもいい方法を選ばなければいけない。そこに至るまでの問題解決が大事なのです。

今の医療制度では、在院日数が14日とか17日など限られていますから、昔のように何回も面接ができません。看護師さんたちも処置などが非常に多くて、業務に追われていて、コミュニケーションをとること自体が減っています。ですから、限られた短い時間の中で、いかに心が触れ合えるかがますます大切になってきます。

"人"を相手にするのだということを忘れずに

私たちの職能団体、日本医療社会事業協会では社会福祉士を医療ソーシャルワーカーの国家資格とするということを総会で議決していますので、医療ソーシャルワーカーの国家資格は社会福祉士ということになります。この国家資格は医師の指示に従うということにはなっていません。ですから病院のコ・メディカルとして働きますが、唯一医師の指示のもとではなく仕事をしているという特長があります。

ソーシャルワークのやり方は、人によって違うと思いますね。私の場合、学生の頃は社会福祉士という資格がありませんでしたから、制度ができてから通信で取得しました。今の若い人たちは全部大学で受験資格を持って取得します。ただ、最近の福祉の授業は国家資格のための教科書を使っていますので、逆に福祉とは何かということを学んでいません。つまり、聖徳太子が行った慈善事業とか、アメリカのリッチモンドはなぜケースワーカーの母と呼ばれているのか、そういうような社会福祉のきちんとした歴史を学んで来ていないんですね。本当の福祉の心が分かっていないように思います。

目の前にいる人を、生活をしている一人の"人"という視点で捉えることが少ないのではないでしょうか。ですから、今困っているということだけに視点がいってそこから深まらない。福祉というのは、国民全体の幸せ、憲法第25条で保証されているものなのですが、そういう人権を守るとか、民主主義というところをきっちり学んで来ていないので非常に寂しい感じがします。私たちの年代の人たちがそう教えてこなかったのも問題なのかもしれませんが。

医療ソーシャルワーカーは、なによりも"人"を相手にしているという意識を強く持たなければだめですね。相手の人を人としてきちんと見て、その人の人生をも含めて関わっているという意識を、今の若い人たちにきちんと持ってもらいたいなと思いますね。

菊地 かほる 氏
1950年、東京都生まれ。立正大学社会福祉科卒業。社会福祉士・精神保健福祉士・介護支援専門員。 現在、東京都千代田区飯田橋の東京警察病院で医療ソーシャルワーカーとして勤務。30年近くの経験を通じ、医療問題と心のケア、家族問題、社会世相などを鋭く観察している。 主な著書 『もう迷わない医療機関のかかり方――Q&Aでわかるハンディ・ガイド』、『病院で困った時、何でも相談してください――医療ソーシャルワーカーというお仕事』(いずれも作品社)
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