今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第32回 2005/12

医療機器・設備の客観的評価に欠かせない医療情報と標準化

最近、「根拠に基づく医療(EBM)」という言葉がよく聞かれるようになりました。第34回日本医療福祉設備学会のメインテーマは「エビデンスが求められる医療・福祉の展望 ~機器・設備の客観的評価が差別化を作る~」でした。今回は、学会長を務められた酒井順哉さんに、医療機器・設備の客観的評価、エビデンスの重要性についておうかがいしました。

名城大学大学院 教授
第34回日本医療福祉設備学会 学会長
酒井 順哉 氏

名城大学大学院都市情報学研究科保健医療情報学

経験と勘の医療からエビデンスの医療へ

数年前から、日本でも「根拠に基づく医療(EBM:Evidence-Based Medicine)」という言葉が定着しつつあります。それでは今までの医療、介護・福祉はどうなっていたのでしょうか。どちらかというと、医療サービスを提供する医師や事務長などが主観的に「これがいいのではないか」「これが安いのではないか」という、経験や勘によって医療資材を選定し使ってきました。

特に、医薬品には同一薬効でも複数の製品がありますが、その中のどの製品を選定するかの決定権は、大学病院であれば教授、一般病院であれば部長などにあって、その方の考え方が前面に出てきます。治療効果や不具合に関する情報を定期的に収集されないまま長年使われますと、今頃そんなものを使っているのかなどと言われる事態も考えられます。

昔は、医師が知る限りの情報を駆使し、最善を尽くした治療を行っていたとしても、世界から集まる情報には時間的・言語の壁があり、十分に収集分析できなかったと思われます。また、メーカーサイドも「この製品は良いですよ」と言うだけで、従来品と比較してどれだけ治療成績が期待できるか客観的な評価データがない場合や、複数の医療機関から集まった副作用情報が隠されていると、良い医療ができないことになります。
このような理由から、メーカーサイドは医療スタッフに説得できるエビデンスを保有し、「これだけの効果が期待できます」「他社と比べてこれだけ良いものです」と医療スタッフと情報を共有することが重要です。

私どもは、医療、介護・福祉を医療提供者、メーカーが機器・設備を客観的に評価するためには、IT(情報技術)や医療情報の標準化が不可欠であると考え、本学会のメインテーマに「エビデンスが求められる医療・福祉の展望」を選んだのです。

求められるメーカーの説明責任

医療機器や設備をセールスするのは、メーカーの営業マンです。営業マンは、製品についての売り込みの情報は知っているけれど、その機器や設備が病院の中でどのように使われているのか、どれだけ効果が期待できるかということは割とご存じない場合もあります。また、アカデミックスタンスで考えると、その機器や設備が、類似する製品と比較して、世界的な視野で製品評価をしたのか、今からの医療トレンドになるのかということについてあまりご存じない場合も多いようです。

これは個々の営業マンの責任ではなくて、企業の中の品質管理部門とか学術情報部門が十分機能していない場合に発生します。メーカーの中には、製品を売りさばくことに集中し、製品の品質管理や不具合事例に対して対応が十分でないと、多くの病院で被害が拡大してしまいます。
したがって、医療スタッフも製品の選定には留意しなければなりませんが、メーカーも機器や設備に対して隠しだてしない説明責任が不可欠です。

臨床現場の安全を支援するITの役割

医療事故は最近になって増加したかのような印象がありますが、年間当たりの総件数はそんなには変わっていないのではないかと考えます。ただ、最近ではかなりの高齢でも手術をされる患者さんや日帰り手術を望まれる患者さんが増えてきましたので、本来医療過誤ではないが、医療スタッフのスキルアップが伴われないと患者さんにとって不幸な事態になってしまうことも少なからずあります。

一方、医療過誤防止を考えますとITの有効利用が考えられます。実は診療業務マニュアルには疾患に応じた「○○しなさい。△△は避けなさい」など、診療業務の手順が記述されています。特に看護業務は複数の患者さんを限られた時間内に処理しなければなりませんので、看護師がうっかりして患者さんを間違ったり、状況を見誤ったりすると、医療過誤に繋がってしまうことがしばしばあります。一般に医療過誤を起こす当事者が悪いと言われますが、事故を起こしやすい業務運用や機器・設備環境を放置している病院管理者にも問題があるのです。

それぞれの医療スタッフに「マニュアルを遵守し、注意しなさい」と言うだけではうまくいきません。私が強調したいのは、医療スタッフ自らがプロとして成すべき役割をきちんとこなすことも必要ですが、臨床現場で人間のミスをなくす役割を果たすITサポートが必要なことです。
特に、医薬品や医療機器に表示されたバーコードが読み取れるPHSや携帯情報端末(PDA)は、診療業務におけるチェック機能をさらに改善することに役立つでしょう。

評価を手助けする医療情報

病院の中では非常に多くの医療スタッフが関わって一人の患者さんの治療を行いますが、患者さんのオーダ情報治療経過や治療方法などを関わる医療スタッフが共通の情報として一元化したデータで閲覧できる体制が必要です。その際、それぞれの医薬品、医療機器は勿論、患者さんや医療スタッフにバーコードなどで識別できるようにすることで、「誰が(医師・看護師)」「誰に(患者さん)」「いつ(日時)」「何を(医薬品・医療機器)」「どうした(使用)」という情報を記録し、常時オーダ情報と照合を行うことで、医療の安全を確保することが可能となります。

また、これらの蓄積データから、医療スタッフ個人の診断・治療の成績や、医薬品や医療機器がどれだけ治療に役立ったかを多くのデータから統計的に評価することも可能となります。
その際、医療情報の標準化を図り、本気で診療情報の分析・評価を行っていきますと、病院における「人」・「モノ」のムリ・ムダ・ムラが明確となり、データの裏付けをもって「こうだから、こう改善しましょう」と言えば、客観的に理解できますから医療スタッフの協力が得られます。トップダウンによる経験や勘ですと、納得のいかない医療スタッフが病院の業務指針を逸脱した行動をとったり、非常なストレスを生む原因にもなりかねません。

メーカー側も標準化によるエビデンスを

私は複数の病院で導入されているクリニカルパスは、同じ手術術式であっても、使われる医薬品・医療材料・医療機器にかなりの違いがあると思います。もし、医療情報の標準化が図られ、他病院との治療成績やクリニカルパス内容が比較できたとしたら、使用する医薬品や医療機器の良し悪しなのか、医療スタッフのスキルなのかも明確にすることが可能です。

このような意味でメーカーから供給される医薬品・医療機器は臨床現場で仕様される際に、バーコードなどで簡単に製品識別ができる表示が必要であり、医療業界での標準化の取り組みが必要です。このことは、良い製品を供給しているメーカーにとっては、製品が高品質であることを確証することにつながりますし、一方、特別の病院でのみ不具合の発生している場合は、製品の不適正使用などが疑われることになります。
そういうことを考えますと、医療機器・設備を提供されるメーカーが各製品に対して商品コードJANを登録し、(財)医療情報システム開発センターが運用する医療機器データベースから公開することや、独立行政法人医薬品医療機器総合機構が運用する医療機器添付文書情報提供システムに電子化添付文書を公開するとともに、日本医療機器産業連合会が策定した「医療機器商品コード・UCC/EAN-128バーコード標準化運用基準マニュアル」に準拠して製品にバーコード表示を行うことは、製品保障であるとともに、メーカーの安全に対する積極性を伺うことができます。

同様に病院も患者さんや他病院・第三者機関から「よい病院だと」評価されるようにならないと、他病院との差別化の中で患者さんが病院に来院されなくなってしまう時代がもう目の前にきています。患者さんから安心・納得される病院とするために、診療業務に上手にITを活用するとともに、インターネットを活用した病院の治療成績やクリニカルパスの公開などの検討も必要ではないでしょうか。

酒井順哉 氏
鹿児島大学医学部附属病院手術部助手、同病院医療情報部副部長を経て、平成7年から名城大学都市情報学部教授。1999年から名城大学大学院都市情報学研究科保健医療情報学教授。医学博士・工学修士。
ご専門は、医療安全工学、医療情報学、手術部医学。
【役職等】
日本医科器械学会、日本医療福祉設備協会、医療の安全に関する研究会の各理事。日本手術部医学会、日本医療情報学会、日本病院管理学会、日本バイオマテリアル学会、日本エム・イー学会の各評議員。日本医科器械学会・医療用具コード標準化検討委員会委員長、医療安全推進総合対策連絡会議委員。対外的活動として、厚生労働省医薬品・食品衛生審議会医療機器安全対策部会・委員。(財)医療情報システム開発センター・医療材料コード検討委員会・委員長。愛知県臨床工学技士会・顧問
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