今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第141回 2015/01

地域で看護の役割と責任を果たすために

診療報酬改定による7対1病床の絞り込みや在宅復帰の促進などに伴い、入院医療の機能分化に向けた動きが、全国の病院で本格化しています。地域で果たせる役割を看護職も再認識することが求められていると話す日本看護協会常任理事の福井トシ子さんに伺いました。

公益社団法日本看護協会
常任理事
福井 トシ子 氏

公益社団法日本看護協会

患者の在宅復帰を支える看護の役割に期待が高まる

社会保障・税一体改革で示された「2025年の医療・介護提供体制モデル」に向けた、医療機関の機能分化が進められています。2014年度の診療報酬改定でも、高度急性期、一般急性期、亜急性期等における入院医療の機能分化が誘導されており、ICU、HCU、7対1病床の絞り込みによる病床の再編、早期の在宅復帰を目指した体制の整備などが大きな動きとなりました。それに伴い、在宅復帰率要件の導入や、急性期後の患者の受け入れ機能に加えて在宅緊急患者の一時入院施設としての役割を果たす、「地域包括ケア病棟入院料(病棟単位)・入院医療管理料(病床単位)」が新たに創設されました。
 
このような流れの中、各病院には今後の運営方針の見直しが迫られています。患者さんが地域の中で在宅療養を継続できるような体制をととのえるためには、自院はどのような方向性で検討を進めたらよいかという視点でこれからの運営を考えていくことが必要だと思います。すでに地域包括ケア病棟を選択した病院は相当数に上るのではないでしょうか。地域包括ケア病棟の機能である、在宅の緊急患者の受け入れや在宅復帰機能を支える看護の役割は、今後ますます重要になることが考えられます。

地域完結型へシフトし、退院後の生活に目を向けた看護を

看護の役割と責任を果たすためには、看護管理者だけでなく、現場スタッフも皆、同じ方向にベクトルを合わせて一丸となって看護に取り組む必要があります。例えば、在宅復帰の促進のために、これまでに比べて早期に患者さんの退院調整をしている師長に対して、スタッフが「おかしいな?」と思っているようなことはありませんか。すべてのスタッフが診療報酬改定の趣旨をよく理解した上で、入院早期から患者さんの退院後の生活に目を向けた看護に、より一層取り組まなければならないのです。
 
今後は、ご自宅や施設でも、医療機器や医療用具を必要とするような医療依存度の高い方が増えることが予想されます。そのような際に看護師にできることは、患者さんがセルフケアを行えるようにサポートすること、家族などの周囲の支援が必要な状態であれば、その方々へも充分にケアができるように取り組むことです。また、看護師一人ひとりが、訪問看護ステーションなどの在宅サービス事業所や、介護施設などの地域の資源を把握しておくことも大切です。患者さんがスムーズに在宅へ移行できるように、訪問看護師などとの情報共有にも努めることが必要です。これまでは病院内だけになりがちだった看護を今後は、地域全体に視野を広げて、病院完結型から地域完結型へとシフトしていく必要があるのです。
 
このような動きに対応していくためには、入院患者を早期に帰すために日頃から院外に視点を広げて連携に取り組むことが重要となります。看護管理者の皆さんには特に、診療報酬改定の意図を理解していただき、院内のマネジメントや現場スタッフの教育にも注力していただきたいですね。

医療機能の分化により生じるジレンマ

療依存度の高い患者さんを在宅に戻す――この流れはすなわち、地域包括ケア病棟・病床や、回復期リハビリ病棟などは、急性増悪時の後方病床としての機能を果たすために、重症の患者さんの受け入れを担当することを意味します。算定要件が入院日数60日という期間であることに加えて在宅復帰率もある中で、患者さんの理学療法やリハビリ、食事の援助などの療養上の世話を、いかに迅速にかつ手厚く対応できるかということに注目が集まると思います。
 
地域包括ケア病棟へ移行した、ある病院の看護管理者に、看護配置について伺ったことがありました。看護配置は13対1以上と定められていますが、この病院では7対1のままケアにあたることを選択したそうです。その方が、重症患者に対して手厚い看護を提供できる上に、何よりも悪化を防げる。そして、60日という日数を守ることにもつながるとおっしゃっていました。しかしこの選択には、経営的な観点と看護の実現の間に大きなせめぎ合いがあると思います。管理側としては、運営を圧迫するような人員配置で経営を立ち行かなくするわけにはいきませんし、とはいえ現場の看護師は患者を中心に考えていきたい。この両者の思いにどう折り合いを付けていくのかは、創意工夫のしどころではないでしょうか。

地域貢献の意味を明確にし、全職員が共有できる理念を再設定

病院や看護部の理念を改めて見直すことが、経営と看護の間にあるジレンマを解消する一つの手段になるのではないかと考えます。
 
どの病院でも地域貢献に関する理念を一つは掲げていると思いますが、「地域に貢献する」という意味合いを今一度考え直して、具体化する作業を行ってみてはどうでしょうか。医療依存度が高くても在宅などで療養が継続できるようにするためには、ご自分の病院が地域の中でどのような役割を果たすことが貢献につながるのかを考えていただければと思います。病院としての方向性を明確に示すことで、経営的には投資すべき部分とそうではない部分が自ずと決まりますし、現場スタッフにとっても困ったときに立ち返る指標になるはずです。
 
2025年には、さらに50万人以上の看護職が必要になると言われています。この予測を受けても、看護職一人ひとりが「看護に携わることができて良かった」と思えるような仕組みづくりがより一層大切になることでしょう。数日間の入院患者さんの場合、看護師が次のシフトに入ったときはすでに退院しているケースが多々あります。これまでのように一人の患者さんの入院から退院までを担当して、回復過程にコミットすることが難しくなってきているのです。患者さんの苦悩などに寄り添いながら自分も成長していくという、看護の達成感を得にくい時代になっているんですね。患者さんと病院、そして地域と共に看護師として成熟していけるような環境をととのえていくことが大切だと思います。
 
日本看護協会では、来年度の重点政策の中で、看護が力を発揮できるように、看護職の労働環境の整備や、看護職の役割拡大に向けた提案を引き続き行ってまいります。そして、ますます加速するであろう地域包括ケアシステムの構築にも貢献してまいります。看護管理者だけでなく、看護職の皆さんも地域の中で自分たちが果たしていくべき役割を今一度考えていただければと思います。


  • 日本看護協会のホームページには、看護職の労働環境の改善などさまざまな取り組みの最新情報が公開されている。http://www.nurse.or.jp/
福井 トシ子 氏
【略歴】
2005 年3 月 国際医療福祉大学大学院博士後期課程修了
東京女子医科大学病院 母子総合医療センター、糖尿病センター、杏林大学医学部付属病院総合周産期母子医療センターなどを経て現職
【役職】
公益社団法日本看護協会 常任理事
【資格】
看護師、助産師、保健師、診療情報管理士、経営情報学修士、保健医療学博士
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