今月のインタビュー

医療・福祉のあらゆる分野の第一人者の方々に、ご専門分野に関する現状・課題・今後の展望などをおうかがいする「今月のインタビュー」。
多くの看護師、医療従事者の方々にとって"目指すべき医療とはなんなのか"を考えるきっかけにしていただけるよう、毎月テーマを厳選してお届けします。

第35回 2006/03

10年後も高齢者ケアの質を保つために、今なすべきこと

介護保険の改定に伴い、介護の現場が大きく変わろうとしています。日本の高齢者施設が抱える問題は多く、医療の問題も含め良質な高齢者ケアを確保するにはどうすればいいのか、国民の関心が高まっています。今回は高齢者施設の内情にお詳しく、高齢者ケアの質の維持に危機感をもたれている、山崎敏さんにおうかがいしました。

㈱ヤマサキ・トシまちづくり総合研究所代表取締役
立教大学 コミュニティ福祉学部 兼任講師
一級建築士・工学修士
山崎 敏 氏

立教大学 コミュニティ福祉学部

きれいごとになっている医療と福祉の連携

日本で医療と福祉の連携ということを言い始めていた1989年、私はスェーデンを訪れ、介護福祉の関係者に<医療と福祉の間、隙間というのはどこにあると思いますか>と聞いたことがあります。そうしましたら、<高齢者で医療が必要でなくなった後の生活を福祉で支えていく、そこが境目でしょう> という答えが返ってきました。このことは今でも日本の学識経験者なり厚生労働省の人も言っていることですし、それが医療と福祉の連携なんだとその時は私もそう思って日本に帰ってきました。

しかし3~4年して、私はそれはもしかしたら違っているかもしれないと思い始めたのです。今でも医療と福祉の連携ということをみなさん言われますが、どうも少し違うなということに気が付いたのです。それは何かと言うと、要するに医療から完全に離れる高齢者はいないということです。まったく医療が要らなくなって、そこから先は福祉で人間らしい生活を支えていくというのは、絵としてはきれいですがそういうことは事実上少ないのではないか。実態はインシュリンを打ったり、一つの疾病が治ると次の病気が出てきたり、慢性の病気を抱えていたりで高齢者が医療と切れることは少ないのです。

今の高齢者介護施設の中では、ほとんど医療の部分はありません。それは、医療はひとまず終わった人たちということが前提になっている結果ですが、実は、薬を間違えて飲んだ、車いすから転倒して骨折した、ノロウィルスやインフルエンザの感染の危険がある等々、常にさまざまな疾病やリスクを抱えながら生活しています。そして例えば、痰がのどに詰まってすぐ吸引をしなくてはという時に、横に看護師さんがいれば吸引をしてくれるでしょうが、いないのでとても間に合いません。そうすると介護福祉士などケアのスタッフが医療行為に近いことを実際にはやらざるを得ない状況があるわけです。

求められる、福祉と医療の密接な結びつき

一つ目は、私はもう少し福祉と医療が密接に結びつかないと、これからの介護施設のケアの質は保たれないと思います。例えば、いくつかの調査の中で、朝の食事の時に事故の頻度が高いというデータがあります。しかし今は朝の時間帯には看護師さんがほとんどいません。ですから、医師や看護師さんがもう少しそういう時間帯に応じて入ってくれれば、リスクが軽減されるかもしれないなということです。

二つ目は、医療側の受け入れの問題です。どこの施設にも提携病院があるのですが、入所している高齢者が病気になって救急車を呼ぶ時、その提携病院が断るケースが結構あります。医療が福祉を一段下に見ているということもあったりして、必ずしも医療側が福祉に対して十分な理解を持っているという感じを私は持てません。もっと医療側からのアプローチを、理解も含めてしていかないと入所している人たちのリスクは下がらない。ひいてはそれが感染の問題や事故も含めて、職員のリスクとしてもかかってきますので、そこのところをこれから考えていかなければならないと思っています。

両手を挙げて賛成はできない小規模多機能サービス

新しい介護保険制度の施行に伴って、地域密着型サービス、小規模多機能サービスという言葉が独り歩きしている状況があるように思います。これからは今までのように大きな施設ではなく、小さい単位で限られた地域の中でデリバリーするサービスを作っていきたい。それは十分理解できるのですが、条件が整わないと望ましい運営にならないと思います。

小規模で多機能ということは、少ない商品を多品種用意して売ろうとしているわけで、これはビジネス的に見るとコスト高になります。ビジネス上から見れば作る品目が少なくて大量に売れれば一番儲かるはずです。でも、福祉の場合はその人その人に合った生活のサービスですから本当に多品種です。しかも地域が限られるわけですからそんなに売れないかもしれないということになります。
この場合、最初に始める人はいいかもしれません。熱い思いで始められますし、<私が頑張って地域の福祉を担っていこう>という意気込みで頑張りますから。でも10年後も同じケアをやっていてくれるでしょうか。現実は経済的に厳しく、職員が少なく、職員の1人が<つらいので明日から来ません>ということになったら、すぐ替わりの人が見つかるのでしょうか。それで本当に10年後にケアの質が保たれるのか、私は不安のほうが大きいのです。
現在、介護福祉士を確保し続けるのは大規模施設でも難しいのが現状です。小規模で多機能になると、1人で何役もやらなければならず責任も大きい。それで来る人がいなかったらどうなってしまうのでしょうか。小規模多機能をやみくもに進めることに関しては私はちょっと懐疑的です。バックアップサービスやセーフティネットが必要ではないでしょうか。

将来の都市部の福祉は惨憺たるものになりかねない

介護報酬の地域格差も大きな問題です。平均的な地域を1として、東京は1.048です。要するに1の地域で介護報酬100円のものが、東京は104円80銭になります。しかし例えば青森でアルバイトを雇うとすると、多分時間給700円くらい、もしかしたら650円くらいでも人は集まると思います。でも東京は無理です。おそらく900円か950円くらいでしょう。人件費が全然違います。1対1.048の比ではないわけです。1.48ならまだわかるのですが。

今までの特養でもグループホームでも、<ここは運営がすばらしいよ>と言われているところは、宮城や新潟、長野、熊本など、ほとんど地方の施設です。東京都内で<ここはいい。建築もソフトもすごい>というのはあまりない。それは地域間格差、1.048の比率を直してもらわない限り、難しいと思います。国は地方にああいう良い施設があるからと言って、都市にも同様のものを作ろうと言われますが、それは人件費を考えているのでしょうか。
東京の23区内のユニットケアをしている特別擁護老人ホームで、人が雇えないために1つのユニットをオープンしていないというところがありました。どうして閉めているのと聞いたら、職員が集まらなくて開けられないと言う。23区内ですから、何百人も待機している人がいるんですね。それなのにオープンして何日も経っているのに職員が集まらないから開けない。そういう実態もあるのです。
私はやや悲観的ですが、都市部の福祉は将来暗いと思っています。都市部でそれなりの良い介護を受けようと思ったら、民間にお金を出してサービスを買うしかないのではないかという気がしています。

介護施設職員をリスクから守る手段も必要

将来にわたって高齢者ケアの質を保つためには、少なくとも先ほど述べた医療との関係、介護報酬の地域間格差の是正が必要ですが、それに加え、職員をリスクから守る、施設側のプロテクションの手段が必要です。

職員のリスクというのは、腰痛などもそうですが、入所された方に予期せぬ不幸な事態が起こった時や感染問題など、実にさまざまなリスクがあります。例えば、ショートステイで入ってこられた方が、朝亡くなっていたということがあります。この場合、いつ亡くなったかわからないので警察が入って検視をします。ケアの担当者は、ケアをして夜寝るまではなんともなかったわけですが、自分にやはり責任があると思ってたいへんなショックを受けます。
このケースは、亡くなった方がショートステイだったので情報があまりなかった、家族との付き合いもそんなに深くない、そういう不幸なことが重なるのですが、やはり自分の職場に警察が来るということだけで、かなりのプレッシャーを感じるわけです。ましてや不審死ということで、いろいろ聞かれる。もちろん慣れていないので、何か言い方を間違えると罪に問われるんじゃないか、家族が訴えるかもしれないという不安もあるわけです。

この業界に入ってくる人というのは優しい人や、熱い思いを持っている人が多いのです。そういう人たちが何か不幸になっていくかもしれない。私は、それはすごく理不尽なことだと純粋に思うわけです。ですから、そういうリスクから職員をプロテクトする施設側の手段が必要だと強く思っています。

最後に、現在、ケアハウスなど高齢者向け住宅のメニューがたくさんできてきましたが、その情報がエンドユーザーに伝わっていないことは残念だと思います。少なくとも高齢者が自分の今の状況でどこの住宅なら暮らせるのかという、伝達のツールをもう少し整備していく必要があると思います。インターネットや行政の広報の記事などではほとんど高齢者に役に立ちません。銀行や郵便局のカウンターなどにチラシとして置いてあれば、1人暮らしの高齢者の目にもつくかもしれない。エンドユーザーへの確実な伝達方法をもっと考えるべきだと思います。

山崎 敏 氏
現職:    ㈱トシ・ヤマサキまちづくり総合研究所 代表取締役
立教大学 コミュニティ福祉学部 兼任講師(福祉環境論)
神奈川県立保健福祉大学 非常勤講師(福祉住環境計画論)
上智社会福祉専門学校 非常勤講師(家政学住居)
(社)シルバーサービス振興会 主席研究員
(社)日本医療福祉建築協会 理事
日本医療福祉設備協会 理事
(社福)大三島育徳会 理事
(社福)友愛十字会 理事
認証保育所「MOMOの家」運営委員
会員:    (社)日本建築学会、東京保健科学学会、(社)日本医療福祉建築協会、日本医療福祉設備協会
最近の学会論文等:
厚生労働省健康科学総合研究事業「健康日本21 計画の改訂と改善に資する基礎研究」(2002-2004 長谷川敏彦 共同研究)
日本建築学会計画系「老後の居住願望として中心市街地・郊外の選択と日常活動の関係」(2004 孫京廷・宗本順三 共同論文) 等
顕彰:    府中市より社会福祉功労により顕彰(2004)
主な著書:
「長寿社会総合講座 高齢者の住環境」第一法規出版(共著)
「福祉学辞典現代福祉学レキシコン」雄山閣(共著)
「老人保健福祉施設建設マニュアル」全5巻 中央法規(共著)
「生活視点の高齢者施設」実務編 中央法規 (共著)
「同上 改訂版」全5巻 中央法規 (共著)
シリーズ21世紀の社会福祉「高齢者福祉論」「シルバーサービス論」ミネルバ書房(共著)
「介護保険法対応高齢者向け集合住宅事業計画・運営調査資料集」総合ユニコム(共著)、「月間福祉」(連載・4年間)全社協
「近代建築」特集シニアライフデザイン2005~近代建築社(総合監修) 他
主な設計業務
倉敷中央病院、鐘紡総合病院、介護老人保健施設「シーダ・ウォーク」等
インタービューTOPへ
ページの先頭へ戻る