今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第30回 2005/10

介護保険改正から見えた新たな高齢者ケアの方向

平成17年の通常国会に提出された介護保険法が通過し、今年10月には施設給付の見直し等が、来年、平成18年4月からは予防重視型システムへの転換をはじめとするさまざまな改正保険法が施行されます。今回は、新潟県長岡市で長年にわたって、先進的なケアを実践している小山剛さんに、この改正介護保険法によって変わろうとする私たちの介護環境について、おうかがいしました。

社会福祉法人 長岡福祉協会
高齢者総合ケアセンターこぶし園
総合施設長
小山 剛 氏

高齢者総合ケアセンターこぶし園

日本の福祉制度は二重構造から成り立ってきた

「介護保険改正から見えた新たな高齢者ケアの方向」についてということですが、実際は、介護保険の改正から見えたというよりは、本来必要だったのになかなか動かなかった部分が、介護保険に蹴飛ばされてようやくみんなが考え始めたかなということではないかと思います。内容が多岐にわたりますので、ここでは主なところをご説明したいと思います。

ご存知のように現在の介護保険が始まる前に、全国あちこちで大手新聞社がアンケートをとりました。当時は公的保険という言い方をしていましたが、中身はいっさい出ていなくて、ただ公的保険で介護を看るかどうかというアンケートでした。これに対する賛成が、全国どこのアンケートでも8割を越えていました。これが今の対象者の状況を良く示していると思います。

なぜ訳もわからないのに賛成したかというと、簡単な理由です。ある村におじいちゃんおばあちゃんと住んでいたが、その村には職がないから子供達は職を求めて都市に住むようになった。ところが、おじいちゃんたちは一緒に出てくることができないから置いて出た。置いて来た人達と、働いている人達は別居世帯になるわけです。それが近代社会の特徴ですね。

それで、別々に住んで介護が必要になった時、介護を誰がするのか。子供である私はできないと、みんなが気づいたんですね。自分が同居して介護するという世界ではなくなっていると自覚したから、あの保険はいとも簡単に通過したと私は思います。ところが、今の実態は、頭の中がみんな二重構造になっていて、いまだに介護は嫁が看るものだと思っている人が多い中で日本の福祉制度が成り立っています。

地域密着型で大きく変わるサービス体系

今回の改定で、何が一番変わるのかと言うと実は新たなサービス体系です。
「地域密着型サービスの創設」ということがうたわれており、これをどう進めるか、まだ問題がたくさんありますが、簡単に言いますと、今までやって来た拉致行為ができなくなるという意味です。いやがる人を無理やり連れ込むことが拉致ですから、山奥に住んでいるお年寄りをどこかの施設に連れ込むのは拉致でしょう。私は措置の時代の正しい(?)言い方は拉致だと思っています。
これからはその拉致ができない構造になります。今までは定員100人の老人ホームを作ったとしますと、ある村では人口が少なく、その村の人は30人くらいしか入らない。70人は遠くてもいいからどこかから連れてきて頭数をそろえました。それを許さないよと言うのが地域密着の意味です。

ですから市内限定、もっと言うと生活圏限定と言ったほうが正しいですね。皆さんが生活する、生活を継続する、という視点にようやく変わって来たということです。今までは生活をどうするではなく、その人の介護をどう支えるかでした。生活ではなく、とりあえずおむつを交換するということをメインテーマにしていたわけです。しかし今度は違います。新しい介護保険になると、生活、暮らしを支えるのです。つまり、その人が暮らしていた所はでない所で介護を受けても拉致と同じことだ、そういうことになるのが今回の改正の意味だと思います。

ホテルコスト徴収で見えてきた介護の本質

飲屋街に会員の人しか入れないクラブ制のものがあります。老人ホームや老健はそういうところと同じだと思います。定員50名のクラブを経営している。施設の中の人しか看ないし、お金は使わなくても取られます。つまり、定額制の飲み放題食べ放題の店のようなものです。

10月からは施設では部屋代を払うことになります。老人ホームからいわゆるホテルコストと食費を抜いたら、「指定」という名前を取らなければいけません。全部高齢者専用住宅と同じことになるわけですから。わかりやすく言うと、高齢者専用住宅で、クラブ会員に介護をまとめて提供するという仕組みに変わるわけです。

私は今回の改正に期待することがいっぱいあります。ホテルコストと食費を抜くと、施設サービス費には介護サービスしか残りません。そして、介護サービスは要介護度にだけリンクするのです。グループホームとか老健施設、特養など、環境が違っても部屋代が違うだけで、どこに住んでいても介護いくつでいくらということにしなければなりません。これは在宅も一緒ですし、そうでなかったら意味がありません。完全に介護は別物と、これではっきり見えてきたわけです。
今回の改正でホテルコストを徴収する意味は、施設と在宅の給付と負担の公平性を守るためです。当然、介護も公平性を保つために、施設が飲み放題食べ放題なら、在宅もそうでなければおかしい。ところが現在、在宅は回転寿司屋です。6万円のお財布を預けられる人と、17万円のお財布を預けられる人という区別をされて、一皿1500円の掃除洗濯の皿とか、4020円のおむつ交換の皿とか、1万円の通所介護の皿を回しているわけです。
なぜ同じ介護認定を受けて権利も一緒なのに、こんなに差別するのでしょう。

小規模多機能型介護は、食べ放題飲み放題の在宅版クラブ制

私は、今回、国が方向を変えた、非常に大きなポイントだと思っているのは、次のことが書いてあるからなのです。すなわち、「地域密着型サービスというのは、要介護者等の住み慣れた地域での生活を24時間態勢で支える観点から、要介護者の日常生活圏域内にサービス提供の拠点が確保されるサービスである」。「24時間継続」、「どこでも住み慣れた地域で」。今までこんなことはありませんでした。今まではどこでもいい、とにかく大量の人をどこかに収容してくれと作ったのが老人ホームです。ですから全然違う仕組みになるということです。

私は施設というのは避難所だとずっと言ってきました。地震の時や大水の時、公民館や体育館に避難しますね。ああいうところで一生暮らせと言っているのが、老人ホームなのです。そして今は、施設は飲み放題食べ放題ですが、在宅は回転寿司屋です。今度、出てくる小規模多機能型介護は、施設と同じ飲み放題食べ放題の、在宅版のクラブ制になることです。地域社会の中でそこに登録した25人は、介護については飲み放題食べ放題になります。部屋は自分で勝手に選ぶのですから自由です。

私は平成12年の介護保険が始まったときからずっと、国に対して、在宅は24時間介護できるし、しなかったら不公平だと言い続けてきました。でもなかなか理解していただけなくて、平成14年に日本初のサポートセンターを作り、現物で見せました。
 配食、訪問看護、デイサービス、ホームヘルプ、これは世間にいくらでもあります。しかし、3食365日の配食をしている業者で、24間訪問看護とホームヘルプが動いている。名前だけでなく、少なくともこの4つをまとめてフルタイム提供している事業者はそれまでいませんでした。

「うちの街には24時間のヘルプのニーズがありません」と言うところがあります。ニーズがないのは調べた人の頭と心がないのです。もしそれが事実なら、施設では夜勤者がいらないことになります。施設でも、みんな5時になったら帰宅して翌朝出勤する。そしたら翌朝5人くらいベッドから落ちていましたなどということになるでしょう。
在宅は、施設と同じ要介護認定の人を街の中で見ているわけです。なぜ在宅の場合だけ違うのでしょう。どっちの基準に合わせますか。当然、施設の基準に在宅を合わせなければおかしいですね。ですから施設機能を分散すべきだと言い続け、施設機能を分散するためには最低4つのサービスが全部必要だということを言い続けてきたのです。

将来の介護施設の形は、サテライト型居住施設

私がサポートセンターを作ったのは、施設に来なくてもいい仕組みを作りたかったからです。しかし、これまで拉致した人はどうしよう、拉致した人を返す方法はと思った時、行き着いたのが今度特区申請して通った、サテライト型居住施設です。施設にいる人を、民間が建てた住宅に移せばいいと考えました。施設からの廊下が長くなったと発想すればいい。そうすると外に出る、利用者の方が帰ります。拉致からふるさとへ戻ります。

私は、将来の方向はサテライト型居住施設だと思います。しかし、施設を作りたいのではありません。サービスを作りたいのです。施設と同じように、フルタイムで介護ができるサービスを作りたい。良く勘違いされて、小さな施設がいいのだと言う人がいますが、そうではない。今の暮らしを継続する時に、自宅を選ぶのかアパートを選ぶのかという話で、欲しいのはフルタイムのサービス。どこでも受けられる、フルタイムのサービスが欲しいと言っているだけなのです。

小山 剛 氏
1977年、東北福祉大学卒業後、知的障害児施設「あけぼの学園」・重症心身障害児施設「長岡療育園」の児童指導員を経て「高齢者総合ケアセンターこぶし園」に主任生活指導員として勤務。現在同センターの総合施設長。
また、国際医療福祉大学大学院・新潟大学・新潟産業大学・県立新潟女子短期大学各非常勤講師、NHK構成文化事業団福祉相談員、全国青年経営社会委員、新潟県経営者協議会青年経営者部会長、新潟県老人福祉施設協議会指導員研究会会長、他多数の役職を歴任。
現在、東北福祉大学特認助教授、長岡赤十字看護専門学校・長岡看護福祉専門学校各非常勤講師、全国ショートステイフォーラム実行委員長、日本痴呆ケア学会評議員、新潟県痴呆高齢者グループホーム協議会代表、東北福祉大学新潟県同窓会長、長岡地域介護支援専門員協議会会長、新潟県保健福祉計画懇話会・長岡市高齢者保健福祉推進会議・長岡地域リハビリテーション協議会各委員、NPO法人福祉住環境人材開発センター・関原地区社会福祉協議会各理事、社会福祉法人長岡福祉協会・関原小学校・関原中学校各評議員、長寿社会交通安全アドバイザー、NPO法人ミシガンネット・21世紀の老人福祉を考える懇話会・日本在宅ケアネットワーク・安心した生活と住みやすい地域を作る実践会議・福祉問題研究会・地域ケア政策ネットワーク・これからの福祉と医療を実践する会各委員、中央法規出版編集協力員、㈱マイステルジャパン取締役を併任。
【主な著書・共著等】
『高齢者ケア実践事例集』(第一法規出版、1993)、『高齢者ケアのニューウェーブ』(中央法規出版、1993)、『高齢者ケアはチームで』(ミネルヴァ書房、1994)、『介護保険と在宅サービス』(大成出版、1999)、『介護保険制度と福祉経営』(ミネルヴァ書房、2000)、『ショートステイ緊急レポート』(筒井書房、2000)、『ケアマネジメントと経営戦略』(中央法規出版、2001)、『新潟の在宅ケア』(新潟日報事業社、2001)、『福祉キーワードシリーズ「介護」』(中央法規出版、2003)、『暮らしを支える新たな介護』(筒井書房、2003)他多数。
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